
掌編集 46
451 確認
夫婦の寝室は別。
寝室などひとつもない。
夫はリビングのテレビの前、私は和室に。
ふたりとも布団を敷く。年寄りには結構辛い。敷くのも畳むのも持ち上げるのも。
立ち上がるのも。
でもベッドは苦手。
それにベッドを2台置くのは不可能。同じ部屋では寝たくないし。
エアコンはリビングに1台しかないので、夏は隣の和室は襖を開けて寝る。
早朝バイトの夫は一応私が生きているか確認してから行くようだ。
私はほぼ起きているが寝たふりをしている。
のぞいている気配。
「よく寝てたよ」
と言われる。
眠れない、と言うと、
「よく寝てるよ」
と。
ほとんど起きているのに。
あなたが出かけた明け方から、戻るまでの5時間だけのパラダイス。
続けばいいな。早朝バイト。
金貯めてハワイでも行くか、と。
口だけでしょ?
【お題】 君の寝顔
452 元気な子
娘は生後5ヶ月で手術をした。小さなカートに乗せられてエレベーターの前でお別れ。
キョロキョロしてたね。
あの顔は忘れない。永遠の別れかも……なんて思ったのよ。
ずうっとロビーで待ち、ようやく会った時、娘はチューブに何本もつながれ、口にも太い管が……
でも、面会のたびにチューブがはずされ、元気になって、ミルクが足りない、と泣いた。
そんな娘がママになり、君が生まれた。
君が生まれる前から、こうなることは予測していた。
ああ、悲しき遺伝なのかな?
術後送られてきた君の写真は、寝顔がしばらく続いて心配したんだ。
口にチューブ、体にもチューブ。ばあちゃんは会う事もできず、ママの顔を見ただけ。
君のおにいちゃんは、弟の病気や手術を知っているのか、はしゃいでいたけど。
でも寝顔の写真は笑顔になって家に戻った。
会いに行くからね。
きっと、おにいちゃんより大きくなるよ。
だって、ママもおねえちゃんよりでかいもの。20キロもね。(30キロかも)
【お題】 君の寝顔
453 取ってください
ずっと違和感があった。
変なところに隆起してくる。
これは?
日に日に大きくなっていく。
朝起きたらパンパンですごい大きさ。
見えないから夫に写真を撮ってもらった。
赤黒い膨らみ。
毛が生えたらテディの尻尾みたいだね。
かわいいヨークシャーテリア。
飼ってたヨーキーは尻尾が短かった。
ヨーキーは断尾されてた。今ではそんなことはないらしいが。
そういえばテディの夢を見た。
よく散歩しているヨーキーを見るから。
もう、懐かしくてついて行きたくなる。
だから?
なんて、バカなことがあるわけないか。
また粉瘤ができた。
痛いのよ。
大きくなって、大きくなって、破裂したら絞られ絞られて、消毒したガーゼを押し込められる。
夏なのにシャワーも駄目。
暑いのに毎日消毒に通う。
しまいには、絞られるのが快感に!
そして終わるのだ。体に跡を残して。
さよなら、テディ……のような尻尾みたいな粉瘤。
【お題】 朝起きたらしっぽが生えてた
454 戻らない
入居者さんが入院すると、たいていの方は施設の部屋もそのままにして、費用を払い続ける。
長年介護してきた方が病院から戻らない。入院してしまうとユニットに情報は来ない。
戻る場合も多いが、そのまま亡くなることも多い。
入院が長いと実感はわかない。知らせが入ればすぐに部屋を片付け、ネームプレートは空欄になる。
Nさんも、戻らなかった。入居して半年くらい。その後の入院期間が長かった。
ユニット10人のうち、入院している方がいれば、介護はそのぶん楽になる。
Nさんはどうしているやら?
事務のほうで用事があり、家族に電話をしたら言われたそうだ。
「今、葬式の最中で忙しいんです」
一応世話になっていた施設に連絡なしか?
その後部屋が片付くのは早かった。
ネームプレートが空欄になるのも。
次の入居者が入るのも。
【お題】 空欄
455 注意
海で山で日焼けなんて楽しいけどね。
紫外線はダメなの。
特にあなたは。
紫外線を浴びたらダメよ。
そんな人もいるんです。
気を付けないと。
ああ、マイケル・ジャクソン。
辛かったでしょうね。
偏見と誤解。
「スリラー」発売時からマイケルの肌は白くなり始め「デンジャラス」の頃には完全に白くなった。
これについては長年真相が語られることはなかったが、検死報告では尋常性白斑という名の病気であったということが証明されている。
死亡した時のマイケルは、爪に色素が残っているのみであった。彼の亡くなる直前の皮膚の色は「純白」「蒼白」と呼ばれる類のものであり、明らかに白人とは異質の白さである。
マイケルが患っていたとされる病気は、尋常性白斑という父方の病気で、皮膚の色素の一部分が抜けて、それが徐々に広がっていく自己免疫疾患である。
彼の父親はアフリカ系アメリカ人ではあるが、目が青いなど多少白人の血が混じっている。
マイケルは天気の良い日には肌を守るため黒い傘をさしており、マスクを付けたりサングラスをかけることもしばしばである。
初めのうちは黒いファンデーションで隠せる程度であったが、やがて隠せなくなりやむを得ず白いファンデーションを使うようになったという。
マイケル自身が
「色素を破壊する肌の病気なんだ。
父方の遺伝らしい。
僕だって悩んでいるけど自分ではコントロールできない。むしろ抑えようとしている。肌の色を均一にするメークも大変なんだ」
と訴えたこともある。
また、
「僕はアフリカ系アメリカ人であることに誇りを持っている」
とも発言している。進行し続ける白斑の問題は彼を悩ませ続けた。(Wikipedia)
あなたのおなかにある、小さな真っ白な斑点を見たときはショックだった。
「なんだろうね?」
まだ病院へ行く前、私は調べてマイケル・ジャクソンを思った。
検査して病名を聞いた時は、当たっていてショックだった。
でも、今はいい薬ができている。
あれから2年、最近やっと効果のある薬があって、薄くなったとか。
どうか、そのまま消えていきますように。
【お題】 日焼け痕
456 忘れた
先日の津波警報にはびっくり。
ずっとテレビに釘付けで、娘と連絡を取り合っていた。
海辺の街には警報が鳴り続け、娘は術後1ヶ月の子と、保育園行ってる上の子を迎えに行き役所へ避難。
旦那さんに、そこもやばいからと途中落ち合い我が家へ避難。
心配していた術後の孫は疲れただろうに、ニコニコ笑う愛想のいい子だった。入院中もナースさんに愛想を振りまいていたという。
上の男の子はパジャマを忘れてきて、半袖のTシャツの下に、夫のパンツを貸そうと思ったらやはりダブダブ。輪ゴムで結わこうと思ったけど、ばあさんが以前買ったパンティが小さくて穿いてないものがあったので、ためしに穿かせたらちょうど良かった。
ばあさんの半ズボンはブカブカなので、七分のズボン下を穿かせてみたら少しゆるくて長いけど、大丈夫だった。
なぜか、孫はそのスタイルをお気に入り。
【お題】 半袖半ズボン
457 秋の空のように
お天気おにいさんではないが、秋の空のようコロコロ変わる男性がいた。
「ありがとう」と暴言が、交互に出るナツメさん。
「ナツメじいさんと秋の空」
思わずつぶやいた。
私はナツメさんの足を洗った。
浴室に行くまでは機嫌がいい。
湯をかけると怒り出した。凄まじく!
かつてこれほど罵られたことはない。条件反射で言い返したら、もっとひどくなった。体格もいいから怖い。
そして、ころっと変わる。
「サンキュ」
そのナツメさんを風呂に入れろ、だって?
やれと言うならやりますが……
最初は男性のリーダーがついていてくれたが……
ダメだった。
頭を洗えない。拒否と暴言……
暴れられ、そうそうに終えた。
ナツメさんを風呂に入れなければ、と思うと憂鬱になった。
愚痴った。それでも担当になっていた。
訴えた。
「男性の職員さんが入れてください」
口には出さないが、
「この時給ではできません」
ナツメさんの症状は進み、リフト浴になった。隣の浴槽で怒鳴っていたのもつかの間。ナツメさんは自分の体を傷つけた。出血するまで。
薬を飲むようになり、おとなしくなった。別人のようだ。
それも、もう何年も前のこと。
お題で思い出しました。
【お題】 お天気お兄さん
458 えーっ?
5歳の孫が私の腕のふたつのアザを見て言った。
「おばあちゃん、これ、どうしたの?」
「これはね、宇宙人が来て……」
「えーっ?」
「これはね、宇宙人が来ておばあちゃんを連れて行こうとしたの」
「えーっ?」
「強い力でつかまれたのよ」
「えーっ?」
「地球は暑すぎるからM78星雲光の国に帰ろうって。おばあちゃんは宇宙人と人間の子どもなの」
「えーっ?」
「昔はこんなに暑くなかったから、ウルトラセブンはよく来てたのよ」
「えーっ?」
「帰ればよかったな。そしたら⚪︎ちゃんもママも生まれてなかったね」
【お題】 宇宙人「この星は暑すぎる」
459 視えたらいいのに
義妹が視える人で、
「襖開けたら(亡くなった)母さんが⚪︎⚪︎を抱っこしてた」
とか、言ってた。
なんと言えばいいのか……はぁ……
でも、旦那さんのことは視えなかったらしく、うまくいかなかった。
その義妹が事故にあい、
「かあさんが、まだ来るな!」
と。
これは信じる。
娘の旦那も視える人で、
「夜遅く帰ると、駐車場に(集合住宅)おばあさんが座ってるんです」
と。(私じゃないよ)
宅配便の人も視たらしい。
しかし、妻の気持ちは視えないらしく、しょっちゅう蹴飛ばされている。
私は目をつぶっているから、なんとかやってこられた。
【視える人】
460 星雲終末期
夜、空を見上げていると、5歳の孫が言った。
「おばあちゃん、なんで泣いてるの?」
「あれはね、M78星雲、⚪︎ちゃんには見えないわね」
「どれ? どれ?」
「M78星雲はもう終末期だから、ウルトラセブンも住めないのよ」
「えーっ?」
「一緒に地球に行こうって連れてこようとしたんだけど、星と運命を共にするって」
「この星は暑すぎるからでしょ」
「が〜ん」
「あ、見えたよ。ウルトラセブンが手を振ってるよ。ありがとうって言ってるよ」
【お題】 星雲ターミナル
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