東山界隈 ― 湿度の中の人々 ―

七条大橋たもとの包丁草

七条大橋のたもとに、誰も気づかないような小さな河川敷の陸地がある。
秋は芋のような葉っぱがひらひらして、夏は…包丁草。

正式な名前は知らない。調べる気もない。
でも、包丁草って勝手に呼んでる。なんか…そういう感じの葉っぱ。
尖ってて、深緑で、刃物みたいな線が入ってる。

あたしはそこに、毎朝と放課後、通るたびにちょっとだけ座ってる。
座るっていうか、立ち止まるって感じ。
ちょっとだけ、何も考えない時間。
誰にも知られてない、あたしだけの場所だった。

去年の夏のある日。
白いシャツ着た観光客の男が、その場所に降りてた。
缶コーヒー片手に、スマホでパシャパシャ写真撮って。

心の中でちっちゃい自分が、ものすごい声で叫んでた。

やめろ、そこは、そこは、あたしのとこや。
誰のもんでもないけど、誰のものにもしたくないんや。

…それ以来、なんとなく、行くのを避けた。
見ると悲しくなりそうで。
その男がまたいたら、って思っただけで、腹の中がぎゅってなる。

でも、今年の夏。

包丁草がぼうぼうに生い茂った。
誰も踏み入れない。座れない。
観光客の姿も、とうとう見なかった。

それが、もう、嬉しくて嬉しくてしかたなかった。

誰にも言えないことって、ある。
しかもそれが、自分でもちょっと気持ち悪いくらい嬉しいときって、
もっと言えない。

包丁草の中に立って、風で揺れる葉の音を聞いた。
ざわざわざわ。
あたしの心が笑ってた。

誰かに見られる喜びより、
見られないままでいる幸せって、あるんだと思う。

それを知ったのが、
この包丁草の中、夏の朝七時四十七分、
清水坂行きのバスが通りすぎた直後のことだった。

猫のいない坂

うちのおばあちゃんが言うには、
昔はこのへんにも猫がいっぱいおったんやて。
でも、いまはおらん。

一匹も。
見たことない。

八坂さんの方まで歩いても、
軒下にも、路地にも、
猫の声はせえへん。

「なんでやろ?」って聞いたら、
おばあちゃんはちょっと黙ってから、
「みんな、三味線になったんかもなあ」って笑った。

ぼくはその日から、
三味線がちょっと怖くなった。

お稽古事でお姉ちゃんが通ってるお師匠さんの部屋の、
柱に立てかけてある三味線。
胴のとこを、じっと見ると、
なにかの目玉が閉じてるみたいに思えるときがある。

祇園こうぶっていうとこでは、
夜になるとお姉さんたちがその三味線を鳴らしてるらしい。
ぼくはまだ見たことないけど、
その音に猫が入ってるんやと思うと、
耳をふさぎたくなる。

東山の坂を下って、
また上って、
それでも猫はおらん。

鳴かへん。
眠らへん。
死んだあとも、音になってしまう。

ぼくは、
なんか、
この町がこわい。

でも、
たぶんそれは、ぼくだけなんやと思う。

目玉の奥で斬る

東山三条の小さな喫茶店で、彼はいつも決まった席に座っていた。
カウンターの角、観葉植物の影。
木暮香澄はその視線に、もう何度も体をなぞられていた。

眼鏡の奥にこもる目は、礼儀正しく、執拗だった。
瞬きの間に評価し、すれ違いざまに保管する。
だが彼は言葉を発しない。ただ、じっと見る。
まるで寺の地蔵のように。

香澄はノートPCを広げた。
指が沈黙を破る。キーボードが、彼の存在を言葉で汚していく。

「彼の視線は、水の濁りだ。
 一度入ったら、抜けられないヌルヌルの底に引きずり込まれる。」

文は進む。
彼は何も変わらない。
しかし香澄の中では、既に彼は“斬られて”いた。

「その目は、神のふりをした犬の目だ。
 下から覗き上げて、媚びて、歯を隠す。」

カフェの中はジャズとアイスコーヒーの汗ばみ。
彼はカップを持ち上げ、香澄の方を向いた。
その瞬間、香澄はそっと目を逸らした。
言葉はまだ止まらない。

「彼は私を見ているのではない。
 若さという物体を、棚に並べている。」

次の日も、その次の日も彼はいた。
そして、ある日突然、いなくなった。

空いた椅子は、ただそこに在る。
香澄は打鍵の指を止めた。
肩が、少しだけ軽くなっていた。
けれど、奇妙な空虚さが胸に溜まる。

――自分は、見られることで完成していたのではないか。
そんな疑念が、湿った夏の空気と共に喉に貼りついた。

その夜、彼女は全ての文章を消去した。
「作品」ではなく、ただの呪詛だったことに気づいてしまったからだ。

それでも翌日、また彼女は喫茶店に向かった。
パソコンは持たず、小さな文庫本だけを手にして。
カウンターの角に空席はあったが、彼女は奥の窓辺に座った。

彼を斬ったことに満足していない。
でも、斬らずに済ますほど、世界を赦しているわけでもない。

香澄はページをめくりながら、
目の奥で、また別の誰かを斬る準備をしていた。

灰皿のあった朝

シゲさんは、毎朝7時すぎに来る。
チューハイ、新聞、セッターのソフトパック。
何も言わなくても私がレジに立ってるときは、目だけで会釈して、
ぴしっとお金を出して、
「今日も頼むわ」と、まるで薬を受け取るみたいにタバコを受け取って帰る。

