zokuダチ エスカレート編・8
復讐のゲス・4
「チビ……、何でお前……」
「ぴいっ!チビも皆と一緒に行くよお、仲間外れは嫌きゅぴ!」
「でも……、チビちゃん……」
「アイシャ、ドラゴン谷に黒子さんが来たんだよお、
だからお話はみんな知ってる、大丈夫!……皆が
ルーゼとゲスにまた酷い事された事もね……」
「えええ……?」
「なんだと?黒子の奴がか?ドラゴン谷に……?」
「うん、お話が終わったらすぐに消えちゃったけど……」
前から得体の知れない奴とは思っていたが……、
黒子の正体は一体何なんだと、ジャミルは
悩みだすが、今はそれ処ではないので、又
頭を切り替えた。
「この島に危機が訪れているとな、お前達に力を
貸してやって欲しいとも言われた、だが、我ら
大人ドラゴンはそう簡単にひょいひょいと人間に
力を貸すわけにいかん、なので、又チビスケを
派遣しに来たのだ……」
「チビなら大丈夫、皆のお手伝いするー!きゅっぴ!!」
チビは尻尾をパタパタ振りながら、皆の側を飛んで回り
お愛想を振りまいた。
「……そりゃ、お前が来てくれれば心強いよ、だけど……」
さっきもアイシャに言った事で、ジャミルは
どうしても今回だけはチビを同行させるのに
抵抗があった……。
「だから大丈夫なのー!これ、黒子さんが置いて
行った、すごい清涼剤、粒タイプだって!これを
皆に飲ませたらどんなに洗脳されててもすぐ元に
戻るんだって言ってたよ!」
「何っ……!?」
「!!!」
チビの言葉にジャミルを始め、皆が一斉にチビの方を見た。
「ほ、本当に……、そのお薬で……、皆が元に戻るの……?」
「モフ~……」
みらいが震えながらモフルンを抱きしめ、チビに問う。
「ほんときゅぴ!」
「良かったな、みらい!……俺もどうにかエレンに
殴られずに済みそうかな、ホッ……」
「はい、ユリアンさん!……どうしよう……、
……何だかまた涙が出て来ちゃった、あれ、
おかしいな、また、大好きなリコやはーちゃんに
会えると思ったら……、うっく……」
「みらい、……嬉しい時もいっぱい泣いていいモフ……、
……モフーっ!」
「……モフルンっ!!」
「……これでシフも皆も元に戻せるんだね……、
チビ、有難う……」
「アル、お薬をお届けしてくれたのは黒子さんだから、
チビじゃないよお、だから、皆も今度黒子さんに会ったら、
ちゃんとありがとうって言ってね!」
「流石に今回は糞……、いや、黒子に感謝しねえとな、
……何か抵抗あるけど、仕方ねえ……」
一体どっからそんな薬を持ってきたのか、ジャミルは
又黒子に突っ込みたくなる感情を抑えて理性を保った。
「良かった、良かったね、……みらいちゃん……、
本当に良かった……、まゆちゃんとユキちゃんも
きっと元に戻るわ、いろはちゃん達も喜ぶね!」
「はい、アイシャさん……」
アイシャとみらいも抱き合って一緒に涙を流した。
「……よがった、よがったよおお~……、ぢびぢゃん……」
「ダウ、お顔汚い、……ちゃんと拭いて!」
「……ぢいい~ん……」
「くうう~っ、やっぱ、女の子の綺麗な涙って
いいなあ~、たまんねえぜ!!」
「……オ、オイラのがおはどうぜぎたない
でずよおお~……」
「おいおい……」
呆れながらティッシュを出し、ジタンがダウドの
顔を拭いてやる。
「ヘッ、なーんかオレまで泣けてきちまったぜ、畜生……!
……待ってろよ、マリカ、ジェイル、リウ!!」
皆に見られない様、横を向いてシグも手の甲で鼻を擦り、
絶対に皆を助けるんだと改めて気持ちを引き締めた。
「……もしも、グレミオも洗脳されているのなら……、
一体何処に……、グレミオ……」
「ティル、オレも分かるぜ、その気持ち……、大切な人と
離れ離れって辛いよな……」
「ジタン……、うん……」
「ティルさん、グレミオさんはきっと大丈夫ですよ!
ジタンさんも、元気出して下さいっ!」
「みらい……、ああ!」
「うん、有り難う、みらい……」
「う~ん、でも、問題はその薬をどうやって皆に
飲ませるかなんだけど……」
「そ、そうか……、だなあ……」
マモルのぼそっと呟いた言葉に、暫く花畑状態だった
皆は一斉に現実問題に戻る……。
「そ、そうだよね、ブ、ブロリーとか……、サイヤ人とか
か。考えただけで、オイラ、もう……」
「とにかく、皆を元に戻せる方法は確保出来たんだ、
此処で立ち止まっててもしょうがねえだろ!やって
みなけりゃ分かんねえだろ!!」
「俺も珍しく、こいつ(シグ)の意見に賛成だ、
とにかく前に進まねえと!方法は幾らでも
ある筈だ、考えたって仕方ねえ……」
「わ、私もっ、出来る事はお手伝いしますっ!
