zoku勇者 ドラクエⅨ編 74
タブーの真実
「あっ、別のモンスターよっ!」
「……油断出来ねえなっ、本当にっ!」
幽霊のいる牢屋を出た4人に又モンスターが……。大魔神である……。
「こいつ、確か外壁の方でも出て来た奴だっ!」
そう、ダウドがいじけ、ジャミル達と離れていた時、襲い掛って来た処を
ブチ切れてダウド一人で倒してしまった。だからダウドは鼻から湯気を出し、
こんなの大丈夫と調子に乗る。
「何でもいいよっ、は、早く……、倒しちまう……うあーっ!!」
「うううーーっ!!」
ジャミル、大魔神に足で蹴り倒され吹っ飛ばされ、間抜けに顔ごと
壁に衝突。アルベルトも拳でブン殴られる。ダウドは慌てて後ろから
ハルベルトで大魔神の尻を突くが、ジャミル同じく、もう片方の足で
軽々蹴り倒された。
「うっそ~ん、……あの時はオイラ一人で倒しちゃったのにィ……」
「皆っ!も、もうーっ!何するのよっ!!」
(……コラーっ!何やってんのーっ!このヘタレ男共ーっ!しっかり
しろおーっ!)
「……」
と、自分はジャミルの中からヤジを飛ばすだけのサンディ。……壁に
顔をめり込ませた状態のまま、ジャミルはイラっとしてくる……。
「ウシャーモン!プープープー!」
「モンちゃん、下がって!此処は私が!えーいっ!イオラよーっ!」
アイシャ、大魔神に向け、イオラを放出……。する直前に、大魔神が
気合いを入れ、床を思い切りドシンと踏んだ為、アイシャはバランスを
崩し、正面を向いたまま、仰向きにすっ転んだ……。
「きゃーーっ!?」
「アイシャ、危ないモンっ!!」
大魔神はニヤリと笑うとそのまま臭そうな足でアイシャを思い切り
踏もうとするが、アイシャ、途端に横にコロコロ転がって避けた。が、
勢いを付けすぎて、止まらなくなり……。
「いやーっ!止まらないのーーっ!誰か助けてーーっ!!」
「……いちち、な、何やってんだ、アイツっ!」
ジャミルが壁から顔を離し、頭を起こして立ち上がる。まるで
ボーリングの玉の様なアイシャを見て騒然……。広がっている
毒の沼ゾーンも無敵状態で越えて行った……。
「ジャミル、アイシャは君が!大魔神は何とか僕らで押さえておくよ!」
「……あうう~、こんな筈じゃ……」
「しゃ~ねえなあ、ったくっ!……!!」
「……キャーキャーキャー!!」
勢い止まらず、何処までも転がって行くアイシャの前にまた別の
モンスター、ナイトリッチが出現したのである。
「……危ねえっつ!!」
「キャーー!!」
アイシャ、ナイトリッチに向け、転がったまま突撃……。アイシャに
衝突されたナイトリッチはかっ飛ばされ、ぶっ倒れた……。そして、
彼女も漸く転がるのが止まる……。
「ふにゅうう~……」
「……モンスターが……、ス、ストライク……」
親指でグッジョブポーズを取るジャミル……。被害に遭ったのは
ナイトリッチの方であった。
「……もう~っ!バカバカバカーーっ!!……えーいっ!!」
「……うわ……」
アイシャは慌てて起き上がり、再び襲って来たナイトリッチを
イオラで一掃。その後、二人は急いで大魔神と戦ってくれている
アルベルトとダウドの元へと走り、無事、大魔神を何とか成敗した……。
「♪アイシャ、凄かったんだモン~」
「も、もう、モンちゃんたらっ!もうその話はよしてっ!」
「うにゅにゅう~モン~……」
アイシャは顔を赤くし、ムキになってモンの頬を思い切り横に
引っ張る。……現場を見てしまったジャミルは、つい、思い出して
吹きそうになるが。……黒い顔をしたアイシャに詰め寄られる……。
「……ジャミルも忘れて……、ね♡」
「……はいいいっ!?」
(アタシはいつまでも覚えててあげるネッ!)
「「はあ……」」
アルベルトとダウドは同時に溜息。何だかんだで、やっぱり彼女は
最強かも知れないと……。気を取り直し、先の地下階へと進む事に……。
「……下に行けば行く程、臭いもどんどんきつくなるな、まいったな……、
腐臭だな……」
「でも、頑張らなくちゃ……」
「そうね……」
「ガスマスクでもあればいいのにい~……」
「モン、おならしたモン♡何か暫くうんちも出てないから、ちょっと
いつもより、臭いかもモン、ダウド、ごめんモン♡」
「……モンちゃん、キャンディーばっかり食べてるから便秘になるのっ!」
「キャンディー大好き、美味しいんだモン♡」
ブツブツ呟くダウドの頭の上に乗っているモンがいつも通りの行動。
……腐臭の方がまだマシなんだと、彼は思った……。
「……また、誰かの気配がするな……」
「幽霊かい?」
「ひっ!?」
「ああ、こんな処、生身の人間がいる筈ないからな……、其処の
部屋から……」
ジャミルは正面に見えている部屋から気配がすると言い、扉を開けて
部屋の中に入って行く。その後に仲間達が続く。ジャミルが見たのは、
今度は学者風の男の幽霊だった。
「やっぱり、アンタも此処の牢獄の犠牲者かい……?」
「……300年前、皇帝ガナサダイは捕らえた天使の力を遣って
様々な実験を行いました、ある時は兵士を強化し、……又ある時は
その力を闇竜バルボロスに注ぎ込み……、この閉ざされし地底の
牢獄はそんな悍ましい行いが繰り返される地獄だったのです……」
「……」
「ジャミル、此処に幽霊さんがいるんだろ?どんな話を……」
「うん、やっぱり此処はかなり深刻な場所だったらしいな、捕まえた
天使の力を利用して、有りとあらゆる残酷な実験を生身の人間に行ったり、
殺意紛いの行為を繰り返してたみたいだ……、胸糞がわりィ……」
「……じゃあ、途中に転がっていた骨とかって、もしかしたら……」
「可能性は高いな……」
「……か、勘弁してえェ~……」
ジャミル達は部屋を後にし、どうしようもない不安感に押し潰され
そうになる……。次に入った部屋は、棺が並ぶ部屋だった……。
「出よう出よう!……嫌だよおおお!」
「確かに……、此処には何もなさそうだ、ヘタレの言う通りだ、……出よう、
居るだけで気分が落ち着かねえや……」
……部屋に並ぶ棺。恐らくこの中に眠る遺体は、此処で人体実験に
使われた御霊なのだろう。4人は又重苦しい雰囲気になってしまった……。
「……帝国め、何処までも……、ふざけやがって……」
次に降りた階も、薄暗い陰気な牢屋が並ぶ通路。だが、明らかに
これまでの階とは違う、異様な雰囲気をジャミルは感じ取っていた。
「……感じる、……此処に……」
「あ、待ってジャミル、一人で行ったらっ!」
「又一人で突っ走るんだからっ!私達も行きましょ!」
「……ひいい~……」
アルベルトが止めるがジャミルは牢屋の方へと走って行く。その後を
仲間達も慌てて走って追い掛ける。
「まずは此処からだ!」
「な、何がいるのさあ~……」
「いいからっ、黙っててくれ!よし、開いたっ!」
ジャミルはダウドに注意し、最後の鍵で牢屋を開ける。其処で
見た物とは……。
「……あれは一体……」
「繭?黄金の繭よ……」
「……モ、モスラあーーっ!?彼処から出てくんのおーっ!?」
「ダウド、違うモン、あれは捕まってる天使さん達モン!あの繭の
中にみんなが閉じ込められて力を吸い取られてるんだモン!」
錯乱するダウドは頭の上のモンに又屁を放かれる。この光景を見るのは、
