zoku勇者 ドラクエⅨ編 90

僕の生きる道・2

天使界を出発する前に、ジャミル達はもう少しだけ休憩させて
貰う事に。カナトを休ませている間、アギロの処にも挨拶と
報告に行くと、快く承知してくれた。そしてカナトも交え、
4人組は現在、休憩所にいた。異世界に派遣される前に
休ませて貰っていた部屋である。だが、今はカナトが此処に
いる事に何だか不思議な気持ちを感じていた……。

「皆、ごめんね、これからの戦いの力になれなくて……、
僕も一緒に最終決戦に参加したかったけれど、何と
お詫びしていいか……」

「ん?いいんだよ、気にすんなって!それよりも、折角
この世界の仲間になったんだ、ゆっくり体休めて俺らの
帰りを待っててくれよ!」

「そうよ、私、カナト君にた~くさん案内したい場所があるの!」

「この世界のトマトもきっと美味しいんだモン!トマトツアーモン!」

モンの好物に、苺キャンディー、そして新たに正式にトマトが
追加されたし……。

「……モン、ま、また、君は……、とにかく今は何も考えないで
体を休めて、ね……?」

「うん、皆、有り難う、アルベルトも……、ふぁ……、不思議だな、
急に眠気が……」

カナトは座っているソファーの上に体を崩して横になる。慣れない
世界で緊張して相当疲れていたのだろう。眠ったと言う事は少しは
気持ちが安定して来たと言う事かも知れなかった。アイシャは近くに
あった布を毛布代わりにそっとカナトの上に掛けてやる。少し
カナトの状態が落ち着いたのを確認すると、ジャミル達は……。

「でも、これからどうするの?このままオイラ達と一緒に
行って貰う訳に行かないし、かと言って、天使界に一人で
置いておく訳にも……」

ダウドもカナトの方を見る。まだガーディアンとしての能力が少し
残っているお陰で暫くは此処にいられる。だが、いつ正式に完全な
人間化するのか分からない。そうなればカナトは天使界に居られ
なくなるからである。

「その辺は大丈夫、ちゃんと考えてる、アイツの所なら……」

「ジャミル、まさか……」

「あ、分かったわ!」

「……え、ええ?」

「リッカの処モンっ!?」

ジャミ公はイエース!とばかりに仲間達に親指をピッと立てた。
リッカの処なら……、と。

翌朝……。

「僕が……?その、キミ達の知り合いの処に……?」

「ああ、俺らのダチだよ、宿屋を経営してんのさ!どうだい?
暫くの間、其所で世話になって、働きながら色々覚えて生活して
みないか?」

「うん……、でも……」

カナトは不安そうな顔をする。それはそうかも知れないが、
とにかくジャミルは、何でもチャレンジ、この世界で
生きていく故に、まずは彼女の所で色々な事を経験し、
あれこれ覚えながら、お世話になるのがいいと思ったんである。

「最初は誰でもそうよ、でも、彼処の宿屋の人達はとっても
皆親切でいい人ばかりよ、直ぐに慣れるわ!」

「カナトは料理を作るのが得意だから、この世界のもっと色々な
料理も覚えられると思うよ!君の腕をもっと活かさなくちゃ!」

「でもさあ、どうも一人おっかないのが……、あうううーーっ!」

また、余計な事を口走りそうになるヘタレは、今度は四方八方から、
ゲンコツ、足を踏まれ、脇腹を突かれ、仕舞いには屁を放かれ、
頭を噛み付かれた……。

「……何だよおおおーーっ!!」

「とにかく、まずは地上に行ってみようぜ、全てはそれからだ、
ま、もし、駄目だって言われた場合も、他に幾らでも生活して
いく場所はあるさ、な?」

「うん、本当に有り難う、ジャミル、皆……」

カナトは普段通りのあの、心からの人懐こい笑顔を見せた。
ガーディアンとしてではなく、約束されていた死と言う運命と、
宿命から解放された、普通の人間の少年としての……。
そして、ジャミル達は久しぶりにサンディ、アギロが待つ
天の箱船へ。オムイ、ラフェット、天使界の皆に激励、
見送られながら、旅立つ。……必ず、最後の強大な敵に
打ち勝つと約束をして……。

「捻くれボウヤ、ホントーにこっちに来れて良かったネ!」

「うん、まだ色々と不安な事も多いけど、皆がいてくれるから、
大丈夫……」

「アギロ、紹介するよ、異世界でダチになったカナトだよ!」

ジャミルは船内にて改めてカナトをアギロに紹介。大体の事情は
昨日の時点でアギロに説明してある。アギロは腰に手を当て、
ほうほうほう、へえへえへえ、と、一人で頷き、カナトに握手を
求めた。カナトも丁寧にアギロに挨拶を。

