踏み続ける
空梅雨だと言われていた今季だけど、夕方から降りだした雨はどんどんと勢いを増していった。
此処は田んぼ沿いの田舎道ではあるものの、そこそこ交通量はある。それも夜になると激減し、闇が進むと皆無となる。
雨の強さと共に蛙たちの鳴き声も大きくなっていく。集まった群衆が、怒りの矛先に向けて放つ殺気立ったシュプレヒコールの様に。
何故なのか、雨が降るとアスファルトの道路上へ這い出す蛙が居る。田んぼや畦、水辺などの方が心地よいのではないかと思うけど、彼等には何か理由があるのだろう。
雨音で、走ってくる車のエンジン音は聞こえ辛かったけど、車のライトが現れて直ぐに蛙は轢かれた。内臓が飛び出し、一瞬でその命は消えた。
偶々通りかかった車だったのか、その車が通る事を察知していたのか、轢かれたのか、轢かせたのか、雨に降られその亡骸は瑞々しさで溢れている。
夜が明ける頃には雨は上がっていた。
目ざとい鴉が、その蛙を見つけひとつつきした直ぐあとに車が迫ってきて、鴉は一旦上空にホバリングする。
昨夜とはうって変わって天気が回復していて、強い朝日が射す。鴉が蛙に近付くタイミングで次の車がやってきて鴉はなかなか蛙にありつけない。
そうこうするうちにも蛙は何度もタイヤに踏まれる。気温もどんどんと上昇していく。鴉は諦めたみたいで姿が見えなくなった。
アスファルトの汚れのようになってしまった轢かれた蛙は、最早原形を留めていない。容赦なく日が照りつけ、土なのか干物なのか、そんな風になってしまったそれを、車が踏んで行く。
世界には色々な刑があると聞く。犯罪を犯し、捕まり、裁判により刑が決まる。人は法によって裁かれる。
じゃ、蛙はどうなのか?その蛙は何かとんでもない事でも仕出かしたのか?死んでしまってまでその亡骸を踏みにじられる。そんな刑でもあるのだろうか。
雨の夜、偶々道路へ出て、偶々通りかかった車に轢かれた。もう数十センチずれていれば、タイヤから逃れた筈。
いや、矢張その蛙は・・・
アスファルトの上に、かろうじて残るその染みの上を、車が踏み続ける。
〈了〉
踏み続ける