
あれやこれや 221〜229
221 ぐうたらかあちゃん
子どもの頃の朝ごはんは、ふりかけか桜でんぶ。それだけで3膳食べた。それでも痩せっぽっち。
味噌汁はあった。具はなんだったのだろう? 豆腐とねぎ?
あの頃は、だしの素なんてなかったから鰹節を削るのは私の仕事。それを味噌の中に埋めておく。おいしかったのかな? 記憶にない。
夏休みの昼は食パンを焼いてマーガリンとたっぷりの砂糖。
トースターが珍しかった。パンが2枚飛び跳ねる。あれ、今のオーブントースターよりおいしいのかな?
毎日毎日昼はマーガリンと砂糖たっぷりのトースト。それでも痩せっぽっち。
かあちゃん、栄養とか考えなかったの? 体に悪かったんだろうな、マーガリン。
私は長生きしてるけど、かあちゃんは短命だった。タバコも吸ってたし。
夕方一緒に買い物に行く。肉屋の店先でコロッケとイカフライ。
おいしかったあ。
天ぷらも揚げたのを買ってくる。さつまいもとやはりイカ。
おいしかったあ。
たまに、自分で揚げると大量なんてもんじゃない。明日もあさっても天ぷら。レンジはまだないから温められない。冷蔵庫から出してそのまま。
父は、冷たいごはんは我慢した。冷たい言葉は我慢できない、とかかっこいいことを言って。
おいしかったのは、レンコンの天ぷら。ごぼうも。エビなんてあったかしら? イカは油が跳ねて跳ねて衣が剥がれた悲惨な天ぷら。
私は母によく文句を言った。
おいしいもの作ってよ。
父は酒があればなにも、言わない。
文句を言うとなにか作った。
肉の少ない酢豚。缶詰のパイナップルが入ってる。レシピ本は1冊あった。
かあちゃん、やればできるのよ。
おいしかったあ。
いつか、肉のたくさん入った酢豚を食べたい。それがしばらくは私の夢だった。今は奮発して作るけどパイナップル入れないといやなの。体のために揚げない酢豚。
あのレシピ本とっておけば良かった。
姉が旦那さんになる人を連れてきた。
毎週日曜日。姉は張り切っていろいろ作った。小さなテーブルだからご馳走が置ききれない。
50年以上前なのに、カスタードクリームなんて作ってすごいな、と思った。
私が旦那になる人を連れてきた時は酔っ払いの父ちゃんだけ。
私が作った料理を、
「盆と正月が一緒に来たようだ」
と喜んだ。
一緒になれば、ワンパターンだのまずいだの。
今日のごはんはおいしかった。
炊飯器が古くなってそろそろ買い替えかな、と思ってたんだけど、冷蔵庫で冷やしてから炊いてみたの。
そしたらびっくり。おいしいのなんの。高い炊飯器などいらないじゃない。
何十年も主婦やってて、聞いたことはあるけどやったことなかった。
沸騰までの時間が長いとデンプンがなんとかで、おいしくなるんだとか。
お試しあれ。
【お題】 前代未聞の超絶レシピ
222 悲しいリセット
ユニットのAさん。
介護度はいくつなのだろう?
歩けるけど時々転倒する。
帰宅願望が強い。
服は居室のタンスに入れると全部袋に詰めて帰り支度をするので、別保管。
何度も部屋から出てくる。
「あら、ここどこかしら? なんにもわからないわ」
「うちに帰るからタクシー呼んで」
「おなかすいたから、ラーメン食べてくる」
その都度職員は宥める。
「今日はここに泊まりましょ。明日、家族の方に迎えに来てもらいましょ」
「あら、そう……」
と、納得して部屋に入るが数分するとすぐ出てくる。
「ここどこかしら? なんにもわからないわ」
時々は怒り出す。
「部屋を虫が歩いてた」
居室でお菓子食べるから、シーツ交換に入ると食べカスがボロボロ落ちている。
こういう部屋は、出るんです。もうそろそろ。
でも、あなたのせいよ、なんて言えないから黙っていたら怒り出し、
「言うからね、みんなに。もう入ってくる人いなくなるよ」
ここが施設だとはわかっているのか?
