【第5話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。

そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。

横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。


だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。

【第5話 無能と呼ばれる回復術士⑤】

(アメリア視点)


魔物の掃討を終え、私は帰路に着いた。
相変わらず無機質な装飾で彩られた帝都内を通り城へと向かう。

魔物の残党を狩り成果を挙げた―――にも関わらず、なぜか心が晴れない。
胸の奥で何かが引っかかるような違和感――。
それは漠然とした不安に似ていた。
ルークの無気力な微笑みがふと脳裏に浮かび、私は無意識に唇を噛んだ。


ガチャンッ


門が開く音がした。
重厚な城門をくぐると見慣れた衛兵たちが迎えてくれる。
しかし、いつもと違う空気を感じ取ったのはその直後だった。
他の騎士団員たちの会話が偶然耳に入ってきた瞬間だった。


「そういや聞いたか?あの陰気な回復術士が処刑されたらしいぜ」

「ああ、例の資金横領疑惑で?まー当然の報いだよな」


嘲笑交じりの声が冷たい石壁に反響する。


鼓膜を揺らすその言葉はまるで鋭利な刃物のように鋭く突き刺さった。
私は思わず足を止めた。

―――回復術士。
その言葉が私の中で繰り返し響く。
ルークの顔がフラッシュバックする。


「待って」

思考より先に身体が動いていた。

「誰の……話をしているの?」

声は震えを必死に抑えていたが明らかに硬直していた。
騎士団員たちは突然の問いかけに一瞬戸惑ったもののすぐに嘲るように笑った。


「なんだ、知らないのか?あの陰気な回復術士――確か名前はルークとか言ったな。
アイツがさ、城の金庫からこっそり金持ち出した罪で処刑されたんだよ」

「まあ当然だな。城に居候して何もしない穀潰しだったし」

「そうそう。むしろ邪魔者が消えてせいせいしたんじゃないか?」



――なんですって?



「あの回復術士。いつもオドオドしてたよな。
気の毒なくらい冴えない奴だった」

「そうそう!いつも城の片隅で縮こまってさ。
本当に哀れだったよ」

「いっそ死刑になって良かったんじゃないか?
毎日見てるだけで憂鬱だったし」


畳みかけるように吐かれるルークへの侮辱。
その言葉を理解した瞬間。
胸の奥底で何かが弾けたような感覚があった。
それは今まで感じたことのない種類の怒りだった。



次の瞬間――


ドゴォッ!!


私の拳が迷いなく振り抜かれた。


鈍い音と共に騎士団員の体が宙を舞い地面に叩きつけられる。
鼻から血が吹き出し、顎は砕けていた。
私の手のひらには肉と骨の潰れる感触が焼きつく。
他の連中は、一瞬なにが起こったのか理解できず呆然としていた。


「このクズども……」


全身から殺気が迸る。
握りしめた拳は皮膚が裂けて血が滲んでいた。
声にならない感情が喉の奥で渦巻く。
視界が赤く染まる錯覚さえ覚えた。


「お、お前何をして――」


騎士団員たちは恐怖に顔を引きつらせて後退りする。


―――こいつらと話していても埒が明かない。
私は処刑場の場所は概ね把握している。
急げばまだ間に合うかもしれない。
すぐに踵を返し城門へと走り出した。


「おい!止まれ!」


制止の声が背後から追いかけてくる。
しかしその声はもう私の耳には届かない。

城門には数人の衛兵が立ち塞がったが―――


「退いて」


静かにそう告げると彼らは本能的に道を開けた。
怯えきった目で私を見つめる彼らの横を素早く駆け抜ける。


外には愛馬が繋がれたままだった。
鐙に足をかけ勢いよく飛び乗る。


「行くわよ!」


馬腹を蹴ると漆黒の巨躯は即座に応えた。
蹄の音が地面を叩き轟音と共に疾走を始める。
風が頬を切り裂くような速さで駆け抜けながら
私の脳裏には一つの言葉だけが繰り返されていた。


――必ず助ける。


馬蹄が大地を打ち砕く轟音。

吹き付ける風が頬を切り裂く鋭さ。

握りしめた拳から滴る血の温もり。


――ルーク!必ず助ける!


私は鞍を握る手に力を込め、歯を食いしばった。
風圧で目が痛む。視界は涙と血で滲んでいた。

それでも決して目を逸らさない。

眼前に広がる深い森の稜線の向こう側に、あの忌まわしい処刑場があるはずだ。



***

(三人称視点)


アメリアが帝都を飛び出してから数分後
処刑場の森にて


雨が降り出し、森の奥深くを叩いていた。


崖の下に回復術士・ルークの亡骸が転がっていた。
剣で貫かれた後、そのまま崖から落とされたのであろう。

背中から心臓を貫かれた彼の体は血と雨水でぐちゃぐちゃに濡れ
まるで廃棄物のように棄てられていたのだ。


だが――


ルークの体から奇妙なオーラが漏れ始め
周囲の木々の葉を侵食していく。


枯れた木の枝がオーラに触れた瞬間
枝が腐り落ち、周囲の植物が次々と枯れていく。
オーラの範囲は更に広がり崖の一部も侵食を始めた。

ルークの亡骸を中心に
森の一角が死の領域と化していく。


不気味な光景だった。

そして――
ルークの体が微かに光り始めた。


彼の閉じられた目がゆっくりと開かれる。



死からの目覚めだ―――。



【次回に続く】

【第5話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

【第5話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

回復術士の劣等生ルークは、ザルティア帝国に無実の罪を着せられ処刑されてしまった! だが、彼には隠されていた能力があった・・・。 彼自身も知らなかった無敵の能力・生命吸収。 蘇生した彼は、幼なじみであり騎士団員でもあるアメリアと帝国から脱出する。 そして、数々の仲間らとの出会い・・・ 無能扱いされ続けてきた彼の新たな冒険が幕を開ける。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-06

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