頑張りますっ!!」
「モフルンもモフっ!!」
希望を持つ事が出来、すっかりいつも通り
元気になったみらいがモフルンと共に声を
張り上げた。
「エレン、トム、……もう少しの辛抱だからな!」
「よし、さあ行くぞ、皆!!殴り込みだあーっ!!」
「おっしゃあああーーーっ!!」
ジャミルの声に皆は拳を宙に突き上げ声を揃えた。
「……ナンダカンダ家とやらが有る街までは、
私が送ろう、皆乗るが良い……」
レッドドラゴンが背中を向けて皆に合図する。
「え……?マジで?……いいのかい?」
「ふむ、それぐらいは手伝ってやれる、だが、
そこから先はお前達人間の試練だ……」
「……た、助かるよ、本当に!!よし、皆、乗ろうぜ!!」
ジャミル達がレッドドラゴンの背中に乗ろうとした、その時。
「……キャィンッ!キャィンッ!」
「ばうーー!!」
「シロっ!!」
「ぶ、ぶる丸っ!」
此方に向かって走ってくる2匹のわんこ達。
マンションで待機組のメンバーと待っていて
くれている筈の2匹が何故此処にと……。
その場の誰しもがそそう思ったのだが。
「シロ……、オメー何してんだよっ!
黙って出て来たな、しんのすけ達が心配
するだろうが!」
「ぶる丸、お前も……、今回は危ないから
マンションで大人しく皆と待っていろとあれ程……、
……!?な、何だって……、ああ……」
「ど、どうしたんだよ……」
「ジャミル、大変かも知れない……」
ぶる丸の言葉が分かるマモルはジャミルの方を見た。
そして、ボソボソと、2匹がわざわざ此処まで来てくれた
真相を語り出す……。
「……何ですとおおおおーーーっ!?」
「し、しんちゃん達が……、ナンダ・カンダ家へ……!?」
「……ああ、黙ってこっそり、パーティルームに
何故か空いていた横穴からこっそりマンションを
抜けて来てしまったらしいんだ……、そして、
マンションの外に止まっていたらしい怪しい車に
乗ってお父さん達に会いに行くと……、知らない
相手と一緒にナンダカンダ家へ向かったらしい……」
「大変よっ!ジャミル、本当に急がないと……!
もうっ、これって誘拐じゃないのっ!」
「ああっ!けど、ったくっ、誰だよっ!穴なんか
開けた奴はよっ!冗談じゃねえぞっ!心配掛けてた
奴はお前の飼い主の方だったんだな、シロ、悪かった!」
「……クゥ~ン……」
「……」
アルベルトは騒いでいるジャミルとアイシャを
遠巻きに横目で見た。何となく、壁破壊の
共同者&犯人が近くにいる様な気がしないでも
なかったからだった。
「ハア、全く……、お前の相棒にも困ったモンだよな……、
苦労してんだなあ、シロもさ……」
「……ク、クゥゥ~ン……」
「……」
シグはそう言っているが、困ったモンは、
君も同じじゃないかなあと、アルベルトは
横目でシグを……。
「ん?何だよ、アルベルト」
「嫌、別に……」
「とにかく、此処で立ち止まっている訳には
いきませんよ、時間はどんどん押してますし、
シロ達もこのままにして置けないし、ジャミルさん、
シロとぶる丸も一緒に連れて行きましょう!」
「みらい……、そうだな、マモルもいいか?」
「……仕方が無い、ゆーなの事も心配だ、
ぶる丸、僕の側を離れるなよ……」
「ばうっ!」
「……んじゃ、もう一度……、行くぞ、レッドドラゴン、
今度こそ頼む!」
「任されよ!」
最初にジャミルがッドドラゴンの背中へ。後へ続き
仲間達も乗る。全員を乗せるとレッドドラゴンは
翼をはためかせ、夜空へと飛び立つ。目的地、いざ、
ナンダカンダ家へと。
「凄い、この島もドラゴンがいるなんて……、竜洞騎士団を
思い出すな……、フッチや皆、元気かな……」
「……」
「……あの、マモルさん?」
「え……、あ、……な、何!?」
さっきからボーっとしていて黙りこくっていた
マモルは、様子をみらいに心配された模様。
「は……、ご、ごめん、考え事してて……」
「もしかして、酔ったとか……、それとも
高い所が苦手……?」
「バーカ、何期待してんだよ、バカダウド!おめえじゃ
ねえんだよ!」
「何だよお!」
「……」
マモルは又騒ぎ出したおバカさん2人を気にせず、
又黙りこくり考え事を始めた。胸にある異変を感じ……、
違和感を感じたのである。
(……何だか凄く嫌な予感がする……、……ゆーなが危ない!!)