アルベルト達も当然初めてであり、何が起きているのか分からず、暫くの
間呆然としていた……。
「みんな、モンの言う通りさ、俺もモンもカデスの地下でああやって
繭に包まれてる天使達を見たんだ、無事に天使界まで連れて帰ったのは
その時の天使達だよ……」
「な、何て事だ……」
「捕まったままずっと力を抜き取られ続けていたのかしら、酷い……」
「あわわわわーーっ!た、助けないとだよおーーっ!!」
「頼む、皆、力を貸してくれ!」
「「ラジャーー!!」
「やれやれ、じゃ、アタシも動きますかね~……」
ジャミル達はモン、サンディとも協力し、繭の中から天使の一人を
救出、残りの牢屋も全て回り、捕らえられていた3人の天使達を全員
助け出す事に成功。皆、大分窶れ果ててはいたが、何とか一命は
取り留めた様子。だが、完全に状態を回復させるには一刻も早く、
天使界へと送り届けなければならない。
「みんな、大丈夫か……?」
「……ジャミル?あなた本当にジャミルなの?」
「ああ、俺だよ……」
「ジャミル、……あなたまで捕まってしまうなんて……」
「いや、違うよ、此処にいる皆と一緒に帝国に乗り込んで皇帝
ガナサダイを倒したんだ……」
「……え、えっ!?」
「こ、こんにちは……」
「初めまして……」
「えへへ~、オイラ、ダウドです~……」
天使達はジャミルと一緒に居る仲間達の姿を見て、自分達の姿が
見える事に最初は戸惑い、不思議な顔をしていたが、人間達が
こうしてジャミルと一緒に救助に来てくれた事に心から感謝した……。
「……本当に皇帝は倒れたの?じゃ、じゃあ……、私達助かったの!?
有り難う、ジャミルっ!皆も!あなた達は命の恩人よ!」
「あのさ、実は……、イザヤールの事なんだ……」
ジャミルは天使達にイザヤールが自分を庇って亡くなった事を
伝える。天使達はイザヤールの件でも驚きとショックを隠せない
様であった……。
「俺の、所為で……」
「そうだったの、イザヤールが……、でも、ジャミル、あなたは何も
気にする事はないのよ、元はと言えば、彼が引き起こした不祥事、全て
自業自得だわ……」
「そうさ、お前が後ろめたくなる事はない、裏切り者にはお似合いの
末路って事だよ……」
「だから、違うんだよっ!……あいつは……」
ジャミルはイザヤールが捕まっている天使達を助ける為、全ての罪を
背負う覚悟で敵を欺く為の行為で天使界を裏切った事、……この行動を
行った事も伝える。仲間達は何も言わず、静かに黙って話を聞いていた……。
「……本当か?イザヤールは皇帝を倒して我々を助ける為、裏切った
振りを……、……」
「本当さ……」
「とにかく助かったよ、ジャミル、まさかお前に助けられる事に
なるとはな、立派になったな……」
「いや、俺なんかまだまだだよ、えへへ……」
「オーオー、ケンソンしちゃってッ!似合わねーコトッ!」
「んだんだモン!」
「だよねえ~……」
連続デコピン×3
「……ゴホン、え~と……」
ジャミルは素早く、サンディ、モン、ダウドの3体に揃ってデコピンし、
慌てて咳払いした……。
「何すんのヨッ!アンタっ!このカワイイレディのアタシに向かって
よっくもやったわネッ!……覚えてなさいヨッ!」
「……レディも何も関係ないのよ、デコピンは誰にでも遠慮無しで
気軽に出来るお仕置きなんだから……」
ぽつりとそう呟く、デコピン被害常習犯のアイシャが遠い目線で呟いた……。
「……プッ……」
