晩夏
晩夏の夕雲を見てあなたがおもうのは、過去だろうか、未来だろうか。あるいは遠くに住む家族、別れた恋人、先に死んでしまった子どもだろうか。わたしの場合は、自分の奥底を流れる砂の川だ。遥か昔を生きた人から別れ、合わさり、何人もの心を経てわたしに至った砂が、少しずつ、少しずつ、流れ去っていく。わたしが幸せであろうが不幸せであろうが、流れが留まることはない。その冷たさは、ある意味で美と言えるほどだ。わたしをこの世にあらしめているもののすべてが過ぎ去ったとしても、そのときに悲しむまい。わたしも砂の流れに混ざり、誰かの心の底でひっそりと動く。時にかすかな光を放ち、その人に夕雲を見あげさせる。
晩夏