そして、マモルが感じた異変の通り、洗脳された皆が
ナンダ・カンダ家に向かうよりも早く……、領主の所に
再びルーゼの魔の手が伸びていた……。これはジャミル達が
まだマンションにいた時に起きてしまった出来事である。
「おっさ……、……お父様……、何?こんな遅くに
呼び出して、あたし、もう眠くって……」
「ケイ、お前に紹介したい相手がいるんだよ……」
「ん?だあれ?」
「……お前の新しいお母さんになる人だ……」
「ふ~ん……、って、えええええっ!?ちょ、
ちょっと待って!!」
ケイが声を上げるのと同時に、コンコンとドアを
ノックする音がした。
「あの、……入っても宜しいでしょうか……?」
「ああ、入りたまえ……」
「失礼します……」
ドアを静かに開けて、領主の部屋に静かに誰か
入ってくる。その人物とは……。
「紹介しよう、この方が今度、お前の新しいお母様になる……」
「紺若ゆうなです……、どうぞ宜しく……」
「……えええええーーっ!?だからっ、ちょっと
待てっての!!この人、ジャミル達が住んでる
マンションに一緒にいた子じゃん、しかもまだ、
あたしとそんなに歳変わらねえだろっ、又何考えてんだっ、
糞親父っ!!また悪い病気が出ちゃったのかよ!?」
領主の突然の宣言に、びっくりし、ケイは声を荒げる。
その口調は最初の時の乱暴な彼女の時の口調にすっかり
戻ってしまっていた……。
「あの、……バナナはお好きですか?」
「……は?」
「……ばなな、ばなな……、ばなな~……」
操られたままの虚ろな瞳でもボケる事をゆうなは
止めないのだった……。
「見なさい、ケイ、この方の天然ボケっぷり……、
私はこういう子が大好きだ、一目で気に入って
しまったのだよ、……長年の友人からの紹介でね……、
是非、我が妻に迎えたいのだ……」
「……ゆ、友人って、ちょっと……、何なの……」
又、何か大変な事に巻き込まれそうになっている事実を
ケイは冷や汗を搔きながら肌で感じた……。
「さあ、ケイ、悪ふざけはやめて、此方に来なさい、
お前のお母様に挨拶するんだよ、さあ…」
「……冗談じゃないよ、ふざけてんのはどっちだと
思ってんだよ……」
ケイは焦りながらも、領主の目が又、異常に虚ろで
おかしくなっている事に気が付き、部屋の入口の
ドアまでそろそろと後ろ向きに後ずさりした……。
コンコン……
再び誰かドアをノックする音がした。庭師であった。
「……じい?」
「お嬢様?いらっしゃるのですかな?いけませんぞ、
もうお休みの時間ですが……」
「!!じい、助けて!!親父が又何かおかしく
なっちまったよ!!それに、あたしを此処に
呼んだのは親父だよ!!」
「……なんですと?」
ケイの悲痛な叫び声に、庭師が慌ててドアを
開けると、其処には……。
「おお、じい、丁度良かった、お前にも紹介したいのだ……」
「……じいっ!!」
ケイは慌てて庭師の胸に飛び込む。唯事ではない雰囲気に
庭師も領主の方を見た。正面には以前、マリアーヌの件で
謝罪に出向いた時に、ちらっとマンションで見掛けた
ピンク色の髪の少女がいた……。
「……旦那様、これは一体どういう事なのですか?
それに、その方は……」
庭師は震えながら脅えて自分に抱き着いているケイを
落ち着かせる様に抱きしめる。……領主は平然としながら、
葉巻を銜えて淡々と喋り出す。
「ふむ、新しく我が妻になる方、ゆうな殿だ……」
「旦那様……」
「はじめまして……、ゆうなと申します……、
バナナが好きです……」
「……きちんと説明して下され、旦那様……、
これでは状況が全く分かりませぬ、それに、
お嬢様がとても脅えていらっしゃる……」
「……説明するも何も、私は新しい妻を娶ると
言っておるだけだが?他には何も説明しようが
ないであろうが……」
「な、なんと、旦那様、またあなたは……」
「……全く、相変わらず頑固な連中だこと、
人生損するわよ、素直に目の前の現実を
受け入れたらどうかしら……?」
「……ゲヘゲヘ、全くその通りだよ、爺さん、アンタ
長生き出来ねえぞ……」
「この声は……!」
「じい……」
……部屋に何処かで聞いた事のある様な声が響き渡る。
庭師にしがみ付くケイの手も一層震えだした……。
「はあい、久しぶりね、おじいさん、まだくたばって
なかったのね、ふふふ……」
「……ゲヘへ、ゲヘ……」
「……ルーゼ、ゲス!!お前達何故又此処に!!
