zoku勇者 ドラクエⅨ編 91
離脱のヘタレ
意を決し、扉を開け、愈々4人組は宿敵エルギオスの待つ、
最後の迷宮へと突入……。中も中で、内部は人間の体内を
意味している様なダンジョンなのか、血管の様な箇所が
彼方此方に連なり、心臓だか内臓と思われる様な部分も
ちらほらと……。
「ま、これぐらい平気さあな、な……、何となく雰囲気が似てるな、
元の俺らの世界のあのサル……野郎がいた処と……」
「だね……」
「うん、だから私も平気……」
「……やっぱり、オイラは慣れないよお~……」
「ちょっとッ!あんたラ頭おかしいんじゃネ!?もーっ!アタシは
また隠れさせてもらいますから!気を抜くんじゃないわよっ!」
「……へえへえ」
と、サンディも最後までこの調子らしい。まあ、話がズレそうだったが、
それはおいといて、とにかく今は先に進むしかない。ゴールまで只管に……。
足を踏み出すと、ぷしゅっと何か飛び散る音がする。足下も明らかに何か
ぐにゃぐにゃと潰している感覚が……。まるでトマトを踏み潰して歩いて
いる様なそんな感覚が……。ダウドはもう鳥肌が立つ寸前だった。
「あひひひのひい~……、ひ、ひ、ひいい~……」
「おい、足下見るなよ、絶対に……」
「早く抜けてしまいたい処だけど、当分無理そうだね……」
「……あ、あれ?モンちゃんがいないわ……?」
「……あ?」
アイシャの言葉に我に返るジャミル。さっきまで一緒にくっついて
来ていた筈のモンの姿が早くも見えなくなっていた……。
「あの野郎……」
「ジャミル、あそこだっ!」
「……モンっ!!」
だが、直ぐにアルベルトがモンを見つけてくれた。モンは心臓?内蔵?と
思われる物で上に乗っかってぼよんぼよん、跳ねてトランポリンの様に
遊んでいた。
「これ面白いモン、ぼよよよーんモン!」
「……モンーーっ!!」
ぴんぴんデコピン×5
「……ジャミルのアホモンーーっ!!」
「モンの気持ち分かるよおーー!!」
「うるさいっ!遊ぶなっ!真面目にやれってのっ!これで最後
なんだからなっ!」
「嫌、何だか君にその言葉を言われる程、複雑な事はないなあ……」
「……腹黒もうるせーよっ!」
と、まあ、何所に突入しようが、皆さん、最後まで全く変わらないのは
今まで通りでありました……。
「!!皆、敵だっ!構えてっ、来るっ!!」
「ちっ!」
アルベルトの言葉にジャミルが武器を構える。内部に突入し、最初に
お目見えした敵。巨人モンスターのサイクロプス。奴は棍棒を掲げ、
4人に向かって凄い勢いで突っ込んで来る。特にジャミルをターゲットに
してるっぽい。だが、ジャミルがひょいと身を交わしたその瞬間……。
……サイクロプスのこうげき!……ミス!!
サイクロプスは攻撃をミスると、そのまますっころがり、地響きを立て
転倒。起き上がれなくてジタバタ困っていた……。丁度良いので、そのまま
全員で袋叩きにしておいた。
「いいのかなあ~、これ……」
「いいんだよっ!リンチに参加しといて今更何言っとるっ、
この腹黒っ!!」
「えへへ……」
と、舌を出してみるアルベルトさん。……何となく、見ていたダウドは、
うわあ~……、と。
「あ、アギロさんが疲れたら飲めって、袋に入れておいてくれたよお、
やっほ~お茶、少し休憩しようよ~……」
「おう、じゃあ休憩するか!やれやれ……」
ダウドはアギロが袋に入れておいてくれたお茶を人数分取り出す。
しかも、さっきモンが跳ねて遊んでいた心臓?トランポリンの
上で……、皆でごきゅごきゅ飲み出す。最初怯えていたダウドまで
お茶飲んで一息、場所も何も、もはや弁えなくなっていた……。
「あー!うめえなあ!!」
「おいしいモンモン!」
「やっぱり、僕の故郷のお茶とは違うけれど、心が落ち着くね……」
「よく冷えてて最高ね!喉が潤うわ!」
「……」
どうやら、4人組を襲撃しようとしていた、もう1匹のモンスター、
シュプリンガー&ベホマスライムの集団が先程から様子を見ていた
らしいが、何か悪寒を感じたのか、そそくさと逃げ出すのだった……。
だが、こんな事やっていられるのも今のうちだけで、やはり階が
進むにつれ、ふざけている余裕も無くなり、4人組も徐々に散々な
危機に陥って行く事に……。3階の大広間付近まで辿り着いたのだが、
其所で第一のトラブルに見舞われる。……道中、今度はトロルキングの
タプタプお肉集団に挟まれてしまい(実話)、動けなくなってしまう
事態に……。モンは必死でトロルキングの一匹のハゲ頭にガジガジ