私は周辺業務だから、洗い物をしていた。適当に返事をしているとますます怒り、
「みんなに言うからね」
職員さんは無視している。
この方はない物が見えるのだそう。夜中に虫がぞろぞろ這っていると騒ぐのだそう。
私は短時間パートだからあまりひどい場面には出くわさないが、職員さんはほんとに大変。
15分もするとコロリと変わるのだそう。
怒ったことも覚えていないのだろう。
Bさんは、私が朝行くと叫んでいる。
「先生、トイレ行きたいんです」
その時間は夜勤が対応している。ひとりで20人をみている。次々起こしてリビングに連れてくる。Bさんはトイレに座ることができない。
耳元で、パットしてるから大丈夫ですよ、と言う。
「はい、わかりました、すみません」
バスガイドだったBさんの声は大きくきれいでよく響く。
1分もしないうちに、
「先生、トイレ行きたいんです〜」
最近入居したCさんは心配して聞く。
「早番はだあれ? まだ来ないの?」
今は、時間前に来て働いてはいけないのです。それでも、終わらないからと、来る人は来る。働く人は働くけど。
Cさんも、しょっちゅうトイレ。ナースコールが鳴りまくる。トイレットペーパーの消費がすごい。1日1ロール使っちゃうらしい。トイレ、詰まりますよ。そのうち。
私も働き始めた頃は、トイレトイレ、と騒ぐ方たちがかわいそうで、職員さんに言いに行った。
「次の次の次です」
ひとりで10人をみているのだ。
4月からパートから契約社員に変わり、ひとり立ちした若い女性が嘔吐と胃痛で休んだ。
ストレスだそう。
高校卒業してからバイトで来ていた。料理の学校を辞めてしまい、介護に決めたはずなのに、
「この仕事、向いてないみたい……」
誰が向いているのかいないのか?
辞めて行く人は多い。異動も多い。
なんたって私がいちばん長くいる。
もう、リセットできない歳だから。
【お題】 リセットボタン
223 かきおき
この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。
これを1度書いてみたかった。
私は持病もないし寝込んだこともない。よもや、私があなたより先に逝くとは思ってないでしょうね?
私もそう思っています。
だから、念のため。
退職したあとのあの一件から、あなたは料理、洗濯、掃除もするようになったから、今思うと良かったわね。
もう、ひとりになっても心配ないわね。ズボンの裾上げもテープとアイロンでやってるし。
やれば、私よりすごいわ。
私がいなくなっても、早起きしてちゃんとウォーキングするのよ。ふたりで歩いたコースを、思い出に浸りながら歩くのよ。
公園でラジオ体操に参加して、お馴染みさんと挨拶くらいしなさい。話をするのよ。
お酒は夕方まで我慢よ。作りながら飲んだらダメよ。父がそうだったから。
きっと、毎日酒飲みすぎて、持病も悪化するでしょうね。
酔って、私の名を呼んで泣くでしょうね。父がそうだったから。
父は母に死なれると酒に逃げて情けなかった。
ひとりで大丈夫だ、心配するな、と言いながら、片目の視力を失うまで医者にも行かず仕事もなくした。
酒だけ飲んで栄養失調。私は幼子ふたり、おんぶに抱っこで大変だった。
そして認知症、姉の家に引き取られたけど、隠れて酒を飲み、寝タバコで火を出してもやめない。
姉夫婦の仲まで、おかしくなりそうで施設に入れたけど、年金だけでは足りなくて残りは折半。
反面教師がいるのだから、娘達には迷惑をかけないでね。娘は私のように優しくはないです。息子はどうだろう? それは私にもわからない。
かわいい孫達にも嫌われないようにね。身綺麗にして、歯医者は月1回忘れずに行くのよ。
さて、なぜ私はこのかきおきを残したのでしょう?
それはね、実はね、私、投稿しているの。
もう、これを書いてる時点で3年半。
長編小説から始まり、介護エッセイや、音楽やいろんなエッセイ。お題で短文も。
結構読んでくださる方がいるのよ。コメントもいただく。
何度か投稿してるって打ち明けようと思ったわ。
趣味があるの、生きがいなの、って。そうすれば、堂々と昼間執筆できたわね。
でも、恥ずかしいし、あなたはSNSなんて怖いからやめろ……なんて言い出しかねないから言えなかった。
あなたが先に亡くなったら、私の作品を読むことはないでしょうけど、私がいなくなったら、読んでみてね。
あ、携帯は解約しないでね。携帯代は安いから解約しないでね。
作品はいつのまにか、かなりの量になりました。全部読むのは時間がかかるでしょう。
でもね、でもね、一気に読んでくださる方もいるのよ。投稿始めた時は、たったひとりの方でも、最後まで読んでくれたら本望…‥なんて思ってたのに。
寂しくなった夜の徒然に、私の書いた作品を読んでみてね。あなたの悪口がたくさん。
怒ったって、私はもういないけど。
遺影に向かって怒ってね。
あ、遺影は選んでおかなきゃね。
子どもたちのことも、あなたの知らないことがたくさん。悪いことばかりだけど。
それから、時々会いに行く友人は、サイトで親しくなった女性なの。職場の人が引っ越したって嘘なのよ。
互いにいろいろ愚痴を言ったり励ましたり。
その方にメールしてね。
妻がお世話になりましたって。
それから、彼女のエッセイも読んでみてね。
ちょっと、私が生きているのにコッソリ読まないでよ。
それもいいけど、知らないことにしてね。
連れ添って40数年、危機もあったけど、なんとか乗り越えてきたわね。
退職した時は、本当にダメかと思った。あのときは別れた後のことを想像したわ。経済的に別居は無理だから家庭内別居。
あなたの友達がそうしていると、何度か聞かされた。奥様は洗濯だけはしてくれる、と。
それは経済的な理由からね。
そうなったら、私は楽よ。マンションの管理費と光熱費は1対2で払って、私は元々質素だからぜんぜん平気。少ない年金でも大丈夫。暑がりだから北の寒い部屋で過ごすわ。テレビも観ないし。iPadで充分。
なにより食事の支度から解放される。
これはエッセイにも書いたけど、あなた、うるさすぎ。まずいとか、ワン・パターンとかひどいことを言われたわ。
父は母に文句は言わなかった。酒だけあればよかったんだけどね。
食べ物の恨みは恐ろしい。言われたことは忘れません。
それに、あなたは夜中もテレビはつけっぱなし。体感温度も違う。家庭内別居はいいかも。
でも、そんなあなたが初めて手紙をくれたわね。手書きの長いもの。反省と感謝の手紙だったから、仲直りしたけど、なにを書いたか、もう覚えてないでしょう?
日本酒は悪酔いするからやめると誓ったのよ。忘れるの早すぎ。
あなたも義兄も父を見ていたのに、なぜ節制できないの?
私も姉も酔っ払いはこの世で1番嫌いなの。
食べたいものも飲みたいものも我慢して、長生きしたってしょうがない、とあなたは言う。
私もそう思う。だけどそれは、ポックリ逝ければ、の話。
死ぬのは怖いけど、死なないのはもっと怖い。施設で百歳近い方をたくさん見ているから、私も長生きすると思っていた。
元気でいたいから、短時間でも働いて、運動して、頭の体操して、必死に歳と戦ってきたはず。
あなたを置いていくのは子どもたちに申し訳ない。
でも、あなたはひとり暮らししていたから大丈夫でしょ?
退屈地獄になるけど。
自分史でも書いてみたら?