……まさか、旦那様!!」
「……」
庭師は再び様子がおかしくなった領主、そして、
部屋に突然現れたゲスとルーゼの性悪コンビを
確認し、一目で状況を理解した。
「そう言うこっちゃ、爺、てめえにゃ何も出来ねえんだ、
大人しくこのまま俺達に従え、その方が身の為だぜ……」
「そう言う事よ、無駄な抵抗はしない方がいいわよ……」
「……誰が貴様らなどに屈するかっ!」
庭師はそう言うと、暖炉の横に積んであった薪を一本
掴んで両手で持つと、ケイを庇いながらルーゼ達に
向けて威嚇した。
「……おやおや、笑わせてくれんね!んなモンで俺達に
刃向かうつもりだぜ、このバカ爺はよ、……ッゲヘ、
ゲヘへへ!!お侍さんのつもりかよ!!」
「ホント面白いわね、死にぞこないの糞老人魂と
いう奴かしら?」
庭師は自分を小馬鹿にするゲスとルーゼを無視し、
こっそりとケイに耳打ちした。
「……お嬢様……、こんな夜中に……、まだ年端もいかない
あなた様を出歩かせるなどと、大変申し訳ありません、ですが、
もうこれしか方法がありません……」
「じい……?」
「……どうか、ジャミルさんがいるマンションへ
向かって下され、あの方ならきっと力を貸して
下さる筈です……」
「や、やだよ、じいを残してなんかあたし一人で
なんか逃げられない、やだよ……!」
「儂の事なら大丈夫です、なあに、簡単にはくたばったり
しませんて、じいを信じて下され、どうか、お願いします、
お嬢様……、この前だって大丈夫だったんですじゃ!」
ケイは又洗脳されてしまったらしき領主、自分を信じて
全てを託そうとしている庭師……、両者を交互に
見つめると、目を擦って頷いた。
「分ったよ、……あたし、マンションに行ってくる、
だから、それまで頑張って……、じい……」
「お嬢様、有難うございます……、ささ、行って下され、
頼みましたよ……!!」
「……っ、じいっ!!」
ケイは後ろを振り返らず、部屋の外に飛び出す。
悲しみを堪え。しかし……。
「ゲヘへ、何を企んでるんだい?爺さんよお、ゲヘへ……」
「あらあら、慌てちゃって、忙しいウンコじいさんねえ、
慌てなくたっていいのよ、だってもうすぐ、あの馬鹿ガキ
集団は此処にちゃあーんと来るんですもの……、大事な
お友達を取り戻しにね……」
「……何だと……?」
……きゃあああーーっ!!やだああーーっ!!
「お嬢様っ……!!しまったっ!!」
廊下でケイの悲鳴が聴こえ、庭師は慌てて部屋の外に
出ようとするが、ドアが再び開き、気絶している
ケイを抱えた大柄の男が部屋に姿を現した……。
「……捕獲したが、これでいいのか……?」
「ご苦労様、さあ、ポニーテールのイケメンさん、
後はこの爺を牢屋に閉じ込めておやり、しっかり
見張るのよ、いいわね……」
「お断りだ、……俺は見張りなどというくだらん
ものは趣味ではない、断る……」
「……フン、洗脳していても、己の中の絶対的意思が
相当強い頑固な奴みたいね、いいわ、茶髪ロングの
お嬢さん、傷男さん、あんた達は大丈夫ね……?」
「はい、ルーゼ様……」
「……この聖戦士ガラハド、仰せのままに……」
「……ほお、洗脳されてても、聖戦士かよ、こいつは
おもしれえや、ゲヘ、ゲヘ、ゲヘへへ!」
グレイの後に続いて部屋に現れたクローディアと
ガラハドが恭しくルーゼの前に跪いた。
「……お嬢さん、あなたも確か……、マンションに
住んでおられるジャミルさんのお仲間ではないの
ですかな……?……ルーゼ、貴様まさか……、
マンションの方達にまで手を出したのか……?」
「ご名答よ、今は殆どが皆仲間割れしている状態よ、
……洗脳した奴らも私達に力を貸してくれる為に
こちらに向かってる頃よ、面白いでしょう?……元、
味方同士で争うなんて、素敵でしょう、うふ、うふふふ……」
「ゲヘ、ゲヘ、ヌへ、ヌへ、へへへ……」
「……お願いです、お嬢様にはどうか酷い事は
せんで下され!!……どうか!!」
「知らんな……」
グレイは庭師の方を見ず、一言冷たく言い放った。
「うるさい爺ね!言われなくたって分かってるわよ!
