星の名

南の祖母は
星の名を教えてくれた
できの悪い生徒である私は
星の名をときどきまちがえた
そのたびに
牛乳をいれたコップが割れたり
黒猫が尿路結石になったり
母の眼鏡が折れたり
祖母は言う
「ちゃんと星の名おぼえて
 一人前になりなよ」
お金をかせぐことや
料理を覚えることよりも
まず星の名をきちんとおぼえる
それが祖母の教えであり
遺言だった

祖母の死から
星の世界はおおきく動く
古い星は見えなくなり
近い星は遠い星といれかわる
あるさっぱりした夜
新しい名のない星が現れて
私はそれを祖母の名で呼んだ

星の名

星の名

文芸かけがわ第19号詩

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-05-06

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