【第11話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました
ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。
そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。
横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。
だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。
【 第11話 未知なる能力④】
血塗れの床に佇む俺自身が一番信じられなかった。
さっきまで非力な回復術士だった男が、岩から作り出した短剣一本で百匹近いゴブリンを屠ったのだ。
周囲のゴブリンたちは俺を見るなり、まるで猛獣でも目の当たりにしたかのように後ずさりし始めた。
(嘘だろ……俺が……やったのか?)
俺の手にはまだ岩の感触が残っている。
しかも今もなお右手が疼く。
まるで体内に眠っていた何かが目覚めたかのようだった。
「なんで……こんな力が……?」
回復術士である俺がたった一人でゴブリンの集団を半壊させてしまった。
残りのゴブリンも戦意を失いつつある。
そのとき――
「グゥゥ……」
低い唸り声が洞窟全体に響いた。
思わず身構える。
グオオォォーン!
鼓膜を突き破るような咆哮が洞窟を揺るがした。
天井から砂塵がパラパラと落ちてくる。
ズシン……ズシン……
重々しい足音が近づいてくる。
薄暗い通路の奥から現れたのは――
「なんだ……あれは……」
身長は優に2メートルを超えている。
筋肉の束が鎧のように隆起し、苔色の皮膚には幾筋もの古傷が刻まれていた。
片手には成人男性の胴体ほどもある巨大な石斧を握りしめている。
柄からは黒い瘴気が立ち昇っていた。
爛々と赤く光る双眸は飢えた獣のそれだった。
ゴブリンキング……!?
知識でしか知らなかった化物。
下級ゴブリンとは次元が違う上位種。
街一つを単独で壊滅させるという災害級の存在だ。
だが――
恐怖は感じない。
むしろ胸の奥から熱いものが湧き上がってくるのを感じる。
「グオオォォッ!!」
ゴブリンキングの咆哮に応じるように、壁際に散っていたゴブリンたちが一斉に駆け寄ってくる。
親玉に鼓舞され奮起したのだろう。
「ちっ!」
舌打ちしながら剣を構える。ゴブリンが四方八方から飛びかかってくる!
「はああっ!」
剣を振るう。ゴブリンの首が飛び胴が裂ける。
血飛沫が俺の体を赤く染める。
「グギャァァッ!」
断末魔の悲鳴を上げて倒れていく。
残っていたゴブリンたちはあっという間に全滅した。
「グゥゥ……」
ゴブリンキングが唸り声を上げる。
手下が全滅したというのに焦る様子はない。
むしろ楽しんでいるように見える。
「グルル……ッ!」
ゴブリンキングが両足に力を込めた。
地面が震え、その巨体が飛びかかってくる!
「ゴオオォォッ!!」
巨大な石斧が真上から振り下ろされた。
ガキィーンッ!
刃と刃が激突した。
だが……なんだこの軽さは?
予想していた衝撃の百分の一にも満たない感触。
俺は右手に握った岩剣で易々とゴブリンキングの一撃を受け止めていた。
「グギギ……」
ゴブリンキングが目を細めて唸る。
その顔には明らかな困惑が浮かんでいた。
「グルアアァッ!!」
怒りに任せて両手で斧を叩きつけてくる。
右から! 下から! 上から!
嵐のような連撃が襲いかかる。
カーン! シュッ!
俺の剣はその全てを難なく弾き返していく。
まるで風に舞う木の葉のように。
「あれ? これ……思ったより……軽い……?」
なぜだ? なぜこの化物の一撃がこれほどまでに軽く感じる?
俺の体は微動だにしない。むしろ戦闘が続くにつれて体が温まってきた感覚すらある。
「グオオッ!!」
焦燥感に駆られたゴブリンキングの額に青筋が浮かぶ。
汗が滲み荒い息遣いが洞窟に響く。
その時だった――
「グオオッ……!」
ゴブリンキングが両腕を広げた。
全身から赤黒いオーラが噴き上がる。
筋力・速度・耐久力全てを極限まで高める強化魔法だ。
「ウガアアッ!!」
洞窟を震わす雄叫びと共に、その巨体が一瞬で消えた。
目にも止まらぬ速さで俺に迫る!
「はっ!?」
右から! 下から! 上から!
石斧の軌道が複雑な螺旋を描きながら襲いかかる!
シュバッ!
ズババッ!
だが俺の剣はそれを完全に読み切っていた。
「グ……ガァ……ッ!?」
ゴブリンキングの右腕が宙を舞った。
肘から下が切断され斧ごと地面を転がる。
「グオオッ!!」
激痛と怒りで絶叫する。
だが俺は止まらない。
「終わりだ」
静かに呟くと腰だめに構えた剣を一気に踏み込ませる。
「はああっ!」
剣が空を切り裂く。
次の刹那――
ズバァッ!
ゴブリンキングの太い首筋に剣が深々と突き刺さった。
「グ……オオッ……!!」
最期の咆哮が洞窟に響き渡り
その巨体がゆっくりと崩れ落ちていく……
ドッスン!
鈍い音を立てて地面に倒れ込むと同時に
その頭部がゴロリと転がった。
血の海に沈んだゴブリンキングを前に俺は剣を捨てる。
剣は崩れ、土に還っていった。
「……」
何も言えなかった。
ただ呆然と立ち尽くす。
手のひらには岩を削った感触が
胸の奥には熱いものがいまだに込み上げてくる。
俺は……いったい、どうしたんだ。
洞窟の中に再び静寂が広がっていく――。
【次回に続く】
【第11話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました