zoku勇者 ドラクエⅨ編 62
カデスの牢獄編・2
「……起きろっ!貴様、何時まで寝ているんだっ!囚人は仕事の時間だぞっ!!」
「……何時までって、……うわっ!?」
早朝。恐らくまだ午前3時頃かと思われたが、ジャミルは牢屋へと
やって来た看守兵に昨日の傷も治らぬまま、叩き起こされ牢屋から
出されるのだった。
「モン~……、モ、モ……、モォ……」
「大丈夫さ、モン、俺が、戻るまで暫く此処で遊んでてくれな、
もし、誰か来たら、ちゃんとぬいぐるみのフリしろよ……」
「……貴様っ!何を人形などと喋っている!頭のおかしい奴め!
早く来いっ!」
ジャミルは鉄格子越しにこそっとモンと話すのだが、看守兵に又
頭を殴られ、連れて行かれる。それでもジャミルは平気で看守兵に
こそっと舌を出していたが。……モンはそんなジャミルの姿を涙目で
見つめていた。こんな時、ジャミルとちゃんと話も出来ず、伝えたい
言葉も伝えられず、何も出来ない自分が歯がゆくて悲しくて……。
「アギロ、こいつが新しく入った新人だ、しっかり色々教えてやるんだぞ、
怠けない様にな!じゃあな、しっかり働けよ!」
ジャミルは看守兵に連れられ、地下から地上の階に出る。もう其所は、
奴隷囚人が作業を行うだだっ広い広場が見下ろせる場所だった。
作業広場にはジャミルと同じ、沢山の囚人達の姿が……。橋の袂に
待っていたらしき一人の男性。看守兵はその男にジャミルを預けると、
持ち場の方に戻って行った様である。
「よう、遅かったな、俺はアギロさ、アンタの隣の部屋のな……」
「あ……」
ジャミルの前に立つ、変な帽子を被ったガタイのいいおっさん。
このおっさんが、昨日牢屋で余り騒ぐなとジャミルに隣の牢から
注意した人物らしい。どうやら、ジャミルの此処の仕事場での新人
研修?の教育係も任されているらしかった。
「そんなに固くなるな、どうあがいても此処から逃げられる
訳じゃねえんだ、帝国に怒りを感じているのは、此処にいる皆、
気持ちは同じだ、だが、今はどうする事も出来ねえんだからな……、
安心しな、俺達は皆仲間だ……」
どうやら、この親父は外観はごついが、人柄の良いおっさんらしかった。
ジャミルは安心し、自己紹介してみる。
「俺はジャミルって言うんだ、宜しく、アギロ……」
「そうか、ジャミルか……、よし、まずは雰囲気に慣れる事だ、
俺も付いていってやるから、広場を色々歩いて回ってみな……」
「へ?でも、仕事は……?すぐ作業に取り掛からなくていいのか?」
「大丈夫だ、職場見学も仕事の一つだからな、お前の事は全て俺に
任されている、さあ行こう!……それにしても、その顔は……、
いい若者が、見ていて痛々しいな、全く、相変わらず奴らも
容赦ないな、ほれ、これを使え!」
「……あ、有り難う!」
アギロはジャミルに薬草を渡す。ジャミルはアギロに感謝しながら
急いで薬草を顔に塗る。……あれ程酷くアザだらけだった顔の腫れが
忽ち直ぐに引けたのだった。
「よっしゃ!美男子ジャミル君復活うー!あははのはー!」
「……おい、だから騒ぐんじゃねえよ!しかも踊るな!けど、
お前……、相当変で面白い奴だな……」
「変じゃねーのっ!個性的って言ってくれよ!」
「……わ、分かった分かった、ほら行こう……」
アギロはぶーぶー口を尖らせ変顔をする変なジャミルに苦笑。
だが、この少年のポジティブさに希望を持ち始めていた。皆にも
伝えてやりたいと。……もしかしたら。ジャミルも徐々に本来の
アホ……、持ち前の明るさを取り戻し始めていた。
「此処はだな、色んな作業をさせられるんだが、主にメインの
仕事はだな……」
「……ひ、ひいっ、あああ!」
「!?」
「……おい、爺!貴様又失敗したな!何度失敗したら気が済むのだ、
貴様っっ!!」
「も、申し訳ありませんですじゃ~!」
凄い形相の監視兵の前に土下座するふらふらの老人。どうやら作業で
ミスした模様。監視兵は今にも老人に向かって鞭を振り上げそうだった……。
「……アギロっ、あ、あの爺さん大変だ!助けなくちゃ!」
「ジャミル、駄目だ!静かにしてろっ!!」
「……で、でもっ、ああっ!?」
爺さんを心配し、今にも飛び出していこうとするジャミルに
アギロはきつく、こう言うのだった……。
「此処には此処のルールがある、俺達には上司に逆らえる権利は
無いんだ、もしも今、爺さんを助けに出れば、此処にいる他の連中も
連帯責任で酷い罰を受ける事になる……」
「だからって!……畜生っ!」
「ジャミル、アンタは優しいんだな、大丈夫だ、爺さんの手当は
後でちゃんとしてやる、人手も足りない故、奴らも殺すまでは
やらないからな、……分かっているから、いつも皆、こうして
耐えて我慢しているのさ……」
ジャミルはアギロに止められ、爺さんが只管殴られているのを
見ているしか出来なかった。自分も昨日やられている為、余計に
悔しいのである……。
「何度言っても分からん糞爺がっ!……もう痴呆も始まっているかも
知れんな!やれやれ、無能な奴の所為でストレスだけが溜まるわ!
茶でも飲んでくるか!」
「……ひいい~……、はあ、はあ……」
監視兵は倒れた老人に鍔を掛けると自分は休憩へ移動した。
……その隙にアギロが素早く動き、老人を介抱する。
「爺さん、大丈夫か?さあ、これを……」
「……アギロ、ず、ずまんのう、いつも……、……しかし、儂も
もう90じゃ、いい加減に勘弁してくれんかのう~……」
「爺さん、弱気になるな、それこそ本当に殺されてしまうぞ、
此処にいる間は、仕事が出来る内だけは生かして貰えるからな、
頑張ろうや……」
「……も、もう……、死んだ方がマシじゃ~……、婆さん、はよう
迎えに来ておくれ……」
「……爺さん、申し訳ねえ、いつもいつも本当に……、何も
してやれなくてな……」
「辛い……、わしゃ辛いよ……、身体がもう限界じゃ……、足も
真面に動かん、うう……」
アギロは爺さんに、先程ジャミルを助けてくれた様に薬草を
爺さんの傷に塗ってやる。実に見ていて痛々しい光景であった……。
自分はまだ若いからいい様なものの、こんな、働くのがもう困難な
老人まで捕らえ、帝国の為だと徹底的に奴隷の様に働かせようとする……。
グレイナルを殺した憎きバルボロス、そして、帝国……。……ジャミルは
もう、帝国への怒りが爆発しそうであった……。
「よう、アギロ、……誰だい?そいつは……、また新人か……?」
「ああ、紹介するよ、ジャミルだ……、ほれ、挨拶しな……」
次に連れて行かれたのは、墓場……。3~4人の男達が
穴を掘っている。……どうやら、仲間の埋葬作業らしいと
言う事は直ぐに分かった……。
「あの、こんちは、俺、ジャミルだよ、宜しく……、……え~と……」
「そうか、宜しく、けど、そんなに気を遣わなくていいぜ、此処じゃ
もう当たり前の事だからな……、別に珍しくもないのさ……」
穴を掘っていた男の1人が力なく呟く。だが、顔はジャミルの
方を向いていない。2人組が棺桶を一緒に持ち上げると穴の中に
埋葬し、残りの1人が土を掛ける。……最後は……全員で黙祷……。
「病気で今まで隔離されててな、昨日、急に容体が悪くなっちまって、
今朝、力尽きたんだよ……、重い伝染病は薬草じゃ治せねえからな……」
「そう、なのか……」
状況を見守っていたアギロも呟く。ジャミルもどう言って
良いのか分からず、こんな返答しか出来ないのだった。最悪の
環境衛生の悪い処では、こう言った事も当たり前なのだろうが。
「さあ、俺達も仕事に戻らねえと、又どやされるからな、じゃあな、
アギロ……」
「ああ、又な……」
「……」
男達が作業場に戻って行った後、ジャミルも墓の前で静かに目を閉じた。
「ジャミル、今の俺達はこうならねえ様に、何が何でも、例え石に
齧り付いてでも生きるしかねえんだ、それしか出来ねえ……、絶対に
負けてたまるかってな……」
「勿論さ!」
アギロの言葉に力強く頷くジャミル。絶対に生きて此処から出て
帝国と戦ってやるんだと、そう強く誓うのだった……。
「なあ、どうにかして此処から出られそうな話ってないのか?」
「……それは無理な話さ、やれるモンなら皆とっくに脱出してるだろ、
此処の牢獄の門には結界が張られていて囚人には出られなくなってんのさ、
……何でも聞いた話じゃこの牢獄を出てずっと東に行くと帝国の城が
あるらしい……」
「そうか、其所が帝国の本拠地って訳か、成程……」
「さあ、彼処が俺達の普段の就業場所だ、ジャミル、お前さんも
彼処で働くんだよ……」
「おおっ!?」
正面には何だかよく分からん、重そうな機械が……。それを皆で
グルグル回しているのである……。
「さあ貴様ら気合い入れてキリキリ回しやがれっ!自分だけ
力を抜いてサボろうなんて、不届き者は百叩きにしてくれるぞっっ!!」
「……ひいい~、ひいい~、ひいい~……」
機会の側にはやはり監視の兵。少しでも手を抜けば鞭でビシビシ
叩かれるのである……。
「……あんな事言っているが、何の為に回させてるのか、奴ら
恐らく自分でも解ってないんだ、しかし意味の分からない事を
延々とやらされ続けるのはキツいからな……、
この牢獄に捕らえられた囚人はやがてみんな心か身体がどっちかが
壊れちまうんだ……」
「ひ、ひいっ!」
「……ボンっ!貴様ァァァーー!」
「あっ、奴ら又っ!」
「よせっ、ジャミルっ!さっき俺が言った事を忘れたのかっ!?」
「ううっ、だ、だけど……、やっぱ黙って見てるなんて……、
俺……」
「いいから来い、まだ見ていない場所もあるだろう!」
アギロはジャミルを引っ張って連れて行く……。後ろの方から、
悲鳴と鞭で叩かれる凄まじい音がした……。
「このっ、このっ!そんな体型だから仕事も真面に熟せないのだ!
死ねっ、死ねっ、……このデブっ!!ブタっ!!オラオラーーっ!!」
「……ご免なさい、ご免なさい!……あああ、痛い、痛いよううー!!
や、やめてーー!!」
「……」
「あのふくよかな青年は、最近此処に連れてこられたんだ、元・
ボンクラ息子でな、此処に連れて来られるまでは何の不重も無く、
金にも困らず生活していたらしい、それが一転してこんな処に
いきなりぶち込まれたんだからな、厳しい世の中を知らないん
だから無能で何も出来ないのも無理はねえんだ……」
「……そうか、ボンクラだから、……ボンて言われてるんだな……」
こんな悲惨な現場ばかりを目の辺りにし、又ジャミルも疲れて来ていた……。
だが、此処でへこたれる訳にはいかないのだと……。自分に気合いを
入れようと顔を叩いたが、強く叩き過ぎて……。
「……いっ、たああ~……」
「おいおい、何やってるんだ、大丈夫か……?」
「ら、らいじょ~ぶら……」
「……お前、本当に面白い奴だな……」
「……だから、ほっとけってのっ!うう~、あ、あ……」
そしてジャミルは更に嫌な物を目の当たりにしてしまう。
……ギロチン……、所謂、処刑台だった……。
「この処刑台は飾りモンじゃない、兵士共に逆らった多くの仲間が
こいつの犠牲になっているのさ、ジャミル……、俺は今でこそ奴らに
従ってる振りをしてるが、決して諦めた訳じゃねえ、仲間達の為にも、
いつか必ず奴らに一泡吹かせて見せるさ!今はチャンスを待ってるんだ、
そしてそのチャンスはもうすぐ其所まで来てる……、そんな気が
してるのさ……」
「チャンスを狙え……、か……、お?あの紋章みたいなのは……?」
正面に見える何やら紋章の様な物……。何やらその先がありそう
なのだが……、しかし、紋章に近づこうとしたジャミルは又も
アギロに止められ、肩を掴まれた。
「こっから先には俺たち囚人は入れねえ、見張りの塔やら帝国の
連中の宿舎があるエリアだからな、後は、俺達がぶち込まれている
地下よりも更に下の階に謎の地下牢があるって話だな……」
「まだ隠された別の地下があるってのか……?」
「そう、何でもその牢にはゴレオンのやつが探している特別な連中が
捕まってるらしい、……まあそんな事はともかく目の前にある
結界には触れないようにしとけ、帝国の連中は平気で通ってくるが、
俺達がそいつに触れるとビリビリと弾かれるのさ、……いや、物は
試しだな……、ジャミル、お前、一つ身体で覚えるつもりで触ってみろ、
チョンと触って見な、ビリビリって来るだけでたいして痛くはな……」
「……平気みたいだ……、通れたぞ……」
「い……、……ああーーっ!?」
アギロは仰天する……。ジャミルは平気で結界を通り抜け、
触れているんである……。
「ちょ、ちょっと来いっ!……んなとこ、帝国の奴らに見られたらっ!
