【第15話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。

そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。

横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。


だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。

【第15話 遺跡の精霊使い④】

「―――ちょっと・・・・にわかには信じられない話ね」

アメリアが小さく呟いた。
その言葉には微かに戸惑いが滲んでいた。

俺は、今まで自分の身に起きた事、ゴブリンたちを屠った能力の事を
全て彼女に正直に打ち明けた。
彼女の反応は予想していた通りではあったが、それでも胸の奥がずしりと重くなるのを感じる。


――当然の反応だ。
そもそも人間が生き返る事自体が常識外れなのだから。
しかもそれが俺の場合――ゴブリンたちの亡骸を吸収し
その生命力の残滓を取り込むという奇怪な能力が備わっていたのだ。


だが・・・アメリアの目に宿るのは拒絶ではなく
困惑と葛藤だった。
彼女は眉間に皺を寄せたまま俺を見つめていたが
やがて小さく息を吐き出した。


「でも・・・あなたが嘘をつくはずないものね」


アメリアは視線を逸らさずに続けた。


「私はあなたの事をずっと見てきた。
向こうであなたがどんな扱いを受けてきたかも知っている。
そんなあなたが・・・今更こんな嘘をつくはずがない」


その言葉に胸が熱くなった。
彼女は俺の言うことを信じてくれたのだ。
根拠などなくても、俺に対する信頼が彼女の中で勝ったのだろう。


「ありがとう・・・アメリア」


俺はそれ以上何も言えなかった。
ただ感謝の気持ちを込めて頭を下げることしかできなかった。


「気にしないで。信じるかどうかは私の問題だから。
それで・・・他に何かおかしな事は起きてない?体調とか」


「今のところは何も。痛みもないし身体も・・・」


特にこれと行った異常はない。
いや・・・むしろ以前よりも体が軽いぐらいだ。
気のせいかもしれないが。


「――それにしても・・・許せない。
ザルティア帝国。あなたを本当に処刑していたなんて」


アメリアの声色が変わり始めた。
それは紛れもなく怒りだった。
その証拠に彼女の瞳は怒りで燃え上がっていた。


もし、俺が蘇生していなかったら・・・・
考えるだけでもぞっとする。
アメリアは祖国に対して激しい憤りを露わにしていた。
唇を噛み締め、彼女の手が小さく震えていた。
ザルティア帝国で過ごした日々が彼女の脳裏に蘇っているのだろう。


実際に処刑を執行された身としては
自分の命を軽く扱われた事実は決して消えない傷痕として残っている。


俺たち二人にとって
もはやザルティア帝国は憎むべき存在となっていた。


そんな感情が胸の中に渦巻いているのを感じながら
ふと、俺は別の疑問を抱いた。


――そう言えば・・・


どうして俺にこんな能力が備わったんだろう?
回復術士としての能力とは明らかに異なる力。
むしろザルティア帝国でも研究が進んでいない未知の領域と言える。

俺は思わず尋ねた。


「アメリア・・・どう思う? この力のこと。
なんで回復術士の俺にこんな能力が宿っていると思う?」


「・・・う~ん」


彼女はしばし考え込んだあと口を開いた。


「わからないわ。 でも・・・一つだけ言えることがある。
それはあなたの能力が回復術士のものではないということ。
本来の回復術士であれば人間の生命力を吸い取るなんて考えられない。
そもそも他人の生命エネルギーを利用する事自体が
魔術師でも禁忌とされているくらいだもの」


彼女の言葉は的を射ていた。
俺の力は回復術士の基本原則から完全に外れているのだ。

さらに疑問は続く。


「それにもう一つ。
なんで・・・俺が死んだ後に発動したんだ?」


そう――。
俺は一度死んだ身だ。
にも関わらず、その後に得たこの不思議な力。
順番が逆ならまだ納得できたかもしれない。
普通は死後に発現する能力なんて存在しないはずだ。
死者蘇生自体が稀有なのにそれに加え能力まで目覚めるなんて・・・。


俺はその矛盾に頭を抱えた。


考えれば考えるほど謎が深まっていく。
まるで暗闇の中を手探りで進むような感覚だった。

俺たち二人にとって未知の領域を前にして
ただ推測することしかできなかった。

そのとき―――。


「多分、それがルークの本来の能力だったんだよ」


俺とアメリアが声のした方へ振り返る。
そこには身体を起こし、欠伸をしながらこちらを眺めるエリザの姿があった。


「エリザ・・・起きていたのか」

「2人の話し声が聞こえてついさっき起きた。
私、耳は結構良い方だから」


彼女はいつもの調子でさらりと言う。
そのマイペースさに思わず呆気に取られてしまう。
さっきまで昏睡状態だったというのにケロッとしているのがなんとも不思議だ。
もしかしたら精霊使いとしての特性なのだろうか?


「エリザは・・・俺の能力に何か心当たりがあるのか?」

「う~ん。ルークの能力の全容までは分からないけど・・・
おそらくそれが元々ルークの能力だったってことは確かだと思う」


彼女はきっぱりと言い切った。
その迷いのない口調がむしろ新鮮に感じられる。


俺の本来の能力・・・?
そんな事言われてもピンとこない。
今まで俺が授かったと認識していた能力とは明らかに別物だ。
しかも蘇生直後に突如として発現したような・・・。


「その能力、とても珍しいし複雑なものだから発動するための条件がかなり難しいんだと思う。
例えば何か特別な感情が引き金になったりとか」


エリザの指摘は腑に落ちるものがあった。


確かに俺がその能力を使ったのは
死への絶望と仲間を助けたいという強い意志からだったように思う。


もしかしたら・・・あの時の感情が引き金となって
ずっと眠っていた能力が解き放たれたのかもしれない。


しかし、それならば

なぜ・・・俺の中にそんな力が備わっていたのか?

回復術士として学んできた事とは全く異なる系統の能力。
その根源にあるものは一体・・・?


「これは、あくまで私の憶測だけどね。
ルークは元々"回復術士"ではないんだと思うよ」

「回復術士じゃない・・・?でも、俺は魔術学院で回復術を学んで―――」

「それは、学んで得たものでしょ? 私が言ってるのはもっと根本的な能力のこと。
本来のルークの力が"回復"とは別の系統なのかもって話」


エリザの言葉は核心に迫ろうとしていた。
それはつまり・・・俺の能力の本質が"回復"とは全く異なる事だということを示唆している。

そして、俺はその話を聞いて腑に落ちた事がある。


―――俺の回復術は効率が悪く、回復速度も普通より少し遅い。
魔術学院で一から十まで学んだにも関わらず、回復術士としての能力に秀でていたわけではなかった。
むしろ他の同期や先輩たちの方がはるかに上だった。

その理由が・・・もしかしたらエリザの言う通り"本来の能力が別の系統だから"だったのか――?


「さっきさ。ルークが私に回復術を掛けた時の事覚えてる?」

「え?ああ・・・」

そういえば、俺の回復術を凄いとか言ってくれていたな。
そんな事、言ってくれたのはエリザが初めてだった。


「あの回復術・・・通常とは違ってとても特殊で・・・でも温かくて安心できる不思議な感覚だったの」

「温かい?」

「うん。普通の回復術は対象に直接働きかけて患部を修復するんだけど・・・」

「そうね。それが一般的な回復術の原理ね」


エリザの言葉にアメリアも同意する。
確かに回復術の基本原理はそうだ。


「でもね・・・ルークの回復術はそういうものじゃなかったの」

「どういう意味だ?」

「うまく説明できないんだけど・・・
まるで自然の中でゆっくりと自己治癒するような・・・
植物が水を吸って成長するような・・・そんなイメージが湧いたんだよね」


―――植物。
そういえば、俺は処刑されて命を落としたあとに
森の生命力を吸収して蘇生した。
そしてその際、木の幹を伝うようにして森全体の活力を取り込んだ記憶が朧げにある。


「俺は、森の生命を吸収した。
つまり、今の俺の魔力には・・・木の属性が混ざっている?」

「うん、そんな感じはした。それと・・・」


エリザは、少し考えながら言葉を選ぶように続けた。


「ルークの回復術。異物感のようなものも感じた。
多分、今まで回復術使いづらかったんじゃない?」


ずばり言い当てられた。
確かにそうだ。

俺の回復術は効果が弱く使いづらかった。
魔術学院で学んだ事とはどこか乖離しているような気がしていたのだ。
つまりそれは・・・俺が"本当の回復術"を使えていなかった事に繋がる。



「・・・なるほどね。要は元々のルークの能力に無理やり回復術を組み込んでしまった事で
歪みが出てしまっていたっていう事か」


アメリアが整理しながら結論付けた。

元々の能力が"回復"ではないとすれば
回復術を使う事自体が不自然だったのかもしれない。
今までの違和感の原因がようやく見えてきたのだ。


「・・・そう言う事だったのか」


俺は今まで、自分の能力を誤って認識していた。
回復術士として学んできたものに固執していたせいで
真実を見抜けなかったのだ。


―――だが、同時に悔しかった。


今までやって来たことが全て裏目に出ていたなんて。
帝国の奴らに馬鹿にされ、無能の烙印を押されていたのも
結局は自分の本当の力を見抜けなかったせいなのだ。


己の情けなさと過去への悔恨が入り混じった感情が喉元までせり上がってくる。
思わず拳を握りしめ、堪えようと俯く。


すると――。


「ルーク」


柔らかく名前を呼ばれたと思った瞬間、温かい腕がそっと俺の背中を包み込んだ。
驚いて顔を上げると、すぐ目の前にアメリアの心配そうな顔があった。
彼女の細い両腕が俺の頭を優しく抱き寄せていたのだ。


