詩幣について
おかね、きれいにしておいたよ
妻はぼくの財布を
キーボードのうえへ投じる
でたらめに打たれたもじは
蟻のように乾ききったひかり
ゴムのからだにでもなったっけ
と指で財布をつかむ
合成皮革が 湿っている
ふれた指とキーボードのMとが
火星の雨のように濡れている
ズボンのポケットに入っていたよ
ボタンをあけると
湿った紙幣 湿った硬貨
湿ったクレジットカードに
湿った免許証 湿った猫の尻尾
すっかり資金洗浄されて
きれいになってしまった
妻は東海一の銭洗弁天だ
洗濯機のボタンがおされ
蓋がロックされたあいだ
おかねは仮想通貨よりも
つかみどころがなかった
紙幣は純粋な紙のままで
硬貨は鳴らない金属で
まるで誰にも読まれない
ぼくのラブレターみたいで
鴨江の深い谷間から
白い服の男が手招きをする
足のつかないおかねって
深すぎるプールなんだよね
詩幣について