雑詠・秋

虫時雨 過去は帰らぬ時となり





枝葉散る野分けの後の朝の道





雨少し彼岸の朝の庭静か





紋黄蝶 秋の日向を舞ひにけり





羽根小さき秋蝶の舞ひ見届けし





オールドカー秋の灯しの下にあり





袖摺りの萩の乱れや古灯籠





咲き残る百日紅の紅淡し





穭田に白鷺一羽残りけり





ゴンズイの赤き実のある雑木山





弓月のひとつ光りし秋の夜





萩の枝こぼるゝ角を曲がりゆく





道の端の萱の穂淡く色付きし





飛機雲の一筋白し秋の空





秋水の霞ヶ浦の広々と





北浦の湖面のうねり秋風に





草一度刈りて小さし 赤のまゝ





雲青く照らす半月 虫の声





転職の別れの花に菊もなく





他に花見ぬ街角の曼殊沙華





朝戸出の秋の小雨や傘を手に





秋水に遊ぶ雀の二羽をりし





くるくると尾を回しつゝ百舌の鳴く





十月の涼しさに座す日陰かな





幹青く節に白筋竹の春





実のなりしハンカチの木の薄紅葉





キササゲの墓園の角に立ちにけり





木犀の香に気付きたる庭の奥





両脇に秋の静けさありし径





草紅葉 広野に車停めて見し





白き穂の風に揺らぎし芒原





子を抱く若き父親秋の道





つる枯れて引けばいくつも烏瓜





秋鳥の一斉に翔つ羽音かな





花水木 紅葉の美しき街路かな





秋の松青々として静かなり





鴨の群れ見つけし川面光りけり





秋水の堰落つ波の白さかな





百日紅手入れせざりし古木咲く





木斛の赤き落葉を拾ひけり





秋草に葛のつるありて少し切る





秋雨の冷たさを知る一日かな (ひとひ)





十月の暦見つゝ食器洗う





睦まじき鴨の番の水尾二つ





秋色の猫の名前は寅吉





葦の影映す秋水暗からず





白雲の隙間の日差し秋暑し





客人に柿の色付き聞かれけり





同級生よもやま話人の秋





筑波山秋の稜線絵のやうに





生真面目な人の狭庭や曼殊沙華

雑詠・秋

雑詠・秋

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2025-09-19

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