梅便り2025

梅便り2025

 今年の夏は暑かった、と振り返るのはまだ早い。夏でなく、正確に言うと梅雨が暑かったのである。そんな日々の暮らしにあっても、季節になれば季節の物が店に出回り、また恙無く1年を迎えたのだと、年々感慨をおぼえるようになった。

 今年も梅を漬けた。5キロ漬けたが、毎年梅を送ってくれる友人から梅は届かず、体調でも崩しているのかといささか心配になった。重ねて、祖父母の代から親しくしていた人の死があり、心身ともに梅仕事どころではなかったが、逆にそれが年に一度だけの楽しみを逃してなるものかと、原動力になったようである。悲しみを抱えていても、生きている人間は浅ましいものである。

 先日のエッセイにも書いたが、今年は3種類の梅を漬けた。梅も値段もどちらもお得だったのが群馬県産の白加賀梅である。調べてみると、皮が固く梅干しにするには不向きだとあったが、梅干しの販売サイトの口コミを見ると、柔らかくて美味だと書いている人がいて、意見は真っ二つである。これだから人の言うことは信用出来ない。しばらくベンチに腰かけて悩んだが、あまりに見事な梅とその価格に惹かれて購入した。

 今年で丁度片手程梅を漬けたと思うのだが、青梅を追熟させたことはなかった。ここで失敗して梅をダメにしたらどうしようかと、ハラハラしながらの3日間だったが、無事に追熟させることが出来た。 味をしめてもう3キロ、そう思って駅前のスーパーに買いに行ったが、残念無念。白加賀梅は店先から姿を消していた。

 次に買い求めたのが、これもまた初めての埼玉県産の越生梅である。こちらは某デパートで販売されていたから場所代も含まれているとみえ、白加賀梅より600円も高かった。それでもだいぶ梅選びのスタートが遅れてしまったせいもあり、なかなか状態の良い梅を手に入れることが難しかった。ここで購入をためらって、梅が手に入らなかったら何にもならないと思い、これまた思い切って2キロ購入した。

 最後に1キロ、小粒だったが梅と言ったら王道の和歌山県産の南高梅を購入した。南高梅は当日店に並んだようで、とてもフレッシュではあったがすでに完熟の状態だった。
 これらをそれぞれ成り口を取り、実を洗い紙タオルで水気を取り、アルコールをかけ袋に入れて塩漬けにした。数日すると梅酢が上がってきたが、やはり梅それぞれの特性があるのだろうか。梅酢の上がりが悪かったのは越生梅である。
 追熟の際、少々傷み始めているような梅を何個か見つけたので1日で追熟を止め、青梅のまま塩漬けにしたからだろう。重石を2倍にして数日間漬けたが、梅は少々固めのままである。
 予想に反して梅酢の上がりが良かったのが白加賀梅である。実は大きいがしっかりしていて潰れることもなかった。

 梅酢が上がるまで重石をして、通信販売で購入した「へきなんのあかしそ」が届くのを待って、赤紫蘇漬けをスタートした。
 不要な部分を千切ると、それまで嗅いだことのない爽やかな薫りが鼻をくすぐった。梅ジュースを作ってみたくなり困ったものである。これをよく水で洗い、塩で揉みアクを抜く。良く絞り、梅と一緒に漬け込み、土用の丑の日まで冷蔵庫で保存する。 
 あく抜きした赤紫蘇に梅酢を注いで色を出したら、塩漬けにした梅の中に漬け込み、冷蔵庫で保管する。1日1回、必ず梅酢が袋から漏れていないか確認し、梅酢に浸かっていない部分はひっくり返し、全体に梅酢を被せる。
 天気予報をチェックし、梅雨明け後に晴天が3日続くところでザルや網に梅と赤紫蘇を並べ、土用干をする。
 南高梅は想像以上に熟していたため、取り出す際も実が破れてしまいそうで、取り扱いが怖かった。
 傷のあった越生梅は試しに漬けるだけ漬けてみようと思い立ち、小さなコーヒーの瓶に漬けることにして、別々に塩漬けしにして干したが、塩を吹いて真っ白になった。写真を見ているだけで唾が出そうである。
 3段の網に、梅酢を良く切った梅と赤紫蘇を並べ、3日間干したが、ザルに干した越生梅のように直接日が当たらないせいか、どことなく乾きが悪いような気がして、1日毎に網からザルへ梅を移した。

 昨年、梅を漬けようと購入した龜は、味噌を作ったため予定外で味噌龜になっていたが、今年ようやく味噌をタッパーに移し替え、初の梅仕事の出番となった。
 一昨年漬けた時のように、南高梅は理想的な乾き方をした。ここまでしっかり乾くと、漬け込んだ時に梅酢をよく吸い込んで、美味しい梅干しになる筈である。
 年々と夏の暑さも大きく変化していることから、梅を干すのも3日を2日にしたり、2日を3日にしたりと臨機応変に対応しなければならないが、それでもこうしてまた、梅を漬けることができた喜びは年々増すばかりである。
 高血圧にならない限り、皆が元気であれば毎年梅を漬けたい。そう思った2025年の梅仕事であった。

梅便り2025

2025年8月11日 書き下ろし
2025年8月20日 「note 」掲載

梅便り2025

年に一度のことは無理をしてでも楽しみたい。年を追うごとにそんな思いが強くなり、今年も漬けた梅干し。梅便り2025

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-20

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted