【第8話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました
ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。
そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。
横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。
だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。
【第8話 未知なる能力①】
馬はフェリシア王国領内の森をゆっくりと進んでいた。
雨はすっかり上がり陽射しが木々の間から差し込んでいる。
アメリアは布を外し濡れた髪を振った。
「とりあえず、王都の方を目指しましょ。身の振り方を考えるのはその後ね」
「王都か……」
少し不安を感じつつも頷く。
―――というのも、俺とアメリアはこの地に詳しくない。
隣国とはいえ、来た事の無い国だ。
せいぜい、地図で王都がある場所を覚えている程度だ。
土地勘などない。
「・・・まいったわ」
「どうしたんだ?」
「コンパスが壊れちゃったみたい。正確な方角がわからないわ」
「マジで?」
「ええ。とりあえず、地図の記憶を頼りに北に向かってるけど」
魔物討伐の任務で使っていたコンパスだったが、ついに壊れてしまったらしい。
元々古かったし寿命だろう。
「それにしても森の中って結構危ないんじゃ。夜になるとさらに危険だって言うし」
「まあ、ね。だからといって迂回してる暇もないわよ」
「この辺りに村や集落は無かったっけ?」
「ん~……あったような気もするけど……。
そこまではっきりとは覚えてないのよね」
仕方のない話だ。
知らない国の地形なんてそう簡単には覚えられない。
それに帝国領を脱出するなんて夢にも思わなかったんだから準備のしようなどない。
・・・正直なところ不安だらけだがアメリアはいつも通りの調子だ。
さすが騎士様って感じだけど。
「どうしたのよ。急にニコニコしちゃって」
「いや、アメリアらしいなって」
「なによ。それ、褒め言葉??」
「・・・多分」
「ひどーい!」
アメリアは抗議するように言ったがその表情はどこか楽しそうだ。
俺は彼女の肩越しに見える景色を眺めていた。
日没が近づいているのか空が赤く染まり始めている。
突然──
グルルル・・・。
遠くから低い唸り声が聞こえてきた。
俺は緊張した面持ちで辺りを見回した。
「アメリア・・・?」
「魔物ね。囲まれている」
アメリアの表情が変わった。
先ほどまでとは違い真剣な眼差しをしている。
俺の心臓が早鐘のように打つ。
「ルークは馬を乗ってて」
「あ、ああ・・・」
アメリアは素早く馬から飛び降り、鞘から剣を引き抜く。
馬も危険を察知したのか落ち着きなく動き出した。
「大丈夫。ここにいてね」
アメリアは馬の鼻面を優しく撫でた。
次の瞬間、森の奥から灰色の影が飛び出してきた。
狼型の魔物だ。
鋭い牙が光り涎が滴り落ちる。
だが、アメリアの動きは素早かった。
ガキン!
魔物の牙が彼女の喉元に届く前に剣が一閃した。
魔物の首が宙を舞い地面に落ちる。
だが、それと同時に新たな魔物が一斉に襲いかかってきた。
1匹や2匹ではない。少なくとも10匹以上はいるだろう。
「ざっと16匹ってところかしら。
大した数じゃなくてよかったわ」
一瞬で魔物の数を把握するアメリア。
余裕の表情で微笑み
ズバッ! ブシャッ! ズシュッ!!
そして次々と剣を振るい魔物を切り伏せていく。
その動きは流れるようで隙がない。
俺は馬に乗ったまま彼女の戦いを見守っていた。
あまりにも鮮やかな剣技に目を奪われる。
「すごい・・・」
アメリアはまるでダンスでも踊るように魔物を斬り捨てていく。
彼女の周りには血飛沫が舞い上がっていたが
その姿はまるで戦女神のように美しかった。
「・・・ねぇ」
「なに~?」
「アメリアってさ、もしかして騎士団長のダグラスよりも強いんじゃないの?」
「う~ん。どうかしら?」
アメリアは血振りして剣を鞘に戻した。
周囲には魔物の死骸が散乱している。
全ての魔物を倒し終えたようだ。
【次回に続く】
【第8話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました