夜勤をやめた

 夜勤をやめた。夜に寝れる。

 元々夜行性ではないし、習性に逆らうのはつらいことだから。

 夜勤をやめた。鎖はとれた。

 もうどこへだって飛んでゆける。

 冷蔵庫がうなっている。車が一台通り過ぎた。
 面倒くさくなって、電池の交換をしなくなった置き時計は、とっくに意味を失っている。

 朝方ベランダで煙草を吸う俺の隣にいた、寝ぼけ眼で歯を磨くあの子は、今どこで何をしているのか。


 夜勤をやめた。鎖はとれた。

 無機質な空間を抜け出し、無秩序な夜の世界を歩く。

 煌々と光る街に目を伏せて、淡い闇に沈んでいく。

 天使の右手が、俺に触れる。
 強く、強く、握っていてくれ。
 でないと今にも飛ばされてしまいそうだから。

 天使の口から、俺の名前が零れ落ちる。
 強く、強く、握っていてくれ。
 からっぽすぎて、今にも宙に浮かんでしまいそうだから。


 夜勤をやめた。際限なく広がる夜に、持ってもいない夢をみた。

 手を伸ばせば手に入る繋がりというのは存外甘く、かわきやすく、壊れやすい。

 ひとりより、ふたりのほうがましという。
 ふたりより、ひとりのほうがましと思う。
 はじめから、ひとりのほうがましと思う。
 
 空回りする記憶は、朝になってようやく眠った。

夜勤をやめた

夜勤をやめた

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2024-03-20

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