zoku勇者 ドラクエⅨ編 95
モンの覚悟、そして……
「……ククク、どうだ?痛いか?痛いであろう……」
「い、痛い、痛いよお……、ジャミル……」
エルギオスは掴んでいるダウドの頭に更に憎しみと力を込め
握り潰そうとする。……ジャミルは卑劣なエルギオスに向かって
思い切り叫んだ。
「止めろーーっ!この卑怯者っ!!俺のダチから手を放せっ!!」
「……卑怯?それを言うか、クク、お前達には分かるまい、かつて、
私がどれだけ心を痛め、かつて愛し、信じていた者に裏切られ、
そして……、永遠に消えぬ傷を埋め込まれた苦しみを……、
こんな物では済まさぬ、思い知れ……」
「……エルギオスーーっ!!」
「ククク……」
エルギオスは今度はもう片方の手で掴んでいるアイシャの頭に
力を込めた。アイシャは既に事切れる寸前でぐったりしており
意識が無かった。ジャミルは急いでエルギオスを止めようと
するが、エルギオスは又暴挙に出る。掴んでいたダウドを乱暴に
放りだしたかと思いきや、怒りで我を忘れているジャミルに向かい、
空いた片手で気弾を放とうとした……。だが、直後に誰かが
ジャミルにぶつかり強く突き飛ばす。アルベルトだった。
「……ア、アル……、バカっ!何でっ!!」
「……ジャミル、どうか、エルギオスを……、止め……て……」
「……アルーーっ!!」
胸を押さえ、アルベルトが倒れ込む。絶望で真っ暗になっていく
ジャミルの耳にエルギオスの笑い声が響くのだった。
「シャアーーっ!!」
「う……、スーパーデブ座布団……、ダメだよ……」
「モンっ!よせーーっ!!」
倒れていたモンが飛び上がる。怒りのカオス顔でエルギオスへと
飛び掛かって行く。だが、あっさりと片手で強く叩かれ、地面へと
叩き付けられる……。
「ウギャっ、モンーーっ!?」
「生意気な糞が、どいつもこいつも……、何所まで……、死ねっ!!
雑魚がっ!!」
「……止めろって言ってんだろーがーーっ!!」
エルギオスは倒れたモンを片足で踏み付ける。何度も何度も……。
ジャミルも怒りに釣られもう一度エルギオスへと斬り掛かって
行った……。
「うああーーっ!!」
「……傷、今度は頬に……、小僧、もう容赦せん、良くも……、
思い知るが良い、さあ、バルボロスよ、もう一度立ち上がるのだ、
私に力を貸せ……」
「何をっ!?う、ううーーっ!?」
エルギオスがバルボロスに黒い波動を送ると同時にバルボロスが
雄叫びを上げた。ジャミルが傷つけたバルボロスの傷が見る見る
塞がり……、等々バルボロスが復活を遂げてしまうのだった……。
「……グギャアアアーー!!」
「んな、マジかよ……、冗談じゃねえ……、エルギオスっ!テメエ、
何て事しやがるっ!!」
「いいぞ、絶望に満ちたその面構えだ……、何と醜い事か、しかも
お前は今一人だ、支えてくれる仲間ももういない、さて、どうするのだ?
