映画『DOCUMENTARY FILM ~THE ORIGIN〜』レビュー

①Mrs.GREEN APPLEの映画『MGA 10 YEARS DOCUMENTARY FILM ~THE ORIGIN〜』のレビューです。
②誤字脱字を修正しました(2025年12月11日現在)。

 10周年記念ライブで初披露となった新曲、『Variety』の制作過程の記録を中心にして①「大森元貴」という作家の姿から②Mrs.GREEN APPLEというバンド、③スタッフの方々を含んだチームとしてのMrs.GREEN APPLEを見せる珠玉のドキュメンタリー。
 歌詞を含めてバンドの全楽曲の制作を担い、ステージの上では生まれ持ったハイトーンボイスと確かな歌唱力で観客を魅了する大森元貴さんの存在感はやはり凄くて、本編のどの場面においても彼を抜きにして語れるものは無かった。だからこそ彼だけで語り尽くせないミセスの魅力が際立つという構造は非常に示唆的で、大森さんがバンドを自らのキングダムのようなものには決してしたくないという強い意志を感じさせた。
「自分が一生で作れる曲数は有限」
とインタビュアーに向かってはっきりと口にする大森さんは一人でできる仕事を限界までとことんやり切る。誰にも見せたことがないという0から1を生み出す楽曲制作の場面ではメロディも歌詞も決まっていない状態でオケを作り始め、それを作っては壊し、作っては壊しを繰り返してあっという間にワンパートを作り上げてしまう。サウンドの雰囲気から着想を得て、それに近づくための音を探り当てる様は圧巻だった。
 そんな才気あふれるミュージシャンだからこそバンド活動で求めるのはそこから先の世界を皆んなで作ることで、そのために彼は「自分にはできないことができる人」を心から欲している。
 劇中、大森さんは「自分には出せないノリを若井滉斗さんや藤澤涼架さんは生み出してくれる」と何気なく口にしていたけど、そこには色んな想いが込められていたと感じた。数学的に説明可能な音楽を奏でるのは「人」なのだと本人が一番痛感しているから、ステージの上で誰よりも近くにいる二人を頼りにしている。二人との間の距離がどこかドライに感じるのも音楽のために、人間的になり過ぎないよう確信犯的に心掛けた態度なのだと推測できる。そんな彼に接して、常に挑み続けるポジションに立つ若井さんや藤澤さんからも「楽しい!」という言葉が出てくるのも表現の喜びに満ちて聞こえるのだから、Mrs.GREEN APPLEというバンドは本当に凄いと素直に思った。
 一人でも多くの人に自分たちの音楽を聴かせるために世界観を押し広げた2ndフェーズは確かに商売として音楽活動以上の要素に力を入れたものだったけど、彼らの中にあるものはずっと変わっていない。大森さんの言葉で一番印象に残っている「孤独」というフレーズには連帯と信頼を追い求めるバンドの意思が貫かれている。そんな彼らを多方面で支え続けたスタッフの方々の名前で綴られるエンドロールが実に素晴らしい景色となって本作を締め括るのも当然だろう。その一角に「1ndフェーズから関わってきた皆んな」という文言でファンを巻き込むあたり、流石のエンターテイナー。最後の最後で最高のサプライズを仕掛けるセンスにもべた惚れです。
 その活躍をこれからも注目し続けたいと思います。

映画『DOCUMENTARY FILM ~THE ORIGIN〜』レビュー

映画『DOCUMENTARY FILM ~THE ORIGIN〜』レビュー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-12-10

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