あなたも投稿してみるといいわ。何度か何気なく勧めてみたんだけどね。
育った田舎のことや、酔うと話す酒乱のおじいさんのこと。仕事や友人、ペットのこと。
そして、なにより書くべきよ。
愛する妻のことを。
ああ、私もひとり暮らしがしたかったわ。
224 投げ出せ
最近では幼稚園でも虐待の報道があり、幼児の孫がいるので気になっている。孫の様子が急におかしくなった。娘は原因が思い当たらないと言う。
5歳の子供がハンガーストライキ。食べない、飲まない、トイレに行かない。
「お化けがいる。食べると死ぬ。透明な人に、食べると死ぬと言われた」
果ては
「先生だって仕事なんです」
幼稚園でなにか言われた?
ばあさんは、入院して点滴か? とまで心配したが、いつまでも続くわけがない。
YouTubeでお化けの番組観てたからね。電話するとお化けが出るっていうのもあって、騒いでいた。しかし、狐に憑かれたか、はたまた本当に見えるのか?
原因が幼稚園だとするなら……大変だと思う。先生に同情します。言うこと聞かない子だから。右へ習い……の子ではないから。
施設では毎年虐待についての講習があるのだが、コロナ禍からはテキストを読んでレポート提出のみ。
どこぞの施設で叩いた。殴った。怪我をさせた。鼻の骨を折った。ひと晩で40回以上殴る蹴る? 髪を掴む。ベッドから引きずり下ろす。寝ないから携帯電話で殴った。
なぜ? 毎年毎回。どこでも虐待防止の対策はしているだろうに。
高齢者はすぐにアザができる。見つけたら大騒ぎになる。さかのぼって原因を究明する。
うちのユニットには声を荒げる職員さえいない。いい職場だ。虐待を疑いはしない。私がイライラすれば、深呼吸しなさい、と言ってくれる。
入居者は喋れない者もいるが、喋りすぎる者もいる。風呂に入れたとき、見えるところは丹念に見るが……
「お尻が痛いの。皮むけてないかしら?」
私は目が悪い。見なきゃダメ?
暴力は絶対に許されないが、介護士の精神状態のほうを心配してしまう。常習者は論外だし、気付かない周りもおかしいが、真面目な職員が起こしてしまうのを、気付いてやれないのは残念だ。職員も精神的にギリギリだったのだろう。特に夜勤ひとりの時は行き場がないのだろう。
夜勤だった若い男性職員。その日は発熱していた入居者もいたのでいつもより大変だった。別の女性に、
「眠れないから一緒に寝てほしい、手を握ってほしい」
と言われ、断ったら衣服にしがみつかれた。
「こんな年寄りをひとりにして、このろくでなし!」
平手打ちを1回。実直な性格で熱心に業務を行うが……虐待防止事例。問題点を考えてください。
尊厳? トイレに貼ってあります。私たちはいつ何時でも高齢者を人生の先輩と敬い……
暴言吐かれても、叩かれても、引っ掻かれても、髪の毛を引っ張られても、首絞められても、つば吐かれても、セクハラされても……とは書いてないが実際にいた。そういう時は、記録に残すのみ。
私もユニットの玄関を開ける前には、深呼吸をして唱える。バカヤローはありがとうに変換しよう、と。しかし、入っていった途端にバカヤローの洗礼を浴びる。
言い返してはいけないが、無視してしまう。無視は心理的虐待になる。朝から豚がブヒブヒ……
そう思わなければ続かないと思う。浴室で腿を叩かれた時も、思わず大声を出してしまった。手が出たらどうなっていただろう? 介護なんかに携わったことを後悔しただろう。楽しく働いた5年の月日を2度と思い出したくない……と。
私はパートで、必ず職員さんがいるので愚痴を言える。気軽に言えるが、そうでなければ積み重なっていくだろう。精神的に不安定になり、来なくなる職員が少なくない。
もう、投げ出して!
インカムで叫べ!