……ククク……」
「あ、あ……」
ジャミルは倒れている仲間を見つめる。モン、サンディ、アルベルト、
ダウド、アイシャ……。動かない仲間達。普段のジャミルは強がり、
カッコつけていつも一匹狼を気取っていた。だが、本当の心は孤独で
いつも寂しがり屋だった……。独りになってしまう事を何よりも
恐れているのである。……ジャミルの心に恐怖がわき上がって来る、
剣を持つ手に汗が滲み、震えだした……。
「さあ、バルボロス、後はお前に任せよう、思う存分暴れるが良い、
私は来たるべき日に備え、暫くの間休ませて貰おう、……ああ誠に
愉快だ、ククク、ククク……」
エルギオスによって再び復活し、更なる力を経たバルボロス……。
ジャミルも今、仲間を失った事で動揺し、立ち向かう気力も
失い掛けていた。そんなジャミルに追い打ちを掛ける様に
バルボロスはジャミル、そして既に動けない仲間達に向け、
容赦なく黒いブレスを放出したのだった……。
「やったか……?この小僧、まだ僅かながら呼吸があるな、
バルボロス、貴様、外したな……、まあ良い、もう虫の息だ……」
エルギオスは再び姿を消す。そして……。
「はあ、はあ……、畜生……、も、もうこれで……、マジで
俺達ダメなのか……?嫌だ、諦めたく……ねえ……」
「ジャミ公……」
「その声、サンディか……?」
「そ、だよ……」
ジャミル同じく、まだ唯一どうにかサンディは意識があった。
だが、既に彼女の口調もいつもと違い、何処か弱々しく
なっていた。
「全く、アタシはか弱い女のコなのよ……、もう……、ネ、ジャミ公、
アンタマジで今までよく頑張ったよ、最初はどうしよーもない、この
ヘタレエセ糞天使、どうしよーかと思ったケド……、やっぱアンタは
アタシのウンめーのパートナーだった、サイコーのね!……きっと、
アタシらだけこうやって残ってるのは、きっと、諦めが悪い者同士
だからかな……」
「かもな……」
ジャミルは静かに目を瞑る。やっぱり、此処まで来てどうしても絶対に
諦めたくない、カナトと約束したんだ、命を落としたボンにも誓った。
絶対に平和な世界を取り戻して見せると……。だが、既に体は焼け焦げ、
ボロボロだった。ジャミルがかろうじて無事なのは、やはり伝説の装備の
お陰かも知れなかった。他の仲間がどうなってしまったのか、確認をする
事も出来ず再びバルボロスの魔の手が迫る……。
「……諦めが悪いのはモンも同じみたいモン……」
「モン?お前……」
「スーパーデブ座布団……?」
ジャミルの耳に、微かにモンの声が聞こえた。うっすら目を
開けると、確かに倒れた筈のモンが宙に浮かんでおり、
目の前に姿が見えた……。
「……ジャミル、今からモンがする事、許して欲しいモン……」
「モン、何言って……」
「今までありがとうね、沢山の冒険、食べさせて貰った美味しい
ご飯、おやつ、モンの心の中にあったかい思い出が沢山……、
楽しかったモン……」
「……だからっ、な、何言ってんだよっ!!オメーはっ!!」
途端につい大声が出てしまっていた。モンの体が輝き始めている。
ジャミルはモンが一体何をしようとしているのか、分からなかった。
分かりたくもなかった。もしも、知ってしまったら、きっと……。
だが、その真実を嫌でも直ぐに知る事に……。
「モンがマポレーナになったのは、きっとこの時の為、皆を
助ける為の力なんだモン、大丈夫、きっと皆助かるモン……、
心配しないで……」
「ジャミ公、アイツ、まさか自分の命と引き換えに……、倒れた皆を
蘇生させる気じゃ……」
「……何だと……?」
「聞いた事あんの、マポレーナはメガザルダンスの自己犠牲で
仲間を蘇生させる事があるって、……でも、でも、そんな事したら、
