『変態譚ー現代寓話連作』

①『短歌修行』からのステップアップ。本腰入れて取り組んだお陰で、連作を詠む面白さに気付けました。と同時にプロの歌人の偉大さにも圧倒される次第。大好きな石川美南さんの『砂の降る教室』を可能な限り再読したい。あの物語性にはどこまでも憧れる。素晴らしいです。

②歌の追加及び改作並びに順番を一部変更しました(2025年8月31日現在)。

カーテンは逢いたし窓辺あいうえお拭いては光り まなびや翔り


黒板に正しく答え置く白のチョークが学ぶ彼らの本音


私だけ服を着てるわいやらしい裸交える社会の石膏像


労は扉に立ち、苦はただ歯を鳴らすばかり。
マンモスは磨ける牙で自動ドア (いたず)らな汗に冷房ふるえ


くるくると回る看板同業の襟足揃えカミソリ洗う


清掃の係が集いし南口(みなみぐち) 人波さらう改札くぐり


真四角のアパートメント開け放ち(ざる)に盛る夢 南口(みなみぐち)の月


止める足、止まらぬ足を語りつつ飲んだ渋谷が歌う夕立


ママどこと迷子になれり子供らの頬に触れたき 資生堂前


アパートに詰め込む曜日断てば月 外すアンテナ砂肝齧り


アパートに連れ込む曜日断つはドア表で待てり 月満つる砂


あれが朝、と独りごちるか万年の床に並べた電球真っ白


SOS(エスオーエス)フリックし終え高島屋 会える会えぬと光年かたし


これは私に合う眼鏡 あなたもあなたもべったり残れる指紋


生きていた日一日と手折る ふたなり難し唇でたんぽぽぽ


玉雫ゆるり拭えば磨りガラス濁れる人皮(じんぴ)戯け変態す


乳母車押しては告げる勧進帳 そこもと飲んで舞えるひとり身 


四十肩毎度の如く叩かれて喫めば助六 帰せる()どしゃ降り


ラコステのポロシャツ干して電話帳「堤」に黄ばみ 肩貸すさくら


胸に抱くブーケ芳し(かぐわ)寺社裏の小路すり抜け逢瀬を能う


伽藍堂 参列せずに寺社裏の小路すり抜けとぐろを巻いたり


預かれる物は招きて透く星霜 胸に芳し富士の吟醸


煮え切らぬ因果に焚べて()けぶる夢下向く葵 たもとを分かち


足るを知るわが身の腹が奏でたり ふいに臆面肉断つ離れ


足るを知るわが身の腹が奏でたり 説くは満面赤む薄暮


塵ひとつ落とさず畳擦る()足 細まる箸にて啄んでいたり


いうても私は私を止められんし あの()の方が幸せそうやわ


畳まれた服は山積み主人(あるじ)発つ排気木霊(こだま)して盛夏ひそまり


カーテンは逢いたし窓辺あいうえお拭いては光り まなびや来たり











訳もなく軽々飛ばすシューズら 月火水でけんけんっぱっぱ

『変態譚ー現代寓話連作』

『変態譚ー現代寓話連作』

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-29

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