「初めまして、アギロ、僕はカナトです、あの、此処とは
違う異世界から……」

「オウ、大体の話は其所のジャミ公と、後、其所に浮いてる、
ギャーギャーうるせーキャンペーンガールから聞いてるからよ、
ま、そんなに硬くなりんさんな、俺はアギロ!この天の箱船の
運転士だ!わはは!」

「ちょっ、テンチョー!うるせーキャンペーンガールって
何なんスかっ!ンモ~~ッ!!」

「宜しく、此方こそ、アギロ……、何だか凄くあなたから
懐かしい感じがします、初対面なのに……、とても不思議
ですね」

「……ま、まあ、そう言う事もあらあな、さ、地上までまだ
時間はたっぷりだ、お前さんも今の内に休んどきな!」

「はい、それでは……、失礼します……」

カナトはちょこちょこ歩き、座席に座る。そして又直ぐに
眠ってしまう。しかし、カナトとの会話を聞きながら、
見ていたジャミルは、何だかアギロが一瞬、カナトの
言葉を誤魔化した様にも見えた。

「……オラ、何してんだっ!ジャミ公っ!お前らもとっとと
席に座りやがれ!たくっ、俺に黙って数時間もいなくなるたぁ、
しかも異世界に行ってただとぅ!?この不良家出人共めっ!」

「あてっ!何だっつーのっ!大体異世界に送ったのはセレシア
だってのっ!セレシアからもう少し話があるんだって、そう言って
行ったじゃんか!」

「……そ、そうだったか?」

「ジャミル、いいから、カナトが起きちゃうよ、座ろうよ、
ほら……」

「……も~、アタシが一番最初にテンチョーにゲンコ食らったん
だってのッ!」

……アルベルトに宥められ、ブツクサ、仕方なしにジャミル達も
座席に座る。それにしても、ジャミル達が異世界で過ごした時間は
相当長かったが、待っているアギロ達にはやはり本の数時間程度
だったんだなあと。

「処で、お前さん達は地上に降りてから、セントシュタインに
行くんだって?」

「ああ、其所の城下町にダチがいてさ、……その、顔も見たいし……」

「分かったぜ!又、戦いが始まれば今度は本当に何時戻って
来れるか分かんねえからなっ!最後の決戦に備えてしっかり
休んで来いよっ!!……オラオラっ!!飛ばすぞーーっ!!」

「……きゃ、きゃーーっ!?」

「モォォーーンっ!?」

「また酔っちゃうよおおーー!!」

「神様神様、……姉さん姉さん、ごめんなさい、ごめんなさい……」

「……親父ィィーーっ!飛ばし過ぎだっつーのっ!!」

「すうすう、すう……」

調子に乗ったアギロは箱船を飛ばすスピードをハイレベルに……。
こんな状態でも微動だにせず、幸せそうに眠り続けるカナトを
見て、ジャミルは、やはり前世がゴールドドラゴンだったし、
大物だったからなあと。何はともあれ、ジャミル達は、休憩地も
これが最終地点となる、リッカの宿屋の有る、セントシュタインへ……。

「みんなー!すっごく久しぶりだねっ、何だか又逞しくなった
みたい!モンちゃんも、何か色が変わっちゃったねー!びっくりだよ!」

「モンー!モンも大人の階段昇ったんだモン!」

モンはそう言うとリッカに飛びつく。あはは、階段昇ったの?
モンちゃんてば相変わらず面白いねとリッカは笑う。……して、
和やかな雰囲気の中、4人組とモンはロビーにてリッカとの
再会を喜んでいる最中だった。だが、時刻は既に夜の22時を
回る直前。本当は昼間訪れたのだが、相変わらずの宿屋の
繁盛っぷりと宿屋に列を作り並ぶ客の波を目撃し、もう少し
落ち着いてから改めて……、と、言う処にロクサーヌが通り掛かり、
中へと案内してくれた。リッカにも話を通し、本日の客の応対が
落ち着くまで、特別に空いている客室をわざわざ提供してくれ、
時間まで待たせて貰う事に。ジャミ公の伝説の装備は相当目立つ為、
船内のアギロに預けてあり、また軽装の旅人の服へと着替えている。

「……で、久しぶりに来たって言うのは、そこのお子ちゃまの事?」

「そ、そうなんだよ、実はさ……、こうこうこうで……」

「あの、初めまして……、僕、カナトと言います、皆さん、
どうぞ宜しく……」

やはり、レナは変わらず、突っ慳貪な態度。挨拶したカナトの顔を
ジロジロ見る……。そして……。

「冗談じゃないわよっ!いきなり何の話かと思ったらっ!こんな
小さな子をウチで働かせて欲しいですって!?何考えてんのよっ、
アンタ達はっ!!どうしてこう厄介事を持ち込むワケ!?どう
考えても消防の後半じゃないのっ!そりゃあね、ウチはこれだけ
従業員いても手の足りない程毎日てんてこ舞いっ!だからってねっ!
お子ちゃまに助っ人頼む程落ちぶれちゃいないわよっ!!」

「レナ、でも、あなた、リッカが確か初めてウチに来た頃も、
同じ様な感じで騒いでいなかったかしら?」

「それはこれっ!なのよっ!幾ら何でもお子ちゃまの限度を
超えてるでしょっ!」

「う、うわ、やっぱりヒステリーキタ……」

「……ダウドっ!あ、あの、レナさん……」

「どうかお話、聞いて下さ……」

「……何よっっ!!」

何とか、もっと詳しく話を聞いて貰おうとするのだが、だが、
レナは聞く耳持たず。等のカナトはきょとん。凄いお姉さんだ
なあと、レナを眺めていた。ジャミ公はジャミ公で、また、
……プッツンキター!状態になりそうだった……。

「はいはい、レナも落ち着く、これ飲んで、冷たいお冷……」

「ロクサーヌっ!アンタもむかつくわねっ!相変わらずっ!
……げ、げふっ!」

「ふふ……」

レナはロクサーヌが運んで来た氷水をひったくると、がぶがぶ飲み干す。
そして、乱暴に再びお盆の上にガツンと置いた……。

「で、肝心のアンタはどうなのよ、この子を此処で雇うの?最終的に
アンタの判断だから私達はアンタに従うけどさ!」

「え、えーと、私ですか?はい、勿論いいと思いますけど!」

「あうち……、こ、これだから……」

「リッカ!」

アンタアンタの連発でレナはリッカにも意見を求める。勿論彼女は
OKらしい。ジャミルはリッカの返答に喜び、心から感謝。それ程
リッカは既に宿主として立派に成長し、既にレナも以前の様に彼女の
決める事に食って掛って行ったり、逆らう様な事はしなくなっていた。

「け、けど、この子のご両親はどうなの?小さいのに、ちゃんと許可は
取っているの!?」

「そ、そりゃ……」

レナは一番肝心な事、困った問題を突っ込んで来る。どう誤魔化すか、
ジャミルも困っていると、張本人のカナトがレナの前に出る。

「あの、僕、戦災孤児なんです、だからもう両親ともいません、でも、
ある程度、もっと小さな頃から物心付く前に父と母に色々教えられ
ましたので、それなりの事は出来ると思います、いえ、まだまだ僕も
半人前なんですけどね、これから先僕がどう生きていくのかも踏まえて、
もっと沢山の事を此処で教えて貰えたら……、と、思うんです」

「アンタ……」

ジャミル達は自分で自己PRを考えたカナトにナイス!カナトも
ジャミル達の方を向いて笑顔に。して、話を聞いた肝心のレナは……。

「……そ、そう言う事はもっと早く言いなさいよ……、お子ちゃまの
癖にやたらと態度がしっかりし過ぎてると思っだら、ぞんな事情が……、
何よ、ロクサーヌ、人の顔見て笑ってんじゃ無いわよっ!リッカっ!
じ、じばらぐ様子みなざい……、ハンカヂなんがびらないっだらっ!」

「はいっ、レナさん!カナト君も宜しくね!じゃあ、早速だけど、
明日から暫く見習い期間中として、お手伝いして貰って良いかな?
頑張ればお給料もUpだよ!」

「うん、有難う、リッカさん!」

「リッカでいいよ、そんなに年変わらないみたいだし、じゃあ、
私もカナトって呼ぶね、改めて宜しくね!」

「此方こそ、リッカ!」

カナトの真っ直ぐな心と態度が、レナの心を動かし、リッカも勿論
カナトを此処で雇ってくれる事を承諾してくれ、見守っていた
ジャミル達も笑顔で溢れ、本当にリッカの寛大さには感謝しか
なかった……。

翌朝……。

「な、なあ、ジャミル君達、ちょっと来てくれよ……」

「……?」

早朝、ジャミル達のルームに、1回切りの出演かと思われた、
モブ従業員のチョメ助さんが訪れる。そして、気付く。一緒に
寝ていた筈のカナトの姿が見えないと……。そして、廊下に出、
驚きの現場を目撃……。

