高学年の時のこと


・小4の時はまだネットいうのは普及してるけどエロ動画が普通にたくさん観られるような環境やったかは微妙なとこやったし、そもそも然ういう世界をまだ知らんかった。やからってエロ本とかいう紙媒体で昂奮せえいうのは映像の時代に流石に無理もあることやろう。四年生にもなると民法にとどまらず寧ろ地方局の昼2時とか4時くらいにやってた90年代のドラマとか70年代くらいの洋画を内容はともかくずっと検閲するように観てやっと然ういうヤラシイ場面に巡り会えた時には純粋に無垢に昂奮しとったな。
・でも民法の深夜にも然ういう感じの而ももっとスケベな安っぽいドラマが公然と番組表に輝いてたりもしたわけですわ。
・そして、めちゃめちゃ満を持して親に両親に初めて訊いてみた。「ちょっと夜更かしとか、しても良い?」。そしたら笑顔でやで二人とも、ええで言いよんねん。
・その時ふと感じたし思た。何かちゃんと学校は行ってる順調な感じやからそのぐらい許可してもええやろ的な。ええんかそれで。それまで9時とか越えて起きてることなんてなかったんちゃうかな。いやもうバンバン夜更かしして深夜の怪しそうな番組とか選りすぐったるからな。
・多分そこからちょっと生活というか体調がおかしなった。体調というか、緊張感というか。まだ小学生をテキトーにやりこなせてた日常が一気に何か深夜のエロ番組探検家の一日みたいな不規則なものに変り果ててく。



・漢字テストの答え合せが終って授業も終った瞬間に文化警察官たちがみんなの回答を見てまわった。以心伝心を漢字で書けというところをより重点的に。
・あ!こいつ「以心電心」とか書いてるやん!アホやコイツ。全然わかってへんやん。引っかかった引っかかった。俗物め。丸で俗物かのように扱われる。真っ先にみんなが然うやって書いてないか確認しに来るお前らの方が俗物やないか。
・夜更かしのお陰もあってか、深夜の音楽番組にも自然と目がいくようになってそれまでは全く興味もないし知らなかった世間の歌とかに逆にめっちゃ詳しくなった。而も人気なのには確かに理由があるのかも知れなくなって感心もするようになる。結構たのしい。みんな斯ういうのを楽しんでるのか。そしたら例えばマンガにしてももっと雑誌の隅から隅まで面白いかも知れないものを探して読み通してみたって良い。例えば知らないし興味もなかったゲームとかを物珍しげに確かめても良い。
・でも、めんどい。ということは結局のところ惹かれるものがみんなと違った。ある時にふと男子から意地悪げに囁かれる。「若杉ってみんながそんな読んでへんマンガ好きって言うよな」みたいな感じで。微笑みながら。小馬鹿にするように。純粋や。子供は純粋や。
・ホンマに何でそんなこと言わなアカンのか分からんかったけど、大人になってもみんな斯ういう細やかな優越感と意地悪での快感を感じながら日常の推進力にしていきたい思てんのかな思う。俺は社会のことなんて知らんけど。あれは傷ついたというより子供ながらに衝撃やった。そんな面白くないこと言って何が面白いのか。



・長袖の袖先ひとつの不自然を、からかわれる。ダボつく厚めの袖んとこを自然にするにはどうしたら良いか、わからない。何か周りから啜り笑いが聴こえる気がする。
・そして男子が遂に優しくヘラヘラからかいながら無理矢理に俺の袖を直そうとしてきた。それじゃアカンて。斯うするんやで。何何?やめぇや。拒んで遠ざかる。それでもやっぱりヘラヘラされる。野球少年やった。それまで然ういう事もなかった良い感じの奴だっただけにソイツがそんな態度を取ってきたのはちょっと動揺してしまった。でも中学のあの死にそうになった事件の後で本屋で謝りに来たのを思うと心の優しく脆く覚束ない少年やったに違いなくもない。



・授業前に先生と男女の複数名がみんなが何時か描いた絵を教室後ろに吊るし飾ろうと頑張ってた。縦横に通した紐を駆使して何十枚もの画用紙を割とキレイに整えて見せようと思ってたのか中々に先生もみんなも苦戦してて、それを見た俺は一番後方の列の席から急に立ち上がってみんなが全然引っ張ってない方の紐を思いつきですごい力で引っ張ってみました。
・すると先生もみんなも大声挙げて折角うまくいきかけてたのに風な感じに体勢まで崩して嘆きながらこっちを見てきたので仕方なく自分の席にすぐ戻る。おかしいなあ。みんな引っ張ってない方の紐が勿体なく見えたんだけどなあ。
・周りの席の子も教室中の子も何となく俺の方をすごい目で見てた。ゴメン。できることはやった積りやけど何もせん方が良かったんやろな。



・公園でみんなで鬼ごっこしよう言うてジャンケンして鬼を決めたりするわけです。鬼じゃなくなる時もあれば鬼になる時もある。いつものこと。それで或日にジャンケンに負けて俺が一人で鬼になった瞬間があった。
・そこで何か知らんけど、しんどくなった。面倒な気がしてきた。逃げる側の積り満々だったのに。なので率直に言いこぼした。めんどい。イヤや鬼。しんどいわ。そしたらジャンケン仕切ってた球蹴り少年の男子が普通にキレ出して胸倉とか掴もうとして来たので仲裁に入ろうとする子も居る。
・やりたくないんやったら、やらんかったらええやん。然うやな。逃げる側なら別に良かったんやけどな。でも何か、嬉しくない気持ちに佇む。小寒い秋の4時頃だったか。ちょっと鬼ぐらい普通にやっとけば良かったのかも知れない。すごいツライ気持ちになったから。何で急にあんなこと言ってもうたんやろか。
・気分を変えようと思って翌日、学校の昼休みに別の男子の一人と一緒に犬の真似をしながらその球蹴り少年のところへ謝罪しに(?)行ったと思う。そしたら複雑そうに笑えない顔をしながらゆっくり向こうへ遠ざかっていってしまった。昨日のことを無かったことには出来なかった。



・何かやけに色白やけど小太りな子が俺のこと好きやみたいな話とか聞かされて何々ええって然ういうの思てたら、他県でいう林間学校みたいなやつの時の夕食の席で丁度その子と向かい合うことになる。ふーん。特に何とも思わへんかったから普通に普段どおり食べるわけやけども。
・食べ進まれば食べ進めるだけその子の表情が段々と曇ってく。最初は硬そうにしてたのに見る見る眉間に皺が寄ってって自分の箸が一向に進んでない。そんなことより良くも悪くも俺の方をずっと見てた。監視してた。気づけば睨みつけられて居た。その時は何でか分からへんかったけど後に何かの番組か何かで食べ方が汚い人は嫌いとか何とかっていう話題を見聞きしたときに漸くちょっと見当ついた。

・思えば節分か何かで箸で豆をコップからコップに移す競争みたいなノリが学校の授業であった時、めっちゃみんなから不機嫌というか気持ち悪い顔されてたわ。何かみんなと比べて上手に掴めへんな思うてたけど何でか全然わからんかった。然ういえばみんな箸を交叉なんかさせてなくて平行に持っとったかも知れん。
・給食でもその林間学校みたいなやつでも、コメがそれなりに何粒も残ってるのが許せないみたいな子が結構居た気がする。そりゃ然うや。でも然ういう発想もなかったので平気で心配なるぐらい米粒とか残してたし隠さへんかった。然ういうのを、みんなどこかで何回も見てきてたんかな。特に女子からの目が厳しい気がして。

・流石にその林間学校みたいなので朝起きたとき布団を一箇所にしまわなアカンみたいな事があって特定の生徒たちがそのしまう場所を見守るように整理しとったんやけど、その目の前でクシャクシャのまま自分の布団を抛り投げ突っ込んだのは後々考えると申し訳なく思った。でも、しんどいんやから仕方ない。



・四年生のとき、同じ組やった金持ちの御曹司みたいなイケメン長身の男子が居てソイツの家に他の二人くらいの男子と一緒に遊びに行くことになった。何でか知らんけど然ういう事があった。御曹司はもしかして途中で転校して来たんかぐらい知らん存在やったけど他の二人はまだずっと知った顔やったしその繋がりかな。
・たぶん何となく普通に遊んで和やかやったんやろう。俺自体は大人しかったかも知れんけど。そんで夕方になった。そしたら思ったより暗くなってたと思う。ちょっと居過ぎたな。まあ帰るしかない。他の二人は帰ろうとするわけのところ、俺だけ何か怖がってる。ビクビクしてる。暗いなあ。ひとりじゃ帰れない。
・二人に呆れられた挙句、まさか俺だけ御曹司の家に残ってソイツと二人きりで母の迎えを待つことになった。その時点で何か、今思うと既に気まずい。でもその時はホンマに早く帰りたい早く帰りたいしかなかった。知らん奴の家やし。落ち着かへん。御曹司が暇な間にどうでも良い自分の好きなアニメをみせてくるけど今それどころやないねん。はよ帰りたい。終始ずっと生返事と心ここに無い感じを醸し出しながら、遂に迎えが来ると急いでそっちに飛びかかるように。
・じゃあね、とかサヨナラも面倒だったのでそれより早く家に帰ることを大事にしました。すると何だか御曹司の表情がここに来た時とは全然ちがってて何故かよく分からなかったものの、本当にそれどころじゃない。帰れて良かった。

・六年生のとき、御曹司と同じ組だったかは憶えてないくらいでも市内の小学校が一堂に会する体育大会の100メートル走で隣合って競走したのは憶えてる。
・俺を見る度に、舌打ちしてくる。睨んでくる。それが何でか分からなかった。
・ひょっとしてイケメンで長身で女子の取り巻きを5人6人抱えてることでイイ気になってるんだろうか。くたばれ!100メートル走で地味に負けられなかったかも知れない。
・結果的には冒頭で御曹司がちょっと躓いてしまってギリギリ勝てたワケだけどもギリギリだったからな。そのとき俺も背の順で後ろの方だったとはいえ御曹司はもっと大きかった。足の速さで負けたこと無かったのに結構躓いてから追い上げられた。不運だったな。躓いてなかったら負けてた思う。だから勝った勝ったとか喜びきれない。
・そしてその後ショボい陸上競技場のショボいコンクリの客席でハアハア疲れながら女子5人6人たちに慰められてる傍らで黙って座り込んでる俺を睨みつけるや否や、舌打ちしながら自分が躓いてしまったことを延々語り続けてくる。こっちは躓いたのにギリギリだったじゃないか。何でお前なんかに、負けないといけないのか。
・女子たちは微妙な苦い顔して何も言わない。事情を知らないので何とも言いようが無い。それに加えて俺も丸で事情を知らないようにした。二年くらい前に御曹司の家であんな事があったのは憶えてるけど、それが今のこの態度に繋がる理由がわからなかった。



・当時インフルエンザ並には流行ってなかった学級崩壊が俺のとこでも起きた。五年生や。他の組はそんなんなってない。
・授業中に十人弱がウロウロするなんて当り前で殆どの生徒が先生の方なんか見てないし私語してるし真面目に聞こうとしてた子もそんな教室の様子からして授業に何の意味も見出せないままノートに関係ない絵とか描いたりとか友達同士で時間を潰してる。
・50代くらいの紅茶とか飲んでピアノ弾いてそうな茶色いソバージュのマダム先生は決して怒鳴りつけたり気の強い人じゃない。然ういうのと縁もなかったような良くも悪くもイイ先生だったのかも知れない。叱っても誰も聞くわけない。声が小さい。上品でしかない。そんなのと程遠い奴らが休み時間とか授業中とか関係なくバカ騒いでる。嘲笑ってる。
・宿題なんてして来ない子もたぶん珍しくない。敬語なんて使わない。先生を呼び捨てるなと過去の学年でも散々言われてきたのに、ここぞとばかり呼び捨てる。言うこと聞くと逆にみんなウケる。然ういうボケかみたいな。
・その中でもやっぱり半分に満たないぐらいの子はギリギリ良心があって更にその中でも半分くらいはきっと一度も先生に対して失礼なことはしなかった。と思う。俺も騒いでる奴らがあまりにも野蛮に見えたので元々居ないものとして日々を過ごした。

・でも、水泳を一回も出ないまま押し通そうとしてる俺を見て何回も注意しにきた先生には同意できません。本当に無理なんです。水泳がある度に始まる前に説得されては、断ってしまう。断ったときの表情ときたら回を重ねるごとに深刻になっていく。ひょっとしてこれはあんまり良くない。めっちゃ良くない。先生だからじゃないんです。過去にどの先生に対しても斯うだった。水泳が嫌なだけです。そっちの方です。
・そのまま二学期まで先生が持ち堪えたかは憶えてない。その時期の前後でうっすらと憶えてるのは騒がしい中で国語の問題の採点を黒板前でやってた先生から漢字のトメとかハネについて細かくしつこく指摘されたことについて本当にちょっと面倒だったのでちょっと小さめな生返事をしてしまったとき、その生返事のまま席に帰ろうとしたとき、すごい表情で縋るようにこっちを見つめてこられたこと。
・違う。本当に字のことについてそこまで何回も言われるのは過去もずっと嫌だったんです。先生も然ういうとこで若干しつこくなってしまう面もあるけどそこを特段に責める積りもありません。教室の騒がしさに、便乗してるわけじゃない。違うんです。そんな顔をしないで下さい。みんなと一緒にしないで下さい。

・よく正確には憶えてない。でもその後に授業で先生のことを見た記憶がない。その頃に丁度、先生は来なくなった。体調不良だそうで他の先生がやって来たり持ち回りで授業が進んだ。怖い先生が偶に来る。次第に治安も良くなっていく。それでもずっと忘れてやまない。あの時のあの先生の顔。



・六年生の修学旅行のとき、カギ係になってたのか色んなカギが纏められたのを俺が持ち歩いて管理しとかなきゃならなかったっぽいのに或ときに急に面倒になって急ぎ足で進んでいく列に急ぎ足でついていきながらカギを抛ったままにしたことがあった。そのときは名前の順でみんな行動してたっけ。他にワン(腕)の字から始める珍しい苗字の奴が居たから俺は後ろから二番目だった。親友ではないし何時も関る仲ではなくてもお互い印象の良い同級生みたいな感じの距離感の子。じゃあちょっと、最後のお前がカギ持って来てって感じでその場を離れたんや。
・その瞬間ではそのワンから始まる奴もええ?ってビックリしながらも結局カギを持ってきてくれたから後で謝りはしたと思う、けど多分してない。その場では個人的にまあこんな事もあるよな的な雰囲気で終ったと思ったんやけど。
・それから学校で近づく度に厳しい顔して遠ざかられるようになる。煙に巻くような受けつけないような。やっぱり何で然ういう態度になったのか分からなかった。修学旅行でのことも自分自身、憶えてたのかも分からない。



・六年生が始まったくらいの頃、やけに女子たちから雑に呼び捨てにされるようになる。
・女子の中でも元から呼び捨てにしてくる子と「ワカ」ってあだ名で柔らかく呼んでくる子と君付けしてくる子とが居った。ていうかワカって呼んでくる子が殆どやった。そんなにどの女子とも親しくもないけど険悪でもないので呼び捨てなんてして来る子はそんなに居ない。
・それが急に気づいたら女子みんなが呼び捨てしてきてる。攻撃的に。
・ふわふわした感じで丸で俺と接点も争点もなく偶に話す時は優しくしてきてた子が平然と冷めた声で「ワカスギ」って呼んでくる。持て餘した長袖で口もと隠しながらふにゃふにゃ喋る族の背の小さめの女子みたいな女子という女子がしれっとみんな呼び捨てにしてくる。
・気がついた時は遅かったって言っても何が遅かったのか分からない。知らない風習がもうすっかり広まってしまってる。地味に傷ついた。あの子も?お前も?何で急にワカって言わなくなったん?よりによって過去何回も同じ組になってよく知ってる子たちばっかり。何か知らないものが知らないところでビックリするくらい動いてる。どうする事もできないままに。



・漢字のテストみたいなやつの時、顔四角い肩幅オジサンの怖い先生が偉そうにみんなの回答を見てまわる。
・塾に通ってる子には励ましの声を送りつつ、俺の回答に間違いを見つけると「アホ!」って呟いて間違い部分に指さしてきた。何でこんなとこ間違えんねんアホかお前。しゃんとせえ。まったく。
・しゃんとしてる。しゃんとしてこれ。漢字とかよく知らない。知ってても間違えることもある。それよりもうオジサンは別のとこを見て喋ってる。わからない。何で然うなるのか分からない。

・五、六年生とかになると放課後に部活動の練習みたいなクラブ活動っていうのが始まった。それだけでも嫌やったけど知らない教室で知らない他学年とか他の組の生徒や先生たちと関らなきゃならないのがもっと嫌だった。
・何のクラブに入ってたか憶えてもない。知らない学年のオバサン先生たちが何故か俺と関りもないくせに「ちゃんとしなさい」みたいな雰囲気で接したり小言を囁いてきたりしたのは何となく憶えてる。少しだけ真面目に文字を書いてみたら「アラちゃんとキレイに書けるじゃないの」みたいに言ってきた。
・何を知ってるのか。知らないからそんなこと言える。でももしかして知って居る。風の知らせを聞いたんだろうか。



・でも色んな記憶も全部、当時の俺からすれば分からないこと。何がどうなってるか分からないから常に目の前で起きた嫌な事を常に気にしてたわけじゃない。
・そんな中でもハッキリとその時その瞬間に心も動いて躍って一秒たりとも無駄にしまいと張り切ってた出来事があった。
・同じマンションの3階に、同じ学年の女子が住んで居た。俺んちは4階だったのに実は小4とかまでは存在すらよく知らなかったくらいの子。そして小5のときに同じ組になったような然うでないような。そこはよく憶えてない。
・少なくとも、何だか知らない内にお互いをよく知るようになる。いつ話をするようになったのか。どういう出会いだったのか。お互い全く知らなかったのに最初から「ワカ」って呼ばれてたのか。よく憶えてない。そもそも女子と関りなんて少しも持たなかったような状態でその子とだけ気づいたら距離が近くなってた。同じマンションだから。どっちにしろ凄い出来事だろう。衝撃に近い。でも、その始まりをちっとも憶えてない。
・ただゼッタイ昂ぶってた。小4の終りくらいの時にはもう記憶の中にその影がある。遥かに俺より他の生徒と仲良くて友達の輪も広い。女子にも男子にも友達が居る。居そう。目がでかい。男子が好きな子っていう話題だと絶対に名前が挙がる。一回だけ同じ組の男子たちと然ういう話になってその名前を聞いたことある。

・初めての感覚。まだ何も始まってないのに日常で見るもの全部が楽しくて今まで見た事もない色に見えて見えて仕方ない。何だこの未来があってあってどうしようもないワクワク感は!世界があっても無くてもどうでも良かった無の境地から昂ぶるあまり俺が生れる。俺はここに居る。ここに居て何か、楽しみにしてる。
・それなのにやっぱり帰り道とか放課後?にその子の方から話してきたであろう一つ一つの瞬間は丸で憶えてなくて、例えば社会見学の帰りのバスから見た光景しか思い出せなかったりする。その子と別の男子が普通に体育座りしながら会話してる。別の組だから俺が立ち入れないところの領域でその子はその子の日々を過ごしてる。
・俺からすれば女子と男子が会話すること自体が有り得なかったのもあるとはいっても、然ういうのを見るだけで一気に世界が消えてしまった。然うだよな。そんなウマい話なんてない。同じマンションで近いとこに住んでるだけ。色んな子と仲良いんよ。何だ。然うか。また知らない世界を味わった。波が高すぎるし急すぎる。何も楽しくない。世界から置いてけぼり。へえ。流行りの歌はダテじゃなかった。初めてこの身に沁みてきた。

