彼女の記憶 #1

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「日菜ちゃん!」
 目を開けると、目の前で声がした。
「ううん? どしたの、百合?」
 日菜――日菜子が答えている。どうやら、声の主は同級生の鷲谷 百合(わしや ゆり)と、佐々木 日菜子(ささき ひなこ)のようだ。
「剣くん、困ってるよ。早く出したげて!」
 百合が自分――茨木 剣(いばらぎ つるぎ)――僕に目線を合わせたまま、日菜子に言う。日菜子は殊勝に笑い、僕に砂をかけ続ける。
「いいのよ! 剣は! こういうパワハラに慣れてるから!」
「パワハラって……おい、日菜子、くん……?」
 僕は日菜子に向かってひきつった半笑いで言う。無意識に腕を上げようとしたが、上がらない。それもそうだ。今僕は、真夏の太陽のもと、横たわらせながら砂に埋められている。
「蒸し風呂みたいでいいでしょう? ね、つ、る、ぎ、くん?」
 またさらにおかしな笑い方をしつつ、日菜子は砂を固め続けている。
「……百合、助けてくれ。これは男の僕でもどうにもならん」
 今度は百合に助けを求める。目を細めて百合は苦笑いをしながら日菜子に話しかけた。
「ねっ、日菜ちゃん、もうやめよ? みんなあっちでバーベキューやってるよ? 食べにいこ?」
「……ううむ、そうだなあ。お腹空いたから食べに行こっか! ……もちろん、剣はこのままで!」
「……おい」
 と日菜子は本当にそのままにするつもりでその場から立ち上がろうとしたが、
「……あっ、なんか……」
 日菜子はふらっと首を動かすと、その場にぽてっと腰を着けて倒れた。彼女は白い顔をして冷や汗をかき、激しく呼吸をしている。
「日菜ちゃん、大丈夫?」
 百合が心配そうに手を構えている。
「日菜子、大丈夫か?」
 僕も自然と声が出てきた。
「……大丈夫よ、なんか目眩がしただけ」
 しばらく呼吸を続けると、日菜子の顔色は戻り、呼吸の激しさも元になった。
「……よしっ! じゃ、改めて、いきましょ、皆さん!」
 今度は日菜子もしっかりと立ち上がり、笑顔で身振り手振りをした。「あっ、マジで剣忘れるとこだった!」……おい。

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彼女の記憶 #1

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-11-29

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