「……一体何なのっ、この子はーーっ!」

「……うわ!」

「レナさん、お早うございます!お客様がお泊まりになっている
客室以外の宿屋内の朝のお掃除全て終わらせました!」

何と。カナトはもう既に起床。たった数時間、恐らく2時間ぐらい
かと思われるが、客室ルーム以外の宿屋内の掃除を全て一人で
終わらせてしまったらしい。しかも完璧にピカピカ、どこも
かしこも廊下にゴミ一つ落ちておらず、埃も見当たらず綺麗である。
余りの機敏さに、レナも雄叫びを上げていた……。

「本当に凄いねっ、カナトっ!もう正式に従業員さんにも昇格間違い
なし、大丈夫だよっ!」

「リッカ、本当!?嬉しいな!」

「リッカっ!調子に乗るんじゃ無いわよっ!あ、ま、また頭痛が……」

「ふふ、レナの負け~!」

「ロクサーヌっ!うるさいのよっ!!」

「な、すんごいな、あの子……、あの年で、プロ級だよ……」

「はは、ははは、最初から……、や、やり過ぎだっつーの……」

ジャミルの後に続き、部屋から出て来たアルベルト達も呆気に
取られる。一体何が起きたのかと……。そして、直ぐに状況を
理解し。カナトの笑顔を見て納得。

「カナト君、本当に素敵っ!」

「カナトはやっぱりスーパーマンモン!」

「むにゃむにゃ、むにゃむにゃだよお~……」

「汗」

カナトと対照的にヘタレは枕を抱えたまま、立って居眠りを
放いていた。冷や汗を掻くアルベルト。……そして、そのまま
この日、カナトの様子を見学する事にした4人だが。カナトは
仕事に就いたばかりとは言え、快進撃を続けた……。料理の
得意なカナトは何と。早速料理の腕を見込まれ、厨房を僅か
一日で任せて貰える様になったのである。そして、時間は過ぎ、
カナトの夕方の休憩時間となった。4人とカナトはロクサーヌに
作って貰ったおやつのドーナツを宿屋の外の庭で食べながら
寛いでいた。

「明日からね、お客様にお出しする食事の担当も任されたんだ、
取りあえず、最初は朝食のみだけどね、僕の作ったご飯を……、
沢山の人が食べてくれるんだと思うと、嬉しくて……、あ、この
お菓子も美味しいね、何て言うの?」

「ドーナツよ!カナト君は覚えるの、ホント早いから美味しいの
作れるわよ!……ホントにおいし~い!」

「おいしーモンモン!」

「おい、オメ、……ダイエット中じゃなかったんかい、別に
いいけどさ……」

「オトメの味方、低カロリー仕様よ♡って、ロクサーヌさん
言ってたのっ!だからいいのっ!」

「だ、だよね、これからはお菓子にも挑戦出来るし、カナトも
レシピの幅が広がるね!」

同じ様な顔をして言い訳しながらドーナツを口一杯もぐもぐする
アイシャとモンにアルベルトは吹きそうになるが、堪えて誤魔化す。
ダウドはダウドでマイペース……に、食べていた処、頭の上で
むしゃむしゃ食べているモンに、ドーナツの食いカスを頭に
溢される……。オールバック頭はチョコスプレー&シナモン
塗れになった……。

「けど、マジでスゲえな、カナト、本当はお前の作った料理、
食べていきたいんだけどよ、アギロも待たせてるしな……、もう、
出発しないとなんだ……、でも、これで安心して俺らも出発
出来そうだよ、ま、最初からそんな心配余計だったけどな!」

「そ、そんな事ないよ、僕なんかまだまだ……、でも、この世界の
空の状況を見ていると……、気持ちも不安になって来るよ……」

「……」

ジャミル達は暗い空を見上げる。既に地上には光が消え掛け、
天使界でラフェットから聞いた通り、昼間でも空を覆うずっと
雨空の様な暗い空だった……。エルギオスの闇が本当に世界へと
迫っている寸前だった……。

