映画『落下の王国』レビュー

 スタントマンへのリスペクトに満ちた一作で、映画の力をとことん信じた傑作。むちゃくちゃ泣いた。泣きました。
 特に感銘を覚えたのは「ロイがアレクサンドリアを利用する為に作り話をでっち上げ、それを彼女が心から喜ぶ」という関係を映画の作り手と観客の最もミニマムで親密な形にまで昇華していたところ。
 馬から落下する事故で大怪我を負ったロイは、その怪我以上に最愛の恋人を銀幕スターに寝取られた事実に絶望していた。カメラの前で演技している俳優であるという点は全く同じなのに、スタントマンであるロイは顔も名前も知られることがない。俺は何のためにいるんだ?何のために演じる?この問いを答える気力を失ったから、ロイは自殺願望に取り憑かれ、その終わりを実現するためにアレクサンドリアを巻き込んだ。
 でもアレクサンドリアはそんな彼の顔を知り、事情を知り、お話をたくさん聞いて大好きになった。そんな彼女だから、スタントマンとしての彼をスクリーンの向こう側に見つけられる。ロイの方もアレクサンドリアをきっかけに自分のスタントを病院の皆んなに観てもらう機会を得て、最も身近な観客の存在に気付くことができた。
 こんな素敵な関係を紡ぐロイの作り話の方にもバッキバキのスタントが何度も行われていて、しかもその場面が現実パートのロイが心身共にズタボロな状態にシンクロするという演出が施されている。スタントマンがスタントマンを活かす物語性に気付いた時、こちらの感情がとうとう決壊。涙腺がバカになりました。
「違う、これは私たちのお話なんだよ」
 とアレクサンドリアが終盤の大事な場面で口にする台詞の中の「私たち」も、ロイとアレクサンドリアのことを指す以上の響きをもって聞こえたし、他にも映画内映画に命を賭ける映画にしかできない言祝ぎが本作には満ちている。その一つひとつを目の当たりにする度に言葉を失ってもう、もう…!
 本作を観に劇場へ足を運んだ理由のひとつとして動く石岡瑛子のデザインを目に焼き付けたいという願望がありましたが、この点に関しても大満足で、ロイがアレクサンドリアに語る夢のような話に相応しいファンタジーが力強く、かつ美しく花開いてました。良かった。とんでもなく良かったです『落下の王国』。映画好きの神経回路を瞬時に焼き切る悪魔のような作品です。興味がある方は是非。私はもう一回観に行きます。今度は時間の余裕とカバンを持って。全てはあのパンフのために。

映画『落下の王国』レビュー

映画『落下の王国』レビュー

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-11-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted