穢れ

 自分の素性をさらすほどに、皆遠ざかっていった。自分の本来持っている性格に欠損があることは自覚しているつもりではいる。しかし、自分が特有の問題を提示しているために遠ざけられているのではないかという、歪んだ被害者意識を持っているところもある。自分はまだ言葉にできていない。文学の感受性がそこそこ豊かだった時期に、その感受性を労働と科学と工業で押しつぶした痛みをまだ言葉にできていない。このあたりを少しでも言葉で表現しようとすると、誰もがそっぽを向いた。特に人文好きの人ほど毛嫌いした。それはもう汚いものを見るような目であった。スマホもインターネットも大好きなくせに。ひどいものだと思った。スマホもパソコンも冷蔵庫もどこかから勝手に湧いて出てくるものだと思っているようだった。古典作品を読み込んだ人ほど、無意識のうちに生産を穢れ扱いする視点を身に着けていることがよくある。科学技術を脅威のように扱いながら、実際のところ生産を穢れだと思っているのだ。そういう仕打ちにはさんざんあってきた。今までものすごく我慢してきた。こっちが何も言わなければ何を言ってもいいと思っているみたいだ。日本は貧しくなっていくし、今後様々な問題も出てくると思うけれど、それでも豊かな都市社会はそれなりに維持されると思っている。生産は穢れ扱いされたままだろう。何も考えずにスマホを使いながら平気で唯物論批判する精神もどうかと思うけれど。そんなに唯物論が嫌いならスマホを破棄してみればいいのにそれは絶対にやらない。なぜなら、生産に携わる人間を奴隷だと思っているからだ。古典をたくさん読んだらそうなるのはしかたないかもな(そんなに古典を読んだわけでもないから偏見はあるだろう)。機械というものは簡単にどこかから出てくるものだと思っている。

 唯物論批判する人たちは自分には貴族にしか見えない。それでも世間では、そういう人たちの方が高貴な疎外者として見てくれる。たくさん本読んで、資本主義批判して大衆批判していればいいらしい。まあ自分もたくさん読んでいる側の人間だけれど。そりゃ自分だってもともとそういう性分の人間だと思う。俺だってそっちの側にいきたかったよ。宗教を見直そうとか、拝金主義の問題点とか言って。でも私は無理をして我慢をして技術者としてがんばって働いてしまったから、そこでおかしくなってしまった。生産側から見た視点を持ってしまった。何事も物質的に解釈する世界観を深く身に着けてしまった。それを披露すると毛虫のように扱ってくる人たちがいた。何を言ってもいいと思っているみたいだね。何も考えずに機械を使っているくせに。

 科学技術を身に着けてしまったのだから後戻りはできないのだろう。みんなひどいと思った。悪人だと思った。神の不在とか、死が大事とかいいながら、都市社会での生活を満喫している。痴呆なのはあんたらじゃないのか。まあ今では自分も抜け殻になって働いていない人間だから、いくらでも批判されるだろうけれど。普段はあまり特定の人に向けて攻撃的な言動はしないようにしている。だから普段はものすごく我慢している。それに自分は人に攻撃する場合は、自分もその対象にするべきだとは思っている。でも、もうそろそろ限界がきた。何を言ってもいいと思っているみたいだから。消費者の視点しか持ってない人にそこまでぼろくそに言われる筋合いはない。

 中世から近代にかけてどれだけ人間の生活が変わってしまったか。物質的観点からの考察は不可欠だ。これをみんなやりたがらない。どうしてこんなことになってしまったのかとかいって、平気で現代文明批判を繰り広げる。あまりにも軽薄で愚鈍だと思う。物質の方に目を配りながら、人文学の方も目配りするなんて誰もやりたくない。両方に感受性を開こうとすると壊れる。

 自分の苦しみを少しでも表現しようとすると、穢れ扱いされることがわかってきた。死ねということなのかな。でも自分は根が酷薄なので、生きようとすると思う。わからない。耐えられなくなってしまうかもしれない。文学はもうその役割を終えたのだろう。近代ってものすごい時代だったから。あんな時代が何度もやってくるわけないだろう。自分の生きづらさを文章にしようとすると、えらく反感を買うことがわかってきた。穢れ扱いしてくる人たちがいた。私ほど科学技術に押しつぶされ、壊された人間はいないと思う。それでも私を科学技術に味方する人間だと思って批判する人たちがいた。悪魔だと思った。

 それにしてもぼろくそに言われてきたな。自分の生きづらさをできるだけ言葉にしようとすると嫌がられることがわかってきた。これは要するに死ねということだと思うけれど、やっぱり死にたくないな。自分の性格を治癒したいがどうにもならない。自分は欲望と俗情が強いとは思う。自分みたいな人間には何を言ってもいいと思っているらしい。

穢れ

穢れ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-11

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