・ただ小5に入ると徐々に一緒に下校したり、マンションに帰ってから通路のとこで一緒に居るようになったりしてたのは間違いない。やっぱ同じ組だったのか。憶えてない。やっぱ昂ぶってたのか。また世界が始まってたのか。一緒に居たことだけ憶えてる。何をしたかは憶えてない。何を話したんだろう。てか、多分どうでも良い。他の子が言う「ワカ」とその子が言う「ワカ」とじゃ全然違う。思ってもない美味しい世界が目の前にやって来てる。それはそれは凄い分かった。
・いつも通り例年どおりプールを見学させてもらう立場でやらせてもらってたら或日、その横にはその子が居た気がする。あ!じゃあ同じ組やったんや小5のときは。然うや。あの6月の日射しの光と陰の屋根の下でみんなのプール風景を隣り合って体育座りで見学してた日があった。いつも元気にプールではしゃいでたのに、その日は元気そうに屋根の下に居た。隣に居た。憶えてる。水着の男子とか女子が向こう側から不思議そうに見てきてた。何であの子がアイツの横に居んねん。その全部を横目に、なぜか隣にその子が笑う。めっちゃ詰め詰めに体育座りしてくる。
・ほんの少しだけ、脚が当った。明らかに俺とかと肌の色が違う。その白いのが少しだけ触れる。ゴメンほんまに聞いてるだけやったらキモイかも知れんけど感動したんよ。クソ柔らかいやん。何やねんコレ。肌触りどないなっとんねん。知らん知らん。ええ?そないなってんの。いやホンマに、プールとか学校とか何なら世界なんてどうなってもええわ。

・昂ぶる少年。意気込む少年。何かが分かった。凄い分かった。また帰り道。一緒に帰る。たぶんマンションに帰ってからも一緒に居る。
・何なら、気まずい雰囲気すら感じるくらいに。その子の視線がちょっと呆れたような感じになってく。何となく憶えてる。もう随分と一緒に帰ったりしてるのに俺から大層なことをちっとも打ち明けてくれないから痺れを切らしてしまいそう。
・大層なこと?然う、きっとその視線は大層なことを求めてる。何となく分かった。もういい加減はやく言いなさいよ、みたいな。
・え?そっちには俺の知らない色んな友達とか男子が居るだろうに。正直に言って申し訳ない。そしてたぶん、気持ち悪い。分かってたんよ。女子から好かれるような立場じゃないから。本当に良いのかな。勇気ない。斯ういうのって、そっちの方がよく知ってるでしょ。

・うん、俺はそんな感じだったので遂に、その子の方から持ち掛けてきた。付き合う?そんなみたいな感じ。あ、え。でしょ。然うなんでしょ。あ。もしかして俺がグズグズしてたから斯うなったっぽいんかな。あれ。やっぱ然うなんや。うん。一応うんって答えるわな。それはええけど、何かめっちゃ自分を見損なったわ。始まったことよりそっちの方がめっちゃ気になる。何でや!気づいたときに早く言うたら良かったのに。

・まあ、それはそれとして。

・ィィィィィィィイイイイイイヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッホオオオオオオオオオオイ!!!!!!!

・シャァァァァァラァァァァァァァレェェェェェェェェェイ。

・何や知らんけど俺の幸せという幸せ以外、全部くたばれ。
・あああああ何か、冷たい気持ち良さを感じる。真夏のオアシス。まだ寒い時期のことだったのに。汗ばむ真昼か午後2時頃に、キンキンの水を浴び散らすよう。暑い熱さに急に喉が潤えるよう。かかか、快楽とはこれ如何に!ィィィィィィヤッヒェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!

・姉にはそれなりに迷惑かけた。史上最高にウザかったろうが善くも少年も恥を知らず妄想という妄想を公然と打ち明かしては爽快になった積りで居る。いや本当に快感を爪先から毛穴まで味わってたので嘘もありません。無敵。この勢いで宇宙に行けるぞ!昇天。死んでも良い。死んでも別にどっちかっていうと天国に行ける。ああああああゴメン気持ちいいわ。ううわああああ何か、スゴイ。すんごいで。

・その勢いで、その子とも向き合えば良かろう。
・何故に目の前にして顔を近づけられると、口元が緩むのが恥ずかしくて面と向けない。腰に手を回され恋人っぽいことしよう的な感じなっても斜め後ろまで首をねじ曲げてでも目を逸らす。顔を逸らす。
・相手は何となく、なんで?みたいな表情してるのが分かった。いやいや照れてるんすよ。わかるだろうに。でもガチで見当つかなそうな顔してる。
・手をつないでるというより、つながれてる。口元が爆発しそうになるのを隠すのに必死で必死で場がもたない。そこをちょっとは理解してくれ。それは無理そう。グイグイ来るやん。また照れるやん。ほんとはちゃうねん。こんな照れたないねん。口元だけ隠して喋ったらどうやろう。そしたらホンマに心配そうに「どうしたの?」や。どうしたのやあらへん。斯ういうもんやねん。斯ういうもん。

・六年生では確実に別の組になってたので俺の組の授業が終るのをいつも廊下でその子が待って居た。俺の組だけ終りの会がいっつも長かったから。周りの目はどうでも良かったので、気づく子は当然に気づく。公然と一緒に帰る。放課後は何となく一緒に居る。朝、その子が玄関前に迎えに来ることもあるし俺が行くこともある。休み時間に校庭で遊ぶことなく廊下で階層の似てる男子たちとダラダラ過ごしてると向こうの他の組の教室の前に居たその子と目くばせをし合う。とは言いつつも俺は見れない。
・然ういうの全部、どれだけ幸せな事か全然知らない。何も知らない。もっと大切に過ごせ。もっと一日一日噛み締めて、どうか過ごしておいて欲しかった。
・只々、殆どの男子たちよりイイ気分をすごい味わえてるのが何となく分かったのでそれで相当に満足して居た。ある時の授業前に同じ班の男子と男子がヒソヒソ、また「アイツって誰が好きなんやろうなあ?」とかいう話が始まったりする。するとそのとき真っ先に候補から外されるのは俺だった。お前は違う。お前はぜったい違うんやってさ。くたばれ。心の底から軽蔑しながらもどこか優雅に闘志を燃やす。今に見てろ。一体自分でも何を見せようとしてるのか分からないけど、今にも世界をすべてひっくり返してやれる気力で溢れに溢れ溢れ返った。