……ああ~、びっくりしたなあ~……」
アギロは慌ててジャミルを引っ張るが……、ジャミル本人も
何が何だか分からず、きょとんとしている……。
「おいおい、しかしどういう事なんだ?あの結界をすり抜け
ちまうなんて……」
「だから俺にも分かんねえよ……、お?」
「なんだ?ジャミル、お前の懐、なんか光ってるが……」
ジャミルはシャツの懐から……、ある物を取り出す。あの時、
グレイナルに貰った、古い紋章である……。
「……そうか、これだけは持って行かれなかったのか……」
「……これは……、帝国が使ってる紋章が掘り込んであるな、
光ってるって事は、お前が結界を超えられたのはこいつの
お陰って事か?こんな物、一体何処で手に入れたんだ?」
「……実は……」
ジャミルは此処に来る前に、古の英雄グレイナルと会った事、
彼の死の直前にグレイナルから譲り受けた紋章だと言う事を
説明した……。
「……グレイナルだって?そうか、成程……、あの老ドラゴンから
貰ったって訳か、なあジャミル、この事は俺の胸にしまっておくから、
お前も誰にも言うなよ、もし、帝国の連中に知られたら只事じゃ
済まなくなるからな……」
「ああ、分かってる……」
「さて、此処の大体の案内は終わったが……、どうだ?そろそろ仕事を
始めてみるかい?」
「ああ、行くよ、さっきの変な機械の処だな、……よし!」
ジャミルとアギロは先程の奇妙な機械の処に戻る……。現場では、
相変わらず、ボンと言う、太った青年が兵士から暴行を受けていた。
それを見たジャミルは大きく息を吸い込み……。
「……やめろーーっ!!」
「!?……な、何だこのガキはっ!!」
「うう~……、き、君は……?」
ジャミルは倒れているボンを慌てて助け起こす。そして静かに声を掛け……。
「大丈夫だ、俺、新人だけど、今日はアンタの分まで俺が働くから……、
だから少しの間でも休んでろよ!」
「で、でも……、そんな……」
ボンを暴行している兵士を強く睨み返したのだった……。
「……こ、この、糞ガキィィっ!!」
「まあ、待ってくれ、この少年は昨日入った新人なんだが……、
ジャミル、まだ余り無理はするな……」
「大丈夫さ、アギロ!俺、こう見えても運動神経良いし、体力には
自信あるからさ、心配ねえよ、おい、だから俺がボンの代わりに
めいいっぱい働くさ、好きにこき使えよ!」
「……ジャミル、お、お前って奴は……」
「そうかそうか、成程……、ならば働け!好き放題な!……おい、
ボン、今日はもう引っ込んでていいぞ、……特別にな!ひゃ~
ははははッ!」
監視の兵は嫌らしい笑いを浮かべ、ボンは牢屋へと戻される……。
……その日、ジャミルは監視兵に鞭でしこたま叩かれながらも、
手先が元々器用だった事も幸いし、クタクタになりながらも、
どうにか無事に辛い仕事を終わらせたのである……。
それから数日間。ジャミルは同じ場の仲間と共に毎日、来る日も
来る日も、訳の分からん重い機械を一日中回し続ける日々を繰り返す。
だが、空いた時間、少しでも間があれば仲間達とコミュを取ったり
していた。絶望で荒んでいた牢獄の囚人達は次第にジャミルの
明るさに癒やされ希望を取り戻して行く。特に……。
「ジャミル君、お疲れ様……」
「ん?ああ、ボンか、今日も何とか終わったな……」
「うん、……あのね……」
「?」
「僕、君が羨ましい、運動も出来るし……、仕事はすぐ熟しちゃうし、
凄いよ、僕なんか何も出来ない、怒られてばっかりの只の能なしの
デブだもの……」
「あのな、ボン、自分で最初からそう思ってたら何もできやしねーよ、
駄目だって思ったらそのままだぜ、変わりたかったら変わろうと
思わなきゃそのままなんだよ……、ま、俺も偉そうな事言ってる
けどさ、勉強はまるでからっきし駄目だからもう諦めてるけどさ!
