しろいたおる

 あおしまくんは全然やさしい人じゃない。

 あおしま、というのは下の名前だ。名字は水田さん。水田あおしま。一度「あおくん」と呼んだらたたかれた。俺をあだなで呼ぶのはゆるさないというのが、彼の絶対的こだわりだ。
 ファミレスで野乃子に言われた。
「どこがいいの」
 どこがいいんだろう?と聞き返したら野乃子はふてくされた。
「たおちゃんはそいつにセンノーされてる」
 せんのう。こわい言葉だ。
「でもわたしはののちゃんのことも好きだよ」
 そう言ったらますますふてくされた。
「パフェおごりなさいよ」
 静かにいかる野乃子は抹茶パフェを注文した。
 いざ来てみると意外とりっぱなパフェを前にして、すでに海鮮丼とお味噌汁を平らげていた野乃子は、死にそうな顔でただのろのろとスプーンを口に運び続けていた。おなかいっぱいなら頼まなきゃいいのに。どろどろに溶けた緑色のあいすを、野乃子はカクテルみたいにくいっと飲み干した。

 野乃子は勝手に借りてきた直生くん(野乃子の弟)の大きいバイクで帰っていった。ごめんね、ののちゃん。私はののちゃんが好きだよ。

 なんでわたしに告白したの?ってあおしまくんに聞いたら、「友達いなそうだから」って言われたことを思い出した。友達いなかったら、うわきもしないだろうって。顔がかわいいとか、スタイルがいいとか、髪がきれいとか、性格がいいとかそんなことより、うわきの可能性が限りなく低いというのが、彼にとっては最重要事項なのだ。野乃子のことを知ったらおこるだろう。泣くかもしれない。たぶん女の子でも関係ない。ごめんね、あおしまくん。私はあおしまくんが好きだよ。

 あおしまくんの名前を呼びながらきすしてたらなんかおもしろくなってきた。
「あおしま、ってへんな名前」
 そう言ったら、「おまえのはもっとふざけてる」って言われた。私もそう思う。

しろいたおる

しろいたおる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-07-21

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