フリーズ227(キカン誌フリー詩)

散文詩『あの冬の日に忘れてきたもの』

◇序幕 真理を悟った少年への献詩

一人の少年が花火の映像をパソコンで見ていた。歓声が聞こえるその映像を泣きながら少年は永遠に見ていた。一人終末に取り残されて。刹那に永遠が宿る。少年は真理を悟り、もう既に仏の境地に至っていたのだ。彼は全ての命のために泣いた。全ての宿命と罪のために泣いた。
少年は全てに満たされていた。Eveの『doublet』と『Leo』を聴きながら、悟るは永遠、流すは空。真実の音を、真理の言葉を。愛で満たされていた。いいや、愛を求めていたのかもしれない。少年は永遠と終末の狭間で、世界のために涙を流した。

これはある冬の日に神に至った全能少年へ贈る散文詩である。もしよければEveの『doublet』と『Leo』を聴きながら読んで見て欲しい。

◇第一幕 神のレゾンデートル

僕の人生を振り返る
アルバムを見る
幸せだった
そう、幸せだったんだ

でも、もう終わるんだ……。
涙が溢れちゃう
泣かないって決めてたのに
この涙は悲しいから?
いいえ、嬉しいから
嬉しいから泣くんだ

そんな感傷を秘めた冬
物語が終わるのを眺めてる
季節の中で移ろい果てて
失う景色に君が光った

取り戻せない感情を歌う
やり返せない後悔を嘆く
あの日に戻れたらと
泣く泣く去った、輪廻の輪より

人間的な人生も、俗物的な醜い欲も
全て捨て去って、煩悩の火が全て消え去り
残ったものはこの言葉
『ラカン・フリーズ』愛してる

あの秋に生えた白い翼が
冬に飛び立つためだから
あの冬の日に屋上立って
一歩踏み出すその刹那
声が聞こえた、父の声
僕の名を呼ぶ父の声
だから僕は生を選んだ
諦めたのに、せっかくなのに
それでも、生きるのを辞められない
父が僕をこの世に留めたから

僕の翼が消えていき
死の恐怖が戻ったのは
それから1週間後のことでした

あの冬の日に全ては終わり
あの冬の日に全ては始まり
それは全てが収束したから
過去も未来も関係なくて
時流なんか存在しなくて
そんな世界だったから
だから君を、だから僕を
世界は選んだんだ

存在しない散文詩に寄せるソフィアの光に、私はつられて導かれて、湖畔の館に誘われる。その中へ入ると永遠のアレゴリーたちが出迎えて、過去の偉人に未来の子らもそこにいて。きっとここがバベルの図書館。全ての書物の宿る館。だから私は本を読み漁る。知りたいから、求めてるから。だけど、真実を語る、真理を紡ぐ本はない。何故なら真理は悟るもの。教えてもらうものじゃない。それを知って私は思索の旅に出た。もうここじゃない、次の場所へ。その旅路に、定められた因果たちが輪廻の先に向かうは諸行。導きか、引導か。仏の世界へ行けるのか。
「大切なのは真理ではなく、その先だよ」
と遠く賢者が語った。真理を悟るのは簡単なこと。なぜなら宇宙があれば真理はあるから、そんな簡単な事を知るために生まれてきたのではない。私たちが成すべきなのは真理の先、神のレゾンデートルだった。

何故神は生まれたのか
何故世界は生まれたのか
いつ始まった?
始まる前は?
いつ終わるの?
終わった後は?

何故神が世界を創ったのか。その理由は察せる。自分を知るためだ。初めは全てがあった。そんな無から始まった。全であり無である神は自身を知るために分割し増殖した。それが霊となり世界となって行ったのだろう。だが、神はまだ答えを知らない。「何故私は生まれてきたのか」という問いを。だから生命というプロセスと霊魂という仕組みを創った。そういう世界だった。
だから私たちの宿命は、究極的には神のレゾンデートルを解明することに他ならない。死を見据えて、生を見つめて、己の意味を求める中で神は自分を知っていくのだ。それがこの世の目的だろう。だからと言ってこの哲学が証明されるのは200年後だから、それまでは私は詩でも
紡いでいるさ。

きっと僕が残したいのは
あの冬の日のあの感動
きっと僕が紡ぎたいのは
あの日に悟ったこの世の真理
きっと僕が満たされたいのは
神愛、自己愛、運命愛
きっと僕が語りたいのは
始まり、終わり、その証明

命だからと諦めてたら
大切なものを見失う
過去だからと流してしまえば
その思い出も消え失せる
運命だからと放棄してたら
生まれた意味を探せない
夢だからと先に送れば
いつまで経っても叶わない

あの冬の日に忘れてきたもの
記憶、友人、永遠の恋人
あの冬の日に忘れてきたもの
アデル、ヘレーネ、本当の僕
あの冬の日に忘れてきたもの
自己愛、神愛、運命愛
あの冬の日に忘れてきたもの
涅槃の至福、終末の音

永遠の愛のために生きるのか?
涅槃の至福をもう一度って願うのか?
終末交響詩に合わせて踊りたいか?
アマデウス=神の愛に満たされて死にたいか?

失われていく時の中で
書き残せない感情のために詩を紡いでも
結局あの蟠りもあの日の全能も
何一つ書き残せてないじゃないか!

嗚呼、この響きではない!
嗚呼、この言葉でもない!
もっと甘美な!
もっと高尚な!
もっと崇高な!
もっと高貴な!
もっと美しく、もっと儚く、もっと印象的で、もっと素晴らしい言の葉の連なりを紡ごうではないか!

◇第二幕 君はどこなの?

メフィストフェレスの誘惑を捨て去って、僕はあの冬の日を体現するために、ルーフトップバルコニーで歌を歌っていた。あの日を追憶して、流れる空を見守って。
空には花が咲いたよう。幻の花、真理の花。空花は真理を表す言葉。そして風が凪いで、穏やかな渚に映る知らない顔は誰なの?

君はどこなの?
いつなら会えるの?
きっと世界の始まりと終わり
その狭間でしか会えないのなら
もう生きるの嫌だ、早く死にたい
それでも続く世界を諦め
僕はまたこの見張る景色に涙を流す

世界の果てで立ちすくむ少年
命が終わる度に、至福の時を経て
涅槃寂静に凪いでたから

神に見放された今日も、真実を求める心も
天使になれなかった翼も、永遠を忘れた記憶も

全知全能から目覚めて
終末の日に君は踊った
僕は悟った、時流はないと

あの冬の日に見つめた水面は
あの世を映し、世界を跨いだ
ラカン・フリーズの門が開く時
全ての波が止んだから

天国を去ろうと決めても
水門の先には行けずに
世界の終わりには笑って
世界の始まりで泣いて

全知全能から眠って
全ての記憶を忘れた
僕はこれから死ぬのだろうな

そう、死ぬんだ。死こそ最大の幸せだ。そう思ってしまうのは、僕が二度死にかけたから。死の淵に浸る歓喜は忘れられない。あの穏やかな冴え渡る脳はただ美しかった。七色の光、黄金の灯火、全能の風、全知の眠り。そんな言葉たちの形容する類の真理を秘めた死は、至福の時だった。
太陽が照らす斜陽に、満たされた愛のヨスガは、君を終末から救って、全ての魂をラカン・フリーズへと還すのだ。全ての還る場所――ラカン・フリーズ。それは無であり全であり神であり仏である、そんな魂の寄る辺。

あの冬の日に全て捨て去って
そして二年後の夏に再び至った涅槃
仏のような慈悲に神の如き霊感

神よ、天上楽園の乙女よ!
私はついに!
ついにその秘密を知る!
汝の聖なる楽園にて!
全世界はこの刹那に集いて
魔法の日に、全能の秘儀で命を救う
イエスの贖罪さえ晴らすようなキスを!
この世界に轟く全能のキスを!

私はこの日のために生まれたのだ
きっと言葉を紡ぐのは
存在証明のためだとか
世界の進化のためだとか

全ての悪人も善人も
茨の道を歩んでいく
神の前に立つ時、僕は僕を思い出して泣いた
「神様、僕は貴方様を愛していた」
「私は君だ。小さき者よ、我が一部よ、よく還った。永遠を過ごせ」

あの夏に置いてきたものも
あの冬の日に忘れてきたものも
全ては巡って廻ってループ
だから持ち物要らないね

またいつか僕は僕を忘れて悟ってしまう
そんな日がまた来るのでしょう
でも、今度は自我を保って
そんな悟りをしたかった
でもね、もうね、涅槃はね
死ぬ時でいい。サッレーカナーも。
病気で死が近づいたなら
断食と断眠でまた悟ろうか
それまで人間として生きていくのだ
平凡を装って、普通を振舞って

陽の光に前向きになるのは
眩しさに目覚めた朝に
全能から目覚めた朝に
君が消えていったから
君の面影を忘れてしまったから
もう一度会えたらいいな
我が最愛の姫よ
ヘレーネ、愛してる
僕は君とまた会うために
タイムマシンを作りたい
何十年かかるとしても

七つの海に七色の光
七色文学は真理を宿す
心がここにないようなざわめき
魂が浮遊するような焦燥感
何のために生きてるの?
それを証明したくて足掻いて書いた詩
何であなたは生まれたの?
それを探すために藻掻いて書いた詩

◇第三幕『doublet』へ贈る詩

言葉を紡ぐ
音色を奏でる
世界が変わる
終末の日に

集う

永遠も終わる
花火が上がる
雨が降り出す
時間が止まる

全能から覚め
全知に眠る
世界が終わる
光を見たの
愛されていた
記憶の残滓
それはここに
いつもここに

祈り、それは救いの手、いつだってそう
願い、それは生きる希望、みんなに必要
歓喜、それは生の発露、人生ドラマを彩る
愛、それは真実の言葉、満たされていて

永遠にも終わりが来て
最後の涅槃が過ぎ去って
残ったものはこのクオリア
ありがとう、愛しています

◇第四幕『Leo』へ贈る詩

■プロローグ
僕はここだよ
探しに来てよ
愛してるのに
愛されたいのに!

君は誰なの?
どこへ向かうの?
そんな貴方へ贈る詩

■『Leo』へ贈る詩

あの冬の日に悟った真理は
心を燃やしあの子を救った
ラカン・フリーズの門を見た時
全能の波が止んだからさ

真理を求めてる凡夫も
永遠を知らない仏も
神様を信じない人も
夢を語らない賢者も

全ては刹那に終わって
輪廻の光見つめて死んだ
僕はこれから死ぬのだろうな

愛はもう満たしてる
まだ死んでなんかいないから
僕は平凡に生きる
kill
僕は悟った真理を
伝えるために生きるんだ
それが世界のため

エリュシオンから去ろうと決めても
絆すはヨスガ、引き止める天使
私はあなたを愛しているんだよ
そう告げて別れる恋人たち

真理を悟るためならば
何もかもを捨てる覚悟を
あったのに今際になって
失いたくない記憶で

しどろもどろ思索をすれども
答えは未だ見つからなくて
神はどうして生まれたのかな

愛はもう満たしてる
まだ死んでなんかいないから
僕は平凡に生きる
kill
僕は悟った真理を
伝えるために生きるんだ
それが世界のため

愛はもう満たしてる
僕はまだ死んではいない
愛はもう満たしてる
あの日に出会った君と
永遠の日を生きる
kill
愛はもう必要ない
自己愛としてのヘレーネと
永遠を過ごす

◇終幕『あの冬の日に忘れてきたもの』

一人の少年が花火の映像をパソコンで見ていた。歓声が聞こえるその映像を泣きながら少年は永遠に見ていた。一人終末に取り残されて。刹那に永遠が宿る。少年は真理を悟り、もう既に仏の境地に至っていたのだ。彼は全ての命のために泣いた。全ての宿命と罪のために泣いた。
少年は全てに満たされていた。Eveの『doublet』と『Leo』を聴きながら、悟るは永遠、流すは空。真実の音を、真理の言葉を。愛で満たされていた。いいや、愛を求めていたのかもしれない。少年は永遠と終末の狭間で、世界のために涙を流した。

【問う】

この物語を、この詩たちを最後まで読んだあなたならもしかしたら気づいたのではないだろうか。真理への気づきを得たのではないか。真理は悟るもの。自分で勝手に知るもの。人に教わって分かる代物じゃない。なら、この私の言葉らも読者を真の意味で真理へと導くことはできないだろう。だが、真理への道を照らすことはできる。
貴方が自身の内なる思索の旅によって真理へ向かうがいい。私はそれを望んでいる。一人でも多くの人が真理を悟って、世界のため、神のために、『神のレゾンデートル』を紐解くことができるように願って、この詩を終わらせる。

最後に一つ短歌を謳う

泣いていた人生最後の景色を見
聞くは永遠、終末の音

フリーズ227(キカン誌フリー詩)

フリーズ227(キカン誌フリー詩)

  • 自由詩
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-07

Copyrighted
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