『限界です。仮眠室に逃げ込みます。あとよろしく!!』
『了解しました』
『了解しました』
『了解しました』
【お題】 社内の駆け込み寺
225 凄腕だから
某ブティックに凄腕の店長がいた。売り上げがすごい。最高の接客をして、買っていただく。固定客が数人いた。熱烈な店長のファン。開店から20年。せっせと買い続けている。家1件買えるくらい使っただろうに団地に住んでいる。
新人のスタッフは研修期間の3ヶ月が終わっても更新せずに、どんどん変わっていった。○が入った時、他のふたりも新人同様だった。半年も経っていない。本部のマネージャーは店長に言った。
「いやなら、変えますから」
○はよく店長に注意された。口の利き方を知らない、と。
社長からの電話。
「店長いる?」
「はい、おります」
と言ったらあとで怒られた。
「いらっしゃいます」
と言うらしい。自分も母親に注意されたそうだ。
それからは、
「はい、いらっしゃいます」
社長もご存知だ。微妙なニュアンス。皮肉な嘲笑。君も大変だな……
大変なのは、おだてられ、会社のために売った店長だ。
お客様の姓を間違って書いていた。片山を庁山とDMに書いていた。素敵を素的と書いていたが、誰も注意できなかった。片山様本人も店長には言えなかった。ある意味すごい人だった。
面白かったのは、真顔で客に聞いた。
「総裁選、誰に入れます?」
聞きかじりで、知ったかぶり。恥をかかせないよう気を遣った。新しいスタッフが入ると言った。
「気を遣ってくださいね」
全然ダメなスタッフもいた。お喋り。聞いてはいけないことを聞く。
帰り、彼氏が迎えに来ている。目立つベンツで。周りの酒屋でも、八百屋でも知らないわけがない。それでも気がつかないふりをしなければならない。
彼氏は、客の友人だった。客は自慢げに紹介したら店長に入れ上げてしまった。なんと言っても魅力的な方だから。本人は、誰より若く、誰よりスタイルが良く、色が白く……ご自分で言う。魔性の女と。
客は2度と店に来なくなった。携帯に無言電話がかかってきて、店長は○のことも疑った。別の客のことも疑い憤慨されていた。
おしゃべりなスタッフは辞めさせられた……辞めさせるわけにはいかないから、辞める方向に持っていった。怒ったスタッフは来なくなった。
二十歳で母を亡くした◯には、母親代わりだといろいろ教えてくれた。時代の流れとは逆の年賀、中元、歳暮、誕生日は、その度差し上げるものなのだ。旅行すれば土産を。店長はじめお客様にも。
妄想癖、虚言癖。自分が一番。店長の母親はいつのまにか英語がペラペラに、家のテレビは超大型。孫は学校でトップの成績。偉いと思ったのは、嫁の悪口を言わなかったこと。嫁を褒めた。嫁はやり手だった。店長の上をいっていた。
おかあさーん、と、孫を連れて店に来る。スタッフは子守りをさせられた。ガラスケースのある店内で走り回る。怖くてしょうがない。おばあちゃんは、店の経費で高級和牛だの果物だの買って持たせた。領収書は、お客様の名前。
226 羨ましい子どもたち
母(私)は真面目だった。以前にも書いた。
子どもたちは、そろいもそろって勉強しなかった。(以前にも書いた)
高校は母の執念でなんとか卒業させた。
そんなだから、学校からは就職できなかった。
高校時代は皆、バイトした。バイトは一生懸命。稼いだ金は全部使った。
長男は卒業まで同じコンビニに3年いた。そのあとは、自分で広告を見て、運送会社に就職した。日給月給。しかし、仕事は真面目だから親会社が引っ張ってくれ、やがてそこで伴侶を見つけた。
しかし彼女には、結婚できないと言ってたようだ。のちに、お嫁が私に話した。
長男の生きがいはただひとつ。
長男は釣りが命。給料は釣りのために消える。貯金はゼロ。
母も結婚は諦めていた。
しかし、子どもができて状況は変わった。
息子は母に言った。
「ああ、釣り行けなくなる。もう、釣り行けなくなる」
それが今じゃ、釣船(ヒラマサ船)のキャプテン。(助手だけど)
釣りガールも乗る。ときどきは芸能人も乗る。ときどきは釣り番組にも出る。タモを持った手だけだが。
長女は……決して自慢できる娘ではないが……
高校時代は勉強せず、校則を守らず母を泣かせた。仕事も長続きしなかった。派遣やバイトを次から次。交際相手とも、いつも長続きしなかった。
聞けばいい条件の男性なのに……もったいない。
娘にも貯金がない。まあ、チャラチャラした感じ。自分の娘でなければ絶対に付き合いたくないタイプ。
母に迷惑と心配をかけたが、悔いはないようだ。
今は家庭的だ。別人みたい。ふたりの娘に振り回されている。
次女は生後5ヶ月で心臓の手術をした。人工心肺に繋ぎ、心臓を1度止めた。
だから、なんか、生き方が違った。無鉄砲。怖いものなし。ひとりでニューヨークへ行った。
彼氏ができるたびに家に連れてきた。
よく旅行した。グァムでは台風で帰って来れず。台湾は妊娠がわかった初期だったのに行きやがった。そのたびそのたび母は心配した。
子供が生まれてからも、沖縄、奄美、今度は石垣島。海が好きだ。旦那とサーフィンをし、潜る。
旦那も言った。
「死ぬときは死ぬんですから」
お嫁だけは大学を出ている。お嫁も独身の頃は海外へひとりで行った。
子どもたちとは本の話ができないが、お嫁は読書家だ。
経済の本まで読んでいる。
面白い子だ。タバコも吸っていたという。パチンコが趣味だったが……息子にやめろと言われ、ふたつともやめたそうだ。
母は、真面目だった。
サーフィンもしたことがない。潜ったこともない。
海外旅行は娘の結婚式にグァムだけ。国内旅行さえ、少ない。
仕事は辞めたくても辞めるエネルギーがない。
パチンコはやったことがない。タバコは吸ったことがない。
ない、ない、ない。
でも、投稿しているもんね。
地味な青春を美化して、誇張して、青春全部入れて、投稿しているもんね。
【お題】 青春全部入り
227 この街で生きていく
お義母さん。
おかあさんとは、実家に行った時に初めて会いましたね。私はまだ22歳。
田舎の家は長男のお嫁さんをもらうときに建て替えをして、大きくてきれいでまるで旅館のようだった。
出てきた料理は、寿司の盛り合わせ、それはわざわざ私のために遠くまで買いに行ってくれたのだろうけど、枝豆や茄子の漬物、山菜の煮物、おかあさんの素朴な料理がおいしかった。
結婚します、と言ったら、おにいさんは、今はお金がないんだ、と困ったように言った。妹の結婚式、家の建て替え、自分の結婚式と、大きな出費が重なった。田舎の結婚式は盛大で、妹の嫁入り道具にもお金がかかった。次男に出す金は残ってはいないのだ。
それは構わない。親の援助は受けずに結婚式をあげ、マンションを買った。それは夫の自慢だ。ローンを完済した。今のような低い金利ではない。
おかあさんは孫が産まれたときに来てくれたけど、田舎の村からほとんど出たことがない人だった。
夫が上野駅まで迎えに行き、帰るまで、ひとりでは外に出なかった。
あなたは、私たちの小さなマンションの話を田舎に帰ってから親戚たちに自慢したという。
当時はまだ周りにマンションは建っていなかったし、田舎ならなおのこと。新築でオール電化で便利できれいだった。家具も買い揃えたばかり。
あなたは田舎に嫁ぎ、5人の子を育て、田畑を守り60歳前に亡くなった。次男の嫁が私で安心してくれたかしら? だったらいいけど。
5人の子どもたちは皆親思い。
もう少し長生きしてくれたなら親孝行ができたのに。
私は結婚前からずっとこの街に住んでいます。あなたが1度だけ来た街に、あなたの息子はもう50年も住んでいる。
あなたが自慢してくれたマンションも、今では築40年を超えた。
田舎に帰りたい、と言ったこともあったけど、私たちはこの街で生きていきます。
去年久しぶりに墓参りに行きました。もう、あなたの歳をとうに超えた私たち。
また、会いに行きますからね。
✳︎
あなたの子どもたちにもいろんなことがありました。おにいさんは今は人工透析。
あんなにきれいであなたが磨いていた家はもうボロボロ。
お嫁さんは悪い人ではないのだけれど、掃除や片付けや家事が苦手。
ふたりの孫は、ひとりは独身でもうひとりは離婚した。
それに、下の義妹ふたりも離婚した。
あなたが生きていたら嘆いたでしょうか?