店の前にあった灰皿で、新聞をめくって、
チューハイをちびちびやりながら、タバコに火をつける。
真夏でも、真冬でも。
その姿が、いつの間にか「朝の風景」になってた。

でもある日、その灰皿がなくなった。
本部の方針ってやつで、
「健康志向」「イメージアップ」とか、そんな理由だったと思う。

次の日も、シゲさんは来た。
でも、手にした新聞を眺めながら、灰皿がなくなった場所をじっと見て、
一言も何も言わずに、そのまま帰っていった。

それが最後だった。

別に、仲が良かったわけじゃない。
でも――
なんていうか、
こっちが勝手に「見守られてる」ような気持ちでいたのかもしれない。

灰皿がなくなった場所に貼られた禁煙ポスターが、
妙にうるさく見える日がある。

健康? たぶん、そうなんだろう。
でも、シゲさんのあのタバコは、
あの人が、今日もここに生きてるっていう、
誰にも知らせないサインだったような気がする。

今日も朝の京女ラッシュが過ぎて、
新しいお客さんが変な総菜パンとコーヒーを買っていく。
私も、新しい顔を覚えていく。

だけど、
灰皿のあったあの場所だけは、
シゲさんの椅子のままだと思ってる。

松原

夜の松原橋を渡っていると、
前方からすごい勢いの自転車が迫ってきた。

風の音がざっと流れて、
すれ違いざま、その子の顔が見えた。

頬が赤くて、目が笑ってて、
でも何よりも、あの“もこもこの服”が、全部を物語っていた。
舞妓だった。

いや、正確には「元の姿を封印した舞妓」だった。

もっこもこのフード付きパーカーに、分厚いレギンス、そしてダサかわいいスニーカー。
全速力。
もう、本当に、笑ってしまうくらい自由で、素だった。

ああ、明日休みなんやな。
その瞬間、ぜんぶ理解できた。

茶屋で何十人もの大人に気を使って、
お座敷で笑顔を貼り付けて、
言葉遣いも、姿勢も、歩き方も、
全部ぜんぶ「つくらなあかん」日常の中で、
今この瞬間だけ、彼女は「自分」に戻ってるんや。

爆走する自転車。
爆走する秋の夜風。
そして、それを見送る自分のなかに、
どうしようもないくらい、
羨ましさと、微笑ましさと、少しの寂しさが混ざって流れていった。

あのスピードの中で、
彼女は何を感じてたんやろう。
誰にも会わず、誰にも止められず、
ただ風を切るあの顔を、
俺は、たぶんずっと忘れへんと思う。

臭くない人なら

ヒールが足に食い込む感覚に、もう痛いとも思わなくなったのはいつからだろう。
祇園の交差点の角。
キャッチ禁止って書かれた看板の前で、
私は「キャッチじゃなくてご案内です」って言い訳しながら、
今日も立ってる。

「メイドカフェ、どうですか〜」
「1時間3000円で飲み放題です〜」

笑顔、声のトーン、立ち位置。
全部マニュアル通り。
でも、足だけはマニュアル通りにいかない。

靴ずれのところ、また擦れた。
痛い。ムカつく。
誰も見てないけど、平気なふりをする。

お客さんの顔を見るたび、考える。
この人、店まで連れてったら怒鳴るかな。
触ってくるかな。
ねちねち話しかけてくるかな。
それとも…ただ黙って座っててくれるかな。

臭くない人なら、誰でもいいのに。
本当にそれだけなのに。
今日の私はそれすら引き寄せられないらしい。

プラカード重くて、少し前屈みになると、
スカートの裾が風でめくれる。
酔っ払いが一瞬こっちを見たけど、
興味なさそうに目をそらした。
ひれ伏したまえ。

祇園って、綺麗にライトアップされすぎてて、
逆に自分のくすみが全部見える気がする。
化粧も、制服も、ぜんぶ反射して、
「嘘やろ?」って顔でこっち見てくる店のウィンドウが嫌い。