噛み付くが、拳で直ぐにおっ飛ばされた……。
「……ぐるじーい!息出来ないっ!!こんなので溺れたくない
よおーーっ!!うう~、生肉くざいーーっ!!」
「ダウドっ!……し、しっかりっ!アイシャ、ジャミルっ!!」
「……助けてーーっ!!ア、アル……、ジャミルが2匹に
挟まっちゃって潰されてるわ!」
アイシャがトロルキングの間に挟まれながらも、何とか隙間から
顔を出し、必死に声を張り上げている……。潰されそうになって
いるジャミ公も、アイシャの声を聞きつけ……。
「……ダッ、シャアアーーーっ!!」
糞デブと糞デブの間に挟まれていたジャミ公。何とか手を動かし、
伝説の剣でトロルキングの脇腹を斬り、隙間からジャンプして
脱出すると、頭上からギガスラッシュをお見舞いし、糞デブ
集団を一掃した……。
「た、助かった……、ふぁあ~……、てか、まさかこんな処で
溺れ掛けると思わなかったよおおーー!!」
「もう~、びっくりしたわよ、いきなり何匹も集団で追掛けて
来たかと思ったら……」
「本当にもう少しで僕ら、サンドイッチの具にされる処だったね……」
漸く呼吸が出来る様になった皆は、思い切り酸素を吸い捲るのだった……。
「はあはあはあはあ、……これが肉の壁って奴かよ、冗談じゃねえぞ……」
「はいっ、モン、皆を回復するモンっ!精霊の歌ーー!!」
モンの歌がお疲れモードの皆を癒やして行く。ジャミル達はモンに
感謝するが、これから何があるか分からない故、まだ先も長い事も
考え、MP温存しておいてくれな、大丈夫だからよと、ジャミルは
モンの頭をぐじぐじ。
「モンっ!♪」
「ね、ねえ、ジャミ公、ダイジョウブ?てか、アタシもキツかったん
だけど……、もう、最後だし、何が起こるか分かんないしだし、隠れて
ても仕方ないのかもね……」
ジャミ公を心配し、サンディも飛び出す。……ジャミル達との別れが
どんどん近づいて来ている事も踏まえて、彼女も段々と寂しさを一層
強く感じ始め、これからは最後まで素のままで一緒に行動しよう、皆の
戦いの行方を見届けたい、そう思ったのだった……。
そして、魔の宮殿、最上階で待つ者……。
「そうか、奴等が既に……、ククク、愚か者め、奴等事態も本当に
罪な奴等だ、目障りな、愚か者の馬鹿めが……、だが、此処まで無事に
辿り着けるかな……、ク、ク、ククク……」
肉地獄?を、抜け、大広間の4階への階段がある扉手前へ辿り着く4人。
扉を開ける。……行く手を妨害する者。それは、ジャミルが非常に良く
知っている癪に触るツラだった。勿論、モンも。豚の様な、猪の様な……、
両方が合体した様な容姿の化け物、帝国三将が一人、ゴレオン将軍……。
「ゴレオン……、お前……」
「へへ、ひっさしぶりだなあ、糞ガキ……、随分と格好だけは
偉くなったみてえだな……」
相変わらずの巨体……。ゴレオンはぶっとい鉄球を振り回しながら、
4人へと迫る。ゴレオンを初めて見る他のメンバー、サンディ……。
特にヘタレは泡食ってパニクる。
「あわわわーーっ!?あ、当たったらどうすんのさあーーっ!
危ないじゃないかあーーっ!!」
「ま~たキモいの来たんですケド!?何、ジャミ公、アンタ極悪
プロレスラーに知り合いでもいるワケっ!?」
「……んなワケねえだろ、前に言ったろ、こいつは俺が前に
捕まっていた、カデスの牢獄を取り仕切ってた……、帝国三将軍の
一人、ゴレオンだよ……」
「え、えっ!?で、でも……」
「ゴレオンは……、お話聞いたけど、ジャミルが倒したんじゃ
ないの……?」
後ずさりしながらアルベルトもアイシャも不思議そうな
顔をする。するとモンが怒りの形相でゴレオンの目の前まで
飛んで行く……。すると、ゴレオンは首を傾げ一旦鉄球を
振り回すのを止めた。
「そうモン、ゴレオンはあの時、確かにジャミルが
倒したんだモン……」
「……」
「ヘッへ、糞モーモンのボウヤも随分とまあ……、そうだ、オレ様は
確かにこいつに倒された、だがな、あの方が……、エルギオス様が俺様を
復活させてくれたのよ、オレ様は必ず今度こそテメエをこの手で
ぶっ殺せる日を楽しみにしてたのさ!」
ゴレオンは両手に握っている鉄球に力を込め、鍔を掛けると
ジャミルの方を向いて舌舐めずりをした……。
「そうか、今度はエルギオスの犬に成り下がって復活させて
貰ったんかい、嫌、どう見ても犬じゃねえな、豚か、猪か……?」
「……ガキャア、減らず口叩いていられるのも今の内だぞ、復活した
オレ様のこの破壊力、オリャアーーっ!!とくと見やがれっっ!!
以前のオレ様じゃねえぞ!!」
「……うひゃあーーーっ!?」
ゴレオンはジャミルを脅すつもりなのだろうが、鉄球をぶん回すと、
挨拶代わりに床に大穴を開けた。ゴレオンが破壊した床穴からは
煙が出ている。だが、怯えているのはヘタレ君、只一人だけ。
「だから何だってんだよ……、ラジオ体操は会場でやれよ、猪豚!」
「……こ、この糞ガキィィ……」
全然通常モードのジャミ公に、更にゴレオンの苛々は募る……。
そして、怒りでゴレオンのテンションが上がり、攻撃力が
倍になった……。
「こいつの所為で沢山の皆が苦しくて悲しい思いをしたんだモン!
ボンだって殺されちゃったんだモン!モンはお前を絶対許さないっ!
モォォーーン!!」
「スーパーデブ座布団、アンタ……」
モンの悲しみの怒り、爆発……。モンは戦いの歌を歌う。ジャミルの
攻撃力も2倍になる……。
「モン、サンキュー、……皆、後は俺に任せてくれ、此処は俺が
奴と決着を付ける……」
「ジャミル、でも……」
心配そうなアイシャの肩にアルベルトがそっと触れる。そして、
こくりと頷く。此処はジャミルを信じて、任せよう……、の合図。
「分かったわ、アル……、でも、ジャミル、無茶しないのよ!もし何か
あれば、直ぐに私達が出るんだからね!」
ジャミルは一瞬アイシャの方を振り返るが、耳に手を当て、ハア?
聞こえなーい!?の、ポーズを取った……。何が何でも此処は俺に
任せとけ!……、の合図……。
「もうーっ!」
「そうかい、そんなに死にてえんなら、纏めて死にやがれーーっ!!
ウハハハハ!!」
「だからあ~!危ないよおおーーっ!!」
「……きゃ、きゃあーーっ!?」
ゴレオンの暴走鉄球攻撃!ゴレオンは後ろにいるジャミルの仲間達を
先に始末しようと矛先を向けた。だが、ジャミルが直ぐに皆の正面に
立つと、伝説の剣でゴレオンの鉄球を破壊し、粉々に砕いたのだった……。
「て、テメエ……、もう許さね……、……う、ゴ、ゴフっ!?」
「以前、あんたにコレ、やられたからよ、仕返ししておくよ、
……ありがとなっ!!」
「……お、おぶしゃあーーーっ!?ゲ、ゲロ……、オブッ……、ゴフッ……」
前にカデスに捕まっていたあの頃、ジャミルはこいつに歯も立たず、
散々な目に遭わされた。だが今、漸く真面に仕返しをする事が出来る
日が来た。デブ腹に拳がめり込む程、強烈なパンチを叩き込んでおいた……。
余りにも苦しかったのか、ゴレオンは口から黄色い汚物を吐いた……。
「はあ、あのまま大人しく死んでりゃ良かったんだよ……、頼むから
もう大人しく成仏してくれや……」
「何を抜かすか糞ガキィィーーっ!!オレ様はテメエを完全に
始末するまで大人しくおねんねなんかしてらんねえのさーーっ!!
……ウォォォーー!!」
「……」
それはゴレオンの最後の抵抗だった。自身のテンションを
最大まで高め……、羽織っていた鎧が崩壊する程の、更に醜い
モンスターへと変貌……。ジャミルは伝説の剣を強く握り締める。
「フォフ、オレサマガ、セカイデイチバン、ナンバーワン、ダ……、
ゲフ、ゲフフ……」
「……うわあーーっ!?変態だよおーーっ!?」
「な~んかコイツもっ!変貌しちゃったんですケドっ!?ど、どーすんのよっ!?」
「ゲッフ、ゲッフ、ゲフフーーっ!」
「……いやああーーーっ!?」
頬に両手を当て、悲鳴を上げるアイシャ……。それもその筈、もはや
もう、帝国三将も関係ない、ゴレオンはぷらぷらと彼処をぶら下げた
まま、それは醜い醜態をさらけ出していた……。
「……ゴレオンっ!今度こそ……、オメーも地獄へ行けーーっ!!」
ゴレオンは派手なパフォーマンスを見せたが、もう最初から今の
ジャミルの相手にはならない事は確定的だったが、それでも最後まで
無駄なファイトの末、……最後は哀れ、ジャミルの怒りと伝説の剣の
刃に打ち砕かれた……。
「……チク、ショ……、オレサマハ、マタ……、ハイボクカ……」
ゴレオンの姿が塵になり、消えて行く……。今回は殆どジャミルに皆、
任せきりだったが、ジャミルは漸く、完全にゴレオンを消滅させられた
事に、安堵の息を漏らすのだった。
「お疲れ様、ジャミル、大丈夫かい?」
「ああ、これぐらい、何でもないさ、タチの悪い筋肉質の
ゴキブリだよ……」
そう言いながらアルベルトに苦笑いを見せるジャミル。ゴレオンが
消えて入った跡を見つめながらジャミルは思う。かつて、ゴレオンに
ボコボコにリンチされていたカデスでの地獄の悪夢の日々が今では
遠い日の事の様に思えた……。
「……ゴレオンが復活してたって事は、まさか……」
ジャミルは先の扉の方を見る。ゴレオンがエルギオスの手により、
復活を遂げていたのなら、この先に、ゲルニック将軍、そして、
ギュメイ将軍も……。彼らが再び立ちはだかるのかも知れないと……。
漸く、6階まで辿り着いた4人。処が、此処で又大騒動の幕開けと
なる……。牢屋内の宝箱を開けた途端、ミミックが出現。ヘタレが
狙われ、真っ先にやられてしまう。何とか死に物狂いで倒したものの、
回復役がノックダウン、残ったジャミル達も傷だらけ、これには流石に
地上に一旦戻るしかなかった。心底情けないが……。箱船に戻り、
アギロに頼んで急いでダーマへと送って貰う……。
ダーマ神殿・宿屋内……
「……う~……」
「ダウド、気が付いたか?」
「ダウド、大丈夫?」
「ダウド……」
「モォ~ン……」
ダウドが気が付くと、宿屋のベッドの上に寝かされていた。神父さんに
回復して貰った後、宿屋まで運んで貰ったんである。周りには、心配そうに
ダウドを見つめる仲間達が……。
「オイラ、助かったの、そう……」
「もう大丈夫だな、さ、行こう!」
「……え、い、行くって……」
「何って、箱船だよ、アギロのおっさんも心配してたぜ、サンディも
待たせてんだ、もう時間が無い、今度こそエルギオスのいる場所まで
殴り込みだ!……ん?ダウド、どうした……?」
「あう……」
ダウドは顔面蒼白となり下を向いた。ベッドのシーツを掴んだままで……。
折角地上に戻れたと言うに、後数時間、嫌、本日だけは此処で
休ませて貰った方がいいのではないかと……。つい、いつもの
不満が顔に出るのだった……。
「どうしてそうセッカチなのさ!大体皆焦りすぎだよお!これは
神様からのお告げなんだよお!オイラが倒れたのも、……もっと
ゆっくり体を休めろって……、事」
「……」
何だか嫌な予感がし、アルベルトはジャミルの方を見る。アイシャも……。
案の定、ジャミルは……、プッ・ツン、キタ……。
「ジャミルっ!……落ち着いてっ!お願いだから!」
「切れちゃ駄目ようっ!ジャミルっ!!」
「……モォ~ン!モォ~ン!」
アルベルトとアイシャはジャミルを止めようとし、モンは困って
おならを落としながら部屋の中を飛び捲る……。だが、ヘタレも
負けてない。平然とジャミルに向かって言い返した。
「別に最後の戦いに行くのが嫌だって言ってるワケじゃないよ、只、
皆も疲れてるんじゃない?これからどうなるか分からないんだから、