こんな時代になるとは思いもしなかったでしょうね。でも、今や離婚は珍しいことではありません。
私も義妹たちが羨ましくなる時があります。あなたの息子は、この私だからやってこられたのよ……
でも、まあ、危機はあったけど、ここまでくれば、大丈夫かな……
去年久しぶりに帰った実家、あなたが掃除していた家は何の手入れもされず、雨漏りがして床が抜けそうだった。
私たちは久しぶりの実家に泊まることもできず、ビジネスホテルを取った。
おにいさんは痩せて杖をつき、別人のよう。
墓参りに行った。
あなたの息子は、仕事で指を切って労災が降りたとき、私には何の相談もしないで立派な墓石を買った。
その墓は草ぼうぼうで……
皆、悪い人ではないのだけれど。
近くの義妹も、おかあさんが生きてる頃はしょっちゅう孫を連れて来ていたのに、今ではほとんど付き合いがないという。
夫はあまりの家の衰退にショックでね。
家の前の畑はゴミ捨て場になっていたし。
今、うちのベランダにはプランターにトマトや茄子が成っている。毎日座って眺めているわ。
田舎に帰りたかったのね。
行けばいいのに。しばらく行って来ればいいのに。
【お題】 この街で生きていく
228 治療してから
リンドウさんをお風呂に入れた時、お尻が痛いと訴えた。前回も言われ見たのだが、何もできていなかった。今回は念入りに見た。メガネを外して見たが、よくわからない。触ってみても微妙。
「ナースに診てもらいましょうか」
と聞くと、
「いい」
と、拒否。
リンドウさんは、心臓に持病があるので、いっさい薬を出してもらえない。頭痛薬も、痒み止めも、かかりつけでもらってください、と言われる。わかっているから頼まない。
90歳過ぎてもしっかりしている。パットは1番薄いものを念のためにしている。
「蒸れるから、いっそはずしたら?」
しかし、それは心配なのだ。
寝ていると痛い。お尻が圧迫されるから。掛け布団さえ、心臓の悪いリンドウさんは施設のものでは重くて息苦しいと言って、軽いものを家族が送ってきた。様子をみて、治らないなら……写真を撮れと言うだろう。
排泄や入浴介助をするようになって驚いたことがある。私にはないものが……お持ちの方は多い。
遠い昔、高校3年、親しかったうら若き乙女が痔の手術のため入院した。自分で言って笑っていたが、長い間悩んだのだろうな。
ブティックの美しい方が、夏は日に焼けることも恐れた美のカリスマが、トイレから出てくると言った。
「鮮血が……薬屋行ってくる」
その美しい方は極度の便秘。あらゆるものを試していたが、出なかった。おまけに貧血。数値が極端。おまけに痔?
「絶対、女の医者じゃなきゃ嫌だ」
当時、我が家にはパソコンがあったので、調べてあげた。女医の肛門科。
彼女のあとに入ったスタッフもそうだった。足の長いパンツスーツが似合う裕福な奥様が店長に言ったそうだ。店長に言えば筒抜けだ。
「後ろからはできないって」
痔主様は多い。それよりも驚いたのは……
聞くに聞けない。若い職員や男性職員には。
自分で調べました。子宮脱。ワナビ……ではなく、ナスビ。
そういえばブティックの客が手術した、笑って話していた。
しかし、放置されていて痛くはないのだろうか?