でも、あと1時間立てば終わる。
もうちょっと。

スマホピッと鳴って、
「いま空席7、がんばってー」と店長のDM。
がんばって、か。

頑張ったら、何か変わるんかな。

足の皮が破れたとこに、血が滲んでる。
でももう、気にならない。
私はまた声を張る。

「おにいさん、メイドカフェ、どうですか?」

臭くない人なら、それだけでいいのに。

千の顔

朝の京都は水墨画のようだった。曇天に霞む鴨川を渡り、あたしは静かに三十三間堂の門をくぐった。観光客の足音もまだまばらで、境内には鳥の囀りすら遠慮がちに聞こえる。

あたしはここが好きだ。千体千手観音がずらりと並ぶあの空間に足を踏み入れるたび、胸の奥がざわつく。あの無数の瞳、千の手、それらがひとつの意思に収束する感覚。

――これは祈りじゃない。命令だ。

そう思う。

祈りとは本来、弱き者が天にすがる行為であるはずだ。しかし三十三間堂に並ぶ観音像の視線は、まるでこう言っているようだ。

「救われたければ、見せてみろ。お前の内臓の奥から絞り出す、真の叫びを」

祈りは暴力だ。願いを込めて手を合わせるその手は、見えない何かを殴りつけている。世界を、自分を、あるいは神仏を。

あたしは十二年前、ここで母を見送った。乳がんで痩せ細った身体を抱えて、母は最後の京都旅行にここを選んだ。

「きっと…千の手がね、あんたを守ってくれると思って」

母はそう言ったけど、あたしはあのとき、守られたなんて思わなかった。ただ――

罰されたのだと思った。

母が娘の未来を願って命を賭けたその祈りは、やがてあたしをこの道へと引きずった。刃物を扱う資格を得て、他人の命を預かる。オペ室の中央で、心臓が震えるような瞬間に出くわすたび、観音像の顔が脳裏をよぎる。

それでも、あたしはここへ来る。来てしまう。

静かに堂内を歩く。千の視線が、千の手が、あたしを貫く。

赦してくれなんて、思わない。

ただ、見ていてほしい。あたしが今日も、祈りという暴力を振るいながら、誰かの命を引き戻しているということを。

あたしは三十三間堂が好きだ。

祈りという暴力がそこにはある。

そして、それを受け止めてくれる千の顔がある。

蝉の階段

マンションの階段は、いつも湿気を纏っている。
夏の終わりの熱気がゆっくりと沈み、ひんやりとした風が踊る。

今日も、踊るように鳴いていた蝉が一匹、静かに死んでいた。
その姿は、まるで檀林皇后九相図のひとコマのように感じられて、思わず足を止めた。

あの図は、生命の最後を様々な角度から写し取った、禅の静謐な断面。
蝉の死骸の乾いた羽根や崩れかけた体は、まるでそれを模したかのようだった。

34歳。
もう若くはない自分と、儚い蝉の死が妙に重なる。
この階段は、毎日昇り降りする場所だけど、
今日の蝉の姿はまるで、自分のどこかを映し出しているみたいで、息苦しくなった。

死と生の境目が、こんなにも間近にあるのだと感じたのは初めてかもしれない。
日常の何気ない階段で、無言の「終わり」を見つめることになるなんて。

檀林皇后九相図は、醜くも美しい。
蝉の死骸も、まさにその一部。

でも私たちは、それを知らず、気づかず、通り過ぎてしまう。
私はこの死骸に、一瞬だけ祈った。
生きているものは、いつか必ずそこに辿り着くことを。

そしてまた、この階段を昇る。
何事もなかったように。

扇塚下

五条大橋の下、こっち側は音が響かない。
靴音が湿った土に吸われて、
私のステップは、どこにも届かない。

それがちょうどいい。

ここなら誰にも見られない。
だけど川風と光だけは、見てくれる。

私は10年前まで、舞台に立っていた。
祇園のライブバー、時にはホテルのホール。
照明がまぶしくて、見下ろす客席の顔はいつも黒い影だった。
その闇に向かって踊るのが、
昔は好きだった。

でも、拍手と注文の音の区別がつかなくなって、
靴音がだんだん無力に感じてきた。
もっと深く沈める場所が欲しくなった。
もっと、聞こえない場所が。

最初にこの橋の下で踊ったのは、
たまたまだった。
酔っていた。
靴も履いてなかった。

でも、気づいたら、
ここにしか戻れなくなっていた。

土はやわらかく、冷たく、
それでも私の踏み下ろす音を受け止めてくれる。
誰にも「すごい」と言われない。
誰にも「まだやってるの?」と笑われない。
拍手も批評もない。