「今までずっと・・・頑張ってきたんでしょう? 誰にも認められなくても」

「アメリア・・・」

「大丈夫よ。
あなたがこれからどれだけすごいことを成し遂げていくのか
私にはなんとなくわかるんだから」


その言葉に胸がぎゅっと締め付けられた。
彼女の声はとても穏やかで、俺の心を包み込んでくれるように響く。


「もう・・・誰にもあなたを無能だなんて言わせないわ」


まるでそれが決定事項かのように、自信たっぷりに微笑むアメリア。
彼女の真っすぐな眼差しと温もりに触れているうちに、次第に肩の力が抜けていった。
さっきまで胸の中で渦巻いていた怒りや悲しみが少しずつ溶けていくのを感じる。

――彼女には敵わないな。

そう思わざるを得なかった。
俺の全てを受け入れてくれたというだけで
ここまで救われる気持ちになるなんて想像していなかったから。


「・・・ありがとう」


小さく呟くとアメリアはくすっと笑った。


「お礼なんかいいわよ」


軽く俺の頭を小突いてくる。


しばらくそうして抱きしめられているうちに
いつの間にか涙が自然と引っ込んでいた。
代わりに心の中にぽかぽかとした温かいものが広がっていくのを感じる。

――やっぱり俺は・・・

彼女の存在に何度も救われている。
アメリアの柔らかい体の感触。甘い香りが鼻腔をくすぐる。

彼女に抱擁されると落ち着いてしまう。
彼女こそまさに女神のようだ。



その様子を横で見ていたエリザが微笑む。
その表情はいつになく優しく穏やかだった。


「ルーク。悲観することはないよ。
むしろ今分かっただけラッキーだと思わなきゃ」

「ラッキー・・・?」

「そう。
だって元々の能力の本質が分かればそれは・・・
今までの能力とは比べものにならないぐらい強力になるはずだよ」

「そ・・・そうなのか?」


エリザの断定的な口ぶりに少し驚いてしまう。
その自信の根拠は一体どこから来るのだろう?


「うん。これから、色んな魔物を倒して吸収していけば
ルークの回復術もかなり強力なものに変わっていくと思う。
それこそ、どんな病気も呪いも治せちゃうぐらいにね」


エリザの言葉に俺とアメリアは目を丸くする。

どんな病気や呪いも治せる回復術士・・・。

そんな存在がいたら世界中の誰もが望む理想の聖職者だろう。
それほど強力な力を得られるとしたらそれはまさに奇跡に近い。


「でも・・・どうしてそんな風に言い切れるんだ?
まだ実際には試していないのに」

「森の生命力を吸収したから、ゴブリンキング倒せたんでしょ?
だから、そういうこと。
吸収した生命力やら魂やらのグレードが大きければ大きいほど
能力のグレードも上がるってことだと思う」

「・・・なるほど」


彼女の説明に納得がいった。
確かにゴブリンキングを倒せたのは
森の生命力を吸収したおかげだし
吸収した種類の数が多いほど回復術の効果も高まる可能性が高い。


「じゃあ・・・ルークはこれからどんどん強くなっていくってことね」


アメリアが嬉しそうに目を輝かせる。


「まぁ、そうなるかな」

「なんだか嬉しいわ。
ルークがまさかそんなすごい力を持っていただなんて」


アメリアの声が弾んでいる。
本当に心から喜んでくれているのが伝わってきて
少し照れ臭い気持ちになってしまう。

「でも・・・そうなると・・・」

俺はある事に気づく。

俺の回復術が"生命エネルギーを吸収する"力だとすると
対象となる生命力の質によって効果が変わるという事だ。

そして今回・・・俺は森の生命力を吸収し蘇生した。
つまりそれほどの大きなエネルギーを取り込む事で蘇生が可能になり
俺の戦闘能力も回復術も大幅に上昇したと考えていい。

では、もし――。

もっと強力な魔物を倒して吸収し続ければ
さらに強力な力を手に入れる事ができるのではないか?

そしてその過程で

俺の本来持っている能力も覚醒していく可能性もある。


「そうよ。これからルークの能力がどんどん進化していくんだって楽しみだわ」


アメリアが嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ているだけで俺の心まで晴れやかになっていく気がした。
なんだか、いままでの憑き物が落ちたような清々しい気分だ。

長年苦しんでいた事の原因が分かり
そして新しい未来への扉が開いた気がする。

俺の本当の能力が分かった事で
ようやく新しいスタートラインに立つことができたのだ。
それも・・・俺1人じゃない。
隣にアメリアがいてくれる。
それだけでこんなにも心強いのだと改めて実感する―――。


【次回に続く】

【第15話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

最近、投稿が遅れて申し訳ありません。
リアルで色々と立て込んでいるため、今後も投稿が不定期になるかも知れません。
なるべく、投稿はしていきますのでご容赦ください。

【第15話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

回復術士の劣等生ルークは、ザルティア帝国に無実の罪を着せられ処刑されてしまった! だが、彼には隠されていた能力があった・・・。 彼自身も知らなかった無敵の能力・生命吸収。 蘇生した彼は、幼なじみであり騎士団員でもあるアメリアと帝国から脱出する。 そして、数々の仲間らとの出会い・・・ 無能扱いされ続けてきた彼の新たな冒険が幕を開ける。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-09-04

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