フリーズ216 『浜』に纏わるショートショート
1
由比ガ浜の夕景は美しく、君は微笑んだ。空色の液体の入った小瓶を開け、人生を終わらせるために毒薬を飲む。その映像を記録するのが僕の役目だった。君の最後を、美しく残すための存在。君は毒薬を飲もうとする。僕はとっさに走り出す。手は届かない。君は夕凪の中で散っていく。可憐な花のように。
2
海岸に打ち寄せられる記憶の残骸は、浜に打ち上げられ孤独に泣いていた。その虚空のような伽藍洞は流木さえも内包していたように思う。
「あなたは誰?」
海水に足を入れて、少女が聞く。
「僕は君だよ」
自己愛としての、ね。
「私は誰?」
「君が世界だ」
この景色は忘れない。
3
真っ暗な海浜。星々が悠久の時をたたえて夜空に輝く。
「あれがベガ、あれがアルタイル」
君は夜空を指でなぞる。
「織姫と彦星。年に一回会えるの」
なら僕と君はいつ会える?
世界の終わる日と世界が始まる日にだけ会える。僕は一人浜辺で星を仰いで「愛してる」と吐いた。
フリーズ216 『浜』に纏わるショートショート