その代わり、川のにおいと、草のざわめきがある。
いつからか、私はフラメンコを踊っているふりをして、
自分を消そうとしていたんだと思う。

だけど、この橋の下でだけは、
私は私のままで立っていられる。

かかとが泥に沈む。
それでも、打つ。

もう誰にも届かない音を。
それでも打つ。
アオサギが笑う。

私はまだ、終わっていない。

スパイスセメダイン

模型屋さんがカレー屋さんになった。
それだけのこと。

でも、通るたびに、
「ちがう」と思ってしまうのは、なんでだろう。

私はその模型屋さんに、
ちゃんと入ったことがなかった。
外から中をのぞいたことが何回かあるだけ。

小さい戦車とか、
変な形のロボットとか、
店の奥のほうにはおじいさんみたいな人が座ってて、
白いランプの下でずっと何かを削っていた。

私が小学生のとき、
その前を通ると、いつも接着剤と埃の匂いがしてた。
なんとなく古くて、
入りにくくて、
でも、ずっとそこにある気がしてた。

今は、カレーの匂いがする。
スパイスの、よく知らない世界のにおい。
おしゃれな看板がかかって、
ガラス越しにカウンターの椅子が並んでる。

誰も悪くない。
模型屋のおじさんが亡くなったって、
たぶん、誰かが言ってた。
空き店舗に新しいお店が入るのは、当たり前のこと。

でも、
その匂いが、
前にあった音をぜんぶ消していく気がして、
私は息を止めて自転車をこぐ。

静かに、通り過ぎる。
あの店の中で何も買ったことのない私だけど、
なんだか裏切った気がする。

カレー屋さんが悪いわけじゃないのに。

街が生きてるって、
こういうことなんかな。

誰かがいなくなっても、
誰かが笑ってくれるように、
匂いを変えて、音を変えて、
それでも道だけは、ずっと同じ方向にのびてる。

私は、
たぶん、
まだこの町が変わるのが、
ちょっと「ざまあみろ」って感じなだけなんやと思う。

夜にカラスが鳴くときは、朝に必ず人が死ぬ

夜の十時すぎ、洗濯物を取り込みに出たときだった。

カア。
カア。

聞こえた。
カラスの声。

東山の空は真っ黒じゃなくて、
少しだけ藍色が混ざってる。
その空に、ゆっくりと羽ばたいていく黒い影がひとつ。

うちの祖母は言ってた。
「夜にカラスが鳴くと、朝に誰か死ぬ」と。

私はそれを小さい頃から、
なんとなく本当だと思っていた。
だって、言った次の日はたいてい、
お寺の前に花が供えられてたり、
町内のスピーカーが変な音を鳴らしたりする。