「必ず……、生きて戻ってくるからよ、その時は……、お前の料理、
腹一杯食わせてくれよ!楽しみにしてるからな!」

「うん、僕も……、頑張って、もっともっと……、料理の腕を
上げるよ、無事に帰って来た皆に沢山沢山美味しいご馳走を
食べて貰える様に!」

「ああ!」

「……トマトサラダも忘れないでね、モォ~ン……」

「勿論!ふふっ!」

「モォ~ン……」

カナトは愛おしそうに自分の所へ飛んで来てすり寄るモンの
頭を撫でる。同時に、暫くはジャミル達とも会えなくなって
しまうと言う寂しさも込み上げて来る……。

「やっぱり行っちゃうんだね、皆……、本当に長い長い旅なんだね……」

「リッカ……」

其所に……、宿屋から出て来たリッカも現れて。リッカも寂しげに
ジャミルを見つめる。

「また、絶対会おうぜ、カナトの事、宜しくな……」

「リッカ、またバイバイモン……」

「うん!絶対絶対又来てね!皆も約束!待ってるからね!」

「リッカ、君もどうか元気で、体に気を付けて、頑張って……」

「また……、さよならになっちゃうけど、絶対に又会おうね!」

「やっぱりお別れは辛いよお~、あうう~!」

「有難う、アルベルト、アイシャ、ダウド、モンちゃんも……、
私達、従業員一同、皆様のお越しを心よりお待ちしておりますっ!!」

「「有難うございました!!」」

「み、皆……!へへっ、行ってくるなっ!!」

リッカの言葉に続く様に、宿屋から従業員達が出て来て、ジャミル達に
頭を下げる。ロクサーヌ、そして、レナまで……。見送ってくれたの
だった。最後に、全くとんでもないアナを良くも押しつけて行ったわねっ!
悔しいっ!と、嫌味を言っていたが。今回は外出していたルイーダには
会えなかったのが此処残りではあった物の……。皆に別れを告げ、箱船は
愈々、ジャミル達の戦いの終わり、旅の終着地点である、神の国へと向かう
……。

「皆、有難う、自分の道を見つけられたのも、新しい僕になれたのも、
皆と出会えたお陰……、又、絶対会おう、僕も負けないよ、頑張るから……」

天の箱船・船内にて……。箱船は魔の巣窟へと着々と進んでいる。
皆は箱船が付く前に、せめてもの束の間の時間をと、もう少しだけ
コミュを皆で楽しんでいた。アイシャは天使界でラフェットが
探して来てくれた装備品に身を包み、嬉しそう。アイシャには
光のドレス、黄金のティアラ、アルベルトにはミラーアーマー、
それと、全員に力の盾をプレゼントしてくれた。これは道具として
使ってもベホイミが使える回復アイテムの効果が有り、盾を装備
出来ないジャミルにも大助かりの物だった。

「そうか、カナトの坊主は無事、職も貰って落ち着いたかい、
あんなに小せえのに本当、良くやったモンだな……」

「うふふ、皆びっくりしていたわ!宿屋の従業員さん達!ね、
ジャミル!」

「ん?ま、まあな……」

「戦いが終わったら、カナトとモンでトマト屋さん一緒に
やるんだモン!」

「……トマト屋さんて……、ま、まあ、夢を持つのは良い事だよ、
うん……」

「ふん、アンタはデブ座布団屋よ!ネ、スーパーデブ座布団!」

「意味分かんねえモン!シャーー!」

モンは少しづつ大人になっている?が、最近は少し、口調まで
飼い主に似て来てしまった模様。

「……酷いよおおー!モン、将来はオイラと一緒に大道芸人で
太鼓叩くんだって約束、忘れたのっ!?オイラを裏切るのね!?」

「モ、モン……?」

「よし、オメエさん達、お喋りは其所までだ、愈々付くぞ、
神の国へな……、もう一度言うが、心構え、回復アイテム、
全部準備は出来てんだろうな!?」

「……」

さっきまで騒いでいた皆は会話を止め、息を飲む。本当に、
エルギオスとの決戦が近づいて来ている。もう後戻りは
出来ないのだと……。

「後戻り出来ますよ、ほら!」

「……ダウドっ!君も往生際が悪いっ!」

「前向いて後ろ歩きで歩いてるだけじゃねえか!何が後戻りだっ!
お、お?」


ブッブ!ブブブブッ!!