この糞娘はちゃんと別に利用させて貰うんだから、
あの馬鹿ガキ共を振り回す為の立派な人質になって
貰うのよ、だから、あんたは安心して又牢屋に
入ってなさい、……さ、連れて行きなさい!!」
グレイがケイを抱えたまま部屋を出て行こうと
するのを見て、庭師は必死でグレイに訴えるが……。
「どうかおやめ下され!!……旦那様、どうか、どうか
目をお覚まし下さい!!……お嬢様が連れて行かれて
しまいます、……旦那様!!」
「……爺さん、さあ、あんたはこっちだ……」
「……旦那様ーーっ!!」
「……」
庭師の必死の訴えにも耳を貸さず、領主は部屋で
起きているすべてのやり取りを黙って突っ立って
眺めているのみであった……。庭師は洗脳された
ガラハドに連れられ、再び牢獄へ……。ケイも
人質としてグレイに連れて行かれ、それぞれ
引き離されてしまうのであった……。
「糞ガキ共、見てらっしゃいな、今度はそう簡単に
爺さんは取り返せなくてよ、……小娘も、勿論
アンタのお仲間達もね……」
そして、街からナンダカンダ家へと急いで向かう
ジャミル達……
「……ジャミル、ナンダカンダ家とやらまで後
どれぐらいなんだ……?」
走りながらユリアンがジャミルに訪ねる。
「ああ、このまま急げば……、30分ぐらいかな……」
「うええー!やっぱ遠いよお!!……ナンダカンダまで
送ってくれればいいのにいー!!」
「ダウ、レッドドラゴンさんに文句言わないの!
ぎゅっぴっぴっぴ!」
(そりゃ、チビちゃんはさ、空が飛べるからいいよお……、
ブツブツ……)
「……これも試練ですもの!頑張らなくっちゃ!!」
(……これだけ走ったら後4キロぐらい痩せられるかしら……)
「……なんか夜に走るなんて久しぶりだな、シトロ村に
いた頃のもさもさ退治みてえ!」
それぞれに好き勝手な事を呟きながら走る、ダウドと
アイシャとシグ、そゆうなが只管心配なのか、マモルは
無言のままである。
「……疲れた……、き、きつい……」
そして、トロイので……、問答無用で一番後ろに
なってしまうアルベルト……。悲しいかな、みらいの
方がアルベルトよりも前を走っていた……。ティルも
平然とスタコラ状態で走っている。ぶる丸とシロも、
「……ハア……、ハア……」
「みらい……、大丈夫モフ……?」
「……ジャミル、ちょっと待ってくれ、急がねえと
大変なのは分かってるけど、みらいは普通のか弱い
女の子だ、少しスピードを落としてやんないと……」
「ん?あ、ああ……、んじゃちょっと休憩するか……」
ジタンに促され、ジャミルが走るのを止めて立ち止まった。
「……だ、大丈夫です、ジタンさん、それよりも……、
私、一刻も早く、はーちゃんとリコに会いたいんです……」
「けどよ……」
ジタンが心配そうにみらいの顔を覗き込むと、
みらいは静かにジタンに向けて笑みを浮かべた。
「あの、私は……?普通のか弱い女の子……?」
「……」
アイシャがジタンの顔をじっと見ている。
「もちろん、心配なのはアイシャもだぜ!当たり前だろっ!
このジタンは、いつでも麗しのレディ達の味方だっ!」
「……も、もう、ジタンたら……、相変わらずなんだから……」
「……かーっ、歯の浮く様なくっせー台詞良く言うよ、
頭痛くなってきた……」
ジャミルは頭を抱え、キザたらしいジタンから
顔を背けるのであった。
……はたして、事態がますます酷くなる前に、
ジャミル達は無事にナンダカンダ家まで辿り着き、
仲間を救う事が出来るのか……。
「うふ~ん、やっぱり……、アイシャおねいさんの
おむね……、かたくてまったいら……、あふ~ん……」
「えっ!……きゃ、きゃあーっ!……!?」
「し……、しんのすけええーーっ!!オメーなああああっ!!」
「し、しんちゃんっ!!」
またまた突然の事態。……マンションから脱走、
行方不明のしんのすけが何故かアイシャの背中に
ぴったりと張り付いてパイタッチしていたのである……。
「おー、ひさー!」
「たいやー!(よー!)」
「ボオ」
「……あ、あれ……?ひまわり……?」
「……お、お前らいつの間にっ!!」
ついでに、ボーちゃんもしっかり張り付いていた。
ちなみにひまわりはティルの方に……。
「いやー、すげえなあ、……オレ、全然気が付かなかったよ、
スゲエなお前ら……」
「俺もだ……、これはまいったな……」
「将来、これはお前も逞しいレディになれるな、
な?ひまわり……」
「……にへえ~、にへへへへ……」
シグ、ユリアン、ジタンの男3人衆に褒められ?ひまわりが
ニタっと口の端を曲げた。
「きゃー!……しんちゃん、止めてーーっ!あ、……あはあーーん!」
しんのすけに胸をもまれ、アイシャはパニックになり掛けていた。
「あはあーん!?……う、うわ!これはっと!……やべええーーっ!!」
「ジタンさんっ!?スケベチェック、入れますからねっ!