私は祈るような気持ちで、
物干し竿からハンガーを外す。

祖母はすでに寝ていた。
「夜に体を冷やすと、あの世が近うなる」とか言って、
早々に布団に入ってしまう。

カラスはもう一度鳴いた。
今度は、すこしだけ近い。

私は空を見上げるけれど、何も見えない。
だけど、見えないくせに、
そのカラスが私を見てる気がしてならなかった。

人は死ぬ。
それは当たり前。
でも、「誰かが死ぬ」と知ってしまうのは、
ちょっとした呪いだ。

私は静かに窓を閉める。

明日、学校へ行く途中に、
誰かの家の前に花が置かれていないことを願いながら。

けれど、
心のどこかでは、もう知っていた。

この町では、
そういう「音」が合図になっていることを。

そして、
私はその音を、
たぶん、もう何度も聞いてしまっていることを。

私は狂女

私のことは、老いた狂女だと思ってくださってけっこう。

この坂を毎朝ゆっくり降りていく女。
髪は白く、服は少し季節を間違えていて、
ひとりで何かをぶつぶつ呟きながら歩く女。

でも聞いてごらんなさい。
私が呟いているのは、呪いじゃない。
祈りでもない。
もっと、根っこの深いもの。
あれはね、「記憶」です。

東山は変わった。
祇園も清水も、観光客であふれて、
新しい匂いが通りに吹き込まれていく。
でも私は、まだ古い匂いのほうを信じている。

この壁のしみは、あの雨の日の跡。
あの石畳の角には、昔ひとりの女が蹲って泣いた。
私が泣いたんじゃない。
でも、私の体のどこかがそれを覚えてる。

誰も信じないでしょう?
誰も見えないでしょう?
だから私は、老いた狂女なんです。

そう思ってくださって、けっこう。
哀れんでいただかなくていい。

私は、この街の過去を担ぐカラスです。
時々、夜に鳴きたくなるのです。

誰かが、朝に死んでしまうような声で。

六道まいりのあと

最初はただの好奇心だった。
京都に来て、ふと聞いた六道珍皇寺のこと。
「六道まいり」? 何か面白そうな儀式があるらしい、
そう思って、軽い気持ちで足を運んだ。

境内は思ったより狭く、蝋燭の灯りが揺れて、どこか遠い場所みたいに見えた。
でも、私はその光の揺れに目を奪われて、
お守りのようなものを買ってしまった。

「死者の魂に祈る」なんて、ちょっと幻想的で、
どこか自分の旅のアクセントになればいいなと思ってた。

けれど、帰り道、足元が重くなった。
空気が変わった気がした。
道行く人の顔が、どこか陰を帯びて見えた。

夜、ホテルの部屋で窓を開けると、
外から低いうめき声が聞こえたような気がした。
それは風のせいだと思いたいけど、胸の奥がざわつく。

翌日、また寺に行ってみた。
誰もいなかった。

友達には話せなかった。
ただの気のせいだと言われるのが怖かった。

あの場所は、遊びで来るところじゃなかった。
今はそう思う。

祈りは、ただの言葉じゃない。
それは、誰かの命と重なっている。

私は、軽々しくそれを踏みにじったのかもしれない。

あの日の蝋燭の灯りが、
まだ瞼の裏で揺れている。

晩餐

講義のない日は、京阪に乗って大阪まで出る。
あの雑多な街のざわめきが、時々私を呼ぶ。

兎我野で出会う男たちは、どこか汚れている。
でも、その汚れが私には必要だった。
抱かれることで、どこか痛みを麻痺させ、
その金でたらふく焼き肉を食べ、酒を飲む。

煙が目に染みるあの店の灯りの中で、
私は少しだけ自由を感じている。

帰りの電車。
窓の向こうに流れる夜景。

誰も知らない私。
誰も触れられない私。

若かろう、美しかろう、臭かろう。
これが私だ。



声に出さなくても、心の中で何度も繰り返す。

ガロ

あいつが好きだった。
それは、頭の片隅でいつもぐるぐるしてて、
言葉にするときはいつも少し震えた。

でも、好きすぎて、どこかで嫌いになってた自分もいた。
素直になれなくて、強がってばかりで、
それで全部、壊してしまいそうで。

「私を繋いでたいなら、三回まわって鳴いてみろよ」って、
あのとき、笑いながら言った。
嘘でも、本気でもなかった。
ただ、どうしても本当の気持ちを言えなくて。

あいつは、笑ってごまかしたけど、
その笑顔の裏が見えなくて怖かった。

明日からまた、あざといデカリュックを背負う。
あのリュックは、ただの大きな荷物じゃない。
私の全部を詰め込んだ、見せたくない鎧みたいなもの。

道の向こうから誰かが見てる気がしても、
私はただ、自分の足で立っているって証明したいだけ。

涙はまだ、秘密のままにしておく。
誰にも見せたくない弱さを、
このリュックの奥にしまっておく。

「三回まわって鳴いてみろよ」
その言葉は、私とあいつの間の、
最後の約束かもしれない。

そして、たぶん、あいつも同じことを思ってる。

いつか窒息する母へ

母はいつか窒息するだろう。
私が日ごとに美しくなるから。

それは、愛の形じゃない。
それは、重なり合う息づかいが、
ふたりの空気を淀ませていくこと。

毎日、鏡の前で私は変わっていく。
笑い方も、目の光も、
知らない私が少しずつ顔を出す。

でも、家の中は狭くて、息苦しい。
母の視線は、重たくて、刺さる。
きっと、私が輝くほど、彼女は苦しくなる。

だから、私は家を出なければならない。

遠くに行くわけじゃない。
ただ、少し離れて、風を吸って、
またお母さんと笑いあう日のために。

その日が来るまで、私は自分を磨く。
母が息をしやすい空気をつくるために。

傷つけ合うことなく、
ただ、笑いあえるように。

パゴタ

アイツがまた新しい日傘を買った。
ブスのくせに。

あの傘は、私がバイト代が入ったら買おうと思ってたやつに似てる。
ずっと我慢して、節約して、
やっと手が届きそうだったのに。

なのに、先にあの女が持ってる。
まるで、私の計画を台無しにされたみたいで、
腹が立つのに、なぜか心がちくちく痛い。

少しだけ仲良くしてやろうと思ってたのに。
ほんの少しだけ、距離を縮めてみたかったのに。

でも、アイツはそんなこと、まるで気にもしてなさそうで、
自分の世界だけで楽しそうに笑ってる。

残念な女。

私のこの気持ちも、どこか残念で、
もしかしたら、私自身が一番どうしようもないのかもしれない。

そんなこと、わかってるのに、どうしても悔しい。

嫌いになりたいのに、どこか羨ましい。

そうやって、心はぐちゃぐちゃに絡まっていく。

でも、明日はまた学校で顔を合わせる。
何事もなかったように、普通に話すんだろう。

その時、私はどんな顔をすればいいんだろう。

あの傘の下で、アイツは何を見ているんだろう。

昼のみできマス

ママが店を閉めた。
理由はよく知らないけど、どうやら大家ともめたらしい。
それを聞いたのは、シャッターに貼られた張り紙じゃなく、
隣の立ち飲み屋の常連の噂話だった。

