『誰でもないものとして』

悲しみに沈む瞳の色を
人混みの中アタシだけが見てた


『誰でもないものとして』


遠くの国の戦争はテレビの中だけ
アタシたちは不幸をスルーして
鈍い幸福に慣れきってしまった
君の身に降りかかった悲しみも同じ

知らぬ顔で通り過ぎる人の群れ
死にたいと小さく呟いたそれに
ふと気紛れに振り返る
グレーのプリーツスカートが揺れていた

あの日アタシも同じようにそこに居た
今は傍観するだけの存在
それでも目を逸らさずに見つめて
零れ落ちない涙の温度さえ感じている

悲しみも苦しみも永遠ではないわ
いつか薄れてしまったそれに気づいて
嘆く日だって受け止めるのは独り
世界は残酷にも優しい顔をしている

愛というある種の答えさえ
今は信じられないとしても
例え微かでもその感触に触れたなら
きっと何かしらは感じるはず

独りでもいいっていうのは真実よ
だけど他人を感じずには生きられない
憎んでも恨んでも結局は
誰かの夢を見て誰かを少し信じて

暫くの間目隠しをして
何も見ずに歩いてみてもいい
手を引いてくれる人はいなくても
そんな時期があってもいいんだから



「いつか過去になる日まで」

『誰でもないものとして』

『誰でもないものとして』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-10-08

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