立ってますけどっ!……おっし、これもダガーさんに報告っと!」
「……じょ、冗談だって!みらい、何か急に一皮剥けたなあ!!」
「ええ!夏休みの間は海で沢山遊びましたから!
日に焼けたんですっ!」
ジタンのスケベチェックをしっかり記入するみらい。
異様に機嫌が悪い。
「ねえーん、みらいおねいさーん、アイシャおねいさーん、
オラをいいこいいこしてえーん……」
「……はああ~……、えーっと、これはどう対応したら
いいのかしら、ね、みらいちゃん……」
「わ、私には、何とも……、アハハ……」
「モフ……」
アイシャとみらいが顔を見合わせて苦笑いする中……。
「……いいこいいこなんか出来るかああーーっ!!」
〔特大げんこつ〕
取りあえず、しんのすけの頭部に、お怒りジャミルの
ゲンコが飛んで来たのである。しんのすけ達をやっとこ
アイシャ達から引きずり降ろした……。メンバー達は
大混乱に陥り、ナンダカンダ家までのランニングを
一時停止する羽目に。
「はあ、まいったな、こ、この……、馬鹿ガキっ!!
もう一回頭出せっつ!」
「ジャミル、暴力は駄目よっ!ねえ、しんちゃん、ちゃんと
お話ししてくれる?どうしてマンションを出て来ちゃったの、
ちゃんといい子で待ってるって約束してくれたじゃないの、
私……、約束破る子は嫌いだな……」
……いつもは子供達に甘いアイシャも、流石のこの状況には
しんのすけ達を厳しく注意する他はなかった……。
「……アイシャおねいさん……、オ、オラ達、顔の長い
おじさん達に此処まで連れて来て貰って、此処で捨てられたの、
もうすぐみんな来るからここにいなって、おじさん達の事、
男と男の約束だから……、言えないゾ……」
「おい……、だから、それじゃまるっきり誘拐じゃねえか!
お前らを此処まで連れて来た奴は一体誰なんだよっ、しかも
顔の長いおじさんて何だっ!ちゃんと言え、……言わねえと……、
またげんこつが飛ぶぞ!」
「……だからっ!駄目よっ、ジャミルはっ!!」
「お、お仕置きされても、どうしても言わないっ!!
オラ達がおじさん達に頼んだんだもん、ナンダカンダ家まで
連れてってって、、それにオラだって……、大好きな……
父ちゃんと母ちゃんが心配なんだゾ!!……ひまだって
悲しいの我慢してる……」
「……う、びええええーーッ!!」
「ボ、ひま、ちゃん、泣かない……、で……」
「……そうだね、しんちゃん達もお父さんとお母さんの
事が心配だったのよ、じっとしていられなかったのよ、ね?