「急だったなあ」
「しかたないよ、あそこも家賃高かったろ」
他人事のように笑う声。
俺は笑えなかった。

週末になると、あのカウンターに並んで、
ママの押し寿司つまみながら、どうでもいい話をして、
濃すぎるハイボールで時間を溶かすのが、
俺にとっての週末だった。

週末だけの顔見知り。
名乗り合ったこともないのに、グラスが空けば誰かが気づいてくれた。
そんな連中も、店が閉まったとたん、
どこかへ消えていった。

どうやら——
本当に、ここにしか行き場所がなかったのは、
俺だけだったらしい。

ふと、別れた妻のことを思い出した。
連絡先ももう残っていない。
でも、たぶん、今の俺よりはずっとましな暮らしをしてるだろう。

それでも、あの頃の、
小さな灯りのともる部屋が懐かしくてたまらない。

ママの手書きの看板は、どこへいってしまったんだろう。
あれが灯っていない七条の夜は、
なんだかやけに寒い。

丹波橋乗り換え近鉄

ゼミの留学生を奈良公園に案内した。
まだ日本に来て半年の彼女は、鹿を見てすぐに声を上げた。
「信じられない…!ほんとうに自由に歩いてる!」

僕は笑った。
まあ、そういうもんだよ。
たしかに、はじめて来たときは僕も少し感動した気がする。

でももう何度目だろう。
小学校の遠足、中学の校外学習、高校の修学旅行でも来た。
鹿せんべいの臭い、興福寺のシルエット、修学旅行生の大声――
すべてはもう、「風景」だった。

彼女が、何かを見上げてじっと動かなくなった。
「ここ、ほんとうに天国みたい」

僕は、ちょっと茶化して言った。
「いや、ただの観光地だよ?大げさじゃない?」

すると彼女は、目を細めて言った。

「そう。あなたには、あの天国が見えないのね」

そのとき初めて気づいた。
彼女の見ているものと、僕の見ているものは、
同じ風景で、まるで違っていた。

青空と若草山、石畳と鹿の群れ。
彼女の目には、千年以上の記憶と祈りが
柔らかな光になって差し込んでいたのだろう。

僕の目には、ただ歩き慣れた観光地。
でも、彼女にとっては、
この一歩一歩が「はじめての地面」だった。

僕は立ち止まり、黙って空を見た。
すると一瞬、
ほんの一瞬だけど、
その空の奥に、何かが透けて見えた気がした。

待合室

誰かが言っていた。
「安井金毘羅宮はすごいよ、空気が違うから」って。

笑い話のつもりで来た。
“映える”とされる、あの縁切り碑に潜るために。
観光客が列をなすその様子を見て、
私はどこかで冷笑していた。

でも、鳥居をくぐった瞬間、
空気が、変わった。

息が詰まるような、音のないざわめき。
人の気配はあるのに、誰も話していない。
いや、話せないのかもしれない。

並ぶ人たちの後ろ姿を見て、
私ははっと気づいた。

ああ、ここは――
精神病院の待合室だ。

それぞれが何かを患い、
手に余るものを抱えて、
それでも順番を待っている。

誰もが自分の番を黙って待っている。
切りたい相手。
終わらせたい関係。
封じたい記憶。
自分で処理できない想い。

絵馬には文字がびっしりだった。
「別れられますように」
「死んでくれますように」
「私を助けてください」

願いというより、叫び。
祈りというより、処方箋を求める声。

風が吹いても、鈴の音がしても、
まったく癒しにはならなかった。

私はその列に並ばなかった。
でも、
帰り道、しばらく歩けなかった。

あの場所に置いてきた“何か”の影が、
伸びてずっと足元にまとわりついていた。

エキスポ

うだる暑さに耐えきれず、
御前通から一筋入った角打ちの酒屋に滑り込んだ。

昼をまわってもまだセミが狂ったように鳴いている。
とにかく冷たいものを胃に入れたかった。
ショーケースの前にしゃがみ込み、
ちくわの磯辺揚げと、ポテサラをカウンターへ。