スーパーデブ座布団が……」
「……モンっ!!お前っ!!」
「モン……、ジャミル……」
ジャミルは痛みを堪え力の限り叫ぶ。けれどモンの体の輝きは
益々強くなる。直ぐにでも急いで動いてモンを止めたかった。
……デコピンをしなければ!だが、体が動かない。どうしても……。
「うっ、ぐっ、やめろおおーーっ!……モン、テメエ……、んな、
んな事してみろ、ぜってーぜってー許さねえかんなーーっ!!」
「ありがとね、ジャミル、ほんとにほんとに……、モン、今、
とっても幸せ、だから、迷いはないモン、大好きな皆を助け
られるのなら……、ジャミルと会えて、皆に会えて、沢山の
お友達が出来て、モンは独りぼっちじゃなくなったモン、
幸せモンだモン、ジャミル、アルベルト、ダウド、アイシャ、
……サンディ、ケンカもいっぱいいっぱいしたけど、いつも
楽しかった、皆、みんな大好き、どうか、どうか……、
エルギオスに絶対勝って……、さようなら……」
「デブ座布……、モ、モンっ!!アホっ!バカっ!!……や、ヤダ、
イヤだよ……、お願い、止めてーーっ!!」
……あり、がと、う……、モォォ~ン……
「モン……、……う、うああーーーっ!!」
ジャミルの絶叫と共に、まばゆい光が降り注ぎ、ジャミルの体を
包み込む。その光は、倒れている仲間達にも……。そして、全ての
力を失ったモンの体がゆっくりと、地上へと落ちていった……。
「……モン、俺ら絶対に勝つよ、約束する……、だから……」
ジャミルは動ける様になった体で静かに立ち上がる。そして、
落ちて来たモンをそっと受け止めるのだった。其所に迫る
バルボロス……。
「メラゾーマっ!」
「フバーバだよ、ジャミル!!」
「……グギャアっ!?」
「アイシャ、ダウド……、サンキュー!」
後ろを振り返ると、復活したアイシャ、ダウドの姿が。二人とも
ジャミルの顔を見ると同時に頷く。
「私達の中にも聞こえたの、モンちゃんの声……、ありがとう……、
って……」
アイシャは声を詰まらせながらモンの体にそっと手を触れた。
冷たくなっている筈のモンの体にはまだ、ほんの少し温もりが
あった。悲しい最後を迎えたが、眠るモンの顔はいつもと
変わらない、幸せそうな顔をしていた。
「モン、ごめん……、オイラ、何て言ったらいいか、どうして
いいか分かんない、……でも、でもっ、今はっ!」
「モンが僕らに託してくれた命、絶対に無駄にはさせない!」
続いて、アルベルトも……。モンのお陰で4人はこうして復活する
事が出来た。悲しみに暮れている時間は無い。モンの為にも……。
ジャミル達は目の前に迫って来るバルボロスを怒りの目で睨んだ……。
「サンディ、モンを頼むな……」
「う、うん……、大丈夫だよ……、頑張って……、ネ……」
「いっくぞおーーっ!お前らっ!!今度こそオメーの最後だっ!
バルボロスっ!!」
4人は悲しみを力に変え、もう一度、立ちはだかるバルボロスに
立ち向かって行く。持てる力の限り……。絶対に、絶対に負けて
溜まるかと……。
「……グギャアーーっ!!」
「あっ!?……な、何よっ、これぐらいっ!アンタなんかにっ!!」
「アイシャ、平気か!?」
「大丈夫っ!負けないんだからーーっ!!……モンちゃん……」
バルボロスが防御力の低いアイシャを狙い、体当たりしてくるが、
アイシャは踏ん張る。戦いの間もアイシャはモンの事ばかり
思い出していた。食いしん坊で悪戯ばかりしていたモン。記憶の
中で笑うモンの姿、その一つ一つを思い出す度、思い出が悲しみに
染まらない様……、彼女は涙を堪えながらバルボロスへとメラゾーマを
連呼する……。
「オイラの頭の上……、も、もう、いないんだね、……うううっ!
