まこん

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三題噺「鈴蘭」「胡蝶」「タナトス」

――我にタナトス神の加護あれ 手にしたスズランを花から根まですりつぶすと、僕は牛乳パックを手に取った。 ミキサーに牛乳を注ぎ、すりつぶしたスズランを入れる。 最後にハチミツや砂糖を適度に入れてスイッチをONにする。 「ふふ、君の驚いた顔が早く見たいよ」 部屋の片隅にある胡蝶蘭がそんな僕を静観するように静かに咲いていた。

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三題噺「フィルム」「ラジオ」「居てはならぬもの」

「ら、ら、らー……ラジオ! 次は『お』だよ、クロ!」 赤い鳥居が続く階段をクロは相棒のシロと登っている。 「……重し」 「し、し、し、シャボン玉! 今度は『ま』だよ、クロ!」 先に前を歩いているシロが、クロを振り返りながら言う。久しぶりの遠出が嬉しいのかさっきからずっと飛び跳ねている。そのたびに尻尾についた小さな鈴がちりんと音をたてる。

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三題噺「ジュヴナイル」「ノエル」「アルカディア」

「君には選択するチャンスがある」 その男は紳士ぶった口調で僕に話しかける。丁寧な話し方なのに、なぜか声を聞いていると胸がムカムカしてくる。 「今ある才能だけで世界を越える開拓者となるか」 そんな僕の気も知らず、偽紳士の男は続ける。 「今なき才能を求めて世界を旅する探求者となるか」 男が僕の顔をまじまじと見つめながら問いかける。 「君はどっちを取る?」

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三題噺「サボテン」「美女」「拳銃」

砂漠のど真ん中にある町で、僕ら四人は一人の男の話を聞いていた。 「テキーラはサボテンからできている」 男が語る。

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とある"それ"の記憶

――現在。 「"それ"はとてもとても大切なものだったんだ」 一人の老人がバーのマスターにそんな言葉をこぼしていた。 マスターはいつものようにグラスを磨きながら、老人の言葉へ静かに耳を傾けた。

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三題噺「腕枕」「ヴァンパイア」「小指」

男はただ寂しかっただけなのだ。 自分のそばにいて欲しいという、誰もが一度は持つ願いを恥ずかしくて言うことができなかっただけなのだ。 だから、必然にせよ偶然にせよ現われたその少年に男は救われたのだった。

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三題噺「変態」「家畜」「神様」

「おい、変態」 目つきの鋭い男が、獲物を襲う獣のように闘争心を剥き出しにして、隣の優男に話しかける。 「なんだい、金の亡者?」 校内のほとんどの女子が振り返ると思われる顔を持つ美男子は、そんな闘争心のオーラをものともせず、平然と答えた。

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三題噺「訪問者」「アドレナリン」「四次元リンク」

「やあ、いらっしゃい! 久しぶりだね」 髪を後ろ手に縛った家主は久しぶりの訪問者に声を弾ませる。 「雫姉、久しぶり。少し痩せたんじゃねえの? 研究も良いけど、ちゃんと飯食えよ」 「それはお世辞かい? それとも、本音かい? ……ふむ、人の本音を駄々漏れにする機械。これは面白そうな……」 「ストーップ! それはさすがにマズイから!」 いつもの癖で発明品の構想に取り掛かろうとする叔母――月野雫を、司は慌てて止めた。

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三題噺「50%」「その一瞬」「代償」

「確立は五分五分といったところでしょうか。今の医学ではそれ以上の事は……」 「……そうですか」 落胆する男に医者は声をかける。 「元々お体が弱いようですし、あなたの力で奥さんを支えてあげてください」 「はい……」

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三題噺「逆流する」「まだかなぁ」「堕ちてゆく」

「オラオラ、どうしたよぉ!」 高校のボイラー室に下卑た笑い声が響く。大小様々なパイプが入り組む中、一番奥にある太いパイプに隠れた司には、それが死神の声に聞こえた。 (ちくしょう! なんで俺がこんな目に!!) 自身の今の境遇を嘆きながら、司は音を立てないようにそっと入り口の様子をうかがう。

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