気になるだろうけど、今は色々と問い詰めるのはよしましょ……、
私も怒ってごめんね、でも、皆無事で本当に良かった……」
「……アイシャおねいさん……、うう~……」
アイシャは今にも泣きそうな顔のしんのすけを
優しくぎゅっと抱きしめた。
「だからってなあ~、お前らはガキの癖にやる事が
急で過激すぎんだよ、……この前の時もそうだった
けどさあ~、あーあ、残ってる連中、困ってるだろうな、
こいつらがいきなり消えちまって……、おい、……シロと
ぶるに感謝しろよ、こいつらがオメー達の事、知らせに
来てくれたんだかららよ……」
「ばうばう!はっ、はっ!」
「アンっ!」
「おお、シロも来てくれたんだ、……だってえ~ん、
オラ、嵐を呼ぶお子様ですもの~!」
「やいやいー!(芸能人の方を呼べよー!)」
「ボオ」
ガキ共、まるで反省の色なし。その様子にジャミルは
顔に血管を浮かべたが、アルベルトに脇を突かれ、
何とか冷静を保つ。
「分ったよ、その代りちゃんと言う事聞けよ……」
遂にジャミル折れる。考えても何してもこのまま
連れていくしかないからである。
「おおー!ジャミルお兄さん、太っ腹ー!でも
おちんちんはちいさ~い!」
「……だから、あそこが小せーのは余計なんだっつーの!」
〔げんこつ〕
こうして、又、しんのすけの頭にゲンコが飛んで来たのだった。
「……」
「アイシャ、どうかしたか?」
「別に……、そうね、太っ腹……、ね……、懐が
大きいって意味よね……」
太っ腹……、の言葉を異様に彼女は気にしている様に
ジャミルには見えた。
「こうなっちまった以上仕方ねえ、今から連れて
帰す訳にもいかねえし、このままこいつら連れて
行くしかねえ、ナンダカンダまでもう少しの筈だ、
急ごうぜ!おい、ダウド、どさくさに紛れて
寝てんじゃねえよ、おめえはよ!!」
「……ん~あ~……」
「……アルも大丈夫ぴ?お顔真っ青だよお……」
「うん、チビ、取りあえず大丈夫だよ、でも、
急いで走ったから、ちょっと脇腹が……」
「一刻も早く急いで貰えると有難いんだけど……」
マモルはさっきからよほどゆうなが心配で仕方がないのか、
もうずっと沈黙を守ったまま、しかめ面でこの状態であった。
「悪かったな、さ、急ごうぜ!」
困った事態で一時、ランニングを止められてしまったものの、
一行は再びナンダカンダ目指して、土手を走り出した。
しかし、しんのすけもひまわりもボーちゃんも眠くなり、
やっぱりもう帰りたいとぐずり出した為、結局は
野郎共が背負って走る事態に……。
「マジでもう、こいつらを此処まで連れてきた奴、
ブン殴りてえ……」
しんのすけを負ぶっているジャミルは顔を引き攣らせた。
ひまわりはやはりティルが担当。……実に幸せそうな
表情を浮かべ、眠っている……。
「すやああ~……、にへええ~……」
(……思い出すな、僕も小さい時、グレミオにいつも
こうして負ぶって貰ってたっけ……)
「あの、オイラ……、ずっとこのままですか?」
ダウドの背中には、ボーちゃんと、……頭の上には
シロとぶる丸が……。
「頑張れよっ!いい特訓になるぞっ!」
「……うう~!シグめええ~!人のコトだと思ってええーー!!
化けて出てやるううーー!!」
「おいおい、まだ死んでないだろ……」
「緑バカもうるさいんだよおおーー!!」
「……アイシャも疲れてるだろ、……オレが負ぶってやろうか?」
「ジ、ジタン、大丈夫よ、ん~?ジャミル、あそこに……」
「何だと……?……あ!!」
アイシャの言葉にジャミルが正面を見ると、何だか
見た事のある顔ぶれが3人、突っ立っていた。
「此処から先は通しまへんで……」
「……大人しくしていて貰います……」
「おれっちに勝てると思ってんのか!?」
洗脳者の刺客がさっそく邪魔をしに現われる。近藤、
イガラシ、丸井の不良3人衆である。しかし、大元は
戦闘経験のない一般人の為、どうにもサマになっておらず。
「はあ、何がなんだか……、おい、そこの三角
おむすび頭野郎……、お前の先輩の谷口さんが
大変心配しているぞ……」
「……た、谷口……、さん……?」
バカおむすび山、早くも谷口の言葉で精神を
掻き乱され頭を抱え始めた。
「そうだ!……谷口さあーん、谷口さあーん、
……谷口さあああーん!!お前の大好きなあああ……!
谷口が泣いている!!」
どっから持ってきたのかジャミルはメガホンを
取り出し、丸井に向け精神音波攻撃をおっぱじめた。
恐らくこのメンツの中では一番厄介な丸井を単純に
ダウンさせる作戦である。
「……ああああっ!!谷口さああーんっ!!」
「丸井さんっ!奴らに騙されては駄目ですよ!!」
「そうやがな!谷口はんちゃうで、あれは山口はん
言うとるのやで!!」
「君達、少し寝ててくれるかな……」
「っぐえっ!!」
「……うぎゃあああーーっ!!」
アルベルトのスリッパ連打、2人ともその場に
あっさりと倒れた……。ちなみに、威力は若干
セーブはしている……。
「……今ですっ、えいっ!!」
「お薬よ!皆、正気に戻って!!」
「モフー!!」
みらい、アイシャ、モフルンが倒れているイガラシと
近藤、そして、油断し錯乱している丸井の口に素早く
清涼剤をほおり込んだ。
「うーん、取りあえずはこいつらが最初の実験体だな、
これで薬が効いてくれりゃ……」
「ジャミル、黒子さんを信じましょう……」
「絶対大丈夫だよお!」
ジャミル、アイシャ、チビが丸井達の顔を覗き込み、
他のメンバーも心配そうに側に近寄り状況を見守った。
「う~ん……、あれれ?ワイ、こんなとこで
何しとんねんやろ?それに、此処どこやねん……」
「……えーと、状況が理解出来ないんスが……」
「……やいジャミルっ!!まーたテメエの仕業だなっ!?