そして、黄金色に光る焼酎ハイボールの缶。
ラベルの「8%」の文字が頼もしい。

カウンターでひと口流し込んだ瞬間、
喉が焼け、汗が引く。
この瞬間だけ、世の中の全部を忘れられる。

……と、突然、外から奇声が響いた。

「あゃああああああっ!」

反射的に体がびくついた。
町家づくりの軒先から覗くと、
じいさんが、七条通を叫びながら横断していた。

上半身裸、左手にはビニール袋、
右手はなぜか空をかいていた。
車は停まり、誰もクラクションを鳴らさない。
まるでそういう“行事”か何かのように。

酒屋の親父が缶を補充しながら言った。
顔色ひとつ変えずに。

「あんなんでも、轢いたらおおごとや」

俺は愛想笑いをして、6Pチーズを指さした。
「それもひとつ、もらうわ」

本当は怖かった。
叫んでるじいさんが怖いわけじゃない。
誰も驚かない、この街が怖かった。

暑さは、まだ終わりそうにない。

疎水ガール

退屈になると、疎水記念館に行く。
無料で静かで、空調がきいてて、
年寄りしか来ない。最高の場所だ。

私は、展示なんて見てない。
見てるのは、人。
おじさん。

一人で、難しい顔してパネルに見入ってる。
服に金がかかってるのに、指の先だけ古い。
そういう“気配”をまとった人間を、私はロックオンする。

ちょっとした“演出”があればいい。
パンフレットを取り落とすとか、
展示の前で「これって、どういう意味なんですか?」って首をかしげるとか。

ちょろい。ほんと、ちょろい。
気を引いたら、あとは流れるように進む。
タクシー代付きでただ飯。ただ酒。
名刺を出されたら、それが帰る合図。

私はきっと、相当変わり者なんだと思う。
でも、こんなふうにしか生きられない。

彼らの話は面白い。
若いやつらには絶対にない、
堆積したヘドロのような人生のにおい。
それが私は、たまらなく好きだ。

私が欲しいのは、カネでもモノでもない。
ただ、あの“におい”を吸い込む時間。

帰り道、鴨川沿いを歩きながら、
私はいつも思う。

あの人たちは“得した”と思って帰ったんだろうか。
それとも“奪われた”と思ったんだろうか。

私は誰からも何も奪っていないつもりだ。
ただ、ほんの少しだけ、
生きてきた時間の染み出す声を聴かせてもらっただけ。

疎水の水は、今日もよどんでいる。
でも、何も動かないわけじゃない。
あそこには、地下に染みてく何かが、たしかにある。

たぶん私の心も、同じように濁っていて、
それがちょっとだけ、誇らしい。

甘い夜

清水五条駅で降りる。
左折までの途中にある安売りローソン。
ここは、夜になると菓子パンが2割引になる。
それを知ってから、寄らずに帰れなくなった。

買い物カゴを握る指に、微かな震えがある。
あんこマーガリン、ホイップメロン、クリーム、銀チョコ、カスタードデニッシュ。
かごがだんだん埋まっていく。

「またやってる」
心の中で誰かがつぶやく。
でも止められない。

会計を済ませた袋は、ずしりと重い。
この重量はカロリーじゃなく、
どうしようもない一日の疲れと、明日への憂鬱だ。

誰か、止めて。
ほんのちょっとでいい。
レジの店員でも、通りすがりの誰かでもいい。
「そんなに食べたら太りますよ」って、
「明日仕事でしょ?」って。

でも誰も言わない。
私のことなんて誰も見てない。

明日は仕事なのに。
なのに、私は今夜もパンをむさぼる。

甘いパンで、何かを埋めている。
本当は、泣きたいのかもしれない。

真名レムリア

「UFO好きです!」
って言ったのは、たぶん自分を面白く見せたかっただけ。
特別な女の子っぽく見せたかった。
だって、好きな食べ物が抹茶とか、神社派ですとか、この町じゃ目立てないから。

だから、UFO好きって言ってみた。
で、ネットで検索して、動画見て、嘘じゃないように準備して。

気づいたら、UFOサークルに入ってた。
大学の掲示板にある、ちょっと古くさいA4の勧誘チラシ。
最初は「ネタとして行ってみよ」くらいだったのに。

……意外だった。
ここ、あったかい人が多いの。
真顔で「エリア51から流出したアレ」とか、「日航ジャンボのアレはやばい」って話してて、
普通なら引くとこだけど、なぜか居心地よかった。

もちろん、クソみたいな奴もいる。
やたら語りたがる男とか、距離感バグってる奴とか。
でも、そういうの含めて、なんか愛おしいんだよね。
不器用な人ばっかりで、
私もその中のひとりになれた気がした。

なにより――ここでは私は、
トップレベルに可愛い。

これがめちゃくちゃ大事だった。
自分に興味を持ってくれる目があって、
服を褒めてくれる人がいて、
「UFOガチのレムリアちゃん」ってちゃんと呼ばれる場所。

キャラとして始めたはずが、
いつの間にか、ここが本当の自分になってた。

誰かの“信じたい”が集まる場所って、
不思議と、嘘が優しくなるんだよね。

フリーレン

禁酒、2週間。
離脱症状で頭が痛い。

いつもなら、春の陽気に乗せられて、
コンビニの缶チューハイを2本は買ってたはずなのに。

死ぬ前に、こんな当たり前のことに気づけてよかった。
でも、どうせまた酒に沈むだろうとも思ってる。
わかってる。
でも、今日は浮いてる。たったそれだけのことで、うれしい。

春の鴨川を歩く。
桜の花は、もうほとんど散ってる。
川面を泳ぐ花びらと鳩の行進。
カップル、ジョギング、観光客。
それがなんだか、今日は少しずつ心に届く気がする。