せめて今日ぐらい、ゆっくりしようよって、話……、多分バチは
当たらないよお~……、ほら、昔……、CMでもあったじゃない、
働くだけが人生か……?って、奴……」
「ダウド、あのさ……」
何とか温和に、温和にと……、ダウドと話をしようとアルベルトが
試みた処、ジャミ公が又割って間に入る。尚、やはり切れていた……。
「そうかい、オメーがそうなら、それでいいさ、けど、俺らは
もう行く、此処でずっと休んでろ!エルギオスは俺達だけで
倒すからよ!」
「……ちょっとっ、待ちなさいよ、ジャミルっ!」
「……あ、ああ……」
「モモンっ!!」
ケンカの相手は行ったり来たり、どうしてすぐこうなって
しまうのか……。この先、回復役が抜けたらそれこそ戦力
ダウンになる言うに……。だが、ヘタレもカチンと来たらしく、
両者の言い分止まらず。
「じゃあ、いいよ、オイラも行きますっ!でも、神の国には入らないよ……」
「な、何だと……?」
「箱船までは付いていくよ、けど、頭に来たので戦いには行きません、
箱船でアギロさんの手伝いでも大人しくしてるからさ……」
「……勝手にしろってのっ!この糞ヘタレっ!!」
「フン……、オイラのお願い聞いてくれないジャミルが悪いん
だからね……、何だよ、少しぐらいさあ……、……ボソ、オイラ
だって、ジャミルと皆の心と体の事を思って……」
こうして、馬鹿とアホ。最終局面で又もめ事を起こす……。アルベルトと
アイシャは、仕方なしに、二人を暫く見守る事にしたが、もうハラハラ
しっぱなしである……。そして、一行は箱船へと戻り、アルベルトが
こそっと、二人の状況をアギロとサンディに伝えたのだった……。
「そうだったのかい、急に嫌になっちまったか、ま、普通は
そうならあな……、おめーさん達は、世界を救う為の辛い
戦いをしてるんだもんな……」
「何、ま~たアイツ、ヘタレ病が出たのッ!今更何っ!マジでッ!」
「モォォ~ン……」
「アンタ別の意味でヒーローになれるよっ!ヘタレマン!ヘタレ
タイマーが点滅し始めるとヘタレ化すんのッ!じょわっ!」
「……サンディ……、……アギロさん、本当に申し訳ありません、
ダウドの事、宜しくお願いします……」
「そりゃあ、俺は別に構わねえけど、けど、大丈夫なのか……?」
アギロは頭を下げたアルベルト、そして、座席でふて腐れたまま、
只管黙って座っているヘタレの方を見る……。
「ええ……、買えるだけ、持てるだけの薬草等は買い込み
ましたので、これで何とか間を繋いで乗り切るしか……」
「やれやれ、とんだ災難になっちまったな、何回も言うが、
危なくなったら、又何時でも戻って来い……」
アギロは代表のアルベルトに言葉を伝えておく。ジャミ公は
ジャミ公で、ヘタレと一緒にいるのに居心地が悪いらしく、
別の車両へ逃げて行ってしまった。勿論、ジャミルにはしっかり
アイシャが付いている。ヤケになってタバコでも吸わない様に……。
「有難うございます、本当にご心配お掛けしまして……」
「オメーさんも真面目だからな、余り思い詰めるなよ、又、戦いの
幕開けだぞ……」
箱船はジャミル達を再び崩壊した神の国へと運ぶ。そして、
再び内部へと突入。ヘタレを残して……。
「あーセイセイしたっ!アギロさん、オイラ、船内のお掃除でも
しますね!♪ふう~ん!」
「……」
ダウドは本当は掃除が大嫌い。だが、何かしらしていなければ
ならない故。アギロはそんなダウドを暫くの間、無言で見つめて
いた……。
「全く、困ったガキ共だぜ、本当によう……」
そして、ヘタレが抜け、此方は又トリオになった。アルベルトと
アイシャは、ジャミ公が無理をしているのは直ぐに分かったが……。
「よしっ、戦えるメンバーは俺ら3人だけになっちまたけど、
必ず乗り切れる、……乗り切るんだっ!!」
「あの、ジャミル……?」
「オウ、何だ!?」
「ジャミル、それ、違うわ……、伝説の剣じゃないわようー!」
「それ、モンのおもちゃだモン~……、返してモン~……」
「へ?うわっ!?」
ジャミ公は手持ちの武器を慌てて確認。何と……。伝説の剣ではなく、
モンのおもちゃのうんち棒を手に持っていた……。最近ではキャンディーの
棒の代わりにこっちでダウドの頭を叩いて遊ぶ事が多くなっていた。
