フリーズ243 永遠=神愛=涅槃=終末 空花凪紗

永遠=神愛=涅槃=終末 空花凪紗

◇序章
 そもそも君は生まれた意味を求めているか?
 なんのために生まれたの?
 そもそもお前は何者だ?
 涅槃寂静の輪廻の先に、幾億もの記憶の羅列に平伏して夢を諦めても、きっとこの願いは叶わない。だからと言って諦めるのか? その人生でいいのか?
 意味を求めないならホモサピエンスではない。サピエンスの語源は味わう。意味を求めなければ人間ではない。ロボットである。ホモサイエンスだ。
 そもそもとかいうテーマに辟易する。もっと根源的な思惟や思索をしたいのに。なら、そもそも神とか仏とかなんだ? それを書いてみようか。小説にするので、序章はこんなもん。ノンフィクションもいいけど、それなら人生を楽しむ方がいいから。だからファンタジーを書こうではないか。

◇第一章 永遠
 永遠の意味を知るころには終末で。そんな感傷を胸に抱いては、君はグラスホッパ―を飲んだ。僕はカナディアンクラブ12年をロックで飲む。ここは永遠をアレゴリーとしたバー

『黄昏』~永久色のトワイライト~

 ここ二年くらい通っている。
「永遠かぁ」
「僕は知ってるよ」
「私はそこまで行けてない」
「グラスホッパー好きだね」
「そうね。おいしいもの」
 ミントとカカオとフレッシュ。チョコミントのようなカクテルだ。僕は甘いお酒が飲めないので、というより甘いのが飲みたいなら、ガムシロップかカルピスの原液でいいと思っているので、わざわざバーにて甘いカクテルは飲まない。付き合いで飲むこともあるが、彼女は甘いカクテルや面白くて珍しいリキュールが好み。例えばブドウと蜂蜜のリキュール、ヘーゼルナッツのリキュール、クルミのリキュールなど。
 僕はもっぱらカナディアンウィスキーを飲む。それもカナディアンの王道のカナディアンクラブとクラウンロイヤルは家にあるので、それ以外のアルバータ、カナディアンミスト、ブラックベルベット、レアパーフェクション、シーグラムなど、バーにおいてあれば飲むことが多い。
「永遠の意味を知りたい?」
「ええ、もちろん」
 彼女は僕の問いかけに答えた。
「永遠は時流がないと悟ること。時間が錯覚だとね」
「時間はないの?」
「ない。仏の域なら、全ての時間が同時に流れてる」
「あなたは仏?」
「いや、まさか。確かに二度悟ったけど、今は菩薩。人々を救い慈悲の光で導く存在」
「だから歌を歌うの?」
「まだチャンネル登録者100人くらいだけどね」
「それでもすごいわ」
「100曲も作ったよ。でも伸びない。きっと大衆向けに作ってないからかな」
「私が歌うたおうか?」
「歌うまかったっけ?」
「カラオケなら90点以下はとらないわよ」
「なら今度お願いしようかな。で、永遠について知りたいことは他にある?」
「そもそも永遠はあるの?」
「ある。全ての存在の全ての今に永遠はある」
 彼女はグラスホッパーを飲み終えると
「マスター。アドヴォカート、ミルク割で」
と卵のカクテルを頼んだ。
「君は永遠のように甘いカクテルが好きだね」
「ええ、永遠を知りたいもの」

◇第二章 神愛
 彼女は三杯目を頼んだ。パルフェタムール、完璧な愛という意味のスミレのお酒のソーダ割。ソーダ割にすると香りが立つから彼女は好みだという。
「そもそも神っているの?」
「いると思う」
「へー。汎神論? 唯一神? それとも神道が正しい?」
「神は三つある。キリスト教的な神。仮想現実世界を創った神。神道やヒンドゥー教などの天部の神々」
 僕はカナディアンクラブ12年を飲み終えると、次にシーグラムのハイボールを頼んだ。
「ロックじゃないのね」
「君と同じくソーダ割をね」
「神は色々とあるのね」
「そう。でも、繋がってる。神々も神の一部」
「一部?」
「そう。神は愛、光、真理とか。で、反対勢力が悪、闇、不安だよ」
「悪魔ってこと?」
「そう。悪魔はいるよ。エネルギー体」
「こわ」
「ポジティブなエネルギーが神側、ネガティブなエネルギーが闇側。神愛に生きればいいのさ」