前はこういうの、全部“他人の世界”だった。
自分には関係ない景色。
目に入っても、心が反応しなかった。
アルコールが、全部の感覚を布で覆っていたみたいだった。

でも今日は、届く。
ちょっとだけ、痛いほどに。

そんな時、ふと視界に入ったのは、
ママチャリに乗った葬送のフリーレン。
銀髪のウィッグにローブ、杖、籠に折りたたんだカメラ三脚。
完全に浮いてる。
でもなんだか、いい。最高に自由で。

そのままフリーレンは涼しい顔で北へ向かって、スイスイと去っていった。

笑えて、笑えて、
涙が溢れた。

こんなふうに笑える日が来るなんて。
禁酒のご褒美だと思った。

帰り道、川べりに座ってオールフリーを飲んだ。
思い出したらまた笑えた。

銀輪の

自転車のカゴが、コンビニの袋でパンパンだ。
ローブの裾をタイヤに巻き込まないようにクリップで留めて、
ウィッグの前髪を浮かせながら、鴨川沿いを北へ向かう。

風が気持ちいい。
だけど顔が、ちょっと熱い。
汗じゃない。視線だ。
まぁまあ見られてる。

知ってるよ。
そりゃそうだ。
ママチャリに乗った銀髪ロングの“フリーレン”なんて、鴨川に似合うはずがない。

でも――これが、今の私の“鎧”なんだよ。
どうしようもない仕事。
愛想笑い。
既読無視。
浮かない化粧。
疲れた心に効くのは、大好きなフリーレンに“なること”だった。

彼女は、表情が薄い。
でも、人の死をちゃんと見る。
何百年も生きて、やっと“わかろうとする”。
そういうフリーレンに、どこかで憧れた。

私も、何かを捨てて、
新しい時間を始めたかったのかもしれない。

それが今日、この春の、
ママチャリに乗る日だった。

団栗橋のあたりで、
一人の女の人が、私を見て笑っていた。
泣きながら笑ってた。

何も言わずにすれ違ったけど、
なんかちょっと――あれは、うれしかった。
何かを解ってくれた気がしたから。

私はそのまま、北へ向かった。
目的地はない。

この世界がクソでも、
風だけは、ちゃんと私の体を包んでくれる。

春の鴨川は、今日も、静かにざわめいている。

さっきの女フェルンやらねーかな?

サイゼ

「七条駅にサイゼできたらいいのに」
それはたぶん、いちばんよく聞く話題だった。
うちの学校の女子の間では。
誰かが言ってたし、私も言った。きっと一度は。
みんなが言ってる。
ほんまにみんな。
「駅前の汚い家とか、もう全部ぶっ壊してサイゼにすればいいやん」
言ってるときの顔は、明るい。
笑いながら、セットプチフォッカとドリンクバーの話をして、
まだ見ぬ“未来のサイゼ”で何を注文するか、真剣に迷ったりしてる。
たしかにあの通りは古い家が多い。
郵便受けから雨でふやけたチラシが垂れてるところとか、
空き家なのか住んでるのかわからん、そんな建物が何軒も並んでいる。
小さい頃はちょっと怖かったし、今でも夜は早足になる。
でも、たまに、そこの縁側でぼーっとしてるおばあさんを見ることがある。
眼鏡の奥でまばたきもせずに、鴨川の音のほうを見ている。
駅から降りてくる人たちが誰も気づかないような、沈んだ時間。
友達が笑って「幽霊みたい」って言ったとき、私も笑った。
合わせて笑った。
でも心のどこかに、すこしざらっとした何かが残った。
“ここに誰か住んでる”
“ここで誰か、毎日生きてる”
それが、あの子たちには、もう見えてない。
たぶん、私も見えてないふりをしている。
「サイゼ来たら毎日通うのにー」
そう言って、明るく笑って、
いつのまにかそこが本当に更地になっていたら、
そのとき私、何を思うんだろう。

東山界隈 ― 湿度の中の人々 ―

東山界隈 ― 湿度の中の人々 ―

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更新日
登録日
2025-06-28

CC BY-NC
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  1. 七条大橋たもとの包丁草
  2. 猫のいない坂
  3. 目玉の奥で斬る
  4. 灰皿のあった朝
  5. 松原
  6. 臭くない人なら
  7. 千の顔
  8. 蝉の階段
  9. 扇塚下
  10. スパイスセメダイン
  11. 夜にカラスが鳴くときは、朝に必ず人が死ぬ
  12. 私は狂女
  13. 六道まいりのあと
  14. 晩餐
  15. ガロ
  16. いつか窒息する母へ
  17. パゴタ
  18. 昼のみできマス
  19. 丹波橋乗り換え近鉄
  20. 待合室
  21. エキスポ
  22. 疎水ガール
  23. 甘い夜
  24. 真名レムリア
  25. フリーレン
  26. 銀輪の
  27. サイゼ