きみと紫苑

#1

 最近通学のために使う時間帯の駅にきみがいることには気づいていた。でも敢えて声をかけていなかった。でもある時
「私のこと覚えてる?」って泣きながら俺に尋ねてきたよね。
 覚えているよ。君と過ごした6ヶ月を。

#2

 俺は初めてきみを見た時、こんなに笑う人っているんだって思ったんだ。いつも無表情や怖そうだとか言われる俺だけどきみが何も気にしない風に笑うから俺もつられて笑った記憶があるよ。
 きみはよく俺のバスケの試合を応援しにきていたよね。きみは優しいから他の選手にも差し入れ渡してたりしてすこしヤキモチ妬いたのを覚えてる。きみはバスケなんてよく知らないくせによく俺にバスケのことを聞いてきたよね。俺はあの当時バスケが本当に好きだったからきみに聞かれたことは全て教えていたよね。教えてあげるときみは嬉しそうに笑うからそれが俺は嬉しかった。
 きみが俺に告白してくれた日。今まで何度か告白されることはあったけどきみからの告白はいつもと違った。いつもニコニコしてるきみが緊張気味でこわばった顔しててそれも全てが愛おしかった。でも、付き合ってくださいっていうのは俺から言おうって思った。後日、俺もきみのことが好きだって言うことを伝えた。無意識のうちにきみの頭を撫でていて、きみはすごく嬉しそうな今にも泣きそうな顔をしていた。
 別の日に、
「俺と付き合って下さい」って人生初告白したら
「はい」って嬉しそうに笑ってハグしたね。
あの時間は幸せそのものだったよ。
 でもねひとつやり直したいことがあるとするならばきみを振ったあの日だよね。俺は結局未熟だった。きみを悲しませてしまった。別れてから、きみは俺と距離を置いたよね。俺もそのまま距離を置いてしまった。すごく後悔してる。謝りたい。そうずっと思っていたよ。もう二度と自分が好きだった相手を悲しませないって誓ったのもあの日だ。

#3

 へえ、きみ結婚したんだね。きっと優しいきみのことだからこのことを僕に伝えるかすごく悩んだはずだ。わざわざ呼び止めてまで、カフェにまで誘ってくれてありがとう。きみたちの元へ生まれてくる子はすごく幸せだろうなぁ。できることならきみと一生を歩みたかったよ。笑えるでしょ。俺からきみとの未来を終わらせたのにね。
 「来世はあなたとがいい」
俺は目を丸くしたよ。俯きながら悲しそうな顔で言うんだから。すごくびっくりした。でも、きっと無理だよ。きみはこれから何十年もの人生をきみの結婚相手と過ごしていくのだろう。いずれは孫やその先も。だから、俺のことはどうか忘れてくれ。約束通りきみのことは忘れないから。だから俺のことは忘れてくれ。
 そうするときみは笑って、
「お幸せに」それだけ言い残して帰って行った。

 俺の最初で最後の愛人へ。

きみと紫苑

きみと紫苑

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-12

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