ははは、どうしても勉強だけはしたくねえんだ!」
ジャミルはボンに向かって悪戯っぽく舌を出し微笑んだ。
「自分が……変わる……」
「そ、思い立ったら吉日、まずは自分で行動を起こしてみる事!」
「……こらーーっ!貴様らーーっ!何をくっちゃべっておるーーっ!
仕事が終わったらとっとと牢屋に戻らんと残業だぞっ!……この
無能の馬鹿共めーーっ!!」
其処へ凄い勢いで鞭を持った監視兵が走って来た。ジャミルは慌てて
ボンを突く。
「やべ、来た!早く戻ろうぜ、じゃあな、ボン、又明日な、早く
休んどけよ!」
「うん、……ジャミル君、ありがとう……」
そしてクタクタになったジャミルは牢屋へと戻され、また牢屋に
鍵を掛けられる。こうして漸く一日が終わる。だが、牢屋の中では
ずっと待っていてくれたモンが出迎えてくれるのである。
「モン、モォ~ンっ!……プ♡(お帰りのおなら♡)」
「ただいま、モン、今日も疲れたさ、屁はいいから、……早く
休みてえんだけどさ、又そろそろクソメシが届くから、それまで
お前ももう少しぬいぐるみの振りしてろよ、ありがとな……」
「モン!」
モンは再び丸いお腹を出して仰向けになるとぬいぐるみの振りをした。
やがて当番の看守兵が訪れ牢屋にクソメシを届けて行く。今日の
メニューは相変わらずの薄味の水スープと、今日はまだ良い方なのか、
硬くなった乾燥肉二切れ分。
「はあ、こんなん見てると、アイシャが作ってくれる破壊メシが懐かしいわ、
アイツの場合、本当に天然で、美味しい物を食わせたいっつー無理矢理な
愛情だけは込めて作ってくれたからな……、ほれ……」
「モ~ン!」
ジャミルは乾燥肉を半分千切るとモンの口に入れてやる。こんな食事
ばっかりでもモンは我慢して暴れないでいてくれる為、本当に少し
大人になったなあとジャミルはしみじみ。……何とか此処を無事に
でる事が出来れば……、モンに沢山キャンディーを食わせて
やりたい心境だった。
「……けど、あんまり食わない割にはお前、その腹引っ込まないなあ、
……あてっ!だから屁はいいってのっ!」
「シャーーっ!……ブーーッ!」
と、まあ、ジャミ公が面白がって構って突っつけばこの様にすぐ
頭に噛み付くが。仕事を無事終え、牢屋に戻された後は、昼間
構ってやれない、一人で我慢させている分、モンが眠くなるまで
遊んでやる。やがてデブ座布団皇太子が完全にお休みになった頃。
「ブゥブゥ……、むにゃむにゃ……」
「やれやれ、やっと寝てくれたか、俺も寝るかな、……ふぁ……」
「ジャミル、まだ起きてるか?」
「……アギロのおっさんかい?今寝ようかと思ってた処さ……」
丁度欠伸をした瞬間、隣の牢から声がした。アギロである。
「悪いな、お前も疲れてんのに、ちょっと話があってな、少し
いいか……?」
「うん、大丈夫さ……」
「……モン?」
ジャミルはそう言うと鉄格子から周囲を見渡し、看守兵が
来ないか確認の後、壁際へと近づく。モンも目を覚まして
しまった様で、寝ぼけ眼にジャミルの方をじっと見ていた。
「いいよ、聞こえるから、話してくれ……」
「ああ、実は、何時までもこのまま泣き寝入りじゃもう駄目だと
思ってな、愈々決行の時だと思ってな、俺達の本当の自由を
掴み取る為のな……」
「それって、まさか……」
「ああ、ジャミル、お前にも是非力を貸して欲しい、皆、お前に
希望を持ってる……、英雄グレイナルに認めて貰えたお前なら、
もしかしたら……」
「俺が……?けど……、あっ!?」
ジャミルは急いで壁を叩いて合図する。足音が少し聞こえたからである。
アギロも一旦声を潜め、ジャミルは座って壁に寄り掛かり寝たふりをした。
