来る

 黄砂が来る! 黄色い砂が!
 花粉より! 小さい粒が!
 黄砂が来る! 黄色い砂が!
 花粉より! 小さい粒が!


夕飯を食べながら十九時からのNHKニュースを見るのが私たち家
族の日課になっている。最後の気象情報のコーナーでキャスターが、
明日は黄砂の飛散量が多くなるので気を付けましょうと注意喚起し
ている。それを聞いて父が「そんなに飛んで来るんだったら、最近
よく起こってる山火事も消せたりするんじゃない?」と言った。す
ると母が「それで消せるんなら花粉のおかげで消えてるでしょ、と
っくに」と言った。父は黙った。私も黙って聞いていた。ある極端
が別の極端を抑え込むことにはならないという理不尽さ。この世の
金持ちたちの収入が私の無職の埋め合わせにはならないというまま
ならなさ。皿洗いは私の担当なので三人分の食器を台所のシンクへ
運ぶ。途中でミケ子の尻尾を踏みそうになり「ニャニャニャー!
(この役立たず! お前は黄砂以下! 花粉以下!)」と罵倒され
てしまう。私はミケ子の皿は片づけない。ミケ子の世話はほとんど
母に任せてしまっている。ミケ子は母以外の人間には絶対に懐かない。


 黄砂が来る! 黄色い砂が!
 花粉より! 小さい粒が!
 黄砂が来る! 黄色い砂が!
 花粉より! 小さい粒が!

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詩誌『月刊ココア共和国 2025年5月号』(電子版)に佳作として掲載された詩作品です。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-05-01

Copyrighted
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