・家に招かれた。所が困ったことに二人とも、一体何をすれば良いか分からない。
・何かトランプでもしようとして途中でやめたこと。お母さんはいつも然ういう時どこかに出掛けてたこと。何かお店をやってるっぽいこと。偶にその子の弟と鉢合せてめちゃめちゃ冷めた顔で通り過ぎたりされたこと。ずっと手の平を鷲掴みにされたこと。向かい合って床に座るとき、スカートの中を隠しもしないこと。トイレに行くとき、色々聴こえるのに敢て扉の前で待たされたこと。
・然ういう事は憶えてるけど、最終的に果して何をしてたのかは分からない。
・でも二人なりに進展はあったらしい。
・春先か夏の前か秋口か、しかし夕方もすっかり終りかけのオレンジライトの通路だったのは憶えてる。
・何だか終始ぎこちない俺を少々試すかのように「目、見つめてよ」みたいなこと言われた。
・ここで、ここでですよ。奥底の秘められた欲望の塊が爆発します。何でか知らんけど、急に恥なんていっそのこと捨ててしまえるくらいの勝負師の勘が発動せり。一回もその子の目をこの目でしっかり見たことがない。何となくデカいのは知ってるし顔も大体どんなのか見えるけど、今に確とこの目にしようではないか。
・10秒間ね?10秒間ずっと見ててね?ということだったので。
・高が10秒間。人間であれば簡単なこと。その目をこの目で、微動だにせず見つめるだけよ。そして見つめた。
・え?できんじゃん。そんな事できるの?それはできるの?
・目を円くするとは、このことをいうんですね。わかります。今まさに然うなるその目を見てましたから。
・鏡に映る自分の一重の目しかマジマジと見たことないから単純にビビった。大きい人の目ってこんなに大きいのか。そして女子の顔の肌からツクリから何から何まで違う。その一度。女子というか女性の顔をよくそんなにもちゃんと見たのはそれ一度しかない。
・きっと何かを見直される。そして俺も見直した。これってまさか何かスゴイ。
・ゴメン。ご褒美とか欲しいわ。
・然ういう風には言うてへんけど何となく斯う、その場に佇む。そこに居るのは今さっきそれなりの偉業を成し遂げその子を驚かせた爆発小僧。
・え?え?あ。うん。
・初めてだった。その子が初めて戸惑い始める。
・恥ずかしいんかい。驚く勿れや。こっちはちぃとも恥ずかしないで。
・はい。ということで。
・いやただ、しかし。
・右だったか左だったか、どっちの頬にしてもらったか肝腎なことを憶えてない。
・二回してもらったことは憶えてる。
・一回してもらってもその場を離れなかったので少し間を置いて二回目もしてもらった。
・振り返るだけでも気持ち悪い。
・やから何や!誰も彼も人間なんや。欲望をみたい。
・せや。欲望やで。それが何か。許容範囲や。地球からみれば許容範囲や。燃えた燃えた。おさまりきらない。ゥルルルルルルルルルルルルヒィィィヤッホーーーーーーーーイ!!!!!!宇宙爆発!天地粉砕!地球炎上!ピィィィィィィィィィエェェェェェェェェェーーーーーーーー・・・・・・・・。
・ふぅ・・・・・・。

・つらい。最高につらい。つら過ぎるわ。あそこで一回俺の人生は終ってる。そして未だに再開してない。仕切り直されてない。あの時あの瞬間はこれから毎日どんな昂奮が待ってるのか楽しみで楽しみで仕方なかったのかも知れない。今日でこれなら明日は明後日はどうなってしまうんだろう。決して止らない。どう考えても立ち止るなんて有り得なかった。
・そこからは只々落ちていく。思い出すほど思いがけず侘しくなる。

・そもそも日常は穏やかでも何でもなかった。なぜかモヤモヤ、何も何事もないのに何時も通り居ることが面倒になる。誰かを思い遣ることが面倒になる。
・学校の掃除の時間。男子のアホ達が黒板消しを投げ合って居る。はしゃいで笑う。その傍らで机をちゃんと黙々と拭いた。
・ふざけてるのは分かる。分かるけど、何がそんなに楽しいんだろう。家でゲームしたりエロいの観て色んな妄想したりしてちゃんと楽しんだ方がぜったい楽しい。今はその時じゃない。ちゃんとやるべき時に敢てふざけて楽しい感じにした方がハメ外せてる気がしてきて楽しくなれると思ってる。勘違いしてる。お前らいっつもそんな感じやな。ピーピーうるさい。
・野蛮人め。やるべき事やれ。どうせやらない。それどころか、黒板消しがぶっ飛んで来た。
・俺の顔か体にあたる。白いの付いてる。
・ゲラゲラしてる。何が可笑しい。お前らが投げた。言うことあるやろ。
・くたばれ土人。グチャグチャにしたい。然う思いました。
・ふとした時にはもう遅い。奴らの誰かに俺の投げ返した一撃があたる。
・静かになる。あんなに今まで騒いでたのに。
・顔を赤らめ本気で痛がる。目に入ったのか。白い粉が入ったのか。
・投げ返したら似た者同士や。冗談じゃない。
・少しでも傷を和らげるために前のめりに心配してみた。大丈夫か?お前のことを想って居るぞ。大丈夫か。反省してるからな。俺はすぐ反省して相手を想えるイイ奴だからな。大丈夫か。なあイイ奴だろ。なあ。わざわざ心配して廊下までついて行ってやるんだからよ。

・そして先生に叱られたのは一先ず俺だけだった。掃除が終ってまだ校庭で遊んでる子も多い閑散としてる教室にも少数の女子たちが居たりする中、見てる中、そこには不貞腐れて生返事の小僧が居る。
・ゴメンナサイは?反省しとるんか?後に中3の運動会で教育委員会の席に座ってたような昭和の軍人系譜の怒鳴りつけ系クマ顔おじさん。恐喝手前の唸り声で訊問してくる。はい。はい。返事はしてる。形だけでもゴメンナサイとは言ってる。これ以上何を望むのか。これ以上はない。顔も顰める。何やその顔は?何なんでしょうね。全然わからない。只々しんどい。結局そのままちゃんとすることは無いままに終る。
・女子の目線を脇目に感じた。しかもまだ「ワカ」って呼んできてた善良な女子たちの視線。やけにくっきり憶えてる。目の隅でしか捉えてないのに。ガッカリしたような悲しそうなような、見限るような虚しい視線。ついにはその層にまで嫌われた。
・でもじゃあ、投げ返さなかったら良かったのか?
・良い悪いじゃない。投げ返したのです。それがすべて。それ以外はない。