「……バカっ!アンタの武器、あそこじゃん!何やってんのッ!」
「あ、あらら~……」
伝説の剣は、何故かそこら辺にほっぽり出してあったのをサンディが
見つけ、直ぐに渡してくれた。これは、ジャミルが相当困ってる時の
合図だわと……、アイシャも又不安な気持ちが増してくる……。
もう本当にこれ以上の戦いに参加したくないと言うのなら仕方なし。
スネてしまったヘタレの気持ちを重視する事にした皆は、このまま
先に進む事に……。
「全くもうっ!アイツ、ホントどういう思考してるワケっ!?マジ、
信じらんネ!」
「いいんだ、アイツは自分の気持ちに正直なだけだよ、嫌だと
思った事はすぐ態度と顔に出る、昔からさ、しょうがねえんだ……、
しょうがねえんだよ……」
そう言いながらジャミ公は大きな溜息を付く。一体全体、今回の
話が始まってから、ヘタレはこれまで何回ストライキを起こした
だろうか。今作が一番酷いかも知れなかった。だが、落ち込んでは
直ぐに立ち直り、戦う気力を取り戻して、又機嫌が良くなり……。
そして、最後になり、最大のストライキが来てしまう。雅に、
ファイナル・ストライク、(キ)……、で、ある。
「ハア、今更誰か、僧侶に転職して貰うワケにも、も~イカナイし、
だしね……」
「モン、もしもの時は頼むな、オメーには倍、負担掛ける事に
なっちまうし、大変になっちまうけどよ……」
「任せるモン!モンは皆に幸せをお届けする為に、マポレーナに
なったのモン!」
モンは鼻息を荒くして。頼もしいモンがいてくれる事に、ジャミルも
皆は安心するが、だが、通常MPが少ないモンに頼ってしまう事ばかりは
出来ない事も心掛けている。先程も言った様に、此処は何とか、皆で
協力し合い、乗り切りたいと……。
「さ、行くか、元気出してな!……なあ、けど、聞いていい?俺って
そんなにセッカチかな?」
「うん……、確かに……」
「せっかちよ!」
アルベルトとアイシャ。二人声を揃えて即答で返事を返す。
「……あんなあ、こう言う時はそんな事ないよって、フォローして
くれたっていいじゃねえかよっ!」
フォロー出来ないので、二人はそう言っている。お食事邸でお昼を
頼んだ時の事。急にトイレに行ったダウドを待てないジャミルに
アルベルトが、ちゃんと全員揃ってから食べようよと言ったが、
ジャミ公は先に一人で食ってしまったのである。ちなみに、
モンでさえ、ちゃんとダウドを待っていたのだが。
「だってよ、あん時は、俺、ラーメンだったし、アイツも
腹壊してたから……、って、どうでもいいんだよっ!終わった
事だっ!」
「何よ、元々ジャミルがほじくり返した話じゃないの!」
「も、もう……、いい加減で先に進もう、又余計な時間を……」
「……よ、よし、今度からはこっちの扉から近道出来るな、
行こう!」
???:もしもし、ああ、其所の旅人さん達……
「……な、何っ、この声っ!ヤバっ!?」
……突如、何所からか、謎の声が聞こえ、サンディは慌てて
ジャミルの中へ……。ジャミル達も警戒し、武器を手に身構える……。
「そんなに驚かなくてもいいですよ、ホホホ……」
「誰だっ!?」
その場にいきなり出現したのは、イケメン面のツリ目長髪青年。
だが、白タキシードの上に黒ローブを羽織っており、大きな
水晶の付いた杖を手にし、何とも奇抜な変わった容姿の青年
だった……。
「……普通驚くんが当たり前だろうが!敵かっ!!」
ジャミルの叫びにアルベルトもアイシャも警戒、ジャミルの側に寄り、
戦闘態勢を取る。それを見た青年は片手を振って、違います!と、
慌てて言った。
「あの、あなたは、一体何者なんですか?失礼ですけど……」
「そうよ、此処は凄く恐い処なのよ、こんな場所に平然と現れるんだもの、
怪しくない訳がないじゃない!」
「シャーー!」
「まあ、そう思われても仕方が無い事なのかも知れませんが……、
良いですよ、言います、私はエリート大魔法使い、そうですね、
適当に……、ルゲニ……と、とでも名乗っておきましょうか、
アナタ方が不思議に思われても当然、ホホホ……」
「……だ、大魔法使い……?」
「そうです、私はこの神の国に眠ると言う秘宝を狙い、此処まで
来ました……、実はですね、先程から隠れてアナタ方のお話を
聞いていました、どうやら、お仲間に逃げられたそうで、現在は
戦力不足でお困りとか……、随分と頼もしいお仲間だった様ですが、
……あっさりと、まあ、所詮素人なんてこんな物、ホホ……」
「あ、あ……」
「ちょっとっ、あなたっ!?……ア、アルっ!?」
「アイシャ、いいからっ!」
青年に食って掛ろうとしたアイシャを慌ててアルベルトが止める。
何だかこの青年はやばそうな感じが見受けれたからである……。
それに、初めて会う顔だと言うに、どうも一度以前に何処かで
会った事のある様な……、若いのに、何故か異様に年寄り臭い口調、
非常に嫌な感じもし、不思議だった。
「で、率直な話、アンタは一体俺らに何か用があるんか?忙しいのさ、
俺達も……」
「ですから……、コホン、此方も率直な話、どうですか?暫くの間、
あなた達と私、一緒に行動を共にどうですか……?と、言っております
のです、ホホホ……、この私が……、あなた達のお力になって差し上げ
ても良い……、と、申しておるのです……」
「……何だと……?」
して、ジャミル達が謎の魔法使いに、謎の交渉を持ちかけられている頃、
天の箱船では……。
「アギロさーんっ!お掃除終わりましたよおーー!」
「……駄目だっ、やり直しだっ、何回言ったら分かるっ!全然汚れが
落ちてねえぞ、ほれ、この窓の処っ!」
「え、ええ!?だ、だって、これでもう10回目……、これ以上、
何所をどうして綺麗にしたら……」
「……駄目だっ!此処は俺の船だっ!俺の許しが出るまで徹底的に
掃除して貰うぞ!」
「……そ、そんなああ~!」
……厳しいアギロ掃除監督の下、徹底的に掃除をさせられて
いたのだった。しかも、ダウドがどんなに丁寧に掃除をしても、
絶対にOKの許可が下りないんである。
……ヘタレは又、此処にいるのも嫌になってきていた……。
「もうおめーさんはクビだっ、オラっ、こっちに来いっ!とっとと
船を降りて貰うぞ!」
「え、えええ!?ちょ、ちょっと待って下さいっ!今、船を
降ろされたら……、オイラ、オイラ……」
「そうだな、分かったか?おめーさんが今いるべき場所は、
此処じゃねえんだよ……」
「……え?」
「今すぐ、戻れ、ジャミ公達の処へ……、迷ってる暇はねえぞ、
今ならまだ、間に合う筈だ……、おめーさんにその気があるなら、
直ぐに送って行ってやる」
「……アギロさん……」
アギロはダウドの肩に手を置く。不器用なヘタレが本当は皆の所へ
戻りたい癖に、迷っていじけているのをもう見抜いて呆れていた。
だから、一刻も早く神の国へ戻れと言ってくれたのだった。
「お願いします、アギロさん……、オイラ、ジャミル達の処へ戻ります……」
「如何ですか?……これが私の実力です……」
「お、お前……」
ジャミル達は呆気に取られる。ルゲニと名乗る青年は、後ろから
襲って来た、ヘルクラウダーをメラゾーマで数秒で丸焦げに、
消し炭にした。アイシャの魔法力よりも、遙かにLVが高い……。
だが、アルベルトはこの青年を、益々何処かで目にした様な、
そんな気持ちが強さを増していたが、どうしても完全に
思い出す事が出来ない。
「ホホ、ジャミルさんでしたかな?リーダーはあなたの様ですが……、
あなたの承諾一つで、私はアナタ方の強力な頼もしいボディー
ガードとなりましょう……、勿論、多少は回復魔法も使う事は
出来ます故……」
「ジャミル、どうするの……?」
「モン~……」
アイシャがジャミルに問う。もし、このままダウドが本当に
戻って来なければ、このままこの青年に力を貸して貰う事も
可能だろう。だが、ジャミルは……。
「嫌、断るよ、あんたの気持ちはありがてえけど……」
「「ジャミルっ!!」
「モンっ!!」
「……何ですと?もう一度言ってみなさい、良く聞こえません
でしたが……?ハア!?聞こえなーい!」
「やっぱり俺、アイツを……、ダウドを待ちたい、何のかんの
言っても、やっぱりダウドは来てくれるからさ、何回同じ事
やってもよ、それが俺らのアホコミュなんだ、それに、いきなり
又、アイツの許可無しに違うメンバーが急に入っていたら、
それこそ又いじけちまうかもだからな、だからさ……」
(も~、ジャミ公ってば、ホントに頑固ッ!でも、良く言ったネ!)