冗談じゃねえぞ、何しやがった!!」
「おーい、冗談じゃねえのはこっちだ、このムスビ野郎めっ!!
お前らは洗脳されて操られて此処まで勝手に来たんだよ!!」
……どうやら、黒子がチビに渡した清涼剤の効き目は
効果抜群であり、3人ともすぐに正気に戻り、丸井は
早速ジャミルに暴言を垂れる。
「とにかく、一旦マンションに戻っててくれよ、
こっからじゃ大変だけどな、俺の部屋に残りの
メンバーが皆で集まってるから、詳しい話を聞いてくれ……、
……谷口が心配してたぞ、特に丸井、おま……、ゴホン……」
「……何だとっ、こうしちゃいられねえ!!谷口さん、
今戻りますよっ!!オラ、お前らも行くぞ!!」
「……はあ、何なんだ、やれやれ……」
「何処だか知らへんけど、今時分走って帰るとか
鬼やあああ!!何がどうなっとるんや!!」
「あ、おい、イガラシ……」
「何スか……?」
ジャミルはイガラシを呼び寄せ、しんのすけ達は無事に
見付かったと、マンションに残っているメンバーに
話してくれる様に頼む。奴らが急にいなくなって責任を感じて
心配しているだろうから。
「分りました、……一応伝えておきます、じゃあ……」
お騒がせ不良3人衆はどうにかマンションに送り返す
事が出来、取りあえず全員安堵の溜息をついた。
「……やれやれ一組片付いたな、ガキ共の事も
取りあえず落ち着いたとして、あいつらはまだ
ゆるかったから良かったようなものの……、これから
ステージが上がってくんだろうな……」
「いろはちゃん達を襲ったのはバーバラとホークらしいからね……、
僕もこれからの事は覚悟してる……」
「アル、大丈夫よ、あんまり思いつめないで……」
「うん、分かってる、アイシャ、……有難う……」
「……俺もラグナのアホ野郎にマシンガンモロに撃たれたしな、
マジで死ぬかと思ったぜ……、たく……」
「でも、ちゃんと薬の効力もある事も分ったんだ、
何とかなるさ!!」
「そうだぜ、ヘッ、やってみなくちゃな!!結果は分かんねえよ!!」
「ですね、ユリアンさん、シグ君!!」
「モフー!!」
「ああ!」
……しかし、ユリアンはみらいを励ます為、口ではそう言ったが、
実際に自分の目の前で襲い掛かってくるエレンを想像すると
やっぱり何となく怖くなった……。ユリアンがエレンに
殴られているのは毎度の事なのだが……。
「……それにしても……、ダガー……、君は一体何処に
行ってしまったんだよ……、元の世界にいた時も、確か
こんな事あったよな……」
「ジタン、大丈夫だよ、君の大切な人は必ず見つかる、
絶対に……、信じよう……」
「ああ、さっきも言ったろ?信じなくちゃ……」
……未だ行方の分からないダガーの消息に肩を落とし
掛けたジタンをマモルとティルが励ました。さっきの
野球馬鹿達がきちんと元に戻ったのを確認し、それまで
不安で無口であったマモルも漸く安心した様子であった。
「マモル……、ティル、そうだな、ゆうなもグレミオも
きっと無事だ、元気だそうぜ!!」
「……ああ!」
「うん……」
「よしっ、んじゃあ、またひとっ走りするぞ!アイシャも
アルも大丈夫だな?」
「平気よっ!!」
「な、何とか頑張らなくちゃね……」
「んー、ねたいよおー……、お布団が恋しいなあ……」
「……ぎゅっぴ!!ダウ、寝ちゃ駄目だよおっ!!」
「いだだ……、チビちゃん……、爪で頭叩くの止めて……、
……アダ、アダダダダ!!いたいってばあ!!」
「相変わらずヘタレはヘタレだな、んじゃま、ランニング
再開行きますか!」
チビに起こされ、ダウドも漸くしぶしぶと目を覚まし、再び全員
ナンダカンダ家までの道を走り出した。そして、それをこっそりと
見つめる影の薄い変な2人組がいた事にジャミル達はまだ
気が付いていなかったのである。
「……また我らを忘れている、これは誠に許せない
事態ですな、ドナルド君……」
「本当だよ、いつもいつも……、いい加減にして
貰いたいね、ガーネル君!!はははっ!!」
……こいつらの存在をうっかり忘れていた所為で、ジャミル達は更に
厄介な足止めを又喰らう事になるのである……。
zokuダチ エスカレート編・8