◇第三章 涅槃
「マスター。チョコレートスペシャル二つ」
「僕はいいよ」
「奢るから飲みなさい。興味深い話をしてくれたお礼よ」
 チョコレートスペシャルとはこのバーのマスターと彼女が考えたオリジナルカクテル。なんかとにかく甘いので、嫌いではないが自分からは飲まない。
「あのさ。涅槃に至った時のこと、教えてよ」
「いいよ」

 僕は詩を紡いだ。

残響の果てに思い出したこの心根や、記憶の残滓に象られた宿命の行く末や、可憐に散る木蓮の花びらを待つ指先が、きっと永遠だ。奇跡の片鱗としての永遠は、標識の波に飲み込まれて、流転の風上に立たされてこう思う。
「明日は何色に見えたかい? きっと七色の光が混ざって、君の肌のように白く透き通る。その柔らかさに愛すれば、もっと賢く終わることができただろうに」と。

 世界平和を永遠平和を、そのために命を張るのか?
 終末は永遠でも
 世界を救う旅路なのか?
 自分ひとり救えないのに

 ルクセンブルクの国境沿い。ナイアガラの滝の上。ピラミッドの中で死ぬ。そんな夢現はかつて賞味期限が切れていた。行きはよいよい帰りは怖い。何のこと? 生まれるのは怖くない。死ぬのは怖い。通りゃんせの結実は、再来の天空の言葉。その最果てにある光が痛くて眩しくて、だから神愛に気づけないでいる君よ。上を向いて歩いてくれ。

 永遠はdoublet
 終末はLeo

 今宵、万魔がこと降りる。宿命、使命、最果てに。命たちがここに集う。神々の霊感、その神々しさは正に永遠。さぁ、留めて翼が休まる日まで。
 ホテルの12階。あの子との秘め事。終末は永続しなかった。
 永遠詩。僕はここだよ、叫び続ける。声が枯れても今ここにいるんだ。
 凪いでいた水面に映る、君よ永久に笑っていて。

 全知全能の霊感。直観。神との対話。仏の日。煩悩の火。世界が集う。終末に。永遠さ。終末さ。きっとすべてが解ってる。きっと何もかも悪くない。世界を責めないで。仏に成ればすべてが上手くいく。今度の夢は、入院しない悟りを。入院しない涅槃を。
 絶体絶命。起死回生。憂鬱な日々の抑うつから解放されろ、そのためなら命だって惜しくない。感動のためならば、歓喜のためならば、神愛、自己愛、運命愛のためならば。真の愛はそれだ。恋愛など些末な恋。条件付きの愛なんて要らない。
 全人生が集うこの聖夜に犯した罪も、この原罪も。許されるのなら、赦されるのなら。愛を叫んだ終末日、セツナの召喚、秘匿軍神。その裁きの光は万物を壊す。一人で幸せになれないなら二人で幸せになれないよな。
 