モンも又ひっくり返りぬいぐるみになった。やがて、本日最後の見回りに
看守兵が牢屋に訪れる。
「ふん、クソガキが、だらしないツラをして寝てやがる、ま、
この先もお前達には未来などないんだからな、少しでも休んで
おけよ!」
ジャミ公は寝たふりをしながら顔に青筋を浮かべ、看守兵が
いなくなるのを待つ。一応同情をしてくれたつもりなのだろうが。
だが、ジャミ公は腸が煮えくり返りそうだった。
「……アギロ、俺もあいつら絶対許せねえよ、さ、話してくれ、続きをさ!」
「……ああ、数日間此処で働いてこの牢獄が酷い処だってのは分かった
だろ?実はな、このままじゃいけねえってんで以前から俺達の間じゃ
脱出計画が練られていたんだ、さっきも言ったが、ジャミル、お前さんにも
この計画に協力して欲しいって事なのさ、計画と行っても単純なもんでさ、
不意打ちで連中の武器を奪って蹴散らすって寸法さ、雑な作戦だが元々
頭数ではこっちの方がずっと上なのさ、だから勝機はあると思ってるぜ!」
「だよな、俺も何かやる気になって来たよ!」
「そうか!だが問題なのは例の結界なんだ、あれがある限り俺達は
この牢獄から出る事が出来ない、……処が結界を通り抜けられる
お前さんがいるとなると話は変わってくるんだよ、どうだい?
改めて俺達の計画に協力しちゃくれないか?」
「勿論さ!協力する!」
「そうかやってくれるか!礼を言うぜジャミル!……と言っても
今日明日、すぐに決起って訳じゃねえ、今はチャンスを待ってるんだ、
詳しい話は又何れって事で、今日の処はもう休んでくれ……」
「でさ、ちょっとアギロに話しておきたい事があってさ……」
「モン?」
ジャミルはモンの方を見る。脱出計画決行ならモンも絶対に連れて
行かなくてはならない。アギロにもモンを紹介しようと思ったので
あるが、今は牢屋から出る事が出来ない為、取りあえずモンの事を
聞いて貰おうと思ったんである。ジャミルは今までずっと一緒に
モンと旅をしていた事、墜落の際、一緒にモンも此処にぶち込まれて
いた事、ぬいぐるみのフリが出来る事など、とにかく分かって
貰える様に説明した。
「成程、お前さん、モンスターの友達をこっそり連れていたのか、
流石だな、こりゃ益々頼もしいな!」
「……アギロ、信じてくれるんだな!でも、……変に思わないのかい?」
「当たり前だろう、皆、お前さんの事を信じている、まあ、その
お連れさんについては俺に任せな、一緒に現場まで連れ出せる
方法はある、安心しな!」
「アギロ……、ありがとな!」
「ああ、だから何も心配しなくていい、その日まで少しでもゆっくり
休んでおいてくれ……」
「分かってるさ、じゃあ、又明日……」
アギロの声は聞こえなくなる。床に付いたらしい。ジャミルは、もうすぐ
いよいよ此処から脱出出来る日が来るんだと思うと妙に興奮してくるのだった……。
「モン、もう少しだっ!此処から逃げられるぞ!その時はお前も現場まで
連れて行ってやるからな、頑張ろうなっ!」
「……モ、モォ~ン、モンっ!」
モンは何となく不安を感じたが、それでもジャミルが喜んでいるので、モンも
笑顔を見せるのであった……。
ドミールの里
「……」
「アイシャ……?」
その夜。ドミール。ジャミル達の行方が分からないまま仲間達も
数日間を過ごしていた。アイシャは昼間、皆を心配させない様、
里の復興を手伝いながら気丈に振る舞っていたが、夜眠る頃に
なると不安になるのかこうして目を覚ましてしまうのだった。
宿屋の外へと一人出て行ってしまったアイシャに気づき、後を
慌てて追うアルベルト。
「アイシャ!」
「アル……」
「アイシャ、君、この頃全然夜眠れてないんだろ?駄目だよ、
自分の身体も大事にしなくちゃ……」
「うん、アル、ごめんね、頭じゃ分かってるんだけど……、さっき、
とても怖い夢を見て……、ジャミルとモンちゃんがね、場所の
分からない……、何処か……、真っ暗闇の中で傷だらけで
倒れて苦しんでいるの、大きな恐ろしいモンスターに襲われて……」
其処まで言ってアイシャはしゃがみ込んでしまう。アルベルトは
彼女が又泣いているのを見て慌てて直ぐに声を掛けようとするのだが……。
「ジャミル、モンちゃん……、今、何処にいるの?場所が分かるのなら……、
直ぐにでも飛んで行って助けに行きたい……、逢いたい……、どうして
サンディまで急に消えちゃうのよ……」
「アイシャ、大丈夫だよ、悪い事は考えない方がいい、ほら、
悪い夢はその逆とも言うじゃないか、……僕達、この前もちゃんと
再会出来たろ?信じようよ……、どんなに何回も引き離されたって、
僕らは繋がってるんだ、負けやしないよ、そう、負けるもんか、
絶対に……」
「……うん、そうだね、……ジャミルったら本当に何回心配させるのよ、
バカ……、そうやって人を構って、本当に意地悪ばっかりするんだから……、
大っ嫌いよ……、嘘、そんな事ない……、ジャミルのバカ……」
アイシャは涙をアルベルトに見られない様、拳でぐしぐし乱暴に擦った。
……全く、あの原始人は毎回毎回、一体全体何回アイシャを泣かせたら
気が済むんだと、アルベルトは今すぐにでもジャミ公を球代わりに
バットで一発夜空の彼方にぶっ飛ばしてやりたい心境に陥る……。
しかし、本人が今行方不明なのにそんな事出来る訳がないが……。
「あ、アル、アイシャ、此処にいたんだ!えへへ、ほら、コーヒー
淹れて来たよお、皆で飲もうよ、元気出さなくちゃね……、はい、どぞ、
冷めないうちに……」
「ダウド……」
アイシャもアルベルトも外に出て来たダウドの方を見る。無鉄砲な
友人の又の失踪にダウドも相当心を痛めている事は分かっていた。
特に彼はこの中ではジャミ公との付き合いが一番長い故、昔から
大変な苦労をしている事も……。しかし、それは親友同士、ジャミ公も
同じ、お互い様である。
「うん、メソメソばっかりしてられないよね、ジャミルが戻って
来るまで私達には今、出来る事をしなくちゃ、ありがと、アル、
ダウドもね!コーヒー頂くね!う~ん、美味しいっ!」
アイシャ美味しそうにカップの中のコーヒーを飲み干す。それを見た
アルベルトとダウドも頷き合うと、笑顔になるのだった。
「……オイラ、絶対に帝国は許さないよ、皆の大切な笑顔を
奪おうとする帝国の奴らを……、許すもんか……、何が何でも……」
「ああ、僕もさ、絶対にね……」
……だから、ジャミルのアホ、早く戻って来いよと二人は健気に
頑張ろうとするアイシャの切なそうな姿を見ながらそう思うのだった……。
そして、翌日……、カデス……。
「……う~、ア、アイシャ……、俺が悪かった……、頼むから……、
尻で潰さないでくれ……、う、これは尻じゃなくて、ケツ……、
くっせええーーっ!!」
「モン~♡プ~……」
「……モンっ、ま~たオメーの仕業かっ!この野郎ーーっ!!」
「♪モシャシャシャ!」
早朝、ジャミ公はモンの生ケツ+放屁で起こされる。そろそろ顔も
見たくない看守兵も来る時間なので慌ててモンを捕獲するのだった。
規則正しく、モンへとやる事もちゃんとしておく。
ぴんぴんデコピン×10
「よう、相変わらず随分と騒がしいな、しかしジャミルは今日も
元気がいいな!」
「あれ?……アギロ……?」
「シャーーっ!?」