・体育の授業でなぜかその時は他の組との合同だったのか、二階部分の通路みたいなとこから他の組の子たちが俺らの組のシャトルランを見守って居た。そこに女友達と一緒に立ち見してるあの子の姿もあるわけで、本来は張り切る筈だろうに。
・そもそもマラソンも苦手だった。ずっと走るのが本当に嫌。でも特にあの子から観られてる。でも本当に斯ういう耐久モノ嫌い。一往復二往復。それからやっと五往復かした頃ぐらいのことだったか、まだ行けそうなのに突然やめた。他の子は誰もまだやめるわけない。
・やめて体を叩き靠れさせた方の壁の真上の通路であの子は立ち見してたので然うなった時の反応はどうだったか知らない。そんな事より、しんどい。面倒だった。既にシャトルランを先に終えて見学して居た同級生の男子たちから根性ねえ根性ねえだの囁かれても仕方ない。やりたくない。もうこれで良い。良かったんだと思う。あの子も観てるのに。
・暫くすると妙にやっぱりあの子が観てたことが気になり始める。そして、授業後に片づけか何かで今度は俺の方が通路の上にあがってた時そこから見下ろしたとこに丁度あの子がひとりで居ました。
・俺に気づく。あの子が微笑む。多分どうしたの?的な感じも含めて。それでも俺は、素っ気なく去った。視界から去った。わざわざ優しそうにしてくれてるのに。ずっとひとりで悶々してる。内側へと内側へと宜しくない何かが蠢いて狭い渦を描くように。

・一緒に下校するときも段々、恥ずかしいとか照れ臭いっていう感情が攻撃的になってって何を言われても嘔吐する真似をして見せたりとか時々無視したりとかするようになってった。分からない。自分がどうして斯うなってるのか分からない。その子の笑顔が見られなくなってってるのも承知の上でも自分の何かに逆らえなかった。
・授業がたるい。それはもとから。学校がたるい。それももとから。人間がたるい。それも、もとから。何が違うんだろう。箍が外れたところかな。明らかに先生とか周りに対する態度が気だるいものになっていく。注意されても割と聞かない。それまでは適当にやってても或程度は正解できた問題も徐々に解けないものばかりになってきた。いつも秋くらいになっても半ズボンで居ることも多かったのに学校的にあまり宜しくないダボダボの長ズボンで登校してくることが増える。それも注意される。それも聞かない。
・一緒に下校するために教室の前で待ってくれてるあの子から、何時の間にか表情が消えた。分からない。何で然うなってしまうのか俺なりに分からない。

・もともと友達らしい友達なんて居ないけど、それどころか「同級生」って言える子も誰も居ない。居なくなった。全部が敵。きっとまた少し休みがちになっていったかも知れない。行く気が出ない。あの子も居るのに。それどころじゃない。敵の中に突っ込んでいって苦しくしんどい思いしたくない。
・ただ一人だけ、それまで感じたことない距離感を感じさせてくれる奴が居た。
・東野(仮名)っていう、たしか二年生とかで同じ組になったことある色の白いワシ顔の男子。その時に同じ組だったかは憶えてない。
・ああコイツ、漫才好きで有名やった昔から。二年生のときに漫才トリオ組もういうことで俺も巻き込まれたわ。偉い活発でしゃがれた甲高い声が耳に残るくらい少々押しつけがましい奴やった。
・同じ組に最近(令和6年)女性問題で活動休止になって裁判するかどうか話題になった超大物芸人の兄の息子が居ったのでソイツと東野とそして俺とで漫才をするいうんや。あと一人は俺やなきゃアカンみたいな話で何時の間にかトリオの中に含まれとって、練習するから何処何処に来いとかもっと斯うせなアカンとか命令してくるから嫌そうにすると凄い冷たい鬼面で除け者にしてきたりしたな。苦手やった。飄々と傲慢そうに居る感じがどうしても無理やったんやけど。
・六年生になってやけに落ち着いてまるくなってた。何も命令してこない。ゆっくり喋る。こっちからの言葉を待って居る。漫才の話すら、してこない。その雰囲気にどこか而も、俺と友達になろうとしてる感触がある。
・神社と向こうの住宅たちの間にそれなりに一面広がる田んぼを見渡す或夕暮れの道、不特定多数で群れ遊んだその後に東野と二人で何となく気づいたら話し込んで居た。
・そいつが言うには俺と同じ組のレンとかいう名前の女子が好き、というか人気よなっていう話。然うなん?背が高くて毛先を金染めしたショートカットの小うるさい女子。ああ。確かに名前はよく聞くし昔から男子たちと距離近いよな。
・せやけどアイツって髪型とか醸し出す空気がイイ感じなだけで顔は正直言って、微妙よな。目ぇ細いしな、そんな可愛いって感じには全く思わへんけど。
・然ういう風に言うとちょっと不意をつかれ目線を下ろす東野だった。
・あ。何か申し訳ない。お前の趣味を否定する積りやないんやけどな。そこまで言う必要なかったか。何かその女子の悪口言ったみたいで自分でも後悔するわ。
・じゃあ今度は何を話すかというと自然に俺の方の意見について訊いてこられるわけよ。お前って誰が好きなん?何か女子と何かあったりした?
・う~ん、あったような無かったような、あったような気がするな。
・例えば誰が、誰が好きなん?
・う~ん然うやな、あの目のでかいアイツとかかな。俺な、俺もな、アイツはまあエエとは思うで。東野の方もそしてそれで納得する。ゴメンな何か在り来りな答えかも知れへんけど。
・ふ~ん。それで、告白したりとかせえへんの?
・何組の誰々が何時何時に誰々に告白して断られたらしいで。へぇそうなんや。そりゃ勇敢やな。華々しく散ったんか。俺らはどうやろうな。東野的には何かまさか実際告白するわけやないかも知れへんけど地味に葛藤してる部分もあるらしかった。子供ながらにな、初めて抱く知らない感覚の処理がわからへんところもあるしな。
・お前は、お前は告白したりとかせぇへんの?
・俺は、、、、俺はな、まあアイツに告白みたいなこと、、、した感じやけどな。
・え?あ然うなん?で、で、どうなったいうか、どうなったん?
・まあ、まあ、な。それはまあアレやったんやけど⤵⤵
・あ(お察し)、、、、、然うなん。然うやったんや、、、、知らんかった。
・そこから先は憶えてない。東野が同情するような申し訳ないような俯き加減で寄り添ってくれる感じで一緒にその後も歩いてくれたのは何となく憶えてる。
・申し訳ないんはこっちの方や。
・嘘ついた。二つの大きな大嘘をこいた。先ず自分から告白してない。そして駄目になんか、まだなってない。みんなの知らないところで付き合ってる。
・嘘ついた瞬間をめっちゃ何か憶えてるんですよね。すごい夕映え。田んぼと道路と世界すべてが焦がれた色でいっぱいになって秋口の風が通り過ぎてく。東野の顔が逆光気味でそんなに見えない。
・その瞬間に実はどっかで東野のことを気遣って居た。
・俺も全然、あの子なんて手の届かない存在やみたいな話にしてた方が良い。その方が東野との仲がうまくいきそう。やから嘘ついた。
・欲してたんや。その瞬間、俺は友を夢見てたんや。何か感じた。うまれて初めて本当の友達が何かできそうな気がしてました。お互い尊重し合いながら常に心地よく話し合える。東野とは何か知らんけど将来もずっと斯ういう関係で居られるような気が無性にしてきたんや。お互いのことよく知らへん。でもその時その場で絶対に然う思ったんや。
・それやのに然う言いつつも、大事なところであまりに大きな嘘をついた。
・あれ。これって友達なのか?ほんとにそんなに良い事なのか。
・わからない。友達ってどんなんやろう。でも確実にあの時はそれまで見聞きしたこともない温かみを心強さをぜったい感じた。わからない。あの日の奇蹟が今日この日には一体どこにいっちゃったのか、どこさがしても分からない。

