戻ってきた

からだにいのちが
かみ合わない
どうもこのいのちでは
ない気がする
からだ あちこちむずむずして
このいのちでは
ない気がする
椅子に座っても
どこか座りきれない
牛乳は油っぽくて流しこむだけ
飲むまでにはいたらない
本を読んでもなにも読めない
ただ かまきりのしくみを
たんたんと書いてあるのが
わかるくらい
午後の散歩は
歩けない ただ進んでいるだけ
雲の音は聴こえない鼓膜のゆれ
そのとき、
一匹の並揚羽 きまぐれに
こつんとおでこに当たって
そのまま飛びさった
その夕暮れから
からだにいのちが
かみ合うようになった
このいのちでいいのだと
思えるようになった
汗とともにこびりつく鱗粉を
手でぬぐいとる

戻ってきた

戻ってきた

第64回大垣市文芸祭詩部門秀作

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-11-30

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted