掌編集 44

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431 やばい寝言

 寝言を言って目が覚めた。
「なにか言った?」
 襖の向こうから声がしたけど寝たふり。
 寝言はちゃんとした言葉にはなってなかったみたい。
 良かった。
 言葉になってたら大変なことになってたわ。
 
 言いたいことを言ってみたい。
 結婚生活は我慢の連続。
 言いたいことを言っていたら…‥終わってたかも。

 今までに3回くらい夢に見た。夢の中で思いきり文句を言っていた。
 気持ち良かったなあ!
 終わった! と思ったけど。

 目が覚めて現実に帰る。
 面倒なことはしない。
 我慢、我慢。
 笑顔の裏に隠されたものをあなたは知らない。
 長年の恨みつらみ。
 
 でも、感謝してる。
 真面目に働いてくれて。
 だから私はサラリーマンの奥さんの年金をいただける。
 それに、たぶん……遺族年金も。

 みんな、そんなこと考えても、いざひとりになると、寂しいらしい。
 仏壇に話しかけ、泣くとか。

 寂しくなったら書こう。
 寝言でしか言えなかったことを。



【お題】 寝言小説

432 ゴルフ

 何年か前からゴルフをやろうと言われていた。老後に同じ趣味もなく、捨てられたら困る……と冗談で。
 球技はダメ。
 テニスはサーブが届かない。学生時代、ソフトボールもバレーボールも、体力測定のボール投げさえ線まで届かなかった。京都のかわらけ投げも私のだけは飛ばずに落ちて行った。

 母の日に、夫はゴルフクラブを、ハーフセットをプレゼントしてくれた。やらないと言っているのに……嬉しくないプレゼント。練習場に行ったって、みっともないだけ。ふたりでコースに出るのが夫の夢だという。

 すぐそばにゴルフスクールがある。やるからには基礎から先生について……
 大人になって習ったのは、水泳、テニス、社交ダンス、ピアノ、電子ヴァイオリン、どれも続かなかった。
 夫もスコアが伸びないのでふたりで通い始めた。3ヶ月はつまらなかった。元々好きで始めたわけではない。90分が長い。でもコーチは優しい若い男性だ。
 生徒はほとんどが年配の女性。これが皆、高級車で来ている。ポルシェで帰ったのは隣にいた女性。ミニスカートで打っていた。夫は女性のコーチ。楽しそうだ。レッスン代はかなりの負担に。

 若い男性のコーチが
「失礼します」
と言ってばあさんの腰に手を……
 上体動かすな。目線、動かすな。頭、動かすな。腕は……呪文のように唱えてから打つ。
 
 月の終わりにテストがある。パッティングやアプローチ。パッティングは夫とたいして変わらない。ロングパットがまぐれで入る。

 習い始めてから○ヶ月が過ぎた頃、初めてのラウンドに。夫とふたりで。
 その前にサングラスを作った。
 小心者だがサングラスをかけると気が大きくなる。不思議なものだ。

 内容はひどいものだった。走りに行ったようなものだ。後ろに迷惑をかけてはいけない、とクラブを持って走った。よく最後までやり終えたものだ。

 1度だけ、すごいことが……
 グリーンのかなり手前、ここは7番アイアンではダメか? でもカートはずっと遠く。夫も遠い。
 下手っぴは何番で打とうが下手っぴ。サングラスのばあさんは格好だけは付けて、一応旗を狙った。
 コン、コロコロ……消えた。
 あれがチップインというものか。打った下手っぴは小躍りした。12打目だろうが。

 クハラハウスに戻りサングラスを外す。帽子を取る。
 汗で髪は悲しいくらいぺたんこの薄毛。



【お題】 サングラスを外すと……

433 ならないために

 国が作ったプロジェクト。
 長寿国にはもっと早くに必要だった。

 ネーミングは公募で決めた。
『人生やり直し課』

 若いうちから頭に擦り込む。
 ならないためにあらゆることを。

 テレビやYouTubeのコマーシャル。

 主人公(あなた)は勉強した。
 切磋琢磨して勉強していい学校に入った。立派な人と結婚して立派な息子(娘)を育てた。
 子は結婚し、旦那様を看取り……
 月日は流れた。

 そして赤ちゃんに戻った。タチの悪い赤ちゃんに。
 世話が焼ける。ヨチヨチ歩いては転ぶ。

 ナレーションが入る。

「そうならないために、なにかできなかったの?

 人生の秋から冬。

 冬がいちばん長い。

 冬はあっという間にやってくる。

 切磋琢磨しなければ。
 必死に勉強したように。子育てしたように。
 それ以上に努力しなければならない。
 生まれてきて長い人生の最終目標は、

 認知症にならないこと!
 
 それが大事。それがいちばん。それがすべて!
 もう、そのために生きなければならない!」

 便を漏らした主人公(あなた)

「赤ちゃんが産まれる〜 産婦人科の先生呼んで〜」
と、大暴れ。
 きれいにしてもらっている間、怒っている。
「あんたのせいよ。あんたがちゃんと仕事しないから……でくのぼうばかり」

 介護者の顔色が変わった。

「誰かを犯罪者にしないために。
 どうすれば?」

 人生の冬。

「人生の最大の最後の目標、課題は認知症にならないこと!!
 
 でも、こんな状態になってしまったら……
 
 最後の選択をしておきましょう。
 最期を選べることになりました。

 尊厳死が認められました」



【お題】 人生やりなおし課

434 日課だから

 夏が来る
 
 朝しかできぬ

 ウォーキング


✳︎


 そのあとは

 裸でダンベル

 フラフープ


✳︎

 
 そのあとは

 汗かきついで

 掃除して


✳︎


 そのあとは
 
 一歩も出ない

 食べて寝る



【お題】 「夏が来る」から始まる一句

435 NSP

 若かりし頃、あなたがくれたカセットテープ。フォークばかりのカセットテープ。

 さだまさしや河島英五、あの頃ヒットした曲の合間に入っていた数曲。
 曲名もグループ名も確かめずに流していた。若かりし頃はいい歌だとは思わなかった。田舎っぽい歌、と。

 それが、最近Amazonミュージックで曲を流していて引っかかり、グループ名を確かめるとNSP。
 
 あなたが録音してくれたカセットテープに入っていたあの曲。

 今は、なぜか心に染みる。


夕暮れ時はさびしそう NSP
https://youtu.be/IqNUpPNMzD8



【お題】 君の好きな音楽

436 小説のタイトル

 某サイトの小説のタイトル。
『交響曲第5番』

 紹介文にはマーラーの第5。ベートーヴェンではなくマラ5だ。
 
 その中の第4楽章、アダージェットが店の中で流れる……
 オーナーの好きな曲だった。

 初めて行ったその店は……
 ソープランド。

 もう、冒涜だあ、とコメントしてしまいました。
 でも、内容は良かった。せつなくて……
 その作者さんのファンになりました。



【お題】 君の好きな音楽

437 お〜い

 おーい、雲よ
 ゆうゆうと
 馬鹿にのんきさうぢやないか
 どこまでゆくんだ
 ずっと磐城平の方までゆくんか

 山村暮鳥のこの詩は、アニメ『巨人の星』で主人公の恋人が空を見上げながらこの詩を語るシーンで使われたことで、広く知られるようになったとか。
 この詩をきっかけに、日常の中で自然に目を向け、心を落ち着かせる時間を持つことの大切さを再認識できる……


 なんて、呑気なことを言ってられませんね。

 お〜い、雲よ、入道雲さん
 雨を降らせたら、
 おしまいにしてね
 次から次へと
 あがるのは勘弁ね〜



【お題】 入道雲があがった日

438 見えなかった

 かわいいUちゃん。長男の待望の女の子。
 孫の中でも顔の偏差値高い……なんてババ馬鹿。

 3歳の七五三。
 カメラを向けると走ってくる。
 止まってないと撮れないよ。
 何度言っても笑いながら走って来た。

 たまに会うけど気付かなかった。毎日暮らしていた両親さえ気が付かないものなのね。
 離れても目が合えば笑っていたから。よく笑うほんとにかわいい女の子。

 息子からメールが来た。

 検診で視力が弱いみたいで、大きな病院で再検査したら、極度の遠視と乱視で、ものがはっきり見えてないって。
 視力も0.1ぐらいしかないみたい。
 早めにメガネで矯正してやらないと、脳がものがはっきり見えるってのを知らないから、ピントを合わせることができなくなっちゃうんだって……

 日常生活で目が悪いって感じてなかったんだけど、家でも離れたところから数字とか見せたらやっぱり見えてなかった……

 青天の霹靂。
 早速調べた。50人にひとりくらいいるみたい。
 3歳でメガネ?
 
 想像したのはたまに見かける分厚いメガネ。幼い子がメガネをかけているのは矯正のためなのね。

 メガネか……
 いやがらなければいいけれど。からかわれるんじゃないか?
 周りの親からは同情の目。

 かわいいメガネ買ってあげなね。Uちゃんが気にいるのを。(お金は出してあげるから)

 お嫁さんからメールが来た。
 ピンクのかわいいメガネをかけた写真。

 Uはメガネすっかり気に入ってくれて毎日つけているので、徐々にですがメガネの矯正の成果は出てます。気長にです。

 みんなにかわいいと言ってもらえるのも嬉しいみたいです。女子です。

 お風呂と寝る時以外は外せない。
 
 メガネの代金は、補助金が出るみたい。

 矯正視力は0.6に。
 Uちゃんの世界が変わっただろうな。今度会ったら、しっかり目が合うだろう。
 



【お題】 目が合った気がする

439 次の日私は?

 1日だけ読者になってユウナギの作品を読んでみよう。

 たくさんあるけど1日あれば読めるだろう。

 さて、次の日私は?

 筆を折り退会した……



【お題】 1日だけ〇〇として生きることができます

440 妻の苦悩

「今度の夏休み、連れて行くよ」
           
  「? どこへ?」
「ベナレスで夜明けのガンジス川を見たいっていってただろう。計画したんだ」


「昔、読んだんだろ。自分の苦悩のなんとちっぽけなことか」


  「ありがとう。楽しみだわ」


 妻の苦悩はその誤送信から始まった。

 バカな男……
 どうしてやろうか。



【お題】 ぼちぼち夏休みの海外旅を検討してみる

 
 このお題で、過去作を思い出した。

 完璧

 アルミ婚式
 うまくいっていると思っていた
 頑張って家も買ったし
 頼れるのはお互いだけ
 
 単身赴任してたけど 
 まさかこうなるとはね
 怒ったり 反省もしてみたけど 
 メールを見て もうダメだと思ったの

 川の向こう側 よく散歩したわね
 こんな日が来るとも思わず
 今日は銀婚式
 私はあなたの姓を名乗り続ける 
 あなたの帰りを待ち続ける

 家は手放せなかった
 身を粉にして働いたけど
 高く売れるというから
 そろそろ あなたを粉にしようか

【お題】 ふと散歩しながら思ったことを詩にしてみた

掌編集 44

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  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-07-09

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  1. 431 やばい寝言
  2. 432 ゴルフ
  3. 433 ならないために
  4. 434 日課だから
  5. 435 NSP
  6. 436 小説のタイトル
  7. 437 お〜い
  8. 438 見えなかった
  9. 439 次の日私は?
  10. 440 妻の苦悩