……それこそ船内中に煙が立込める様な、もの凄いおならを
突如誰かが放出した。

「ジャミル、モンっ!君達もっ!こんな処まで来ていい加減にしろっ!!」

「んだよっ!腹黒っ!まーた俺の所為にすんのかよっ!!今のは
ぜってー違うぞっ!」

「モンもやってないモン!モン、あんなおならの音低くないモンっ!!」

「おう、おめえらっ、屁ぐれえで大の男がガタガタ騒いでんじゃ
ねえぞ!もっと大人になれってんだよっ!バカ野郎!!」

……騒ぐガキ共を諭すアギロを見、今回のおならの犯人が直ぐに
分かったサンディであるが、取りあえず黙っている事に……。

「はあ~、テンチョーってば、おならのボスにまでなっちゃったの
かあ~……、っと!?」

「……うわ!?」

「きゃあっ!?」

突如、船がガタガタ大きく揺れ始めた……。アイシャは咄嗟に
ジャミルに抱き着いてしまう。

「あ、アイシャ……、おい……、その……」

「!!きゃ!ご、ごめんなさいっ!ジャミルっ!!わざとじゃ
ないのっ!!」

アイシャは慌ててジャミルから離れるが。嫌、別にいいんだけどよ……、
と、心で思い、頭を掻いた……。

「おい、あれ見てみろ!お前ら……」

「あ、ああっ!?」

揺れが治まり、一同アギロの言葉に皆車両の窓から顔を出す。
美しかった神の国が見る影も無い程、崩壊を始めたのである……。
地中から生えてくる、謎のツタの様な物……、一つに纏まった
かと思うと、これまた巨大な大樹に変貌。みるみる内に、何と
8階建ての見ているだけで気分が悪くなる様な、グロテスクで
不気味なダンジョンへと更に変貌した……。

「な、なんだありゃあ!?」

「……あれもエルキモすのシワザ!?なんちゅ~キミわる~……」

「いやああーーっ!彼処入るのーーっ!うっそでしょーーっ!!」

「泣いても喚いても行くんだっつーのっ!行くしかねえんだよっ、
分かってるなっ、ダウドっ!!」

「あうう~、分かってるよお~……」

真剣な目でダウドを見つめるジャミルに、流石に何もダウドも
言えなくなった。

「ま、これで最後だかんネっ、気合い入れていきましょーかッ!
んじゃ、テンチョー、行ってくるネっ!」

「おう、お前ら、サンディの事、呉々も宜しく頼むわ!どうせ
最後まで迷惑掛けると思うけどよ!」

「ちょ、何でアタシになるんスかっ!」

「……じゃあ、アギロ、行ってくるな、直ぐに戻ってくるから、
絶対……」

「行って来ます、アギロさん、此処まで有難うございました……」

「私達、絶対勝ちます!負けないんだからっ!!」

「さようならあ~、なるべく早く迎えに来てねえ~……」

「モンモン、モンも頑張るモン!」

「……オウ、おめえらっ、分かってると思うけど、絶対に
無理はすんな!危ねえと思ったらいつでも船を呼べ、直ぐに
駆け付けるからよ!」

代表でジャミルの肩を強く掴み、アギロが叱咤激励。その言葉に
応えるかの様にジャミルも強く、ああっ!と、返事を返した。

「よしっ、最終決戦突入っ!お前らっ、行くぞおおーーっ!!」

「「おおーーっ!!」」

「ジャミ公、皆、必ず勝てよ、絶対にな!」

……宿敵の本拠地に今雅に、最後の戦いへと赴く、小さな4人の
勇者の姿をアギロはずっと見つめていた……。戦いに打ち勝ち、
必ず又、此処に迎えに来れる日を信じて……。