「そうよ、私達、基本は4人揃って(変な)チームだもの!」
「ジャミル、僕もダウドを信じる、一緒に待とう!」
「モンー!やっぱりモンはジャミルが大好きモンー!」
モンは笑いながらジャミルの肩へと飛んだ。だが、はしゃぎ合う
ジャミル達と裏腹に、やり取りを凄い形相で眺めていた……。
「ホホ、愚かですね、アナタ方は、本当に、この私の誘いを断るとは……、
ホホ、ホホホ!」
「……お前……」
ジャミルは豹変し出したルゲニを警戒する。少なからずジャミルも、
この男を最初から信用などしていなかったのだった。やっぱり本性を
出したなと……。
「そうだよっ、アタシも何となく、コイツから嫌なカンジが
プンプンしてたし!」
「ホホ、ホホホ……」
「そろそろはっきりさせたらどうだい?お前の真の目的、正体をよっ!」
「……ジャミル、待ってっ!コイツはっ!!」
漸くアルベルトが思い出したらしい事、気づいた事をジャミルに
伝えようとするが、ルゲニは待っていましたよとばかりに自身で
持っていた杖を振りかざす。現れた本体はやはり、この男であった……。
「あ、あなた……」
「……ゲルニックモンっ!……モ、モン……」
「私も……、そう、エルギオス様に再生させて頂いたのですよ、
アナタ方に復讐する為でもあり、そして……」
青年から本来の姿へと、ゲルニックは再び醜い老人の姿を
さらけ出す。モンはやはり、まだ、コイツにされた事が
トラウマになってしまっているらしく、思い出したのか、
怯えてしまう。だが、アイシャはモンをそっと優しく抱擁。
モンを勇気づける。
「モンちゃん、大丈夫、私達、ここにいるんだよ、ずっと、ずっと……、
一緒だよ……」
「モン、モン……、モンももう逃げないモン、騙されないモン、
大好きな皆はずっと、ず~っと一緒っ!モンーーっ!!」
「モンっ、良く言ったっ!」
アイシャに勇気を貰ったモンはくるっと一回転、宙に舞う。モンを
更に勇気づける様にモンの間に入るジャミル達……。
「ホホホ、相変わらず熱クサ苦しいですね、目障りな……」
「……ジジイ、テメーのホホホ笑いも相当ウゼーと思うよ……」
「ホホホ、ジャミルさん、私は今回、其所の糞モーモンには用は
ありません、どうかご安心なされよ、只……」
「……何だっ!!」
「用が有るのは、あなたの身に着けている装備一式……、それらを手に入れ、
破壊する事のみ!」
ゲルニックが手にした杖をジャミルに向けると……、ジャミルの体から
問答無用で伝説の装備が外されてしまう。伝説の装備は球体になると
ゲルニックの杖の中へと消えてしまった。カナトから託された大切な
伝説の装備を奪われたジャミル本人は一体何が自分に起きたのか
分からず地面にバタリと倒れ、気を失った……。伝説の装備は
カナトとジャミル達の友情を育み、そして、絆を結んだ大事な
宝物……。それを……。
「……ジャミルっ!しっかりっ!ジャミルっ!!」
「ちょ、また倒れたしっ!アンタタフだけど、とにかく体弱いねッ、
んとにっ!も~、自分で言ってて意味分かんないンですケド!?」
「……モン、モンーー!!」
アイシャは慌ててジャミルに駆け寄り、サンディとモンも状態を
確かめるが……、取りあえず、無理矢理に装備を強引に外された
衝撃で気を失っているだけの様だったが……。アルベルトは
ジャミルを守ろうと、戦闘態勢を取り、武器を構える……。
「やっぱり……、僕らが油断し過ぎたんだ、……ゲルニック!貴様は
何所まで卑劣なんだっ!!」
「ホホホ?私は前世からま~ったく変わっておりませんが?あの方に
更なるお力を頂いただけです、あなた方が弱すぎるだけです!いやはや、
私達の前にも、エルギオス様に折角ご命令を頂いたと言うに、任務を
失敗したクズがおりましてな、主は相当お怒りの様でした、……伝説の
装備を破壊すると言う重大な任務をッッ!」
そう、任務を失敗したクズと言う人物は、間違いなく異世界で
ジャミル達とカナトを苦しめたあの女魔法使いである。今回、
エルギオスは復活させたゲルニックに伝説の装備を破壊させる
任務を託した。とことん卑劣な手で責めさせられるのは、猪突猛進
筋肉バカのゴレオンより、そして、もしも彼も復活を遂げているの
なら……。誰よりもゲルニックが一番適していると睨んだから
だろうか……。
「では、伝説の装備は頂いていきます、これで、私はエルギオス様に
更なる最強のお力を与えて貰える筈!」
「……止めろっ!ゲルニック!!」
「私達がそんな事させないっ!!」
「分かっているのですか?言ったでしょう、私はエルギオス様に
以前よりも強力なお力を頂いたのですっっ!!」
「……ちょ、アイシャ、アルベルトっ!!」
「モンーーっ!!」
二人はゲルニックの放った強力なバギマに巻き込まれる……。
こんな処に来て、伝説の装備を奪われた挙句、皆は
ゲルニックの卑劣な罠に……。伝説の装備を奪っただけでは、
当然コイツが満足する筈も無く、倒れたままのジャミルに
ゲルニックの魔の手が迫っていた……。
「折角なので、正式な継承者のこやつさんが生きておられると
厄介な事になります、伝説の装備共々、このお方も一緒に頂いて
行きましょうか、いざ、破壊の儀式へ、……ホホ、ホホホホ!」
「あ、アイツ……、まさか、ジャミ公までさらってく気ッ!?
ダメだよッ!!」
「モンーーっ!?させないモンーーっ!!」
zoku勇者 ドラクエⅨ編 91