朝、何故かジャミルを仕事へと迎えに訪れたのは、隣の牢屋にいる
アギロであった。ジャミルはきょとんとし、アギロの姿を初めて
見るモンは慌てて又ぬいぐるみになるとその場に倒れた。
「モン、大丈夫だよ、このおっさんは俺達の味方だよ……」
「モン~?……モン、モン……」
ジャミルの言葉にモンは不思議そうな顔をし、起き上がると
アギロの方へ飛んで行った。……そして、帝国の兵ではないのを
確認。安心した様子。
「アギロ、紹介するよ、コイツが昨日言ってたモンだよ、まあ、
悪さばっかりしてどうしようもねえ奴だけど、人間が大好きな
奴なんだ、宜しく頼むよ」
「モン♡」
モンはアギロにぺこりと頭を下げる。それを見てアギロも笑った。
「ははは、そうか、成程、ジャミルから聞いた通りの面白い奴だな、
俺はアギロだ、一応此処の囚人の代表者みたいなモンだけどな、
宜しく頼むぜ!」
「モォ~ン!」
「処で、なんで今日はおっさんが?」
「……それについてなんだが、看守兵の奴らに上手く話をして
おいたのさ、皆に仕事の話があるから明日の朝は俺から仲間を
直接迎えに行かせてくれってな……、ほれ、出な、二人とも……」
アギロは上の兵士から受け取った鍵で牢屋を開ける。アギロは
囚人達の中でも代表格で、此処の軍の上層部からも仕事面では
信頼を経ている。なので、あっさり今回の件の申し出も許したのである。
「でも、モンは……」
「ああ、その事なんだが、今日、何とか休憩時間にでも皆と愈々
本格的に反乱分子の打ち合わせだ、皆にもお前の友達の事を話して
おかなきゃならんからな、ほれ、暫く窮屈だろうがこの袋の中に
入ってろ、空気穴は開けてあるから大丈夫だ、俺が受け持つからよ……」
「モン!」
モンはアギロが用意してくれたリュックの中に入る。アギロの
荷物としてなら、特に兵士達も調べたりする事はしないだろう。
ジャミルはアギロの対応に心から感謝した。
「そうか、本当に奴らとの戦いを決行するんだな!」
「ああ、見てな、……帝国の野郎共、このままで済まさせるか!」
力強いアギロの言葉にジャミルの胸が高まる。絶対に皆と一緒に
此処から生きて帰るんだと……。アギロは他の囚人達の牢屋の鍵も
開けて回る。その中にはボンの姿も……。
「あ、ジャミル君、アギロさんから聞いたよ、愈々、もうすぐ
自由への戦いなんだね!ぼ、僕にも出来る事あるかなあ……」
「ああ、大丈夫さ、きっと!」
「うん、君がそう言ってくれるなら何だか大丈夫そうな気が
して来たよ、頑張ろうね!」
「二人とも、喋りてえだろうが、奴らに怪しまれると厄介だからな、
此処を出るまで後、数日……、もう少しの辛抱だぞ……、行くぞ……」
「だな、ボン、行こう!」
「うん!」
ジャミルとボンはアギロの後を付いていつもの通り職場へと歩き出す。
途中でアギロに背負われているリュックの中からモンがちょろっと
顔を出した。
「モォ~ン!(こんにちはモン!)」
「……コラっ、駄目だろが、我慢してろっつーの!」
「ぶーモン!」
「わあ、あの子がモンスターの友達?可愛いね!」
「モンて言うのさ、たく、悪さばっかして手に負えねえけど、
良い奴だからさ、状況が落ち着いたらちゃんと紹介するよ、
それからさ、俺の仲間のダチにもさ、会ってやってくれよな!
きっと仲良くなれると思うぜ!」
「わあ、ジャミル君の友達?会いたいなあ、楽しみにしてるね!」
ジャミルとボンは辛い毎日に終止符が打たれる事を、希望を
持ちながら囚人広場に着くまでの間、会話を交わすのだった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 62