「湖と北極星」

　湖の下…ゆらめく月は
　　黄色な猫の眼白い雨露花(あじさい)
　湖の色…月かこう暗やみの水辺…淡すぎる薄藍桜(あさぎざくら)
　光は射さない花が咲く
　月は雫をもたらすのみ
　寂しい湖は雫を重ね
　赤い硝子の花が咲く
　紫水晶の蝶の羽のかけら…水底に浮ぶ
　瑠璃鳳蝶(るりあげは)の羽も散って…溶ける水底
　漂ふ
　ただよふ
　紅さした硝子の花は曼殊沙華
　彼岸(むこうぎし)の花は北極星の孤独な星の涙(もと)になる
　道しるべ…哀しい星は身じろぎせず
　麻酔(エチル＝エイテル)の酸素に満つる大気の海に
　身じろぎもせず…身じろぎもせず
　眼の下に隈をつくるまで
　はるか太古の記憶を探す