・季節に釣られて運命も引き摺り込まれていく。気温が下がるごとに俺から見える世界そのものも下へ下へずり落ちていった。何かが終る。知らない闇が近づいてる。何かわからないけど不穏な気持ちで過ごして居た日、放課後にあの子が初めて俺の家にやって来る。
・やはり何をするのか、わからない。そもそも家に来るなんて、こっちの妄想ではああいう事をやる為に以外は考えられないのにまだ然ういう段階じゃない。となると話でもしとくのか?わざわざ家の中で?二人ともそこんところが全くわからない。
・滑稽なことに、何時しかゲームしてる俺をその子が見守るっていう構図になる。やる事なさ過ぎる。これで良いのか。只ゲームをして只それを観られてる。
・そして球蹴りのゲームだった。そこでは自分がつくった選手を使ってたりしたけども。
・その中にレンって名前のつく選手が居たんですよね。
・レンって名前カッコいいとか思ったから何人か然ういう選手つくってた。はい。名前としてカッコいいと思ったのでね。レン?へえ好きなの?うんまあカッコいいと思ったんでね。
・たぶんすぐその後ゲームもやめた。意味ないもんな。話すしかないのか。俺の寝てる高床のベッドに侵入されて登られて何となくケータイを弄りながらに、何となく質問してくるんよ。
・あたしのどんなところが好き?何もおかしい質問じゃない。
・たったそれだけの当然の質問に恐ろしいくらい劇震が走った。え。好きなところ?何が好きなんだろう。ていうか、好きって何なんやろ。自分でもわかってたことがジワジワ滲み出て込み上げてくるやん。別に好きとか嫌いとか無い。
・只ヤリタイだけ。それだけのこと。好きかどうかはどーでも良い。だからわからない。でもそれを正直に言えない以上は何か言うしかない。急遽その子にきっと初めてオモイを巡らした。でも何も知らない。何かないものか。でも回答の間が迫ってる。もう普通のことでも良いから何か言うしかないんじゃないの。
・や。や。や。ヤ☆サ☆シ☆イ☆ト☆コ☆ロ☆☆☆☆☆。。。。。。
・思った。碌でもない。当の自分もすごい思った。何だそれは。それしかないのか。やって、それしかないんやもん!好きなとこって一体何なのか。どうしても聞きたいのか。その子は苦笑いしながらもっと次の答えを待ち侘びて居る。まあ然うですよね。他に何かありますかね。目がでかくて可愛いってことぐらいしか分からない。
・目がでかい。それだ。要約するとその、ええっとその。
・かかかかかかか、kわいいってことですかね。うんk、kわぃぃ、、、ところ。。。。
・聴こえない。ええ然うですよね。自分でも聴こえなかった。何て言ってんの。聴こえない。もっとはっきり言え。何て?!聴こえない。ねえ何て?何で?何してんの。何してんでしょうね。ゴメン。かわいいって言ってる自分が気持ち悪くて慣れないんで。然ういう言い訳。徐々に虚しい。何でそんなことも言えないんだろう。

・小6が小学校生活が終末へ向かう頃。ああ、思い出したくない。たちこめてる。闇に隠されて取り出せない。漸く見えてくるのは光じゃなくて闇の中でも特にドス黒い事件や出来事。あの子とずっとケータイとケータイでワケのわからない長文の応酬をした。ほんとに全く内容なんて憶えてない。一体どの俺があんな長文をほざいて居たのか。何を思って善くもそんな長々と抗えたんだろうか。
・もしかして学年末の1月2月は殆ど学校にも行かなかったのかも知れない。だってそれからの記憶といえばもう、玄関先で別れを告げられた青白い冷たい冬の想い出しかない。
・形だけ泣いた。でもちっとも心の底から何も湧いてこない。まあ斯うなるっしょ。妙に冷めてる。今とんでもなくツライとこに居るんちゃうの?まあ然うでしょう。でもね、わかるんですよ。小学生なりの上辺だけの喜怒哀楽でしょ?今だけのものですよ。大した事には思ってなかった。もっと深刻になれよ。いや、そこまで深刻に思うことなんてないんよね。
・何か知らんけど、大丈夫や。然うしてやけに達観した。するだけして居た。燃えよ少年。もっと燃えるんや。何で燃えない。お前このままだと、その闇の中に巻き込まれるぞ。