「アル、何?……何笑ってるのよう……」
「い、いや、別に……」
「しかし、帝国兵が我々より先に捕まった天使がいると言っていた
から、てっきりお前の事かと思ったがな、無事で良かったよ……」
「え、……ちょ、ちょっと待ってくれや!あんたらの他にもまだ、この牢獄に
捕まっている天使がいるってのか!?」
「ああ、この牢獄の更に奥の地底にはもう一人、天使がいるらしい、我々の
事は大丈夫だ、早く、その天使を助けてやってくれ……」
「でも、皆さんを早く天使界に送らなくちゃ……」
「人間のお嬢さん、私達の事なら心配は要らないわ、此処で
待っているから……」
「そう、早くこの牢獄の奥……、地の底へ……、其処には遙か
昔から捕えられている天使がいると帝国の兵士が言っていたのだ、
きっと我々などより、ずっと弱っている筈だ……、ジャミル、どうか
頼む……、その天使を早く助けてやってくれ……」
「分かった……、俺達、これから地底へ向かうよ……」
「ジャミル……」
「……モォ~ン……」
アルベルトもモンも心配そうにジャミルを見た。早く天使界に
戻りたいのは山々であるが、やはりまだ、捕まっている天使が
いるとなると、其方救出にも動かなければならない。
「俺ら、一刻も早く戻って来る、だから皆、もう少しの間、此処で
辛抱しててくれよ……」
「ええ、あなた達を信じてるわ!」
「どうか気をつけて、無事を祈っているよ……」
「武運を……、どうか、神よ、女神セレシア様、彼らを守りたまえ……」
ジャミルは天使達に必ずと戻ると誓い、更に奥のフロアの
地下へと階段を降りる。其処には新たな試練と大きな出会いが
皆を待ち受けていた……。
ジャミル達は捕らわれている最後の天使を救う為、更に地下深くの
フロア、地底へと足を運ぶ。今度は湖が広がる場所、地底湖。吊り橋、
足場、共に有り、どうにか渡って進んで行けそうである。
「嫌だなあ~……、落ちたらどうしよう……、いじいじいじ……」
「と、ぼやいておりますのはダウドですモン♪」
「……止まってられねえ、一気に駆け抜けるぞ!」
と、ジャミ公、トップで突っ走って行く。しかし、湖からキラークラブ
数体が出現。行く手を阻んだ。
「邪魔すんなっつーの!」
叫ぶと同時に、岸へ上がらせまいと、ジャミ公、ドラゴンキラーで
キラークラブを速攻で叩き斬り捲る。アルベルトも弓スキルのマジック
アロー連発で応戦。呪文耐性に弱くなった処をアイシャのイオラで
一掃する。更にヘルダイバーも出現。ダウドは慌ててハルベルトで
湖から飛び出して来たヘルダイバーをボカスカブン殴る……。
「ひいひい~……」
「……と、息切れしておりますのはダウドです、モン……」
「いちいち解説入れなくていいんだよおっ!モンはっ!」
「ジャミル、一旦はモンスターが途切れて出て来なくなった、
この間に!」
「よしっ!」
「……きゃっ!?」
だが、走ろうとした処でアイシャの悲鳴が聞こえた。又も湖から
何者かが出現し、アイシャの足首を掴んで湖の中へ引っ張ろうと
しているのである……。だが、モンが咄嗟に機転を利かし、負けじと
アイシャの腕を強く引っ張った。
「うう~、アイシャをはなして~……、モン……」
「アイシャ、モンっ!……こんにゃろーーっ!!」
「わわわわーーっ!ど、どうしよおおー!こんな時、僧侶のオイラは
どうしたらいいのーーっ!!」
(バカっ!アンタ男でしょっ、僧侶も何も関係ないっての!トンチキチン!
さっさと湖に飛び込みなさいよっ!)
「サンディ、無茶言わないでェェェ……」
「……モンちゃんっ!手を放してっ、危ないわっ!」
「……モモモモォォ~~ンっ!!」
「どいてろっ、俺がやるわっ!」
「ジャミル、待って!落ち着くんだ!」
「……アルっ!」
モンは健気に短い手で一生懸命、アイシャの手を引っ張り、湖に
連れ込まれない様に助けようと頑張る。しかし、このままでは、
モンも一緒に湖に引きずり込まれてしまい兼ねない状況に……。
切れたジャミ公は急いで湖に飛び込んで中からアイシャの足首を
掴んでいる変態の根源を叩き斬ってしまおうとするが、アルベルトが
それを制する。
「此処は僕が……、二人とも、力を入れて暫く我慢していて……、
行くよっ!!」
「……っ!!」
アルベルト、湖に向け、五月雨撃ち連呼。途端に湖は血で真っ赤に
染まり、湖から何かの影が浮かび上がる。アイシャの足を掴んでいた
主のモンスター、オーシャンクロー、そして、……普通のサイズ処では
ない、異様な大きさの巨大なピラニア数体……。
「……ひょえええーーっ!?」
「ふう……、な、何とか……」
「……アル、有り難う、助かったわ……、でも、怖かった……」
「うん、アイシャもモンも無事で良かったよ……」
「……アイシャ、モォーーンっ!!」
「……モンちゃんっ!」
アイシャとモンは無事を確かめ合い、ぎゅっと抱き合う。血みどろの湖を
見つめながら、ジャミルも……、アルベルトが止めてくれなきゃ、今頃は
……と、思うとゾッとした。オーシャンクロー自体はもうジャミル達の
LVでは雑魚敵であった物の、巨大ピラニアは、事前に何か獲物を食ったの
だろうか、遺体から血が噴き出し、湖が真っ赤に染まっていたのだった。
「あのまま考え無しに不用意に行動してりゃ、俺ら本当に全滅だったよ、
アル、サンキュー……」
「大体君はすぐカッとなるからだよっ、……全くっ!いつも言ってる
事だけど、少し頭を冷やせっ!」
「……フ、フン、うるせーよ腹黒……」
ジャミルは照れ隠しにアルベルトに向かって悪態を付く。こんな
とんでもねえ処に幽閉されている天使を早く助けに行ってやりたいと、
一層強くそう思った……。
「……サンディも酷いよおっ!あ、あんな湖の中に飛び込めだ
なんてっ!鬼ーーっ!」
(だって知らなかったし、しょ~がないジャン、……テカっ、仲間が
ピンチなのにアンタもいつもそれぐらいのカクゴの気持ちをいい加減に
持ちなさいよっ!)
「……ヘ、ヘタレですいません……」
と、突っ込まれ、反論出来ず、気弱になるヘタレであった……。
「さあ、又仲間を呼ばれない内に……、先へ進もう、アイシャも
大丈夫かい?走れる?」
「あ、じゃあ、俺が負ぶっ……」
「平気よ、行きましょう!」
言うが早いか今度はアイシャが先頭を突っ切り吊り橋を走って
渡って行く。その後を慌てて追うアルベルト。モンは再びダウドの
頭の上に乗り、ダウドも急いで走る。……残され、俺が負ぶって……、
の台詞を言えないまま、立ち尽くすジャミ公……。
「アンタもホント、相変わらずオバ~カ!ヨコシマ心出すからよっ!
スケベっ!」
「……う、うるせ~な、このっ!」
ジャミルはサンディに拳を振り上げるが、サンディはさっと消える。
其処へアルベルトが再び、何してるんだよっ!と、呼びに来たので、
仕方無しにその場を離れた……。
「はあ~、や~っと、地底湖ゾーン抜けたあ~……、これだからもう、
水辺は嫌ら……」
「ご、ごめんなさい、ダウド、私の為に……」
「ふぇ!?ち、違うよお!アイシャが悪いんじゃないんだからっ!
気にしないで、ねっ!」
「うん、有り難う……」
寝っ転がってひいひい、つい愚痴を漏らしてしまい、アイシャにも
聞こえてしまった為、慌てて弁明するヘタレ。そんなヘタレを呆れつつも
眺めているジャミ公……。ヘタレの性質上、分かっている事だが。
「……よし、元気出して行こうぜ!捕まってる天使はもっと辛い
思いをしてる筈だ!」
「そうだね、僕らなんか、こうしてまだ自由でいられるんだもの、
天使とは言え、何百年も拘束されているなんて……」
「絶対に天使さんを助けましょうね!」
「モンモン!」
(アンタらに期待してま~す♪)
「ああ!待ってろよ……」
再び地底を走り出す4人。必ず助けるから、もう少しの辛抱だ、
だから、待っててくれと、ジャミルは切に思う。……だが、
天使界で散々耳にした、タブー……、歴史の奥に隠された真実を
遂に知る時が来るのである……。
「ジャミルっ、あそこだっ!」
「!!」
前回の地底湖から一転し、再び牢獄の様な通路を進む一行は、
等々地底の最終ゴール地点である場所へと辿り着いた。今まで
見て来た牢屋とは明らかに系統が違う、まるで大きな広間の様な
特別な牢屋の中に、両手足を太い鎖で繋がれ、ぐったりとしている
囚人らしき金髪の青年を見つける。身体は既に傷だらけでボロボロ、
そして、背中にも翼が生えている処を見ると、もう一人の囚われの
天使と言うのはこの青年で間違いは無かった……。悲惨な光景に、
サンディも思わずジャミルの中から飛び出す……。急いで牢屋の
鍵を開け、中へ突入する……。
「……こ、この人が捕まってるってゆー、最後の天使なのカナ?
早く助けてあげヨッ!」
「ガ~ジガジ!モンっ!」
「モンちゃん、危ないから鎖囓っちゃダメっ!でも、本当に酷いわ、
こんな状態で何年も閉じ込められていたのね、許せない……」
「大丈夫か!?今助けるからな、もうちょっとの辛抱だっ!」
「回復はオイラに任せてね~!」
「早く助けよう、ジャミル!」
「よしっ!」
「……罪……存在そのものが……罪なのだ……」
男性陣は総動員で青年を繋いでいる両手足の鎖を外しに掛る。だが、
青年が呟いた意味深な言葉はジャミル達には聞こえていなかった……。
「……外れたぞっ!」
「やったわ!……良かった……」
「モォ~ンっ!」
ジャミル達の必死の行動で等々青年から鎖が外される。ハラハラと
状況を見守っていたアイシャとモンも一安心。だが、青年は鎖の
呪縛から解放された途端、床にばったりと倒れてしまう。
「……」
「あっ!?ダウドっ、回復魔法をっ、頼むっ!」
「うん!」
「可哀想、本当に大変だったよね……、でも、間に合って良かったわ……」
「……ああ……」
次はダウドが身体の治療に取り掛かる。普通の回復魔法では完全に
治らず、先に捕まっていた天使達同じく、天使界に連れて行かなければ
ならない。だが、どうしてもこんな状態の青年をこのままにして
おけなかった。少しでも傷を癒やして欲しかったのだった。だが、
この後、ジャミルや皆のそんな優しい気持ちを裏切る様な……、
とんでもない出来事がこの場で起きるのである……
「大丈夫、大丈夫モン……」
「ヘタレ、本当に平気なんでしょ~ネ……」
「サンディ、うるさい、プレッシャー掛けないで……、緊張すると
おならが出るから……」
「……ヤダッ!ヘタレのバカっ!!」
「……ここを訪れる者がいるとは……、ガナ……サダイが倒されたのか……?」
「え、ええ?何ですか?皇帝ですか?うん、オイラ達が倒しましたよ……、
正確に言うとですね、其処にいるジャミルが……、殆ど倒しちゃったん
ですけど……」
「お?あんた、少し喋れる様になったのか!良かったな!」
「僕達は帝国を倒す為に、この天使のジャミルと共に此処を訪れ、
皇帝ガナサダイを倒したんです、そして他に捕まっている天使の
方から話を聞いてあなたを助けに来ました、もう何も心配は
要らないんですよ!」
「ええ、もうすぐ天使界に帰れますよ、だからもう少し我慢して
下さいね!」
「♪モンモン!みんなで一緒に帰れるモン~!」
アイシャはモンを抱き、顔を見合わせると、とびっきりの笑顔を
青年に向けた。次の瞬間……。
「クックッ……、ククッ……、そうか、又私一人を残して
ガナサダイは逝ったか……」
「ど、どうしたんだ、あんた……、おい……、大丈夫か……?」
倒れている青年は……、いきなり身体を震わせ、奇妙に笑い出す。
戸惑うジャミル。様子がおかしくなって来た青年に、回復魔法を
掛けていたダウドの手も止まる。状況を見守っていたアルベルトも
アイシャも、モンも……。青年の様子に何だか異様に奇妙な物を
感じ始めた……。
「野望を果たせぬまま彷徨う奴の魂に力を与え手駒としてやったと
いうに……、熟々勝手な男だ、……いや、そもそも人間とは皆自分
勝手な醜い生き物なのだ、存在する事自体が罪、……それが人間……」
「ちょ、ちょっ!何かコイツ、様子おかしくネ?……病んでる?
ヤダッ!」
「……皆、ダウド、来いっ!」
「……あわわわ!ひいい~っ!」
サンディは慌ててジャミルの元へ飛んで逃げる。明らかに様子が
おかしくなった青年に危険な物を感じたのか、回復を中断させ、
ダウドを急いで側に呼ぶ。そして、俯いていた青年が遂に顔を上げ、
ヨロヨロと立ち上がったのである……。青年の表情は助けに来てくれた
ジャミル、その場にいた仲間達をまるで嘲笑うかの様な凶器に
満ちあふれていた……。
「クックッ、クククク……」
「……お前……、何なんだよ……」
「人間を守ろうとするセレシア……、人間を滅ぼそうとしながらも
結局は放置したグランゼニスも同罪……、犯した罪は裁かねば……、
誰もやらぬというのなら、この私が手を下そう……、我が名は
エルギオス!かつて大いなる天使と呼ばれし者……」
「……エ、エルギオス、だと……?まさか……、いや、んな筈は……」
「ジャミル、どうしたのよう~……」
「モン~……」
ジャミルは側で心配するアイシャとモンの声は耳に入らず、
エルギオス……、天使界では散々タブーとされて来たこの言葉を
頻りに思い出し、頭の中で何とか整理しようとしていた。いつか
天使界でラフェットと共に見た、エルギオスの碑に刻まれていた
言葉を思い出す……。
偉大なる天使エルギオス その気高き魂と人間を愛する心
我ら忘るることなしそして誓おう 神の国に帰れるその日まで
この世界を見守って行く事を……
そして、エルギオスはかつて、何百年も前にイザヤールの師匠で
あったと言う話もラフェットから聞いた事も思い出した。彼は
かつてある村の守護天使であったが、ある時地上に赴いたまま、
行方不明になり、二度と天使界に戻る事はなかったと。更に……、
イザヤールが消滅する前、彼がジャミルに伝えた最後の言葉、
ラテーナの記憶の夢の中で見た、大怪我をし、ナザム村で
療養していた天使の青年の名前……。
「イザヤール、あんたまさか……、帝国に師匠の……、エルギオスが
捕まってるのを知ってて、それで、ずっと……、一人で助けに行こうと……」
「問おう、翼無き天使よ、……お前は人間に守る価値があると
思っているのか?」
「……!」
エルギオスの言葉にジャミルははっと我に返る。エルギオスは
ジャミルに問いている。彼の質問の意味が分からなかった。
これまでずっと天使界の天使達は、地上の人間達を守る為、
ずっと行動して来た筈。一体何をそんなに人間達に逆恨みを
しているのか、理由は分からなかったが、ジャミルは最初は
必死で助けようと思っていた、この男が段々許せなくなって来た……。
「俺の方が聞きたい、アンタの言ってる事、意味わかんねーんだよ、
はっきり言ってよ!けど、ストレートにこう言っとく、天使達は
今までずっと……、人間達を守る為に戦って来たんじゃねえかよ!
滅茶苦茶言ってんじゃねえぞ!!」
「……わわわ、ジャミルーーっ!」
「ケンカダメモンーっ!」
「ジャミル、どうしちゃったの、どうして助ける筈の天使さんと、
こんな、こんな……」
「……ジャミル……」
一体どうしてこんな事になってしまったのか、仲間達も騒然……。
突然恐ろしい表情で錯乱し出した天使……。そして、ブチ切れ、
天使と対立してしまうジャミル……。
「ならばお前も我が敵……、人も神も全て皆滅びるがいい!!」
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