民間の施設ではわからないが、提携病院以外はほとんど家族が連れて行く。提携病院は信用できないと、東大病院まで連れて行った家族もいた。
歯科が口腔ケアに週に1度来てくれる。これは大事だ。歯が痛いと訴える入居者は多い。歯茎が腫れれば相当痛いだろう。見ているほうも辛い。
高齢者施設に入る前には、いや、それより前に治しておかねば。虫歯、歯周病、入れ歯の不具合。メガネはネジが緩み歪んでもそのままだ。90歳を過ぎた方は、気がついた時には白内障で片目の視力を失っていた。
水虫も治しておいて欲しい。何人の足を洗い乾かし薬を塗るやら。夫の足だって、洗ってあげたことはない……
【お題】 よーくご覧ください
「ついのすみか」から抜粋しました。
229 趣味ですが
夢中になると寝食を忘れる。トイレも我慢する。だから机の引き出しにはチョコレート。水筒には麦茶。歯磨きもしなくなるのでキシリトールガムも。
でも、どんなに一生懸命書いても一銭にもならないの。ああ、某サイトではpv数で収益金がある。推定2円。
本職 (?)は介護施設の間接業務。私は短時間だけど、職員は超勤が多い。
朝7時から夜7時までとか。
夜勤明けで、またその日も夜勤とか。
「お疲れ様〜」
「また夜来ま〜す」
眠れるのか?
だから、糖分は必要だ。
糖分はエネルギー源として不可欠であり、特に脳の活動には重要だから。しかし、糖分の過剰摂取は肥満や生活習慣病のリスクを高める。(AIによる概要)
職員は太っていく方が多い……(と思う)
三交代制で入眠剤を飲んでいる…‥(方が多い)
スタッフルームにはお菓子が置いてある。私も時々差し入れするがすぐになくなる。
コストコで1キロ入りのスニッカーズを差し入れした時は驚いた。
「これ、罪だわよ」
と言いながらあっという間。
太りすぎて足を引きずり介護している女性もいた。
入居者さんは無職。年金生活者。
クスノキさんは杖をついて自分でトイレへ行けるが、90歳を過ぎている。この方は食事を摂らない。食べるのは息子さんが買ってくるコーヒー牛乳と砂糖がけの甘い煎餅。食べたい時間に部屋から出てきて杖で床を叩く。
私はコーヒー牛乳と煎餅を2枚出す。食べると杖をついて部屋に戻りベッドに横になる。朝食のパンはジャムをたくさん塗ると、ほんの少し召しあがるときもあった。おかずと味噌汁は手をつけない。それでいて悪いところはなかった。
話すのは、
「煎餅ちょうだい」
それだけ。
施設に入るまではひとり暮らし。部屋は排泄物と虫でひどい状態だったらしい。こういう方は結構いる。
入居者さんは毎月体重を計る。増えるとごはんの量を減らす。食べて寝るか座って居眠り。太って行くのが当たり前。
食べられなくなると高栄養の飲み物。それだけで生きている。頬がこけ、ほとんど食べられない。そんな方が数人。
言いたくないけど、そういう方の介護の方が楽なのです。
大変なのは歩いて転ぶ方。文句を言う方。怒鳴る男性。他の方の部屋に入ってしまう。お説教が始まる。
「婦人会の役員決めするわよ〜」
またですか?
家族の差し入れも多い。多すぎて食べきれないから賞味期限との戦い。
愛はお菓子でしか表せない。
だから菓子ばかり食べて食事を残す。
もう、お年なのだから好きなものだけ食べてりゃいいじゃない、と思う。
今、執筆しながら考えている。
チョコにしようか、羊羹にしようか?
食べるのも寝るのもトイレも後回しにして書いてみたいなあ。
めっちゃ糖分が必要になる長編小説を!
【お題】 めっちゃ糖分が必要になる仕事してます!
あれやこれや 221〜229