・卒業式に出たのかどうかも日によって出たと思ったり出てないと思ったりすることがある。まあ最終的に出席してた記憶がよみがえった。たぶんボサボサだった。みんな疑わしい目で壇上に書を受け取る少年を見て誰も決して近づかなかった。
・あの子は一体どうしてたのか。東野はどうしてたのか。それどころじゃない。早く帰りたい。もう学校が慣れない場所になってしまった。何も見届けず一目散にその場を立ち去る。
・泣いてる子が居た。それなりに居た。ああもしかして中学は違う。お別れになる。友達同士でみんな泣き合う。女子たちが泣く。男子は知らない。俺も知らない。その時は何も思わなかった少年もまた、しかし後で知ることになる。東野は中学校に居なかった。
・実はあの夕映えの日の後も学校で話を交すときは何時もイイ距離感を味わえて居た。友とはきっと斯ういう事なのかなんて嘘でも思えてた気がしたのに音もなく何処か知らないところへ一生いなくなってしまう。

・然う。中学校も最初の数日だけは登校してた。
・手足が長いからということで部活の勧誘がしつこかったので全部テキトーに断って只ずっとウザい。断っただけなのに顰め面される。何かみんな急に中学生になろうとして、社会の人間になろうとしてる。ていうか制服を着なけりゃならない。知らない子も居る。ひとりひとりが制服色のより濃い影でそこに居る。知らない先生。知らない教室。校則に無いボサボサの髪で無理矢理にでもそこに居る自分。居させられる自分。
・そんな張り詰めてボケボケした時間の狭間に、勢いよくあの子が現る。
・頗る笑顔や。大層笑顔や。別の教室からわざわざやって来て黒板前の俺が座ってる席の机に両腕をついた。制服着てる。まだ見慣れない。でもその子やった。笑顔の口がハキハキ何か楽しそうに問い掛けるんや。
・ワカスギ!ねえワカスギ!おはよう。ね!
・どうでしょうか。傍から見てれば別に俺も動じて居ない。ただ心のどこかが胸の筋がピキッと痛い。痛かった。ああ終ったのか。世界がいつしか完全に終って居た。今更になってやっと事の世界の深刻さを思い知っては、なす術もない。
・無視した。逸らした。顔を逸らした。何も言わない。目も細めない。
・誰かさんの顔色が変わる。見る見る悪くなる。だからどうした。俺は知らない。
・二筋の鉄鎚が下る。稲妻が走る。でも机にだった。頬じゃなかった。両腕が強く強く木肌を叩いてそのままどこかへ去ってしまった。廊下の方へ去ってしまった。嵐は去った。これで良いとか良くないとかいう次元ではない。嵐が訪れ軈て去りゆく。みんな見て居る。事情を知らない。今日から知ってる。二人の間に何かがあった。だからどうした。何も知らない。知る由もない。知らなくて良い。思い返さない。これで終りだ。

・その後はもう家の中でどんどん腐っていく自分しか思い出せない。数日でもう中学には行かなくなった。はあ。何だろう。何で行かないんだろう。わからない。ゲームもしない。テレビばっかり。太陽にお目にかかれもしない。同じ服着て昼に起きて朝まで寝ない。深夜の誰も観てないような音楽とか舞台とかの情報番組を無心で見つめてこれ以上なく寂しくもなる。どこへ行くんだろう。どこへ行こうともして居ない。生き物としての覇気を失う。
・玄関前に時々出てみた。通路の柵に前かがみになり1階のとこの自転車置き場や階段の方をひたすら眺める。
・どこかでちょっと願望があった。あの子が現れたりしないかな。
・それなのに、いざ本当にある日に中学から帰ってきたあの子が自転車置き場のとこから制服姿で4階の柵に項垂れるボサボサの俺に笑顔で何か語り掛けてくれたあの時あの瞬間に、、、、何も反応しなかった。
・一回この目でその姿を見下ろして見た。確かにあの子だった。明らかに思ってもない希望のような夢みたいな瞬間だったんじゃないのか。
・何でまた両腕の中に顔を隠してしまったのか。何で何も、何で何も言わなかったのか。暫くしてまた顔を上げたらもうその子は居なかった。
・思い出すほど思い出したくない。たった数秒が人生を決めてるように見える。でもその後ろには十二年間生きてきて然ういう人間に育った俺っていう人間が居た。ああなる以外はあり得なかった。それが悲しい。いつも、悲しい。

・それから数ヶ月くらい経った時、母がその子のお母さんから聞いた話をして居た。俺が今どうなってるか凄い心配して気にしてくれてるとか何とかの話。然うなのか。もう何も思ってないと思ってた。ああ然うなのか。でも学校には行かなかった。



・中3のとき。4月頃からずっと登校して挙句の果てにストーカーとして名を馳せて居た少年は9月に入るといっそのこと投げ遣りになって周りの遠ざかっていく男子たちを敢て強引に引っ張ろうとしたり問い質したりしてニコニコ狂気じみて居た。当時ニュースで政治家が女性は子供産む機械だなんていう発言をして大騒ぎになってたのでその発言も強ち間違いじゃないなんていう暴言を吐いて居た。
・もうこんなとことはサヨナラする。その気概で人込みの廊下に真っすぐ立ってふと、向こう側をなぜか遠く眺めたんや。
・するとあの子が、2年分成長しても面影しかないあの子がスカートの腰にシャツも入れないで立ってこっちを見て居た。
・ストーカー。ストーカーと目が合った。文字に起こすと只それだけのこと。数秒間じっとお互い放心しながら目と目を見合った。間もなく俯き気味に目を逸らされて、すぐに周りの女子が気遣うようにその子の背中をさすりながらに後ろに向かせその場を去らせる。女子たちがこっちを気持ち悪そうに遠目に見てくる。
・あの子の中でもう俺は落ちぶれたストーカーに過ぎない。最後に見た俺はストーカーだった。それが俺を見た最後だった。嘘みたいに傷ついたので全然特に傷ついてないことにした方がいい。そんなに事は重大じゃない。重大じゃない。重大じゃない。もうどうでもいい。どうにでもなれ。俺もみんなも。



・16歳くらいのときに何故か外を白昼うろつき回ってマンション前の青信号を待って居たら、その子の部屋のベランダで知らない男が中の誰かと談笑して話し掛けながら外を見て居た。その男と目が合ってしまう。反応からして俺のことを知ってるような然うでないような感じだったけど恐らくは弟ではない。だからどうっていうでもなくて只々その光景は憶えてる。



・20歳になっても特に何もせずまた玄関前の通路の柵に身を任せてたこともあった。その内の何気ない日に3階のどこかから深い茶髪の人が階段をおりていったのを見た事がある。ああ何も思わない。何か思うところがある程の強度のある想い出じゃない。人も社会も進んでくんだ。俺はずっとここに居た。そりゃあ然うなる。それが最後だ。そこにはもう、今は別の人が住んで居る。

高学年の時のこと

高学年の時のこと

  • 自由詩
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-14

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