バカヤローーっ!!……うああーーっ!!」
「ジャミル、僕、やっと分かったよ、どうしてあの時、
ギュメイ将軍がモンを気絶させたのか……」
「ああ、モンは……、きっといつでも覚悟してたんだ……」
アルベルトが言う、ギュメイがモンを気絶させたあの時もモンは
ジャミル達を助けようとしていた、だが、モンの行動を何もかも
分かっていたギュメイがあの時はモンを止めてくれたのだった……。
「ジャミル、バルボロスの様子が変だよお!」
突如、バルボロスが体をよじり苦しみだした。ジャミル達が
与えたダメージにより、バルボロスの体も限界に近づいていた。
体の彼方此方から、血が噴き出し始めている。
「ジャミル、今がチャンスだ、今度こそ行こう、バルボロスに止めをっ!」
「待って、オイラも行くっ!」
「私も援護するわ!」
「……皆、よしっ!」
ジャミルは3人の顔を見て頷く。皆の力が今、大きな一つの力となり……。
「……突っ込むぞっ!アルっ、ダウドっ!!」
ジャミルの合図で、男衆3人がバルボロスに向かって突撃する。
続いてアイシャのメラゾーマのサポート攻撃……。一つになった
4人の力がバルボロスの体を貫く……。バルボロスは地上へと
落ちて行き、倒れると粉々に砕けた……。
「……や、やっ、た……」
ジャミルが地面に膝を付く……。これで、バルボロスも遂に
倒した。残るは等々エルギオス只一人。漸く本当に此処まで来た。
だが……。
「や、やったネ、……みんな……、だけど……」
「モンちゃん……」
「モン……、ありがとな……、お前のお陰だよ……」
バルボロスとの死闘は終わった。だが、勝てたのはモンの
犠牲のお陰……。モンはもう目を覚す事は無い。4人の前に
辛く悲しい現実が再び蘇って来た……。
「モン、起きてよ、お願いだからさあ~、い、いつもみたいに
オイラの頭……、叩いていいからさ……、おならもしていいよおーー!!
や、やだよおお~、こんなの……、いやだよおーーっ!!」
「モンちゃん、モンちゃん……、お願い、目を覚して……、
お願いよ!!」
「……くっ……、モン……」
アイシャはモンの亡骸を抱いて泣き崩れる……。エルギオスの
処まであと少しと言う処で起きた悲劇……。4人にとって最後の
戦いの前に起きた、余りにも悲しい出来事だった。だが……。
「シャアーーっ!!」
「……うわ!?な、何だっ!?」
「君達は、確か……」
「……マポレーナさん達!?」
「「ウシャーー!!」」
突如、カオス顔を並べ出現したマポレーナ集団……。以前に
ジャミル達とモンに命を救って貰ったマポレーナ集団に
間違いなかった。あの時いた、老人のマポレーナも姿が見えた。
「ど、どうしたんだよ、んな処まで……」
「逞しすぎるよお~……」
「待って、何か言ってる!ふんふん、ふんっ!?」
「あの、サンディ、あなた、マポレーナさんの言葉が分かるの……?」
「な、何となく、だけど……、今は分かるカンジ……」
「ウシャウシャシャのシャーー!!」
サンディは代表で語りかけて来ているらしい、老人マポレーナの
言葉に必死で耳を傾けていた……。
「サンディ、マポレーナは何て言ってるんだい……?」
「……マジで?ホントに……?あのね、お前達は儂らの命を
救ってくれた、儂らも今こそ恩を返そう、我らの命を少しづつ、
戦いで命を落とした仲間に分け与える……、って……」
「……!!マ、マポレーナの爺さんっ、本当にかっ!?」
「ウシャ!」
ジャミルも思わず身を乗り出すと、老人マポレーナはそうじゃ!と、
言う様にカオス顔で大口を開けるのだった。
「で、でも、そうしたら……、マポレーナさん達は……?」
「……娘さん、案ずる事はないって、儂らは長寿、少しぐらい
命を削っても大した事はない……、だから心配するなって……」
「マポレーナさん……、有難う……、それに……、モンちゃんの事、
仲間って認めてくれたの……?」
