恋のはじまり、恋の行き止まり

「踏み出す」
恋が心に飛び込んできた
恋に落ちる、じゃない
前触れもなく天気予報でもいわなかったふいの雨が降るように
ずっと友達で当たり前のような関係だったのに
君の前髪が汗で額にはりついて
何かに懸命になっているところ
恋が心に飛び込んできた
君が心に飛び込んできた
まぶたの裏にいつまでも君が残って消えてくれない
居心地のよいこの関係のその先にあるものを
変えてしまおうと打ち明けたら
君はどうする?笑い飛ばす?怒る?無視?
平坦な明日が急に違うものになるように
今までほったらかしにしていた塗り絵に急に色を塗ろうと思い立つように
心模様ががらりと変わった
君は僕のそんな心模様をまだ知らない

「もどかしい」
100通りの愛を囁く言葉を知っていても
君を前にすると
伝える一つの言葉さえ出てこない
君一人に見てもらえない
それなら全てに何の意味もない
好き
愛している
恋しい
欲しい
独り占めにしたい
大切
必要
そばにいて
僕の気持ちを表す言葉は
君だけに
君にしか
それなのに
君は僕の気持ちなんてどこ吹く風
僕の気持ちはその風に巻き上げられて
散り散りになっていく
その風が僕らの間を通り抜けていく
ああ、遠い
君が遠い
君は走り出す
あの人の背中を追って
あの人は振り向いて
君を迎える
取り残された僕はと言えば
また君へ伝える言葉を探す
何度風の中で散り散りになっても
何度涙の海に流れても
何度地面に落ちて砂粒になろうと
永久に届かなくても
この止められない身勝手な100の愛の言葉を
恋しい君に捧げる

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-10-20

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