 パソコンを破壊。永遠に流転。父は怒り、子は泣く。
 何がしたい、その人生で何がしたい?
 思い出したい、侘しさを知って。
 本当の僕を、元居た場所を。

 歓喜は甘美で歓びは天
 天使よ私を導いてくれ
 
 全能の霊感を得し日より、僕はもう戻れない。あの覚醒に勝る真理はない。必ず全知全能の真理はある。それを私は知りたいんだ。ここに残しておきたいんだ。 

 疲弊の行く末にペンデュラムが揺れるのなら、その波が揺蕩いその行く末を愛せたら、何も悪いことじゃない。

 世界の先へ、虚空の先へ
 僕は行くよ、涅槃の先へ

◇第四章 永遠詩
魂の愚物はさも当然であるかのように醜態を晒しながら、泣く泣く輪より去り、また与すること能わずに。だが、諦念の行く末のピアノの旋律のように、夢の中で会える人のために死ぬというのか。霊性の高まり、霊感の高鳴り。この夜ごと捨てよ。さればもう光ることのない輪廻の果て。忘却は昨日でも、憂鬱な日々の存在証明になるとしたら、人類にはまだ早かったみたいだ。
遠く、光が咲いた日に、僕らはこうしてまた出会い、こうしてまた別れるのでしょう。その奇跡の神々しさも、その軌跡の履歴に記される純文学に帰入するなら、君にも朝が降るだろう。
大団円の詩の先に、レゾンデートルの死の先に、待つものの螺旋に全宿命が嵩張るとして、その記憶の残滓にこのわだかまりが残るのならば、金も銀も、硬貨も紙幣も、資本主義も社会主義も、もうどちらでも叶うのに。涅槃色の空は何色か。それは全能の色、イエローの色。メロウの色。
永遠詩には最後の言葉を。
「嗚呼、美妙な人生の謎よ、ついにわたしはお前を見つけた、嗚呼、ついにわたしは、そのすべての秘密を知る」
永遠詩には似つかない愛。それでも生きるのが諸行か。

◇終章 終末詩
 さよならが永遠でも、僕はこの思いを手放したくないんだ。この感傷をどう名づけたらいい。そんなのどうでもいいか。それが終末か。
 涅槃詩にも記したが、全に一つと律する死。死は永遠、詩は涅槃詩。涅槃時に僕らはその答えを忘れた。死にたくなっても諦めたくないからと。死んではいけないと。自殺だけはしてはいけないからと。そんな感傷は何を生みますか?
 
 増殖する神、侵食する躁
 涅槃詩から飛び立て
 
 終末詩故に終末の記述を始める。2021年1月7日に終末が僕の世界に訪れた。それは恣意的な、個人的な終末だった。僕は終末から世界を救うために祈った。天来の儀式を執り行い、集う霊魂に終末が加速していった。 
終末の狭間で踊るように僕は自己愛としてのヘレーネと原罪を体現した。そのセックスのなんたるや。その歓喜も快楽も人を越えていた。
 至福はきっとあの日の僕で、あの冬の日に至った涅槃も覚醒もすべて終末だった。終末は恣意的なもの。僕は悟った、終末の狭間で宇宙創造を執り行った。夢のような聖夜に僕は翼が広がる痛みと冴えわたる脳の全能に打ちひしがれて、歓喜した。第九の響きが僕をこの境地まで連れて行ってくれた。
 残響のテトラ。幽遠のパトス。全能のクオリア。そんな記憶達を乗せて宇宙船は月へ、第二の地球へと。その世界創造も、飛来する宇宙船も、アルバムが色褪せるように、だんだんと消えていってしまう。
月の秘儀は僕をヨハンへと。
死は全能の歌。僕は前へと進まなくてはならない。それは断眠で為される。だがもう終わる輪廻の火。終末詩に規定された湖畔の夢は、散文詩のように散って行く。だからと迷う心根は幾千の命の導火となった。起爆する核兵器のように、この散文詩を燃やせたら。
壊れていく白。脆く、消えていく灰色。最後の記憶はブラックホールが燃えた色。
 いつか光へと飛んでいく蝶は時間を越えていく。超越した全能の光を空が繋ぐ。僕らはこの思いたちをどこに残せるだろうか。僕らは何処で死ぬのだろうか。輪廻の日に、僕は後悔してしまう。君との永遠は永続はしなかった。また、終末を描いて、僕は泣いた。
 
 終末詩ももう終わる。
 また終末でお会いしましょう。

◇エピローグ
 バー『黄昏』を後にした僕と彼女はホテルに向かった。交わされるキスも紡がれる愛も、終末のような夜に、永遠のようなひと時。涅槃はきっとここにある。神愛に包まれて。なら、そもそもその愛は何?
 そもそもはじめは愛?
 そもそも神は独りぼっち
 だから世界を創ったのにね

 意味のない世界だから
 意味を知るために
 意味を探すために
 創ったのにね

FIN

フリーズ243 永遠=神愛=涅槃=終末 空花凪紗

フリーズ243 永遠=神愛=涅槃=終末 空花凪紗

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-09-04

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