「「ウシャーー!!」」
アイシャは涙目でマポレーナ達を見つめる。マポレーナ集団は
カオス顔で声を揃えて返事を返す。大丈夫!……と、言う様に……。
「「ウッシャ、ウシャ、ウシャーー!!」」
「あ、ああっ、モンの体が!」
「ダウド、此処はマポレーナ達に任せて、僕らは見守ろう……」
アルベルトに言われ、ダウドが静かに頷く。マポレーナ達がモンに
向かって一斉にカオス顔で力を送る。……その凄まじさと言ったら……。
モンの体がふわふわと宙に浮かんだ。
「「ウシャシャノシャーーー!!」」
「……っとっ!……ああっ!?」
浮かんでいたモンの体がジャミルの手元へと落ちて来た。慌てて
モンを受け止めるジャミル。……直後、ジャミルの顔に笑みが溢れた……。
「モンの体が……、あったかいぞ、心臓が動き出したっ!!」
「「ええーーっ!?」」
アルベルト達も急いで駆け寄ると、モンの状態を確認。確かに……、
先程まで冷たかったモンの体に温もりが戻り、頬に赤みが差していた。
マポレーナ達の力により、モンは再び生気を取り戻し、新たな命を
授かったのだった。
「ホントに……、あははっ!スーパーデブ座布団、復活したよーッ!」
「「やったあーーっ!!」」
4人は喜び合い、大騒ぎする。まだ目は覚さないものの、モンから
微かに寝息が聞こえる。皆はモンの命を救ってくれたマポレーナ達に
頭が上がらず、何とお礼を言ったらいいのか今は只、言葉が見つから
なかった……。
「ウシ、ウシ、ウシャ、ウシャ、ウシャ、モンモン!」
「あ、ジャミル……、マポレーナ達が行っちゃうよお……」
「……」
マポレーナ達はモンに自分達の命を分け与えた後、モンの無事を
確認すると、又何処へと去ろうとしていた。こんな危険な処まで
駆け付けてくれ、自分達の事も信頼してくれた。マポレーナ達には
本当にどう感謝していいか本当に今は言葉が出て来ない。だが、
ジャミルはもう一つ、マポレーナ達に頼みたい事があった……。
「……ま、待ってくれ、皆……」
「ウシャ?」
去ろうとしていたマポレーナ達が立ち止まり、4人を振り返る。
ジャミルはアイシャから眠っているモンを受け取ると、
マポレーナの長老に差し出す。
「……俺達、これから最後の戦いへ一戦交えてくる、モンの事……、
守ってて欲しいんだ、頼んでいいかな?」
「ウーシャ、ウシャ、ウシャシャ!」
「うん、任されよ、だって!皆と一緒なら安全だもんネ!よかったっ!」
「あ、有難う、マジで助かるよ……」
「シャ、シャ!」
サンディが通訳をしてくれる。長老はその通り、何度も何度も
頷いている。ジャミルから託されたモンを、仲間のマポレーナ達が
集団で担ぎ上げた。
「「モォ~~ン!シャーーー!!」」
「モンちゃんは、これでもう本当に何の心配も要らないわね、皆さん、
モンちゃんの事、どうか宜しくお願いします!」
「「モンシャ、モンシャ!」」
「そうだね、後は僕達がエルギオスを阻止するだけ、何としても、
モンやこの世界に生きている全ての皆の為に……!」
「だね、オイラ達が平和な世界を取り戻さなくちゃね!」
「「ウギャ、ウギャモン!」」
「よお~し、ラスバト、いっちょ、ばーっとハデにいっときマスかっ!」
「サンディ、お前もだよ、ほれ……」
「え?え……?」
ジャミルは親指でくいくい、待っていてくれているマポレーナ達の
方を指す。……サンディはジャミルが何を言いたいか直ぐに
分かったが、彼女がジャミル達と一緒にいられるのも本当にあと
僅か……。本の少しの時間でも、皆と一緒にいられれば。そう
願っていた。だが、このまま自分がくっついて行っても足手纏いに
なる事も理解していた。
「お前も皆と一緒にモンの事、守ってやってくれ、頼む……」
「……分かったわよ、ふ、ふん……、アンタ達がしぶといのはもう
分かってるから、別に心配なんかしてないわよ、絶対勝ちなさいよっ、