「あ、足場無いじゃん!渡れないよお!」

騒ぐダウド。ダンジョンの入り口まで、道が無い。だが、
以前の時と同じ様に、一歩足を踏み出すと、光の渡場が出来、
ちゃんと通れる様になっていた。

「大丈夫だよ、ダウド、さあ行こう!」

「ちゃんと渡れるわよ、心配ないわ!」

「……ちっ」

「おい、今、何か言ったか?ダウド……」

「何でもないですうーーっ!」

出来た足場を渡り進んで行く4人。この先に何が待ち受けて
いても、完全に後戻りは出来ない。只管前に進むだけだと……。

「あっ、またダウドが後ろに下がりそうモンっ!」

「下がるんじゃねえって言ってんだろっ!」

「……前に進むんだよっ!!ほらほらっ!!」

「……ちっ!」

「も、もう~、ダウドったらっ!」

「全くもう、最後までこれだもん、あ~あ、ホントにアタシ達、
どーなっちゃうんでしょーねって感じっ!」

こうして、ラストダンジョンへの幕開けもしっちゃかめっちゃかで
スタート。勝利の女神は果たして4人組に微笑んでくれるのだろうか……。

光の渡場を通り、愈々ラストダンジョン前の聳え立つ扉の前へと
辿り着いた4人。処が、此処でもこの話ならではの予想もして
いなかった大騒動が起きるのである……。

「この先に……、行こうぜ、皆!」

「ああ!」

「大丈夫、大丈夫よ!」

「はあ、毎度の事だけど、ラストが近づくとさあ~、憂鬱に
なるこの心情、誰か分かって……アイタタタ!!」

ヘタレるダウドの頭に噛み付くモン。まあ、それがヘタレ
なのではあるが。

「怖いのは皆同じだって何回も言ってるモン!ウシャーー!」

「……全く!サ、こんなヘタレほっといてさっさと中に
入っちゃおうよ!おや?ねーねー、ちょっとこっち来てみー!」

サンディ、扉の更に隣の扉に気づく。呼ばれたジャミル達も
行ってみる。

「ん~、こっちからじゃ開かねえよ、無理だ……」

「中からじゃないと開かないのかもね……」

「あ、アーーッ!この扉開ければ、何だかチートの予感が
するのにーーっ!」

「何言ってるのよ、ダウドはっ!もうっ!モンちゃん、行きましょ!」

「ウシャー!」

ヘタレ暴言連発のダウドにアイシャも呆れ気味。モンを連れ、
先にさっきの扉の前まで戻ろうとするが……。

「……?きゃ、モンちゃんがっ!?」

「うわあーーっ!マポレーナモンの大群だよおーーっ!!
……頭噛み付かれるーーっ!!」

「マジ……?」

「モンっ!?」

「モン、モン、モン、モン……、ウシャ、ウシャ……」

いつの間にか目の前に集まっていたのは、モンと同じ種族の……、
マポレーナ集団……。此方はエルギオスを慕う物として、彼に
忠誠を誓っているらしかったが……。実際、今までもモンに
気を遣い、ピンクモーモン等も、なるべくぶつからない様に、
戦うのを避けて来たんである……。

「……デブ座布団も積もれば山になるって奴……?」

「サンディ!うるさいモン!!」

「どうしよう、ジャミル……」

「どうしよう言われても、モンのいる手前、どうにか戦いを
回避してやるしか……、けど……」

アルベルトの方を横目で見るジャミル。するとモンが……。

「モン、モンは皆の言葉がわかるモン、モンが皆とお話し
してみるモン!……モン、モン、モン、モン……」

「……モン、モン、モン、モンブーー!!」

モンとマポレーナの代表モンが向かい会い、会話を始めた。
代表者の方は異様に年を食っており、お年寄りの様にも見えた……。

「モンちゃん、何てお話をしてるのかしら……」

「……アイシャ、僕達は此処は黙って見守ろう……」

「恐らく説得しようとしてくれてんだろうな、難しいかも
知れねえけど、少しでも戦いが回避出来ると俺らも助かる
からよ、モン、頼む……」

「モンモン言ってるだけじゃないかあ~……」

「ヘタレっ!じゃあ、アンタ何か出来んのッ!?」

「うう~……」

モンとマポレーナ達の交渉?を暫く見守る事にした4人。
どうか説得が上手く行く様にと祈るばかりだった……。

「みんな、お願い、もうこんな事止めるモン!エルギオスに
なんか従っちゃ駄目モン!」

「うるさい!お前はマポレーナ族の風上にも置けんクズモンじゃ!
しかも若造の癖に糞生意気な!その上人間なんかと連むとは!
最悪のクズモンじゃ……!!人間は我らを幸運を掴む為と、
捕らえて酷い事をしたり、時には平気で抹消しようとする!
冗談では
ないモンじゃ!」

「……ジャミルはモンを助けてくれたモン、モンはジャミルや
皆が大好きモン!他のモンスター達だって悪い事するから、
仕方なしに皆戦ってるのモン!」

「だまらっしゃいモン!エルギオス様こそが正義!あのお方こそが、
我らに幸せを運んできてくれるお方なんじゃモンじゃ!」

「おいおい、大丈夫か?何か返って酷くなって来てねえ?」

「は、ははは……」

「モンちゃん、が、頑張って……」

「だから言ったんだよお~……」

見守っているジャミ公達も心配な雰囲気になって来ていた。人間と
会話出来ない他のマポレーナ達の様子を見ていると、モギャモギャ
聞こえるだけであり、モンと話をしている年寄りのマポレーナが
今にも噴火しそうなのが分かる……。

「……お願いモン!怒らないでちゃんとお話聞いてモン!」

「やかましいわ!我らは此処で戦うモンじゃ!死んでも構わん!
人間の味方をする貴様はマポレーナなどと認めん!其所の人間
共々断固戦いを申し込んでやるモンじゃ!……モンじゃ?」

「モォォ~~ン!!」

「な、何だっ!?」

「ジャミル、大変よっ!!」

突如、状況は一転する……。突如、集まっていたマポレーナ達が
いきなり空へと巻き上げられ、何かに吸い込まれて行った……。
年寄りマポレーナも……。

「モォォ~~ン……」

「……皆、あ、あれをっ!!」

アルベルトの言葉に全員が改めて空を見上げると……。大樹の
根枝の一本に乗った、謎の人物らしき奴が、掃除機の様な物を構え、
空中に向けているんである……。

「おほほ!幸せを呼ぶマポレーナ、マポレーナ掃除機で
捕獲ゲットなのねー!」

「のねー!」

「のねー!」

「……なのね?のね……?」

その台詞だけで4人はとてつも無く嫌な悪寒を感じ……、そして
悪寒の正体と直ぐに遭遇してしまうのだった……。

「……糞バカ3兄弟かっ!幾ら何でもんな処まで来るなっつーのっ!
限度超えてもう非常識すぎんだろっ!!」

「「何度でも登場!カネの為なら何でもやるよ!?カネネーノネー
3兄弟見参!!」」

今回はカラコタで色々と妨害をしてくれた。それでは気が収らず、
負けた腹癒せなのか最後の最後でま~た出て来てしまったんで
ある……。

「いい加減にしろって言っても聞く様な奴等じゃないからね、
もう此処は黙って排除しよう……」

「うえっ、相変わらずキンも~なんですケド……」

「待って、アルベルト!皆があいつらに捕まっちゃってるモン!」

「そ、そっか……、変態を刺激しちゃ駄目だよお、アル!」

「ホントにいつもいつも酷い事ばっかりっ!呆れてもう物が
言えないわっ!」

「なろおお~……、人質さえいなけりゃ、あんな糞……」

奴等はマポレーナ達を捕らえ、人質に取っている……。相変わらずの
卑劣な行為、そして、悲痛なモンの訴えに、ジャミル達は又も
糞兄弟を黙って睨んでいる事しか現時点では出来ず……。

「ヲホホ!……あ、アニキ、やっぱりアニキはバカなのね!」

「バカなのね!」

「……何デスと、なのね……?」

「マポレーナ、あそこ一匹だけ吸い込んでないのね!しかも喋る
マポレーナなのね!」

「レア物なのね!だからアニキはバカなのね!……しかももう掃除機の
バッテリー切れたのね!」

「……うるさいのねーっ!低地脳のおおお、うォメーラに言われる
筋合いわあーーっ!!」

「……はあ」

どうやら、吸い逃がしたレアマポレーナとは、言うまでも無く、
モンの事。いつも通り、バカ兄弟達は責任の押し付け合いで
殴り合いのケンカを始め、掃除機の監視をほっぽり出す。その隙に
モンが相変わらず短い手で必死に掃除機を抱え、ジャミル達の方へと
飛んで来た。

「……ジャミルー!これ破壊してモン!」

「やるじゃん!スーパーデブ座布団!」

「よしっ!任せなっ!……の、野郎ーー!」

ジャミ公は伝説の剣でマポレーナ吸い込み掃除機を破壊し、
取り込まれていたマポレーナ達を救助。助け出された
マポレーナ達は、何が何だか分からんと言った感じで、
きょとんとし、宙にふわふわ浮かんでいた。更に、その後……。

「悪ィけどな、いや、全然悪くねえけど、時間ねえんで、
……とっとと落ちて死んでくれーーっ!!」

話を長引かせない為、ジャミ公は揉めているバカ兄弟達に迫ると、
奴等を下へと蹴り落とし、バカ兄弟は地上に落下して行った……。


「「おーぼえてーろおおーーーなのねええーーー!!」」


「はあ、その台詞、一体何回言うのさ、けど、モン、良かったねえ!」

「うふふっ!」

「モンモン!」

「やれやれだね……、ふう……、全くもう……」

笑いながらモンと共に喜び合うダウドとアイシャの姿に……。
救出されたマポレーナ達は暫くその様子を眺めていた。
そして……。

「……」

「あ、マポレーナ達、行っちゃうよっ!スーパーデブ座布団、
いいのっ!?」

「……これでいいんだモン、マポレーナさん達、きっとジャミル達が
悪い人間じゃないって分かってくれたモン、モンはそう思いたいモン……」

「だと、いいな……」

「モォ~ン……、モンには大好きな友達がいるから……、大丈夫モン……」

何処可へと、ふわふわ飛んで行くマポレーナ達の姿を見つめる
4人とモン。完全に打ち解けた訳では無いが、戦いを挑まないで
そのまま去って行ってくれたのはきっと……。ジャミルはモンの
頭をわしわし撫でながらそう思うのだった。

zoku勇者 ドラクエⅨ編 90

zoku勇者 ドラクエⅨ編 90

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-16

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work