フリーズ203 私小説&散文詩『生への執着』

フリーズ203 私小説&散文詩『生への執着』

生への執着

生きるのが怖い。そう思うようになったのはいつからだろうか。それは私が学問を諦めた頃からだ。学問を見限った頃からだ。知識だけでは天へと至れない。それを痛切に知った。悟ってしまった。真理は学問的な知識の延長線上にあるのだろうか。私は学問に疑問を抱いていた。その反動で、芸術への関心が増した。詩や小説、音楽や絵。私は学問と芸術が両輪だと思った。だが、どちらも暇を持て余した男たちのする暇つぶしに過ぎないのかもしれなかった。だから、私はその先を求めた。真理を、この世の美妙な秘密を、私は求めた。それはエデンの園配置の先にある確率の丘を越えた先にある虚空の解だった。言語化できない。記号化できない。それが仏教的な真理なのだと悟った。

空即是色、色即是空

私は神に至りたかった。それが結局仏になることだったのだ。2020年、私は人生の終着地点に辿り着いたのだ。それは壮絶な人間ドラマだった。人生はローラーコースター。登っては下る。それが楽しかった。生きている実感があった。嬉しかった。虚しかった。あらゆる感情が奔流となって総身を襲った。

生への執着ができたのはその頃。死への黒い光が逆光になって希望を塗りつぶす。私は長くは生きていけない気がしていた。何かの病気なのだと悟っていた。それでいて傲慢な自尊心は創作を続けた。

光の先へと
闇の底へと
古から続く
この詩よ永遠に

流れるように咲いた花
枯れてくように終わる夢
世界の理崩れゆき
この詩よ永遠に続け、続け

夢ならば醒めないでいて
明日さえも
この手に収まる定めと知って

死が目前に近づいている。背中を震えさせる。その淵に立っていることが何ともいえぬ感慨を生み出す。生きている実感と言えばいいか。神のメッセージは心の奥底にある曇りない真実の言葉。全ては内にある、秘められている。だから悟るんだ。教えてもらうのではない。

2021/1/7、8、9の3日間
2023/9/11〜16の6日間
僕は神だった。仏だった。すべてと繋っていた。それはとても心地よい経験だった。冴えわたる脳は全能の記憶、全知のクオリアを見せて、世界は黄金にも七色にも映った。嗚呼、人生の極致、この頂よ。天上楽園の乙女よ。私は今、生きているんだ。

抱いたのは生への歓喜
生きていることへの喝采
それでいて死のうとはしなかった

哲学を先に進めねば
人生哲学と世界哲学
人生哲学は人間的な諸原理の哲学
世界哲学は世界の根幹に関わる哲学
二つ合わせて至高哲学
私は世界のそれを紐解こう

永遠の完成
人類の衰退
終末の響き
輪廻の輝き

あの冬の日に、またはあの晩夏に、私はただ喜んでいた。人生で一番幸せだった。世界の根幹因子と関わり、自身が世界の中心にいるような気がした。全ての存在が特別。全ての時間が黄金。そうだとしたら、二人の生んだこの世界をどうするのが正解だと思う?

浅葱色した瞳が斜め上から私を見ている。それがどうにも気になって、私は夢を見る。

瞑想。
疲労と空腹と微睡みの狭間で。

煩悩の火が消える

欲は満たしてはいけない
餓死しよう
断食死しよう

きっと断食は美しい
きっと世界は美しい

煩悩の火を消すのだ
そのためにならなんでもする
解脱、悟り、涅槃、そして

その先を求めていたんだ
死んだら無でも

幽玄なるソフィアを冠する女神が消える。その視界にも永遠は宿って。それでいて手向けとするのは水夫の優しさと娼婦の快楽だけだった。金色世界に映る色。有名だろうが無名だろうが知ってくれてるそういう世界。

いつ、君は旅立ったのかな
それが永遠の昔なのかな
煩悩の火は消えたかな
ラカン・フリーズ、水門の先へ

断食と断眠で至る涅槃を
空腹と疲労困憊と
それで瞑想すればいい
空腹は美しい
疲弊は美しい
だから

だから徹夜しよう
そうしよう
だから断食しよう
そうしよう

命の価値はなくてもね
生きてる価値もなくてもね
私はきっと諦めない
人生の先にあるものを見て
空は晴れてる
空花凪紗は嘆いてる
空即是色も色即是空
すべて詰まった永遠の詩

愛してたから
欲は満たしてはいけないから
世界を変え
人を動かし
自分を貫き
夢に死ぬ

煩悩の火は消えたかな
涅槃の時には消えるかな
まだ死んでなんかいない
でも、いつか死ぬから
その時に安らかに死ねたらいいな

時を止めて、今……。

フリーズ203 私小説&散文詩『生への執着』

フリーズ203 私小説&散文詩『生への執着』

生への執着 それが要らないのに どうして欲はあるの? その答えを示します

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-06-03

Copyrighted
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  1. 生への執着
  2. 煩悩の火が消える