……負けたらマジで許さないから!」
「サンディ、有難う、私達、絶対勝つわ、応援しててね、ね……?」
「アイシャ……、う、うっ……、ええっ、オーエンでも何でも
しててあげるわヨッ!特別にネっ!有り難く思いなさいよっ!」
アイシャがサンディを優しく抱擁する。優しいアイシャに、
強がっていたサンディも遂に涙を溢しそうになる……。
鼻水も……。だが、強気なサンディは絶対に涙を見せまいと
ぐっと堪え、普段通りの彼女を精一杯演じて見せたのである。
最後まで皆に心配掛けない様に……。
「……あ~あ、相変わらず(態度が)可愛くないなあ~、もう~……」
「ふんっ!さ、みんな行くわよっ!んな処いつまでもいたら
命が幾つあっても足りないんだからっ、じゃあね、ジャミ公、
皆!チュっ♡……ベェーー!!」
「ンダンダダ、ウシャシャジャ!」
「「ウシャシャノシャーー!!」」
「……あ、改めて見ると、こうして集団で揃って並ぶと
スゲー顔だな……」
「「シャーー!!」」
サンディはジャミル達には投げキス?ヘタレには悪態を付き、
カオス顔のマポレーナ達と共にその場を去る。モンも仲間達に
安全な場所へと連れて行って貰った。これで思う存分迷う事無く
戦える。正真正銘の最後の戦いへと……。
「ああ、あれっ!見てよお!!」
「また、球体だわ!」
「中に何か……、まさか……」
「エルギオスだ……、あの野郎……」
4人は空中に浮かび上がった巨大な球体を見つめる。つい、
さっきまで、あの中にはバルボロスが入っていた。今度は
エルギオス自らが力を蓄え、その中に閉じ籠もっていた。
……聞こえる。微かにエルギオスの声が……。
「……バルボロスをも倒したか……、人に墜ちたる者よ、だが
貴様ら人間への憎悪、絶望こそがこの私、エルギオスの力の源……、
その憎悪の激しさを……、絶望の深さを……、今こそ思い知らせて
くれるわッ!!……さあ始めよう、世界の滅亡をっっ!!」
エルギオスが球体を突き破り、再びその姿を現す……。だが、
その姿はもう、完全にまだ本の僅かに残っていた天使の面影は
完全に無くなっていた。緑色の肌、悪魔の様な翼と容姿……。
悲しみの果ての異形の姿……。堕天使エルギオスが、今、
此処に降臨した……。
「ククク、クククク……、さあ、楽しませて貰おう、天使を
捨てた人に有らざる者よ……」
「それはオメーだろうがっ!……でも、これで……、マジで
最後なんだな……、野郎……!」
「行こう、エルギオスの処へ!」
「ちょっと待ってよお!アイツ空飛べるんじゃん、どう考えても
オイラ達の方が絶対不利だよお……!」
「そ、そうね……、あれじゃあっちが接近して来ない限り
近づけないわ……!」
「くっ……、どうすりゃ……、あ、ああっ!?」
「……ジャミル、君、鎧が……!」
途端にジャミルが身に着けている伝説の鎧が輝きだすと同時に、
ジャミル、アルベルト達の体も光り出す。伝説の鎧の力が皆に
奇跡を起こした……。
「俺、又翼が……、あの時、イザヤールが託してくれた
翼じゃない、今度は完全に……、正真正銘、無くした俺の
翼だ……、戻って来たんだ……」
「わ、私達にもよっ!凄いわ!あはっ!」
「本当に凄い、僕達にも……、翼の力が……?」
「あ、ははは~、凄いけど、これでオイラ達もアイツに近づける
って事、何かイヤだなあ~、ま、今更しょうがないけどさあ~……」
再びジャミルにも失った翼が生え、翼は仲間達にも……。これで
完全にエルギオスと真面に戦える力は備わった。4人は空中に
浮かんでいるエルギオスの姿を見つめた……。
「ほう、クソエセ天使が4匹誕生したか……、これは誠に愉快だ、
ああ愉快愉快、愉快ッ!クククク、……フハハハハ!!よかろう、
その翼、貴様らの身体事、バラバラに引き裂いてくれよう!!」
「うるせーんだよっ!んなろお、どっちが先に墜落するか勝負だっ!
行くぞっ、お前らっ!!」
「「了解ーーっ!!」」
「ハハハ、ハハハハーーっ!!」
ジャミル達もエルギオスのいる空中へ飛び出した……。4人の天使、
そして……。悲しみの堕天使……。最後の戦いが今、幕を開ける……。
「……行くぞおおーーっ!全軍っ!」
「「突撃ィィーーっ!!」」
ジャミルの号令で、味方がエルギオスに向かって突っ込んで行く。
まずは補助魔法で援護を。ダウドはスカラ、アイシャはバイキルトを……。
打撃攻撃担当のジャミルとアルベルトはエルギオスを左右から挟み
撃ちにし、それぞれの武器で攻めまくる。続いて、アイシャが
攻撃魔法を連発。絶対に負けられない戦いだから悔いは残したく
ないと……。だが、等のエルギオスは余裕であった。
「……貴様、これでも私に魔法をぶつけているつもりか?蚊に
刺されるよりも醜いな……」
「……きゃっ!あああっ!?」
エルギオスは拳でアイシャを地上へと叩き落とす。アイシャを
助けに行く余裕無く、容赦ないエルギオスの反撃が始まる。次は
ダウドに超高速連打攻撃を叩き込み、アイシャ同じくダウドも
地上へと叩き付けられ、煙を上げた……。
「ジャミル、手を止めたら駄目だ!二人を信じよう!」
「わ、分かってる、……だああーーっ!!」
「ククク……」
エルギオスは溜めていた力を解放し、ジゴクスパークをジャミルと
アルベルトへ向け放出……。未だかつてない、食らった事の無い
凶悪な稲妻の苦しみの中で、二人は必死に堪えていた……。
「「……うあああーーっ!!」」
「苦しいか?苦しいであろう、良い物だ、外道共の悲痛に満ちた
顔を眺めるのは……」
「……あなた趣味が悪いのよっ!えーいっ!!」
「こ、この……、小娘が……」
アイシャが再び復活、エルギオスへメラゾーマを放出。先程よりも、
少し威力が上がっているのをエルギオスは何となく不快に思った。
「……負けないよお!ベホマラーー!!」
続いてダウドも復活。全体回復魔法をチームに掛けた。ベホマズンは
MP消費が大量に激しい為、ここぞと言う時の為にどうにか温存して
おいてくれとジャミルに言われている。
「サンキュー、ダウドっ!」
「えへへー!」
「……ククク、面白い……、小生意気な、直ぐに又、HPを削って
くれよう……」
エルギオスは不適な笑みを浮かべる。直後……、エルギオスは
4人が持っていた力の盾を粉々に破壊したのである……。
これだけでは済まず……。
「う、うっ、……身体がっ!?」
「……いてつく波動だっ!」
「そんな、折角補助魔法掛けたのに……」
「……な、何度だって、魔法でサポートするわ……、きゃ、
きゃっ!!」
「クククク……!」
アイシャとダウドが最初に掛けた補助魔法も一瞬にして消されて
しまう。アイシャはもう一度、バイキルトを掛けようとするが、
再びエルギオスの反撃が開始され、彼女は魔法詠唱を妨害されて
しまい、焦りを募らせる……。
「アイシャ、落ち着けっ!暫くはこのままで戦うっ、アルっ!!」
「OK、ジャミルっ!」
ジャミルも空を飛んで再びエルギオスに接近し、剣を振り下ろした。
だが、エルギオスは守備力も生半可では無い為、ジャミルも
追い込まれる……。アルベルトは武器を弓に、持ち替えると
ライトフォース+後方から五月雨撃ちで支援する。
「……小賢しいハエめっ!邪魔だっ!!」
「……アル!ダウドっ、アルの回復頼めるかっ!?」
「うん、直ぐに行くよおー!」
エルギオスはアルベルトに向かって強蹴りを入れ、アルベルトも
地上に落下……。ダウドは墜ちたアルベルトを助けに地上へと
すっ飛んで行った……。エルギオスの目線はしっかりと、ダウドの
方を睨んでいる……。
「……そうか、まずはあのクソ小僧からか……、本当の地獄を
見せてやろう、本番はこれからだ……」
「何が地獄よっ!地獄なのはあなた自身の心だわっ!」
「……小娘、何だと……?」
「アイシャ、止めろ……、今のコイツには何を言っても分かんねえよ、
けどなあ……」
「……うるさいっ!どいつもこいつもっ!私をコケにしおってっ!
許さんぞーーっ!!私は新たなこの世界の神となるのだーーっ!!」
「う、ううっ!?」
「……きゃあーーっ!!」
ジャミルはアイシャに今のエルギオスには何を言っても無駄だと言った。
だが、どうしても……、何とかして今こそラテーナの気持ちを伝えたかった。
彼女は亡くなった今でも、エルギオスを探し、謝罪したくて、数百年間、
悲しみの中をさ迷い歩いている事……。絶対に……!!
「エルギオスーーっ!話を聞けーーっ!うわあーーーっ!!」
だが、やはり駄目だった……。話を真面に聞くはずも無く、ジャミルは
エルギオスの超高速連打攻撃を受け、アイシャと共に地上へ落下……。
アルベルトに回復魔法を掛けていたダウドは、今度はジャミルが
落ちて来たのを見てぎょっとする……。
「……だ、大丈夫……?二人とも……、……わ?……わああーーっ!?」
「フハハ、フハハハーーッ!!」
「……ダウドっ!?」
「……ジャミル、ダウドがっ!!」
今度はエルギオスが地上にいるメンバーに向かって急接近……、
したかと思えば、エルギオスはダウドを連れ去り、再び
空中へと飛び上がった……。
「……何するんだよおーーっ!はなせえーーっ!!」
「ジャミル、エルギオスの奴は恐らく……、回復魔法を使える
ダウドを狙ったんだ、ダウドが倒されたら……、僕の事は大丈夫、
急いで、ダウドを……!!」
「ああ……!ダウド、今行くっ!アイシャ、アルを頼むな!」
「ええ……!此処は任せて!」
「……止めろおおーーっ!エルギオスーーっ!
ジャミルはエルギオスを追い、翼を広げる……。もう奴と対話を
するのは無理だと……。諦める他無かった、ジャミルは空を飛びながら、
やはり自分達の声はエルギオスには届かない事、説得は無理だと
言う事を、心の中でラテーナに謝罪した……。
「眠れ、邪魔な小僧共……、永遠に……、そして……」
「……っ!?あ、ああ……、何だよこれ、急に……、目の前が……、
目が……、開けてらんねえ……、眠い……」
「ジャミっ!……ううう~……、駄目、オイラも……」
「アルっ!ジャミルとダウドがっ、何だか様子が……!!」
「……ジャミルーーっ!ダウドーーっ!!」
アルベルトとアイシャの目の前で、ジャミルが又地上へ落下、そして、
捕まえていたダウドも放り出す……。だが、様子がおかしい。二人とも
強い力で眠らされていた。そして、凄いスピードで落下していく二人に、
エルギオスが放った酷行動は……。
「……熱く全てを焼き尽くす私の息に包まれ、そのまま何も出来ず
痺れて死ぬが良い、……クク、ハーハハハ!!」
zoku勇者 ドラクエⅨ編 95